セト神の恩寵
厄介を背負いこむつもりはない。
「それ」を見てすぐに、岸辺露伴はきびすを返した。体重管理は完璧とはいえ、臨月の身
体だ。無理はしたくない。去年から黄金の精神とやらいうお節介ごころを多分に持ち合わ
せた人間とばかり関わっているせいで、自分の精神まで影響されてきたような気がしてい
るだけに、ここらで方向転換を図って、昔のような何者にも生活を脅かされない状態に戻
りたいという気持ちもあった。
「待ってよ、おばさん」
「それ」がとんでもないことを言いかけたので、美貌の女流漫画家岸辺露伴２１才の足は
止まってしまった。
「誰がおばさんだッ！？」
すぐさま振り向いて、暴言の罰をくれてやろうとして、露伴はみごとにはまってしまった。
暗緑色の眼を煌めかせて自分を見上げている、なにやらとっても見覚えのある学ランを
引きずった小学生ぐらいの少年の、巧まざる手に。
……まだ９月だというのに、こんな格好をして街を歩いて。いったいどんなスタンド使
いにやられたんだこのバカはッ。と、露伴は内心悪態を吐く。
「だって、お腹おっきいんだろ？ もうすぐおかあさんじゃない。そしたら、なんとかちゃん
のおばさんて言われるんだよ」
正しい。
露伴はぐっと詰まった。
「あ、でもなんかまだ若いね。いくつ？」
額の上に髪を盛り上げた時代錯誤な髪型の少年は、屈託なく言った。
「２１になったばかりだ。おねえさんと呼べ」
「おっかしーよ、それ。だって、結婚してるんだろ？ 結婚した女の人はおねーさんじゃ
ねーよ。おくさん」
「奥さん……」
予期せぬ言葉に、露伴は詰まってしまった。
誰がそんな言葉で呼ばれたいものか。
「わたしは結婚していない。奥さんなんかじゃない」
拘束を嫌って指輪はつけていない、しかし細いしなやかな指を見せつけるように露伴は
言いはなった。
「結婚してないのに、お腹に赤ちゃんいるのか」
素直な目は、真っ直ぐに露伴を見上げてくる。初夏の妊娠騒ぎ以来、誰もが疑問に思い
ながらも露伴を恐れて面と向かっては言えなかったことを、子供が、その純真さで問い詰
めてくれている。
杜王の町の目抜き通りは、知らず、遠巻きに人だかりができはじめていた。
「いけないか？」
そのいけないことの元凶はおまえだ。墓の下まで持っていく秘密を胸の中に閉じこめて
厚さ１メートルのコンクリートで塗り固めておいて、威厳を持って露伴は聞き返した。
「おれのオフクロとおんなじだぁ」
現在の外見に似合わぬリーゼントの下の顔をいっぱいにほころばせて、なにやらスタン
ド攻撃を受けて少年化したらしい憎ったらしいクソガキは言い放った。
……そうだったな。
……おまえの母親は、あの世界を２度救った男と恋をして、一人でお前を産み育てたん
だったな。
露伴は心中独りごちる。
そうして、世界を救う運命の一族の子は、去年の夏、この町を救った。その、この世の
全てより優しいスタンド能力で。
だから、自分も、将来きっとどこかを救う運命を担うこの子を、一人で産む決意をした。
「だいじょーぶだぜ。おかあさんひとりでも、じゅーぶん楽しいぜ」
ちび仗助は、あっという間に間合いをつめて、露伴の腹に頬ずりせんばかりになって、
胎児に語りかけていた。
「おい、こら」
「元気で産まれて来いよ。おかあさんに迷惑掛けるんじゃないぞ。大きくなったら一緒に
遊ぼうな」
真っ直ぐな心で、仗助は生まれ出る命を祝福してくれている。
「でもねーちゃんは大変だな」
顔をうつむけたまま、ちび仗助は言った。
「結婚できなくてもいいぐらい、好きだったんだ？」
「ああ……こうなって初めて、気持ちに気づいた」
ふと、本音が漏れている。
「大変だぜ。オフクロ、時々泣いてるよ。逢いたいって……」
「ああ、それは、たぶん大丈夫」
知らないから。今目の前にいて、無邪気な笑顔を見せてくれているぐらいだから。もう
あと２，３年もすれば、似合いの相手を見つけて去っていくだろうけれど。代わりを引き
受けてくれるという、穏やかな眼をした彼の甥が、きっと時々なら甘えさせてくれるだろ
うから。
「ねーちゃんって、強い女なんだな」
