ジョースター家の女
１
承太郎は真面目にニセ父の役割をこなしている。クリスマスにはプレゼントとカードが届き、誕生日には必ず姿を見せ、日本に来たときには必ず杜王町まで面会に来る。露伴が申し訳ながることといったら。
「わたしは承太郎さんを誤解してたかも知れません」と解りにくい謝意を示すと、この大きな男は僅かに口元を緩める。
「いい男がそんなつまんなそうな顔しないの！ 露伴さんが気兼ねするじゃないの」と、がらんとした家に取り残されて腐る仗助に、朋子が笑いかけた。赤ん坊で手のかかるうちは同行していた仗助だが、承太郎に会いにいくときの露伴が露骨に嬉しそうなのを知ってしまうと、やはり気を利かせるべきと思うようになった。
（やっぱり結局は承太郎さんが一番なんだよなー）
おまけに承太郎の方も、なんだかそういう露伴を見るのが嬉しいらしい。
（そうだよな、事情があって一緒になれなくっても、一度は子供を作った仲だもんな）
萎れていると、玄関ドアが開いて、彼らの大切な女の子が勢いよく飛び込んできた。
「たっだいま〜！」
「あら」と、朋子が玄関の方を見やると、
「おばちゃんただいま。仗助泣いてない？」
輝く笑顔をした年の割に体格のいい小学生が、まっすぐ仗助に抱きつく。
「じょ、情歌ちゃんなんで帰って来ちゃったの？」
スタイリッシュなワンピースドレス姿を抱き上げながら、仗助はうろたえる。
「二人っきりにしてあげた。久し振りだし。それに、仗助へこんでると思ったから。待ってて」と、両手を広げてタクトを振る仕草をする。
「ハレルヤ・コーラス！」
温かい黄金色の光が広がり、羽の生えた天使のようなフォルムが現れ、仗助を包み込んだ。スタンド能力からしていわゆる天使なのだが、母譲りの美意識のせいか、質感は流体金属のようなつややかさを備えている。顔は、クリスマス用に露伴が描いてやった聖母子像のマリアを写したらしい。ふっくらした頬に巻き毛までもが船首像のように硬質な造形だ。天使の羽の下で、仗助の心を悩ませている映像−露伴が承太郎の胸に顔を埋めている−がふわっと浮かび上がり、霧散する。「天使」は微笑んで、羽をほどいて消える。
露伴曰く「使えないスタンド」の正体がこれだ。
「ありがとな、情歌ちゃん。楽になったよ」
これでスタンド能力者本体にもその「心の悩み」が見えてしまうことがなければ、もっと使いでもあるのに、と仗助は心の底で思う。
「この世で一番優しいスタンド能力」と、会ったばかりの承太郎に言って貰った仗助とは違い、初めて披露した実の親に、人の心の中を暴く「忌まわしい」スタンドとレッテル貼りされてしまった情歌は、スタンド能力者として大きなコンプレックスを持っていて、なにより癒し系のこのスタンドを、仗助にしか使うことがない。
（ほんと、露伴ってひでー女……）
２
そもそも、初めてスタンド能力が発現したのも露伴が承太郎と二人で逢った翌日だった。４人で食事をした後、気を利かせて仗助が情歌を連れて帰ったのだった。ホテルのバーでお酒を飲んだ程度で、露伴は１２時前にタクシーで帰宅したのだが、側で寝かしつけながら仗助が気を揉んでいたので、情歌はよっぽど寝付かれなかった。
幼稚園からの帰り道、情歌が仗助を見上げて言った。
「じょうすけげんきだしなよ」
一緒に暮らしているから、情歌は仗助の方に懐いている。もちろん、いつもプレゼントやお小遣いをくれるカッコイイ承太郎パパのことも大好きだが。
「え？ おれ元気だよ」
３歳児の情歌と手を繋いでいるので、背はやや丸くなっているが。
「ううん。へこんでるくせに」
「……情歌ちゃんよくわかるね」
仗助の良いところは素直なところだ。
「だいじょうぶ、おとなになったらあたしがじょうすけのおよめさんになってあげるから」
「情歌ちゃんが大人になったらおれおじさんだよ」
「だいじょうぶ。じょうすけはおじさんになってもきっとかわいいから」
「どーもありがとうゴザイマス」
どんどん背が丸くなってしまう。
「でも情歌ちゃん、おれやっぱりババアになっても露伴のことが好きなんだよ」
「じょうすけ、ははうえにそんないいかたしたらなぐられるだけだよ」
まったくかわいげがない。
「あ、ああそうだよね……」
