ロイヤル・ストレート・フラッシュ ＜後篇＞
１３
５分後。
「いちおー復命の挨拶に行ったんだけど。部屋にいてくれなきゃミスタさん困るじゃねー
の」
庭の噴水に頭を突っ込んで頭を冷やしていたサンドロの背後に、人が立った。
「ああ……ちゃんとうちまで送ってやってくれた？」
勢いよく頭を振って水を飛ばして、サンドロはミスタに尋ねた。あ、バカこっちに飛沫
飛ばすな、とミスタは２，３歩飛びすさって笑った。
「だったらこんな早くねーっての。おー笑い。表に車駐（と）まってたぜ、フェリーニの。
家出に自家用車乗ってくるんだからお嬢様ってすげーな」と、ミスタは笑い飛ばした。
「あの、バカ……」
サンドロは肩が下がってしまう。
「感謝してたぜ、向こうのＳＰ」
「そんなん、うれしかねーよ」
サンドロは視線を落としてボソボソ言った。
「頭良すぎて煮詰まる感じなんだってな？ あの嬢ちゃん」
「そう。昔っから」
「まーこの方面は女の方が先に大人になるもんだからねー。ルチアが１５でフーゴを見初
めたって、ことある毎に言うけど、フーゴの方は１３だろ？ そんなの覚えてなくてダレ
ソレって感じだったっていっぺん言ってたぜ？」
「そうなの？」
「いっぺんだけな？ その頃のフーゴはまだ、寒いから一緒に寝ようってねーさんが誘っ
ても結構ですなんて肩肘張っちゃうようなおこちゃまだった頃で。
でもそこんとこは、男は黙って女性に恥をかかないようにせにゃならんのよ。ロマンを
壊しちゃいかんの」
「……ふーん」
「２年も想い続けてくれてたってことより、自分の上をいくオンナってことの方がアピー
ル高かったみてーだけどな。フーゴ自分が一番頭いいって思ってるやつだし」
「ああ、なるほど」と、サンドロは一息吐いた。
「しかしまーかっこよかったぜえ、サンドロ。さすがはあの石頭の息子だ。
『おれの童貞は高価（たけ）ーんだッ』！？ 言うことが違うねえ」
「ミスタッ」
サンドロは急に顔に血を上らせた。
「どんな美人になら売るんだよ？ いやーミスタさんこれから楽しみ」
「ミスタッ！ 誰にも言わないでくれよッ！」
「え〜？ やっぱこれは親に報告要るっしょ？ よそ様のお嬢様の求婚を断ったんだし」
ステップを踏んで遠ざかりながら、ミスタは楽しそうに少年の顔をちらちら見ている。
「ミスタッ！」
「おれはこのうちの警備主任でぇ〜やっぱ侵入者の報告はしとかねーと」
「ミスタ！ なぶるなよ！？」
「え〜？ おれはとにかくたのしーことが好きよ？ えっちとか、えっちとか、えっちと
か？」
「ミスタッ！」
サンドロが真っ赤になって叫ぶと、ボゴッと音を立ててミスタの足元の芝生が崩れた。
「げひょッ！？」
ミスタは足を取られて尻餅をついた。
「…………いやーモグラかね？ これが敵のスタンドとかで地下からうちに入り込まれた
らイヤだわ、ねーさんに報告しとかねえと」
尻をさすりながら常夜灯を頼りにミスタは足元を検分する。
「そう、だね……」
ミスタの言葉を最後まで聞かずにサンドロがふらふらと膝を突いた。それを抱き起こし
てミスタは天を仰ぐ。
「あーッこのガキこの寒いのに無茶しやがるからッ！
ナランチャ！ アバッキオ起こして、来てもらってくれ」
「起きてる。でかい声でさっきからなんだ？」
主寝室のバルコニーの窓が開いて、アバッキオが顔を覗かせていた。
１４
「知恵熱じゃね？」
ミスタが素っ気なく言った。サンドロはそのまま高熱を出して寝込んだのだ。
「この寒いのに噴水で水浴びなんかするからだ」
３８度を突破した体温計を確かめて、アバッキオが電源を切って枕元のテーブルに置い
た。
「フーゴんちに慰謝料要求すればー？ 娘の監督不行届きだって」
昨夜の騒ぎを聞き及んで、ナランチャが笑って見せた。
「それより我々が心配すべきなのは、スタンドのことじゃないのか？」
冷却シートを貼った額を撫でながら、ブチャラティが少し顔を曇らせた。
「アンジェラの時は気がつかないうちにだったけどな」
少し、アバッキオは不行届きを恥じたように顔を俯ける。
「あーそーいえばおれ、あの頃微熱続きだったかも」
ポルポの試験を受ける前から、銃弾に対しては異常な才能を見せていたミスタが言った。
「なんかやばい病気かなーなんて地味に神経すり減らしてたから、あんだけキレたのかと
思ッてんだけど、今となっては」
「やばい病気って、しれっとゆーな」
ナランチャが肩を揺らした。
「わたしは矢を刺した後熱が出たかな。でも、いろいろあったときだから気疲れだと思っ
ていた」
「アバッキオはどーなの？」
ナランチャは矢の試験を受けた後天的組なので生れつきのアバッキオに話を振った。
「やはり、熱は出た、かな？ 確かにいろいろ精神的に疲れていた頃だったからそれがも
とだと思っていた」
「またぐるぐる悩んでたんだぜきっと」
「鉄板だよな」
ミスタとナランチャが眼を合わせて笑った。
「いいかげんにしないかッ、病人の枕元で」
声を低めてアバッキオが照れ怒りに凄んだ。
「うるっせーよ」
弱々しい声が病人から発せられた。
「アレッサンドロ」
ブチャラティが屈み込んだ。
「だいじょーぶだから一人にしてくれよ。あと、水」
「ああ」
タンブラーの水を口元に寄せられて、サンドロは少しずつそれを飲み干した。
「スタンド、出るの？ おれ」
「いや、解らない。これはほんとに個人差があるんだ。おまえの生きたいという生命力、
心の底からの希（ねが）いに反応するらしい」
厳かに、その母は語った。
「心の底からの希い、ねえ……おれにそんなのあるかな？」
確かに、この子は恵まれている。母のいない生活で様々な想いを押し殺し、なんとか隠
したいと願った姉とは違い、せっぱ詰まった衝動というものが生まれる環境にないかも知
れない。
……幸せなことなんだろう。
アバッキオは妙な感慨を覚えた。極限の生活の中で生きてゆくために特殊な能力を欲し
た仲間達や、生き地獄のような精神の堂々巡りからの解放を願った自分とは違った次世代。
……スタンドというものは世代を経て消えてゆくのだろうか？
それもまた世の理であろうかと、何事も考えすぎる美丈夫は結論づけようとした。
「それにしても、ダチの子供の恋愛相談なんかしてやるようになって。ミスタさんもおじ
さんになる訳よねー」
背を向けてドアに進みながら、ミスタがまた肩を揺らせた。
「ミスタ、うるさい」
サンドロが呟くなり、ミスタが呻いた。
タイル張りの床が、１０センチばかりも陥没していた。
１５
それから３日ほどして完全に熱が下がって、昼下がり、ミスタはサンドロを庭に連れ出
した。
「スタンドって遺伝するらしいな。って、能力が遺伝するんで、スタンド自体はあんま親
兄弟でも似てねーらしーけど」