「それはもう」
胸を張って、笑ってやる。そうして、遠巻きに事態を興味津々に見守っている通行人に
今更気づいて、うろたえる。
「露伴先生！」
丁度いいところに心の友がやってきた。やはり窮地に立ったところに現れるのはきみだ、
康一くん、恩に着るぞと露伴はまた康一の心中英雄度を釣り上げる。
「変な男が現れたって聞いて……スタンド使いらしいです、仗助くんが。今億泰くんが追っ
ていますけど……」
途中から、周囲をはばかって小声になる。
「やられたらしいな、この通りだ」
「うわぁッ……本当ですか？ ……ひどいな、なんだか可愛いけど。
でも、どうしましょう？ 仗助くんがこの通りなら、誰が敵をやっつけたらいいんだ！？」
と、パニックに陥りかけるものだから、露伴は、
「そんなもの、康一くんがやったっていいじゃないか」と鷹揚に言ってしまう。
「え？」
「きみはもうスタンド使いに人生を狂わせられる側のか弱い一般大衆なんかじゃないはず
だぞ。逆だ。スタンドを駆使して敵を倒し、一般大衆を救う側の人間なんだ」
「いやだなあ先生、ぼくなんかにお世辞いってもしょうがないでしょう」と、引きつった
笑みで康一は見上げてくる。
「お世辞なものか。この役立たずはうちに連れ帰っておくから、どうか杜王町のために頑
張ってきてくれたまえ」
顎を上げて言いきると、露伴は状況を飲み込めていないちび仗助の腕を引っ張って歩き
始めた。眼力でもって、とりまく通行人を追い払っている。
「おお、裕也いいところへ。この頭の悪そうなガキをうちで保護するから乗せていってく
れ」
仗助の一大事と聞きつけて、噴上が車を回してきたようだ。
「あ、ああ露伴姐さん、それってもしかして」
「そうだ。余計なことは言うなよ」
「こんな姿になってもやっぱり露伴姐さんにまっすぐたどり着くんだなあ。やっぱり魂が……」
「余計なおしゃべりをするなら、裕也、ちょっとこっちを向け」
露伴は優雅に右手をさしのべた……。
「なんでもありませんっ！ 坊主、お前は見る眼があるなあ」
「ろはんってねーちゃんのこと？ きれいな名前だよなあ。ああ、ねーちゃんもきれいだ
よ」カッコイイ車！ と素直に感動を示しながらちび仗助は乗り込んだ。
「ふん。明治の文豪のパクリだ」と、露伴はまんざらでもない様子。
「ああ、そんなのいましたっけ。
しかし、仗助もガキだと結構言いますね」と、噴上は感嘆のてい。
「もとの身体になったときに覚えているかどうかが楽しみなところだ。うちに帰ったらヴィ
デオカメラを探しておこう」と、そう言う露伴も幼い仗助ならいくらでも撫でたり抱いた
りしていられるのだった。さすがに膝の上には載せられないが。
「助かった。裕也、コーヒーは少し時間がかかると思うが……」と、家にたどり着いて車
を降りると、丁度携帯が鳴って、噴上は通話に出る。
「なに？ ああ、今行く、Ｓ空港？ 解った！
姐さん、すいません、康一がしくじったみたいです。今おれのスタンド出しますから……
念のため承太郎さんに連絡をお願いします」と、すぐさま車に乗り込んで行ってしまっ
た。
「望むところだ。気をつけろよ」
ちび仗助をともなって露伴は家に入ると、オレンジジュースを与えておいて電話を取り
上げた。
笑いがこみ上げる。
相手を強制的に若返らせてしまうスタンド使いについては、ジョセフの記憶を読んだと
きにちらりと見た覚えがあるが、直接対戦したのはなんとかいうフランス人で、最後の仕
上げを承太郎がしたらしかった。
承太郎に電話が出来る。
なんとうきうきしてくることか。
４才年下の、憎ったらしいクソガキと吐き捨てる相手について、周囲を巻き込んでこの
先半世紀以上大嘘を吐きとおす気構えと、１０才ほども年上の、１７才で世界を救った最
強の男に対する少女のような憧れの気持ちとが、露伴の中には矛盾せずに存在する。
意味もなくうがいをして化粧を直したりして、それから深呼吸して、それでも逸る心を
抑えかねて露伴は受話器を持ち上げた。
「ああ、あなたか。経過はどうだ？ もし立ち会った方がいいようなら予定を開けるが……」