「じょうすけ、ははうえのことなんか、わすれちゃいなよ」と、向き直って、背伸びをした情歌の手が仗助にさしのべられた。スタンドの発現する黄金の光がひらめいた。天使の羽が広がって、身構えるより先に仗助を包み込む。頭上に浮かび上がった承太郎を前に頬を染める露伴の映像が揺らめいて消える。パイプオルガンの分散和音が一瞬辺りに響き渡った。
天使の姿がかき消え、へたり込んだ仗助が目を見開いたまま呆然としていた。
「なんだ……今の？ もしかして、情歌ちゃんの、スタンド？」
「わかんないけど、じょうすけこうげきされた？ だったらごめんね」
「いや、逆。なんかすっきりした」
「ならよかった。じょうすけがらくになればいいとおもったんだから」
「いいよ、これすっごくいいスタンドだよ」
「そうかな？」
「ああ、露伴も喜ぶぜ。承太郎さんのスタプラみたいなすっごいスタンド能力、絶対持ってるって、生まれる前から楽しみにしてたんだから」
「そうなんだ……」
少し、情歌の顔に笑みが浮かぶ。
「じゃ、じょうすけなまえつけて！ スタンドのなまえ。じょうすけのクレイジー・ダイアモンドみたいにかっこいいの」と言われて、仗助はやにさがってしまう。自分のスタンドは承太郎さんに命名して貰ったと、常々情歌には自慢していたのだ。しかしながら、承太郎やアヴドゥルのように教養があるとは言えないので、さんざん脳みそを絞った挙げ句に、
「ハ……ハレルヤ……コーラス？」と芸のない名前に落ち着いてしまう。
「あ、いいソレ。うん。じゃ、それにするね」
二人はご機嫌になって繋いだ手を振りながら帰宅した。
３
その頃、岸辺露伴は苦悩していた。
休業明けの露伴は、作業効率が前よりむしろ上がっていた。壊したものを修復するスタンドの能力者と、疲労を回復させるスタンド能力者が味方に付いたのだ。効率が上がらないわけがない。六壁坂の事件で破産した後も、行きがかりを知るものはかえって熱狂的に露伴を支持したし、康一の家に転がり込んだ後はうまく東方家に引き取られて、娘の世話も朋子と仗助に引き受けてもらえたから、なんの憂いもなく仕事に取りかかれていた。
住処はまだ東方家だが、なんとかマンションに仕事場を借りる余裕ができている。
問題は、仕事の内容にある。
復帰後から、露伴には計画があった。ジョセフと知り合い、ジョースター家の吸血鬼との抗争を聞いてしまったからには、これを世の人々に広く伝えることを自分の使命と思い定め、その機会を待っていた。そこへ、新しい増刊が創刊されることになり、復帰後快調にヒットを飛ばしている露伴にも連載の声がかかった。満を持して「Ｊ家奇譚」が始まったのだが……。
「どうも、数字が思わしくありません」
増刊号の、新しく付いた編集者が回収された読者アンケートの結果を持って仕事場に現れた。今まで懇意の、「ピンク・ダークの少年」の方の編集者を伴っている。
「まだ初回だ。今までとは趣が違う話だから、そうそういい結果が出るとは思っていない。これは長い話だから、そのうちに反応が出てくると思う」
露伴は細かい感想をまとめた紙をめくりながら言った。
「キモイ！ ロハンがなんで今こんな話を描くのかわからない！」
「古くさい話で全然ロハンらしくない」
「絵が全然違っててヘン」
「ロハン終わったって感じ。ピンクダークだけ描いてろよ」
集計は緻密で、かなり細かいナマの読者の声を拾ってある。しかし、デビュー以来読者を選ぶ作風なだけに、露伴は批判的な意見には耐性がある。
「まあ、他ならぬ岸辺露伴先生の作品ですから、規定通りの回数は保証します。その間に数字を出してもらえれば、こちらの方は言うことは何もありません。期待してますよ」と、増刊側の編集者はおもねるような声を出して場を繕おうとした。
「まあ、先生ももう１０年のキャリアをお持ちなんだ、大丈夫、そこら辺のさじ加減は巧くやっていただけるよ。そうですね、先生」と、週刊の方の編集者は、こちらは連載が軌道に乗って以来の長いつきあいだけに、露伴の扱いを心得ている。
「それはもう。ライフワークと思ってこの作品を描いているんだ。この身体の中の全てをつぎ込むつもりでいる」
「これは頼もしい」と、週刊側の編集者が笑った。
「『ピンク・ダーク』の方もお忘れなく。第５部、クライマックス絶好調ですね。今度センターカラーとってきますからヨロシク」