マフラーは巻いてろ、もう風はつめてえぜと配慮しながらミスタは噴水の縁に腰を掛け
た。
「そんなに能力者って世界中にいるんだ？」
「さあ〜？ まあとりあえずアメリカになんとかいう財団があって、そこが知り合いの能
力者を研究してるらしーけどな。ジョルノの親父がその関係者だっつって接触されたらし
い。そこんちももうちょっとガンバレばいいってのに、おぎょーぎ良くって、各世代一人っ
子だっつーからなーかなーか。おめーんちが一番いいテンジクネズミちゃんかもよ？ 両
親とも能力者で、おまけに父親の血筋は生れつきだ。……ねーさん頑張ってもう１人ぐら
い生まねーかな？ いや実際、引退したら来年辺り来そう。おまえみたいに」
「おれたちをモルモットって言ったな！」
「あ、解った？」
舌を出しておどけた表情を見せたミスタの足元が大きくえぐれた。予期していたのだろ
う、ミスタは飛び上がってそれをよけた。
「やっぱおまえの能力はそれだぜ、サンドロ」
「え？」
「おまえを怒らすと地面に穴ぼこができる」
ミスタの光のない目はまっすぐサンドロを見つめていた。
「そう、かな？」
「解っててやってんじゃねーの？」
ミスタは重ねて尋ねる。
「まさか」
大きな青い眼を見張ってみせる少年に、ミスタは少し考える様子をした。
「ふーん。じゃあ、こんちくしょーって思ってみ？」
「…………ッ？」
庭は静まりかえったままだった。
「ま、そんな甘くねーか。坊や、ご苦労ー」
ミスタは軽く言って手をひらひら振って見せた。
「坊や言うな！」
サンドロは叫んだ。
ボゴッ！
「おー、素直」
ぴょんと飛び除けてミスタが手を眉の所に庇にして言った。
「まー年の功ねこれが。腕を磨けや、坊や」
「だーから坊や坊や言うなって！」
ボゴッ、ボゴッ、ボゴゴッ、と、整った芝生が穴だらけになってゆく。
「やーお見事お見事。形はねーの？ 形は？ なんかイメージあった方が親しみやすいん
だけど？」
「形？」
「親父さんみたいに言ってみる？ 『妖精さん』」
「痒（かゆ）ッ」
反射のような答えにミスタは指をチッチッと振って賛意を示す。
「んー正しい感覚ね、ソレ」と、叱られないように、芝をきちんとならしておく。庭師の
じいさんは腕が確かな頑固者だ。庭を大切にしないと市長閣下でも（その夫は当然！）平
気で叱りつける。
「あのおっさんあれで引くほどロマンチストだからねー。そーゆーとこもねーさん地味に
面白がってるけど」
「え〜と」
聞き流しておいて、サンドロは意識を集中させる。地面から茶色の軟体生物が盛り上がっ
て筋肉隆々としたのっぺらぼうを形作った。
「お、器用、器用。さすがサラブレッドは違うね」
ミスタはにかっと笑って見せた。
「じゃー次はミスタさんが名前を付けてやろう。これはあれだ、昔のロックでいうところ
の」と、早口の英語の歌詞は言えなくて、メロディを口ずさんだあと、サビの部分だけハッ
キリと声に出す。
「ウィー ウィル、ウィー ウィル、ロッキュー！」
指をピストルに見立てて、ウインクしながら狙いを定めてみせる。
「あー、なんか聞いたことあるな。どーゆー意味？」
「えーっと、あれだ、『ぎゃふんといわせてやるぜ！』。
目にもの見せてくれるぜ、とか」
「あ、ソレいい。
あんたらゴキゲンに、そう笑っていろーよ、いぃ気分でぇ見下ろしてーぇーいろよ、いぃ
さそれで、かまやしねえ、だがおれたちだってー負けちゃぃねえ、
『ウィー ウィル、ウィー ウィル、ロッキュー！』」
イタリア語で即興で歌詞を乗せ、サンドロは指で狙いを定めて引き金を引く。
「イェーエーィ！」
軟体生物のようなスタンドが蠢きながら、指定された領域内の土を囲んで、「どこかへ
放り込んだ」。庭の隅の大きなローマの英雄っぽい彫像が、土台の下の土を失ってがっく
りと地に倒れ伏した。
「やりぃ！」
２人は快哉を叫んでハイタッチする。
「アンジェラのマテリアル・ガールは同じ穴掘りにしてもお片付けスタンドだが、おまえ
のはずっこけさすスタンドだもんな。使えるぜ、それに愉快だ」
ミスタは若きスタンド能力者の肩をがっしと抱えて笑顔で揺すぶった。
「こらおまえら！ それ直しとけよ！ ネアポリスの市の財産だぞ！」
見守っていたらしい。厨房の窓を開けて、アバッキオが大きな声で雷を落とした。
「ムゥリィ〜！」
ゲラゲラ笑いながら小僧達は逃げ出した。
「バカ野郎！」
叫んでおいて、アバッキオも少しの笑みを唇の端に上らせた。
「目にもの見せてくれる、か……」
牛刀を取って、今夜のチェーナの主菜の肉に突き刺した。
「当然だ！」
「シニョーレ！ それはッ……」
まっぷたつになった牛フィレ肉の塊に厨房のスタッフが喘いだ。
「大丈夫だ…………たぶん」
市長公邸のヴェテラン・シェフは、芸術的な額に皺を寄せて呻（うめ）いた。
１５
その電話は深夜、ひっそりと入った。
発信者の名を確かめて、アバッキオは気軽に繋ぐ。旧友だ。
電波状況は悪かった。
「…………レオーネ、聞いているか？」
しばらくの躊躇の後、発信人は話し出した。
「一度しか言わない。……………………あんたの彼女は何をやったんだ？」
「ルドルフォ？」
今は出世して、ネアポリス市警の捜査課の課長職にいる友だ。お互いの立場もあり、年
に1度くらいしか行き来がない。
「新オペラハウスには、行くな。奴らは……」
絞り出すような声は、やがて、消えた。
「ルドルフォ、ありがとうよ」
アバッキオは呟いた。
「そのおっさんも使えねーな。アバッキオの友達だけあるぜ。もうちっと頑張ってどうあ
ぶねーのかスッキリ吐いた方がお互い楽なのによ」
すぐさま召集された幹部会で、ミスタが両手を頭の後ろに組んで言ってのけた。
「なに、解ったことはあります。
……警察も敵だってことです。これからはチェルッティさんの身の安全も意識しないと
いけませんか？」
フーゴが簡潔に言った。
「いや、自分で何とかするだろう」
アバッキオが眉根に皺を寄せて言った。昔の神経質な表情が戻ってきている。
「まあ、解りますよ、ある程度。新オペラハウスで、サミットの後、ちょとした出し物が
あるんです。たしか北の国からの引っ越し公演で。『クマの親分さん』がそれを激励して
帰る予定になってます。立場上、ブチャラティも同行することになるんでしょうね」
「そこを狙ってくると？」
ブチャラティが胸元からスケジュール帳を出して繰った。小さく声を上げる。
「オペラは好きじゃないから遠慮しようと思ってたんだが」
「そうしてください」
長いつきあいの参謀は、劇場でやるものはみんな苦手でしょう、とは言わなかった。
「じゃ、テロリストさんはチェチェン系で確定な？」
ミスタが話題を変えた。
「あそこ荒っぽいじゃん？ 最悪」と、ナランチャが吐息した。
「んー、立てこもり好きだよな」