抑えた声は変わりなく、露伴は直立不動のまま声をうわずらせてしまう。
「いえ、だいじょうぶッ……です。はい。承太郎さんもお変わりなく？ それは結構ッ……
あのですね、実はこちらでまた騒ぎが起きていて……ええ、スタンドです。仗助がやら
れました」
「なに？ それは厄介だな」
「康一くんに行って貰ったのですが、取り逃がしたそうで、今、裕也……噴上が行きまし
た」
「おれが行った方がいいか？ 今からだと、早くても明後日以降になるが」
「いえっ、そんな、お手を煩わせるようなことは……嬉しいけど」
そこら辺の女子大生のようなしゃべりになっている。まったく、他の人間には見せられ
ない。……今はジュースを飲み終わってきょとんと見つめてくる姿があるのだが。
「喜んでくれるというなら行くぞ。今から手配する。くれぐれも、あなたは出て行かない
ように。大事な身体なんだから」
「いえっそんなぁ……わたしは戦闘には役に立ちませんから。そんなにご立派な性格でも
ないしぃ」と、でれでれになって露伴は身体をねじり倒している。
「ねーちゃん誰に電話？」
「こら、割り込むな」
存在を忘れていたちび仗助が脇の下から顔を出して、露伴は我に返った。
「結婚できない好きな人？」
「お前には関係ない。向こうへ行っていろ。ＴＶを見てもいいが音は小さくな。
……ああ、仗助です。小学生ぐらいになってます。見物です。ヴィデオ撮っておきます
か？」
「おれはいい。じじいがうれしがるだろうか……だが、仗助に悪くないか？」
「全然！ あいつはいつもひとを厄介に巻き込むんですから、たまにはひとにエンタテイン
メントを提供すればいいんですよ」
「怖いひとだ……」
含み笑いが聞こえて、露伴は失敗したかな、というちょっとひやっとしたような気持ち
と、今電話線の向こう側で承太郎が笑っているという事実にじん、と高揚した気持ちの両
方を感じる。仗助相手には起らない情動だ。
思わず頬に手をやったところで、泣きそうな顔で自分を見上げている少年の顔が目に入
る。
「なんだその顔は？」
「ろはんもこっちきて見よう！」と、少年は手を引っ張る。
「わたしは電話中なんだ。あっちへ行ってろ」
「ろはん、そんな顔しちゃイヤだ！ 電話切れよ！」
「何を言ってるんだ、大事な電話なんだ、あっちへ行ってろと言うのに、怒るぞ！」
「ろはん、ろはん……どらぁ！」
うまく自分の感情を表せなくなった少年は拳を振り上げた。その背後に、精神力の表出
したものが形を取り始める。同じ能力を持つものにしか見えない拳が、持ち主の吟味した
スタイリッシュな多機能電話の本体を粉々にした。
「クレイジー・ダイアモンド……お前、こんな小さな頃から出せたんだっけ？」
露伴は呆れてしまう。
「今の、なに？ おれがやったの？」
当の本人は、きょとんとしたままだ。
もしかして、スタンドの発現に、立ち会ってしまったのだろうか？
海の向こうでは、恐ろしい打撃音とともに切れてしまった通話をもとに、承太郎が起き
たことを正しく推測している。
承太郎と親しく電話する露伴に嫉妬してスタンド能力を出したと言うところか。
……やれやれだぜ。
幼い叔父は、どうあっても彼の密かな片想いを邪魔するつもりらしい。
「お前は、なにか？ わたしが承太郎さんと楽しく電話をしているのを見るのがイヤだっ
たというわけか？」
怒るかに見えた露伴は、妙に機嫌良く、目を輝かせてちび仗助の前にかがみ込んでいる。
「……よくわかんねえ」
ちび仗助は、ふてくされたように下を向いた。
「承太郎さんは、わたしと結婚してくれてもいいと言ってくれた方なんだが、おまえは知
らないのか？」
常になく優しい声で、いたぶるように露伴は尋ねる。
「知らねえ」
ふふん、と露伴は笑ってちび仗助の頭を撫でた。殴られると思ったちび仗助は、一瞬身
体に力を入れ、撫でられたと気づいて弛緩させる。そのあからさまさにまた露伴は唇をほ
ころばせる。
意味もなくルージュを引き直したので、唇は紅い。
「可愛いなあ、仗助」
耳元で、囁いてやる。瞬時に、少年の頬に血が上る。