「もちろんだ」と、露伴は鷹揚に笑う。
「しかし、本当に３部のあとの休載が惜しいですね。あのあとは作風も少し変わられて。読者の間では、今でも論争になっています」と、増刊側の編集者が事情通ぶって見せた。
「甘くなったと？」
露伴もその程度の情報は押さえている。
「デビュー以来のドライでクールな作風のまま４部以降も見たかったという意見はかなりあります。タッチの変化は余りお見受けしないのですが、作品の根底の人間観が、かなり変わった印象を受けますので……うちは若い読者が多いですから、やっぱり初期作品のとんがった感じが受けがいいんですよ。
やっぱり出産をご経験されると、その辺変わって来ちゃうんですかねえ。それともやっぱり、今のパートナーの方の影響が……」
「関係ない！」
声を荒げてしまって、そのこと自体への羞恥で露伴は顔を赤らめた。
「おいおい、いちいちそんなことを作品に結びつけてたら女性作家のひとに失礼だよ。プライヴェイトの方も。な？」と、週刊側の編集者がたしなめた。
「先生も、このひと若手なんで、礼儀を言いたくなるでしょうけど、あんまり泣かしたりしないでやってくださいね？ 増刊はこっちとは編集部も違うんで。
でも確かに、３部の後半、一度事故で休載されたあたりから、変わってきましたよね。そう、人間観が……楽観的といっていいのかな、おおらかになられた。確かに、うちの読者の主な年齢層から言うと、初期のようなある意味毒のあるものは、一部に熱烈に受け入れられたりするんですが、続けていくうちに、どんどんこう、刺激が足りなくなって、過激になって行かざるをえないところがあるんですね。でも、途中でああいうふうに、正統派の、道徳的というとなんですが、人間っていいなあという人間観を出してこられたのは良かったと思いますよ。わたしは今の路線、好きですねえ」と良く響く声で言い切った。
「交通事故」による１ヶ月の休載。さらに、第３部終了間際の妊娠騒動と休業。おまけに六壁坂での破産。かなりの迷惑を掛けたにもかかわらず、それまで原稿を毎週毎週キッチリ上げてきた実績もあって、この編集者は上との交渉の間、味方であり続けてくれた。
「おおかたの読者の方も解ってくれてます。だから４部以降も本誌でのアンケートの数字が取れてるんじゃないですかね？ 単行本の部数もちゃんと出ているし。第１部文庫化の企画も通りましたよ」と、半可通を黙らせる論拠を次々出してくる。
「まあ、いい作品を描いて数字を出してくれれば、こちらの方も言うことはありません」 旗色の悪いのを察して、増刊側の編集者も引いた。
編集者達が帰ってからも、露伴は思考をまだ自分の心の内に循環させていた。
……やっぱり出産をご経験されると、その辺変わって来ちゃうんですかねえ。それともやっぱり、今のパートナーの方の影響が……
振る舞ったティーセットを片付けようとして、流しに落としてしまう、いや、半ば自分の意志で叩きつけた。仗助が帰って来たら直させよう、と思って、もう仗助を使うことが常態となっている自分におののく。
仗助を知ったあの春以来、自分の中の何かが変わったことは否定しない。あのままの自分でいれば、いつかガス欠を起こすか、逆に、自分の内へ、内へと情熱を押し込めていって、ブラック・ホール化して破滅していたことだろう。
仗助や、康一や、スタンド使いの皆とかかわり、あの命がけの冒険をして、人間の尊厳というもの、正義への強い志向の美しさというものを知ったような気がする。それは自分にとって価値あるものだった。それが作品に活かされ、読者に少しでも伝わるとしたら素晴らしいと思う。
しかし、出産についてはどうだろうか。
全く無分別な行動からあの編集者をはじめ多くのひとに迷惑を掛け、今も掛け続けている。それなのに、当初の目的としての仗助と距離を置き、彼の人生に関わらないようにすると言うことは全然実践できていない。
結婚は元からする気がなかったので構わないが、血を分けた娘に戸籍上父親のいない子というハンデを負わせてしまっている。真実に気づいていない様子のまま仗助が愛情を注いでくれていることが救いだが、学校に上がる年になると自分が普通だと思っていた世界が世間の言う普通とは違っていることに傷つくことだろう。自分と仗助のいびつな関係にも、心を悩ませるかも知れない。