２０００年代初頭にはテロ事件史に残る多くの犠牲者を出した立てこもり事件も起きて
いる。
「チェチェン系はオリンピック前に根絶やしにされたって聞きましたけど」
アンジェラが小首を傾げた。彼女にとっては、中学生の頃で、わりに印象に残っている
冬季五輪。
「ソチのオリンピックは新生ロシアの国の威信を賭けてやりましたからね。テロの掃討は
強引でした。でも、ああいうのは根絶やしってのは不可能なものです。生き残りは１０年
も経ってそろそろ爆発したい頃でしょうよ」
フーゴは新世紀以来のヨーロッパ情勢を頭の中で一瞥する。民族紛争の種は尽きない。
ヨーロッパのテロといったらアイルランド勢でほぼ決まりだった頃が懐かしい。
「まったく、冷戦が終結すれば世界は一気に平和になる、と思っていた無邪気な時代が恋
しいですよ」
かえってパンドラの箱が開いてしまったようなものだ。強烈な締め付けでやっと保って
いた地域が抑えを失ってあちこちに火種をばらまいた。ユーゴも、イラクも、強権を持つ
指導者が倒れると問題が吹き出した。老齢のカリスマを戴いていた他の国でも、この１０
年のうちにそれは繰り返されている。極東のあそこがとうとうこけたときには一帯が迷惑
を被った。日本はもう落日を食い止めるのに必死、中国はまた半鎖国に戻って立て直しに
専念している。軍事衝突という方向に行かなかっただけが救いだ。
「ひとんちまで来てやらないで欲しいよなー」
ナランチャはその辺の詳しい情勢は感性で大づかみに捉えただけだ。
「まったくだ」
アバッキオが２本目を皆に振る舞うためにコルクスクリューを回しはじめた。
「軍は出てくれないのか？」
ブチャラティがボールペンのはしを咥えた。
「体面もありますしねえ。ロシア軍の特殊部隊をわざわざ呼んでもらうのもねえ。サミッ
ト正式日程の後って所がミソですかね？ 権限委譲の期限切れの隙を狙うってこともある
でしょうし、一応無事に終わってホッとする頃でしょうし。考えてきましたね」
「相手もバカではないということだ」
まだまだ美しい市長の三つ編み編み込みの根本が銀に光ったのを、ミスタは見なかった
ことにすることにした。
……ほーんと、苦労ばっかり。
これが済んだらしばらくゆっくりしなよ、大好きな海の側で。大好きな人と。
またローマのボスの所へ舞い戻るつもりのガンマンは、その市長の最愛の夫にグラスを
突きだしてお代わりを要求した。
「まあ、あそこは我々と相性がいいし、な？」
ブチャラティはフーゴにウィンクをして見せた。
「『耐震工事』、延び延びになってたのが幸いしましたかね？」
参謀は溜め息を吐きながら前髪を掻き回す。もうかれの前髪は眼を隠すほどにも長くな
いのだが。
「なーに？ なんの話？」
ナランチャが身を乗り出した。
「お母さんが毎年あのオペラハウスの修繕工事を予算に乗せるの、前から気になってたん
だけど。そんなに傷んでもないでしょ？ そういって毎回早い時期に優先順位を下げられ
て後回しにされて」
アンジェラがここぞとばかりに尋ねてきた。
「フーゴとルチアの馴れ初めだ」
愉快そうにブチャラティが言ってのける。
「ちょっと！ ここで今そんな話をッ！」
反対したのはフーゴだけで、場は一気に昔話になった。
「……じゃあ、なにかあったらそこを狙うということで」
２５年封印してきたテロ事件の裏事情を一同に披露する。
「スミスさんの集中爆撃でいけるかなァ？」
ナランチャは自分ならどうするかをまず考えた。
「ミスタ、オレタチには無理だゼェー？」
「わーった、わーった」
スタンドにまず申告されて、ミスタが弱り切った。
「簡単に言うな、あんた」
常識人だけが冷や汗をぬぐっていた。
……お父さんの常識が足手まといになることって、ないのかしら？
アンジェラは冷静な眼で父親を見ている。
……そんときは一番役に立ちそうなのはあいつだよな。
ミスタは黙って少年を見やった。
……フーゴを手玉に取ったって……やっぱフェリーニさんってこええ。
当のサンドロはガール・フレンドの母親を見直していた。
１６
「カルロじいさんには前情報もらってたがな」
サミットが近づいて、一番忙しいのは実はアバッキオだ。
「シニョーレ、自分で自分の首を絞めてるんですよ。夕食会だけじゃなくシェルパ連中に
ふつうのチェーナも食わせてやったりするから」
厨房のスタッフが大車輪でトマトを剥きながら、チェーナの煮込みの下ごしらえをして
いる。春から次第に増えて、今夜は２０人分だ。
「だって、喰わせてくれっていって頼ってくる客を断るなんて男のすることじゃねえだろ
うが！」
「そりゃ、３つ星リストランテ級の料理がただで食べられるとなりゃ、誰だって上がり込
みますよ」
年が近い副料理長は、市長の愛する料理人にも親しく話しかける。
「日頃のチェーナはそんな手の込んだもの出してねえっての」
「それでも、本式の家庭料理でしょう？ こっちに２ヶ月も詰めてて毎食外食だと、いく
らネアポリスの料理がうまいって言っても飽きが来ます。シニョーレの料理はいっちゃあ
単純ですけど腕は確かだし、材料は吟味してますからね、そりゃ、通いたくなるの解りま
す」
「下町のおっかさん連中に習った料理だしな」と、アバッキオは大きなスズキを左手で押
さえてザックリと頭を落とした。瞬く間におろしてゆくのは昔、ノーラに習った手際。煮
込みの手を止めて、副料理長が感嘆のため息を漏らす。
「おれもくにのオフクロのこと思い出しますよ」と、雑用の青年がバットに乗せられた切
り身を運んでいった。
「って、またつまみ食いしやがッたなッ！？ ガッティーノ！」
副料理長が怒鳴った。
「……賄いちゃんと喰わせてるよな？」
アバッキオは額の汗をぬぐいながら呟いた。
「お客さん増えてますからあおりを喰らってるかも知れませんね」
「かかった費用ちゃんとあとで請求してやるから、ちゃんと喰わせてやってくれ」
「Ｓｉ！」
それで、図々しいシェルパ（頂上会議の下働き）連中が食い逃げする一方かというと。
「うちの大将、国内事情がアレなもんで入りはぎりぎりになりますわ」と、ナプキンを使
いながらさりげなく情報を漏らす。
「ああ、そうかい。あんたらも大変だな」
太っ腹なシェフは何気なさそうに聞いている。
「うちのババァ、いい年して身の回りをきれいに仕上げるスタッフを２０人も連れてきや
がるんですよ。美容師と、エステティシャンと、マッサージと、スタイリストに、もうなん
の仕事かわかんねえウサンクサイ女とか女のフリしてるやつとかもう有象無象！ ひとり二
人入国審査でひっかかりゃ愉快なのに！」
美人で有名な大統領夫人を持つ大国の官僚はドルチェがお気に召したようだった。ゴキ
ゲンでデザートスプーンを振りまわしながらオフレコの話をしてくれた。