「おばさんはおまえみたいなやつは好きだぞ」
「ろはんはおばさんじゃないぞッ」と、瞬時に訂正してくれる。全くもって、可愛い。
「さっきお前が言ったんじゃないか、『おばさん』って」
真正面から、見下ろして、言ってやる。優しく、やさしく。
「……悪かったよ。ろはんはおばさんなんかじゃないよ。……きれいだよ」
おや、可愛らしいこと。
露伴は眼を細める。
「お世辞はいい。おや、もう日が暮れる。坊や、家はどこだ、送っていってあげような」
もう同棲してしまっていて、仗助の帰る家はここだというのに、電話を壊された意趣返
しだ。この状態の仗助を帰されても、スタンドについて知識のない朋子はただ混乱するだ
けだろう。もとより、返す気もない。
「帰りたくない！ ろはん、ここにいさせて！ おれ、ろはんといっしょがいい！ ねえ、
おれがろはんと結婚するから、ろはんと一緒にいる！」
じたばたと暴れながら、自分が何を言ったのか解ってない少年を思いっきり見据えて楽
しんで、ああ、ヴィデオを撮るのを忘れた、と露伴はのんきに思っていた。
「おや。こんなおばさんのどこがいいんだ？」
ご機嫌な露伴は、この春の物思いのカタキを今になって取るようになぶる。
「きれいで、かっこよくて、強いろはん！ あんな子分もいて。お金持ちなんだろ？ き
れいなおおきいうち！ おれろはんのうちの子になる！」
うちの子になる、か。まだまだ発想は子供だ。それに、今の仗助の発想も、大して違い
はない。なんだか露伴は興ざめしたようになった。
「子供なんかいるか。これから産まれるってのに、二人も育てられるもんか」と、つっけん
どんに言ってやる。と、ちび仗助は、泣きそうな顔で取りすがる。
「なあ、なあろはん、そんなこと言わないで。おれちゃんとお手伝いするから。赤ちゃん
の世話もするから、仲良くするから、な？」
言葉に詰まったら、次は実力行使。
パターン同じだな、オバカ。
うんと背のびをしてやっと顎にかすったキスに、露伴は微笑んで応えてやった。珍しく、
ルージュを引いた唇で、唇の上へ。
と、康一か、噴上か、もしかして、たまにがんばってみた億泰かが、本体を無力化したらしい。一
瞬、揺らいだ可愛らしい仗助の姿は、次の瞬間にはいつもの図体の大きな少年の姿に変わっていた。
「おや、お帰り。珍しく不覚を取ったようだな」
露伴は満面の笑みでパートナーに対した。幼くなっていた間の記憶はあるらしい、仗助は顔を朱に
染めて立ちつくしている。
「とりあえず、スタンドが出せるんならそれ直しとけよ。あと、承太郎さんに報告な。わ、た、し、
の、た、め、に今必死でチケットを取ってるはずだから。無駄足になる」
「わたしのため」のところにわざとアクセントを置いて言い捨てて、露伴はベッドルームへ移動した。
一人きりになって、おもうさま笑い転げるために。
「康一くんと裕也にもあとでなんか奢っておけよ。まったく、図体ばっかりでかくて役に立たない男
だ、おまえは」と、言い捨てて。
「露伴、メシー！」
切り替えの早い男はあっさりと家事をはじめていたらしい。露伴はスイッチが入ってしまったので、
仕事机から身じろぎもしないで言い捨てる。
「適当に一人で食べてろ。増刊のカラーピンナップのアイディアが出たからひととおり描いてしまっ
ておく」
「無茶すんなよ。時間決めて食った方がいいんだぜ」
「わたしに意見など１００年早い！
ＳＤキャラというのはある意味あざとい感じがして今まで好きになれなかったが、やっぱり頭身が
縮むと絆されるな。いい経験をした……」と、目を爛々と輝かせて、新しい境地に踏み出す岸辺露伴
画伯だった。
「露伴、なあ、露伴、次は絶対おれの子を産んでくれよな」
食事の後、ゆっくりとほうじ茶を楽しむ露伴の膝に取り付いて、仗助は懇願した。
「……ジョースターさんもそんなことを言ったぞ。おまえたちは本当に似たもの親子なんだな」と、
顎を上げて挑戦的に露伴は問題発言をする。
「はぁ！？ じじい何を？ いつだよ！？」
仗助が飛び上がった。
「ジョースター家に挨拶に行ったときだ。もちろん社交辞令だろうがな」