スタンド能力が現れる気配がないのも悩ましい。ジョースター家の血を引くものとして、星のあざを持っているのだから生まれながらにして能力が出るものと思っていた。今や、弓と矢は回収され、ＤＩＯは消滅したのだから、スタンド能力が新たに発現する可能性は低いと承太郎に指摘され、気を揉む必要はないと言われたが、スタンド能力が発現する際、命を落とすものがいると聞くとなんとも言えない胸騒ぎがする。なにも母親らしいことはしてやっていないが、こういう気持ちだけは不思議に起ってくるのが本能というものなのだろうか。
４
そこへ、情歌がやってきた。仕事場を離れられないことが多いから、幼稚園の帰りには必ず顔を出すように言ってある。
「ははうえ、あのね」
嬉しそうな顔をして寄ってきた情歌が両手を広げた……
「はれるや・こーらす！」
黄金色の光の中で、天使の羽が広がり、露伴を包み込んだ。
「……やっぱり出産をご経験されると、その辺変わって来ちゃうんですかねえ」
編集者の意味ありげな視線に、顔に朱を上せた露伴の姿が揺らめいて消えた……。
「なんだ今のは？」
露伴は次の瞬間、泣きそうに顔をゆがめた娘の顔を見た。
「ははうえは、じょうかをうんだことがかなしいことなの……？」
「情歌、今のはなんだ？ おまえも今のを見たのか？」
娘の肩を強く掴んで揺さぶりながら、激した声で露伴は問いただした。
「じょうかの、スタンド……ねえ、ははうえはすっとしなかった？ ははうえがらくになったらいいとおもったんだよ？」
「スタンドだと！？ 今のがか？ ひとの秘密を暴いて見るスタンドを、そんな忌まわしいスタンドをおまえは持ったというのか！？ 誇り高いジョースターの、この世で最も尊いスタンドを持つ父の血を引く娘でありながら、なんてくだらないなんの役にも立たないスタンドを持ったものだ！
二度とその呪われたスタンドを使うな！」
「露伴！ おまえ、何てことを！」
飛び込んで来た仗助が、蒼白になって震える情歌を母親の手からひったくった。
「情歌ちゃん、情歌ちゃん、大丈夫だからな、気にすんな、おかあさんが間違ってるんだぞ」
仗助に抱き取られたと認識した瞬間、情歌は安心して大声で泣き出した。
「仗助！ おまえもあの映像を見たのか？」
「スタンド使いなら見えたかもしんねーけど、おれは見ちゃいけねーと思ったから玄関にいたよ。おまえが大声出したから入ってきたんだ。なんでそんなひどいこと言って怒るんだ！？ 悪気があってやったんじゃない。じっさい楽になっただろうが」
「悪気があったらもっとひどい！ おまえ、自分もやられたんならなぜそのときに封印しなかった！？」
「そこまでやるほどのもんでもねーだろ！ 可哀相に、こんなに泣いて。心の傷になるぞこれは。ああ、情歌ちゃん、泣かないの、泣かないんだよ、いい子、いい子……」
ぐっと詰まった露伴は、電話を取り上げた。
「ああ、康一くん。そうだ、わたしだ。いつも面倒を掛けて済まないが、今、うちのバカ娘がギャンギャン泣いて手が付けられない。ああ、うちの飯炊きもなんの役にも立たないんだ。そうだ。助かる。やっぱり持つべきものは友だちだ。君のように友情に厚い親友を持って誇らしいよ。ああ。では頼む」
電話を終えると、すぐさま机に向かってネームを始めてしまった。
５
康一は、もう慣れてしまっていて、車で二人を回収に来た。
「へえ、スタンドが出たんだ？ よかったね、情歌ちゃん。おめでとう」
まずは誠実な優しい笑顔を見せる。詳しい話を仗助から聞くなり、
「大丈夫？ スタンド能力が発現する時って高熱が出るものなんじゃないの？ 承太郎さんのおかあさん、ホリィさんのときだって、それで承太郎さんはおおもとのＤＩＯを倒すためにエジプトに出かけたんじゃなかったっけ？ ちょっと見てあげてよ、仗助くん」と、行き届いた配慮を見せた。
「あ、ああ……うわ、やっぱ熱出てるよ。熱い」
「う、うん……ごめんなさい」
「情歌ちゃんは悪くないんだよ。じゃあ静かなところへ一度車を駐めるね」と康一が言うと、
「じゃあ、トニオのところ行こうぜ。あいつならきっと一発で熱冷ましてくれるだろう」と仗助が名案を出した。