「へえ」
大統領夫人の側近には入国審査はあるのかな、とアバッキオは疑問に思う。テロリスト
が混じっていると厄介だ。
「節制してやがって朝はどっかの特別なブランドの水だけとか怪しげなサプリだけとかし
か採らねえから、ホテルもかえって楽かもしれねーけど」
「そりゃ面倒がなくていいね」
アバッキオは笑って見せた。
「そーゆーわけでその怪しい水の搬入あるんでヨロシク」
「ああ、言っとくよ」
「うちの総理、サミットまで保たないみたいで」
ジャポネーゼはやっぱり魚を喜んでくれる。
「タカハシさんは身体が悪かったのかい？」
「いやいや、体はいいけど、違法献金問題で。だいたいはサミットまで保たせるもんだけ
ど、いろいろ立て続けに来てるから、どうもだめみたい、初夏の連休明けに退陣要求が通
るっぽいんで、そのまま退陣すれば、新しい総理が来ますし、悪あがきして解散総選挙と
か言い出すと、……どうかな、たぶん病院にぶち込んで外相が代わりに来るんじゃないか
と」
「あんたの所はいつも、２回同じ人間が来たことないね」
「いろいろ国情でね」
ジャポネの官僚は首をすくめて帰って行った。
「あんたが情報収集をしてくれるとは思いませんでした」
フーゴが愉快そうにメモを受け取って読んだ。情報はサミットの準備係に回して恩を売っ
てやることにする。
「おれも意外だ」
情けは人のためならずという諺の実例としていつかひとに言ってやろうとフーゴはほく
そ笑んでいる。
「それでクマの親分さんは予定通りみたいですね。劇場の方も公演はちゃんとやるみたい
です。こんなことがなかったらルチアを誘うんですけどね」と、愛妻家はぼやいた。
「もういいか？」
「ああ、行ってらっしゃい、今夜もちゃんと見てきてくださいよ」
深夜、アバッキオだけの特別任務がある。一応、証人兼ボディー・ガードとして警備主
任を連れて行く。
「今夜はどこだ？」
「ま、メイン会場だね。やっぱあそこに爆弾とか仕掛けられると痛い」
「狙いがこっちならそれはないと思うがな」
「予断はイカンのよ、シニョーレ」
ミスタは年に応じた実績を積んでいた。
会議場に着いて、ムーディ・ブルースを出す。額のカウンターが高速で巻戻り、前回こ
こを調査してからの映像を高速で再生し出す。
「ん、ふつーの清掃作業だね」
「待て、あの動きはなんだ？」
清掃業者が不審な動きをした。周囲の様子を確かめ、懐から小さな機械を取り出して、
机の下に潜り込む……。
「あの大きさじゃあ爆発物じゃあねーよ。あそこはいつもねーさんの席だろ？ あ、おれ
なんか判るような気がするなー」と、泡を食って爆弾処理班を呼んだアバッキオを尻目に
ミスタは無造作に机の下に潜り込んでいった……。
「で、何が見つかったんですか？ 爆発物処理班もう帰しましたけど？」
５分後、待機していたフーゴがミスタに確認を入れた。
「おー笑い！ 盗撮カメラ！ スカートん中バッチリな角度で。いやーねーさんもてるね。
年ちゃんと公表してるよな？ 逆サバ読んでる筈なのに、すげーわ」
コンサルタントとして箔を付けるために、若い頃から３つほど年は上に申告していたのだ。
「下劣だッ！」
アバッキオは吐き捨てた。
「……ネットに流れてないか一応調べておきます。有名税だと思って諦めた方がいいですよ」
フーゴは徒労感を滲ませて言った。
「いや、でもシニョーレ・アバッキオってやっぱり頼りになるわ。この調子で新オペラハ
ウスの方も頼んます！」
ミスタはにしゃにしゃ笑った。
「無理に持ち上げなくってもやるッ！」
アバッキオは銀の髪ごと頭を振った。
「お帰り、遅かったな」
市長公邸の主寝室では、市長閣下が起きて待っていた。もう、日付が変わって２時間に
なろうとしている。
「寝てろよ。あんたは明日もあるんだから」
「それはおまえもだ。済まないな、こき使って」
「生き残るためだ、ベストを尽くすしかないだろう」
シャワーをざっと使ってきたアバッキオが、倒れるようにベッドに入る。
「うん。生き残ろう……」と、ブチャラティはその背を撫でた。手のひらは背から腰へ、
腰からさらに下へ下がってゆく……。
「なあ？」
「勘弁してくれ。ほんとキツイんだ」
「だめか？」
うつぶせて隠した顔を、髪を左の手で除けて露わにしてブチャラティは尋ねる。
「フルパワーで会議場全部見てまわッてんだ、頭がガンガンしてる。新オペラハウス全館
を３倍速だぞ……」
「そうか」
ブチャラティの手が頭を静かに撫でた。
「じゃあ、ムーディだけ出してくれ。あとは自分で勝手にやるから」
「スタンドが出せるくらいなら自分で相手してるって！ 頼む、な？ 全部終わったらゆっ
くり相手するから」
「うん」
「済まねえ……」
墜落するように眠りに落ちていった男の頭を、彼女はずっと撫でていた。
「全部終わったら、な……」
１７
ネアポリス・サミットは全日程が平和裏に修了した。イタリア首相はホスト国としての
役割を立派に果たし、面目を大いに施した。かつてとは一変して昔日の姿を取り戻したネ
アポリスの姿を参加した首脳達は口を極めて褒め称え、美しく有能なネアポリス市長は一
躍時の人となった。多忙な首脳達は潮が引くように復活した観光都市を後にしていった……。
「いつまで居座ってるんだこのクマ野郎はよ？」
ミスタがモニターを見ながら悪態をついた。
「帰りたくないんじゃないですかね？ 今、国が荒れてるから」
フーゴが紅茶をすすりながら言った。
「じゃーわざわざ来んなっつの。昔ほど大きくも強くもないんだからよ」
ナランチャはレーダーから眼を離さない。
帝政時代から有名な劇場が新オペラハウスに引っ越し公演をしにきており、それを見て
からの帰国というのは当初からの予定だった。
「やっぱいるねー。でも、劇場の連中と入り乱れてて区別つかねえ」
「参るよな」
「一般市民には被害を出したくないんですけどねえ」
フーゴが溜め息を吐いた。
「だいたいが、新オペラハウスは若向けのミュージカルってことで棲み分けをするって話
だったでしょうが」
「えーそんなのあったっけ？」
ナランチャがとぼけた声を出した。
「２５年前、新オペラハウスができたころの協定ですけどね」
あの爆弾テロの日、言ったはずですけど、とフーゴは遠い目になる。
「誰も覚えてねーって」
「築２５年の『新』オペラハウスてのもなんですけど」
歳月を思いやってフーゴは薄く笑った。
「サンタ・キアラは築２６８年だからな。桁が違うって」
ミスタは背を揺らして笑った。アバッキオは黙ったままモニターを見つめている。
「まあ、そういうわけで、あそこほどの格のオペラが引っ越し公演をするならサンタ・キ
アラを使うのが筋なんですけど。敢えて新オペラハウスを指定してきたところが、臭いと
言えば臭いですね」