嘘に気づいているの
かどうか、ジョセフはチャーミングな笑顔でウィンクしながら言ったものだ。もちろん、スージーＱ
にしたたか殴られていたが。
（……２，３年後でいいから）と、続いて低い声で囁く承太郎を思いだして、露伴はうっとりと目を
閉じる。
「もちろん、次も承太郎さんの予約が入っている」
「え〜っずりぃよ、承太郎さん！」
「何を言ってるんだ。まだコーコーセーの分際で。お前がここにこうやっているのにも、いろいろ苦
しい言い訳をしてるんだぞ」と、露伴はのたうち回る仗助を蹴転がす。
……今度は仗助と来い。帰したくなくなってしまうから。なんて言われて顔を真っ赤にしてしまっ
たことを思いだしているのを知られないように。
……承太郎さんはわたしで遊んでいるでしょう？
……そりゃあ、おれにだけそんな可愛い顔を見せると解ったからには。
離婚を期に一本どこかが切れてしまったらしい男は、明日、杜王町に着くそうだ。
それにしても、スタンド本体は、裕也にどんな目に遭わされたことやら。こんな楽しい思いをさせ
てくれたのに、なんだか申し訳ないぐらいだな。
露伴は憧れのひとを出迎える服について考えをめぐらせはじめた。
＜３０−０１−０９＞
おまけ。
承太郎がジョースター家にしたいいわけと言えば。
「……とある女性を妊娠させてしまって」
母親たるホリィと、祖母たるスージーＱとを揃えておいて、告白する。
「まあ、承太郎」
詳しく説明せよというのを、なんとかやり過ごして、何度も脳裏で想定問題集を片手に練習した言
葉を繰り出す。
「離婚が成立したあとで。ちょっと慰めて貰ったんだ。まさか失敗すると思わなかったが、そういう
ことで、一応プロポーズはしたんだが、断られた」
心の優しい女たちは、それで引き下がるなとぎゃあぎゃあ責め立てる。
「それが、優しいというか、さばけたひとで……実は仗助の恋人なんだ」
年下の叔父の名前は、瞬時に消火剤の役目を果たした。
「どっちに聞いても絶対『あいつなんか恋人じゃない』って言い張る、そういう微妙な関係で……そ
ういうひとにお願いしてしまったのがそもそもの間違いなんだが。あのころはおれもひどい心理状態
だったんで」
「しょうがないわ、まさかこうなるとは誰も思わなかったんですもの」と、ホリィが慰めるように微
笑む。いや、夫婦仲は数年前から破綻していたのだが。
「一応今度挨拶に来させるが、そういうわけで、苛めないでやって欲しい……自分で稼いでそこそこ
の地位もある芸術家だ。強いが、……家庭に入るタイプじゃない。たまにあって友人として話をする
分には面白いが。自由にさせてサポートだけしてやるのがいいと思うんだ」
「でも、承太郎、その方のことは……」
「やっと向こうもまとまりかけているようなんで。まあ、諦めないでいろいろやってみるつもりだが、
ゆくゆくは、子供ごと仗助に譲ることになると思う」
ということで一応の面通しは済ませて、露伴はジョースター家を後にした。
騙して申し訳ないという気持ちを、毛ほども現さない、もしかして持っていないのではないかとさ
え思わせる堂々とした態度だった。ジョセフは、事情を見抜いていたのかどうか、
「女っぷりが上がったのう。わしがお願いしたいくらいじゃ。次はわしの子を産んでくれんかの？」
とユーモアたっぷりに言いかけて、奥方にぶんなぐられていた。
＜３０−０１ー０９＞
蛇足。
どんどんダークサイドに堕ちていったロハンちゃんシリーズで健全そうなのを。どうもアレッシーモー
ドは苦手。もしかしてわたしって子供が嫌いなのかな？（問題発言）ジョジョの登場人物はいろいろお
育ちが複雑だから子供にしてもちょっと陰がある感じになるんではないかと。まあ、仗助はまともだっ
たな。
この後、まるっきり承太郎さんが振られ続ける健全ルートとれいの破産事件を期に三角関係が泥沼化
する三つ巴ルートが存在する。
「最強」のはずのジョースター家の血を引くにふさわしい次世代スタンドが思いつかなくて苦闘。あ
と、わたしは「不良だけど根はいいやつ」キャラが苦手らしい。