「頭っからドンパチやるつもりなわけね？」
「サンタ・キアラを燃やしたら世界的に非難を浴びますからねえ。
へえ、『スペードの女王』ですか。いいカンジに不吉な演目で結構。こっちはハートの
女王にキングからエースまで揃ったロイヤル・ストレート・フラッシュです。負けるわけ
がありません」
フーゴが胸を反らした。
「キングはいいとして、どっちがジャックよ？」
ミスタが乗った。
「おれだろ？」
ナランチャが当然といったように自分を指し示す。
「待て、じゃー１０がおれか？ やめろ、それじゃ４枚目になるだろーがッ」
ミスタが取り乱しかける。
「どちらでもどうぞ。ぼくはエースということで」
優雅な仕草でフーゴはカップを受け皿に戻した。
「「フーゴッ！」」
……さらに一枚、こちらにはジョーカーも控えていることだし。
フーゴは負けを想定していない。
「来たぞ」
アバッキオが短く言った。黒塗りの車がオペラハウスの車寄せに停まる。中からは、ロ
シアの大統領夫妻。続いて、ネアポリス市長を乗せた車がドアを開く。
「結局どっちを連れてったの？」
シニョーレはシェルパ連中のサミット慰労会があるので欠席、ということになっている。
厨房は有能なスタッフ達に丸投げして様子を見に来た。
「サンドロ。一応ｂUつけてある」
「だいじょーぶかよ？ 射程ぎりぎりじゃん？」と、ナランチャがミスタを見やった。
「こーゆー使い方多かったからな。慣れてる」
ミスタは片目をつぶって見せた。
「ねーさん気合い入ってるな、大丈夫か？ スカートで」
極上のシルクは光を弾いていた。やはり白地のスーツで、なんともいえないプリント模
様が施されている。
「ゾウリムシみてーだ」と、ちゃんと高校課程は修了したところを見せるナランチャ。
「ペイズリーっていうんですッ」
「……今足もつれてなかったか？ パンツでいいだろ、いつもみたいなパンツで。ヒール
も高すぎる」
アバッキオが気を揉む。
「儀礼上、こういう席は女性はスカートじゃないとまずいんです」
「こういうときぐらい外せよ」
アバッキオはなおも吐き捨てる、小声で。
そうだ、命がかかっている局面で。
「ぼくもそう言ったんですが、あのひと変なところでムキになるひとで」
「出がけに見てりゃあ止めたのに、畜生」
ネアポリスの市長夫妻は実に忙しすぎた。
「おー、サンドロもこうやってみるとなかなかやるじゃん」
よろめいた母にさっと手を貸して、サンドロがオペラハウスに入っていった。借り物の
ようなスーツの下には、防弾チョッキを着込んでいる。
「２５年前のテロのときみたいに軽く練習試合があれば良かったんですけど。ぶっつけ本
番で彼、大丈夫なんでしょうかね？」
フーゴが危ぶんだ。
「えーっ、大丈夫じゃね？」
「格闘はおれたちが仕込んでるし」
「なんたって運の強さはねーさん譲りだし」
「なんだかんだ言ってあの骨格はアバッキオ似だよな。骨の太さが違う。防弾チョッキ着
てればある程度はだいじょぶだろ」
密かに心配している親心を思いやって、警備担当２人は不安を払うように笑った。
「ガブリエルを突き放してくれたのは有り難かったんですが、父親としてはいろいろ複雑
で……そりゃアンジェラとかあのひとには負けるかも知れませんが、あの子だって普通に
年頃の集団に混じれば結構……なんじゃないかと、親の欲目と言われるかも知れませんが、
スタイルは悪くないし、ほんとに日頃身だしなみには気を遣っていて……」
生死のはざまでしょうもない色恋の話に脱線するのがブチャラティ・チームの伝統で。
「決して、決して不器量じゃあないとは思うんですけど、その辺、どうでしょうね？ 他
ならぬアレッサンドロの言葉なんでひどく重く受け止めてしまって、見ていられないぐら
いにしょげて……」
誰に言うともなくフーゴは語り出した。
「いや、あの場ではブスって言うよな」
ミスタがにしゃにしゃ笑った。
「ミスタッ！」
ガブリエルの父親がペンを握ってテイクバックに入った。
「ガブリエルにそんなことを？」
それを止めながら、アバッキオが今聞いた顔をして済まなそうにした。
「頭に血が上ってるお嬢ちゃんには必要最小限でナイス。真剣にはそんなこと思ってねー
けど、気安い女の子には軽く言うよな？」
「なー？」
ミスタとナランチャが眼を見合わせて言った。
……ああ、ホントにアレッサンドロはこの人達が育てたんですね。
思いもよらないことで口をぱくぱくさせているアバッキオと彼らを見比べてフーゴはそっ
と溜め息を吐いた。
「だが、１４で結婚というのは早いんじゃないか？」
体勢を立て直したアバッキオが尋ねた。
「ああ、あれね」
フーゴが肩をすくめた。
「フェリーニさんじゃないんですよ。ルチアが。
親同士が知り合いで小さい頃から知っていて、それで自分が相手を好きなら絶対結婚で
きると思いこんでる甘っちょろさに我慢がならなかったそうで」
「あーそりゃー甘いかな？」
ナランチャがなんとか笑った。
「ルチアは頑張りましたから。ぼくとの結婚がどれだけ家に貢献するかを一生懸命ロビー
運動したそうですよ。もう、グリマルディーニどころかぼくんちの会社の状況から領地の
作柄、兄姉の結婚相手まで調べ上げて延々」
「うわー」
「そこまで見込まれたら逃げられねえな？」
アバッキオはふわりと笑った。
「まあそのへんはお互い様と言うことで。
そういうわけでがつんと言ってやったらあんなことをしでかしたんで。
ほんとうに、今時の若いものはって言うジジイ連中の気持ちが今身に沁みて分かったっ
て、ルチアが怒るのなんの」
「はははははー」
皆、顔色もない。
「今は部屋に押し込めて厳重に監視を付けてますから。
……でも本当のところはどうでしょうね？ 彼」
「まだ海のものとも山のものとも解らねえ状態だ。自分が１５の時のことを考えたら、と
てもよそ様の嬢ちゃんと将来を誓うなんてことさせられねえな」
アバッキオがかぶりを振った。
１８
新オペラハウスの桟敷席は、２、３階両側にある。上手がよく見えるよう２階左側に大
統領一行は席を取った。市長母子も同席する。演目は予定通り「スペードの女王」。
「母さん、どんな話？」とサンドロに問われて、ブチャラティは、
「ああ、トランプ賭博の話だ。ギャンブルはいかんということだ」
どうぞ、と、失笑を堪えながら公設秘書のルビーニがあらすじを書いたプログラムを差
し出した。ネアポリス大学を首席で出たエリートだ。中央政界に入るより、すぐに手腕を
振るわせて貰えそうと言うのでネアポリス市の募集に応じ、メキメキと頭角を示した。
「ブガッティ」市長が実際のところ教育も教養もないということは就任以来隠していない
から、こういうかたぎのスタッフも長いつきあいのうちには好意的に接してくれるように
なった。
「あとでフーゴに聞くといい。それでじゅうぶんだ。
きれいなドレスを着たおねえちゃんが出て、恋のさや当てがあって、怪異が起って人が
死ぬ。演劇なんてそんなもんだろ？」
……母さんはいつもおおざっぱなひとだけど。
なんだか今夜は笑顔があっさりすぎる、とサンドロはふと思った。
「市長はこのオペラハウスとは縁が深いですよね」
ルビーニがにこやかに話を振った。
「まあ、産婆みたいなもんだ。毎年シーズンの初めと締め、それから開場記念日には必ず
ご招待があるな」と、ブチャラティは懐かしげに辺りを見渡す。
じつはそれは猫に小判なのだが。
有り難く夫婦のデートに活用していて、ヒマを待て余すブチャラティの横でアバッキオ
が「レ・ミゼラブル」でハンカチ３枚分泣いていたとかゴシップ誌にネタを提供したりも
している。オペラハウス側は、たとえ眼を開けて寝ていても、美男美女の市長夫妻が盛装
して来てくれるだけで花を添えるから、プログラムが変わる度にご招待したいくらいなの
であった。
「もう見納めかと思うとしみじみするな」
ブチャラティは寂しげに笑った。
「えー？ ねーちゃんとおれとで小遣いはたいて、年１回ぐらいはご招待してやるぜ」
サンドロは明るく言う。
「お辞めになったからって、チケットが送られてこないことはありませんよ」
オペラハウス側の思惑を理解しているルビーニは笑って取りなした。
幕が開くと、マイクを持った人物が現れて、２ヶ国語で一通り口上を述べた。イタリア
とロシアの友好のためとか、先日のサミットの成功を祝うとか、いろいろ。その最後に、
それはひときわ声を高めて告げられた。
「本日は本国から大統領夫妻がお越しです！」
スポットライトが桟敷席を狙う。大統領は立ち上がって手を振った。拍手が起る。それ
に重なる銃声。悲鳴。どよめき。
桟敷席にはすぐさまＳＰが入り込んで大統領を取り囲んで保護した。
「たった今、このオペラハウスは我々が占拠した。人質は多くは要らない。普通席の一般
客は直ちに退去してもらおう」
マイクを奪った男達が、冷たく宣言した。きれいなイタリア語だった。
「威嚇でいいのに水平に撃ったな。市民に被害が出たぞ、参った。
やつら、劇場のスタッフに化けていたのかな？ それとも、あそこの劇場の団員はみん
なテロリストなのかな？」
とぼけた声でブチャラティは言った。
「市長ッ！」
秘書は肝を潰している。
「母さん、そんなこと言ったら大統領に悪いじゃん！ ありえねーよ、歌って踊れるテロ
リストなんて」
息子の方が代わりに突っ込んだ。
「サンドロ、ミュージカルはともかく、オペラ歌手は踊らないんじゃないかな？ いや、
わたしはこの業界には詳しくないんだが。
どうだろう？ ルビーニさん」
「市長ぉ〜ッ！ 空気読んでくださいッ」
ある種暢気な会話が、急に狭くなった桟敷席の一部では交わされていた。
１９
通路からの扉がマシンガンの連射で吹っ飛んだ。周囲に眼をやると、一般客はもうほとん
どが追い立てられて退場していた。
「母さん！ 今のコルギーニさん！」
ドアを守っていた市側の警備担当が血まみれになって吹っ飛んだのをサンドロが目の辺
りにした。
「悪いことをしたな。そろそろ行くか」
様子を窺っていたブチャラティは、スティッキィ・フィンガーズで桟敷席の床を切り開
いた。１階の緋色のカーペットには、赤黒く禍々しい模様が上書きされていた。
「そこのＳＰ、先に下りて大統領と奥様を受け止めて。
ルビーニさん、付き合わせて済まないが残るか？」
「まさか！ お供します」
まずはお客様を避難させておいて、市長一行は１階通路へと飛び降りた。
ＳＰ連中が退路を先導する。
「いい判断だ。そっちの非常口でいい」
駆けながら、廊下のそこここに横たわる黒服の死体を痛ましく見る。
「×××！」
と、また目の前の黒服が死体になった。
非常口はもう固められていた。前を走る大統領夫妻が伏せたので市長一行もそれになら
う。
「サンドロ！ やつの足元を崩せ！」
ブチャラティは地下への道をジッパーで開けながら指示した。
「Ｓｉ！」
少年が指をピストルの形に構えた、とルビーニには見えたかもしれない。テロリストが
足を取られた隙に一行は地下通路へ逃れ出た。
「ルビーニさん、大統領はイタリア語は解らないんだな？」
「フランス語は日常会話程度とは聞いてますけどね。……通訳はどうしたんでしょうね、
死んだかな？」
通路を駆け抜けながら、ブチャラティは秘書と短く会話した。
「とりあえずあんたはフランス語はできるんだろう？ フランス語でいい、通訳してくれ」
と、ブチャラティは苦笑した。突き当たりまで言って、息を整える。
「わたしはこのオペラハウスには縁が深くって。まあ、いろいろ仕込んであるんだと思っ
てください。詳しくはフェリーニさんのお連れ合いにでもお尋ねになって」と、微笑んで
見せて、向き直った。
「スティッキィ・フィンガーズ！」
超能力などないただ人である大統領は、石造りのオペラハウスの壁がめくれ上がるよう
に開いたと見た。
「何なんだ！？」
「どうぞ、こちらから。あとはこちらで何とかします」
テーマ・パークのガイドのようににこやかに順路を示されて、邪魔な客は追い出された。
「サンドロ、ご案内して差し上げろ。ルビーニさんは通訳」
息子にきびきびと指図した後は、その穴はまた塞がった。
「ええと、君、これは」
＜走った方がいい。あなたが捕まるとやばいから……と彼は言っています＞
ルビーニがなんとかフランス語に通訳した。大統領がフランス語を理解することを期待
して。
一人残ったブガッティ市長は、少し通路を戻る。飛び降りたとき足をくじいて、おまけ
に慣れないスカートにパンプスで転んで逃げ遅れたという設定だ。勢いを付けて転ぶと、
びり、とどこかが破れた音がした。
「いたぞッ！」
「ああ、捕まったか。殺さないでくれ。最後の一人の人質だ」
身を半分起こしたところで両手を挙げて見せて、「逃げ遅れた」市長は捕まった。
２０
インターネット回線を使用した生中継がネアポリスの新オペラハウスから発信されてい
るという情報はすぐに入った。
「や、諸君。騒がせて済まない。これからのことは関係部署に任せて、一般市民の皆さん
はそろそろ明日に備えてベッドに入ってくれ」
椅子に掛けた姿のベアトリーチェ・ブガッティ・ネアポリス市長が映った。例によって
冷静でとぼけた顔と声音だった。上腕部は映っているが、肘から下を映さないところを見
ると、手は後ろ手に拘束されているようだった。
「彼らは紳士的だ。イタリア語が解るのがいて、助かっている。お客様や、大統領夫妻、
うちの秘書くんは無事だろうか。ああ、サンドロも聞かないと拗ねてしまうかな？
サンドロ、ちゃんとおうちに帰れたか？ お母さんは大丈夫だからもう寝なさい。綴り
と算術のおさらいは忘れずに。歯もちゃんと磨くんだぞ」
まったく緊張感のない話しっぷりに、顔を目出し帽で覆った男が出て遮った。
「あ、痛、こら、せっかくひとが気を遣って紳士だと言ってやったのに」
「シニョーラ、余計なことはしゃべるなッ！
我々新チェチェン解放同盟は、シベリアの収容所送りになっている同志１０名の解放と
活動資金１００万ドルを要求する」
「米ドルでいいのか？ どこと取引してるんだ？ やっぱりアメリカさんにこっそり支援
してもらってるのか」
「やかましいッ」
「こら、カメラの前で女性を殴るな。立場が悪くなるぞ」
やや髪型は乱れているが、女性市長は平然と椅子に座っていた。
公邸の対策会議室は一気に脱力した。
「……まあ精神的にも元気みたいですね」
「名乗りやがったな、ちゃんと」
ミスタが顎に手をやった。
「新チェチェン解放同盟？ そんなのあったかしら？」
マテリアル・ガールが亜空間からファイルを持って現れる。すぐさま手を伸ばして受け
取ったアンジェラが想定資料のリストをひっくり返す。
「ないでしょう。その辺のゲリラに見せかけちゃあいるが、金で雇ったプロ。チェチェンっ
て、独立したがってるってことは辺境です。言っちゃあなんだが公用語もおぼつかないよ
うな。英語やフランス語ならともかく、イタリア語にまで通じたインテリの民族系テロリ
ストなんて聞いたこともない」と、フーゴが断じた。
「ま、そーねぇ」
ミスタが苦笑した。
「チェチェンの奴ら濡れ衣ってこと？ かわいそー」
ナランチャが身を乗り出してモニターを覗き込んだ。
「このご時世、テロリストをやるのも大変なんですよ」
「じゃあ、今流れてる解放を要求している同志のリストってのは……？」
眼をすがめて画面に見入っていたアバッキオが尋ねた。
「そんなの、いないでしょうね」
「本国に照会してる間時間稼ぎができるな」
ミスタがペンを回して見せた。
「汚ねえ」と、ナランチャが吐き出すように言う。
同意するようにアンジェラの吐息が続いた。
「小僧はどうする？ こっちに帰って越さす？」
インカムを手でいじりながら、ミスタがフーゴに尋ねた。
「いえ、現場にいてもらってください。彼は最後の切り札だ」
「了解」
２１
テロリスト達からの連絡は不定期に入る。生中継中の画像は普段は音声を切って、
幕が下りたままのオペラハウスの舞台を映している。テロリスト達は中央制御室に立てこ
もっているようだ。内外のモニター設備がそのまま使えるわけである。押しかけた警察や
マスコミには、それを利用して館内各所から警告の銃撃がなされている。
と、画像が動き、スーツの上衣を脱いで、淡いクリーム色のインナー姿のネアポリス市
長が映った、
「こんばんは諸君。空調はちゃんとついてる。これは、ちょっとした交渉の結果だ。
彼らは帰りの時間が押しているそうだ。明日の朝１番の高速鉄道にでも乗りたいのかな？
時間は８時間。それで、１時間毎にわたしの服を脱がせてくれるらしい。うん、まあだい
たいそれだけの枚数は身につけていると思う……ストッキングは右と左で１枚の勘定だそ
うだ。あっちにはパンティ・ストッキングがないってのは昔の話だってさ。
そういうわけで、お見苦しいものが映る前に、諸君、かれらの言い分を聞いてやって欲しい」
実にとぼけた調子でブガッティ市長が言ってのけた。
「ちょーッ！ ねーさん公開ストリップ！？ そんなッ」
ミスタが内容を理解して席を蹴って立ち上がった。すぐさまアバッキオを振り返って見る。
ぎょっとしたふうの市長の夫は、頼れる参謀に眼をやった。
「……信じがたい非紳士的行為ですね。なるほど、存在しないテロ集団を名乗るわけだ」
「でもお母さんならそんなの気にしないわよ、それこそ本当に最後の１枚まで脱がされて
も……」
アンジェラが冷静に真実を述べた。
フーゴが髪をかきむしりながらそれに異を唱えた。
「その先を考えてください。我々ならあのひとがテロを騙ったチンピラ風情にそんなこと
させるわけないと思っても、一般市民はそう思わない。きっと想像する、……女性として
辱めを受けたんじゃないかと。問題は、事件が片付いた後のことなんですよ。周囲の人間
が皆そう思っていると思ってしまうことで傷付くんです……それが２次的被害というもの
です。あのひとは有名人だ、これから先ずっと会う人会う人がそう考えると思ったら、普
通の女性なら絶対表の世界へなんか出てこられなくなる。政治生命・社会的生命の抹殺で
す。
ぼくら、すっかりかたぎボケしてしまいましたかね？ 女性のあのひとにこういうこと
を狙ってくるって、全然思わないなんて」
「もうオバサンだからな」
アバッキオが責任上呟いた。彼以外がそれを口にすることは許されない。いや、彼だっ
て！
実際あの姿を眼にしていれば絶対浮かんでこない数字だが、ブガッティ市長は公称４８
才の中年女性なのだ。
「今まで、なかったの？」
アンジェラが喘いだ。
「え〜就任したての頃はけっこー。そんなん、指一本触れさせずに蜂の巣にしたよな？」
「おうよ。若くて美人だから。でも、そのうちマフィアが後ろ盾になってるってのよーっ
くご理解して貰えたみたいで。それに２期目からはかえって一般市民の方がおれ達が出て
行く前にそーゆーの懲らしめてくれるようになったよな」
ナランチャとミスタは当時大活躍したようだ。
でもまあ、半分洒落で盗撮を試みられる程度の性的魅力はまだまだあると思われている
かもしれない。
フーゴは自分の頭をゴンゴン小突きながら対処を考えはじめた。
沈黙を破るように電話が鳴った。ロシア大使館からだ。
＜はい。……それはどうも。早過ぎやしませんか？ いいえ。その辺はどうぞご存分に。
即時解決を図ってくださり感謝します。共和国政府の方にはこちらからご連絡させていた
だきます＞
フーゴが外交用語で応対した。
「やつら、今ので自分の首を絞めましたね。長引くと人質の身が危険だということで、突
入が決まったそうです。大統領にとっては命の恩人だ、メンツに賭けても助け出すでしょ
う。さて、どうやってあのひとに知らせましょうかね？ 時刻は……」
２２
「やっぱり人間何があるか解らないから、下着はいつもそれなりのものを身につけておく
べきだな。諸君、これはネアポリス下町バンビーノ通りのクラリッサの店で買い求めたん
だが、どうかな？ この店はわたしのようにあんまり胸の大きくない女性に親身になって
いろいろ揃えてくれているのでお勧めだ」
上半身はもうスリップ姿のブチャラティが現れた。実にのんびりと御用達の店の宣伝ま
でしてやっている。
「シニョーラッ！」
リーダーが遮った。
「ああそうだ、テロリスト諸君は喉が渇いたそうだ。べつにわたしがかれらを昂奮させて
いるからじゃない。この暑さだ、当然だろう。封を切っていないミネラルウォーターを人
数分……おーい、１５人でいいのか？」
「人数を知らせるんじゃないッ！」
「彼らはシャイなんだ。カメラに写るところには出てこないが、恥ずかしがり屋さんが結
構いて隅っこに隠れてる、ああ、解った、怒るなよ……
わたしはコーヒーがいいな。レオーネの淹れてくれたエスプレッソをポットに入れてア
ツアツのうちに届けて欲しい。量は要らない。お手洗いに行きたくなると困るからな」
余裕で笑って見せた。
フーゴが受話器を取り上げた。
「おや、ちゃんと取ってくれましたか。
水は準備させます。食事は要りませんか？」
ブチャラティの持っていた携帯は取り上げられていたが、リーダーが気づいて取って、
通話が成立した。
「変なものを入れられちゃあかなわん。缶詰なら」
「北の国のひとは食べ物に頓着しないんだなあ。彼女の夫は化け物といわれた天才料理人
で、目の前で料理をしてくれさえすればどんな三つ星シェフの得意料理でもコピーして振
る舞ってくれるんですよ？ この際ネアポリス１のパスタを味わってみませんか？」
リーダーは頭を振ったが、そばで聞いているメンバー達の顔がうらやましそうに曇った。
それを見て取って、
「フーゴ、ご馳走してやってくれ。彼らは実に気のいい奴らなんだ。
ただ、食器は普通のでいいぞ。銀器なんかでお出ししなくってもいい、晩餐会じゃないん
だから。ああ、わたしは要らん。９時を回ってものを食べると太るからな」
ブチャラティは首を伸ばして携帯に声を届かせようとする。
「あはは、差を付けますね。割れても嫌だからプラスチックでどうです？ パスタですか
らナイフも付けません。それでいいでしょう？」
「それで構わん！ 余計なことはするなよ？」
リーダーが、同志達の声なき誓願に負けて差し入れを受け入れた。
「人質が大切ですからね」
「フーゴ！」
ブチャラティは首をねじってなんとか情報交換をしようと割り込む。
「ルビーニさんに笑われてしまったぞ。『スペードの女王』は、老婦人がラッキー・ナン
バーを教えてくれる話でいいんだよな？」
来た！ フーゴは声音を変えないように腹の筋肉を締めた。
「ええ、そうですよ。
ラッキー・ナンバーは３,７,１。間違えちゃダメですよ。最後の数字が特に大切です」
「解ってる。１だな？」
「そういうこと。
ああ、そうそう、クマの親分さんから連絡です。今、同志のリストについては確認中で
すが、向こうももう夜なんで時間がかかってるそうです。とりあえず尻を叩いて、１時に
は連絡をもらう約束をしましたから。ホントに、お願いがあるなら時間を考えて行動して
欲しいですよね」
「まあそう言うな。じゃあ、楽しみにしてるぞ、エスプレッソを忘れるな！」
「そんな重要なことをなぜはやく言わない！」
慌ててリーダーは携帯を取り戻して怒鳴ったが、フーゴはもう通話を切ってしまってい
た。
「さて、出番ですよシェフ」
フーゴはニヤリと笑った。
「昔、グリマルディーニさんの山荘にご招待されたとき、あんた暴れたでしょう？ 食事
にクスリを盛られたって。あのひと覚えてたんですね」
「あー、銀のカトラリーは毒を入れたら判るってやつ！」
ナランチャが顔を輝かせた。
「なつかしいなー。おばさん元気かな？」
「再婚して子供ももう結婚したそうですよ。
銀の皿を使わなくていいってことは、なにか盛ってもいいってことです。
そういうわけで、今、即効性の睡眠薬を調達させますから。あんたは味の特徴とかを良
く聞いてどういうふうに混ぜるかをすぐ考えてください」
「相変わらずツーカーだな」
とくに嫉妬したふうもなく、アバッキオはかれの戦場である厨房に連絡を入れた。
２３
「なんで国軍はでねーんだッ！？ おれたちの市長を見殺しにする気かッ！？」
夏の夜は短く、血の気の多い市民達は皆、ＴＶやネットにかじりついて事態を見守った。
見守るだけでなく、大いに意見をぶつけた……。
「まだ若くて美人だからって、女性を人質とっといてやることが下品過ぎるじゃないのッ！
テロリストって最低ッ！」
「市警だってふだんあれだけ世話になっておきながら、なんだよ！？ 腰抜け！」
「だから、これは国際的テロリストなんで、向こうの国との関係もあるんでうちが手を出
すわけにはいかないんですよ。装備だって足りません」
軍や警察の広報担当はひっきりなしにかかってくる電話に対応させられた。
「じゃあクマの親分にロシアの秘密警察でもなんでも呼んでもらいな！」
「それがテロの拡大を招く活動家の解放はできないって言ってるらしくて」
「じゃあ市長はどうなるんだよッ！？」
「ただいま対応を考慮中です」
「どこがッ！？」
とりあえず、ローマの首相官邸は解決をロシア側に丸投げしている。それはフーゴ達が
根回ししたことではあるが。
「おやっさんッ！ 軍も警察もうごかねー時に動いてこそのファミリーですぜッ！」
「シニョーラのためならおれたちゃ命なんざいらねえ！」
「あの方はほんの嬢ちゃんの頃からネアポリスのみんなのために働いてきたんだ！ それ
をおれたちゃみんな知ってるんです！」
いきり立っているのはギャングもだった。
「あァ、あァ、解ってるぜ。おれ達には社長がちゃーんと仕事をくれてる。
支度しなッ！ 出るぜ！」
タルティーニが、オフィスに詰めかけるリーダー達を余裕で押さえていた。
「合点承知！」
ネアポリスのパッショーネ・ファミリーが抑えたのは軍と警察だった。もはやそこは意
気地なしの巣窟と見なされていて、
「てめえら男じゃあねえ、てことは女だな、これでもくれてやる」とばかりに門扉には色
とりどりのブラジャーが結びつけられていた。高い塀には口を極めた罵倒の言葉が見る間
にスプレィで書き込まれてゆく。
「あの日だから出られねぇのか」とばかりに、生理用品が山と積まれて出入り口を塞いで
いた。下町の連中は辛辣だ。さすがにそれは下品で女性に対して失礼、ということで取り
片付けさせる。
ファミリーのギャング連中の仕事は彼らの警護だ。頭に血が上った市民にリンチされな
いためでもあり、英雄的精神に溢れた一部の勇者に勝手なことをさせないための監視でも
ある。
「はいよはいよ〜、お利口なわんちゃんは上の命令があるまでじっとしててね〜」
それでも、かつての自分たちの輝けるリーダーを見殺しにされようとしている恨みで、
彼らをいたぶることは忘れていないのだった。
「姐さん、どうかご無事で」
計画を一部しか知らされていないタルティーニは、ただ新オペラハウスの美しいアーチ
の連なりを遠く望んで祈っていた。
……あら、終わらなかった。
すいません、切りがいいからこの辺で。この続きは完結篇でどうぞ。近日公開。