「ああ、そうだね」と、康一は車を郊外へと向けた。
「情歌ちゃん、聞こえる？」
バックミラー越しに、康一は話しかけた。
「情歌ちゃんのスタンドだけどね、悪いけどぼくは使って欲しくないな」
「康一！」
「仗助くんは黙ってて！」
言うべきときは言う。康一は凜とした声で仗助を制止した。
「悲しいことを消してくれるっていうのは嬉しいけれど、悲しいことって、時々、恥ずかしいこととも結びついているでしょう？
ぼくね、高校生の頃、お漏らししちゃったんだ。とっても悲しかった。
でも、その悲しさを情歌ちゃんのスタンドで消してもらおうとしたら、その時のこと、情歌ちゃんにも見られちゃうんでしょ？ それって、やっぱり恥ずかしいよ。
だから、情歌ちゃんがぼくに優しくしてくれようという気持ちは嬉しいけど、そのスタンドは使って欲しくないんだ。解る？」
「わかる……」
情歌はつぶやくように言った。
「それに、情歌ちゃんは、露伴さんの子供でしょ？ 子供って、おかあさんになんでもしゃべっちゃうんじゃないかって、みんな思うから、自分の秘密を情歌ちゃんに見られちゃったら、露伴さんにも知られちゃうって、普通思うと思うんだ。
でも、露伴さんって、漫画家でしょ？ そして、いつもネタを探してて、拾ったネタは漫画にして日本中のみんなに読んでもらいたいと思ってる。
ね、やっぱり、情歌ちゃんには秘密を見られたくないって思っちゃうんだよ。たとえ、情歌ちゃんが秘密を守れる子だったとしてもね」
「わかった……」
母親の漫画家としての業については、情歌にも心当たりがあったらしい。素直にうなずいた。
「でも、お医者さんだって、患者さんの裸とか病気についてはひとに言ったりしてはいけないってことになってて、それがわかっててみんなお医者さんには診て貰うんだ。だから、情歌ちゃんが大人になって、秘密をひとに言ったりしないって解って貰えて、そして、秘密を見られてもいいからこの苦しみをどうにかして欲しいってひとの苦しみを救ってあげられるようになったら、使えばいいんじゃないの？ ぼくのスタンドは、最初卵で産まれて、なんにも役に立たないと思ってたけど、３つめまで進化して、最後には承太郎さんにも立派に役に立ったって言って貰えるようになったから、情歌ちゃんのスタンドも、これからもっと強力になるんじゃないかなあ」
「そっか」
顔は赤いままだけれど、少し機嫌が直ったようなので、仗助は安心した。
「助かったぜ、康一」
６
トニオは今日も輝く笑顔で一同を迎えた。
「いらっしゃいまセ。おや、情歌チャンスタンドの能力が出マシタか？ おめでとうございまス。お熱がありますネ。大丈夫。スッとお熱の下ガるジェラート、差し上げましょうネ。お兄さん方には、気分の落ち着くカプチーノ」
一を聞いて、ならぬ、一を見て十を知るトニオであった。店が繁盛するわけである。ジェラートを食べ終わると、情歌は窓際のカウチに横にならせてもらって、少しして寝息を立て始めた。
「おかあサンに連絡ヲ」と、電話を示してくれる。康一がすぐに掛けに行った。
露伴はすぐに単車を飛ばして現れた。
「露伴さん」
康一が呼び止める。露伴のことも締めるつもりだ。
「スタンドのこと、聞きましたよ」
「それについては」
「坐ってください」
本気の勇気を出したとき、康一は誰よりも強い。トニオがカフェラテを煎れてきて、不承不承露伴はテーブルに着いた。
「露伴さんは、いったいどんなスタンドなら満足だったんですか？ 人の心の痛みを取るスタンド、いいじゃないですか。情歌ちゃんはまだ小さな女の子なんですよ？ 戦いに出したいの？」
「そういうことは言っていない」
「露伴さんは、情歌ちゃんがジョースターの血を引いていることを重く考えすぎです。今は平和なんだし、とりあえず、ふつうの女の子として伸び伸び育てることの方が大切なんじゃないですか？ 承太郎さんだって、仗助くんだって、ジョースターの血のことなんてなんにも知らないで高校生までは育ったんでしょ？ それであれだけのスタンド能力を開花させんだから。ぼくね、スタンド能力は血じゃないと思うんですよ。自分があの弓と矢で能力を引き出されたからかな？ そのひとの覚悟がスタンド能力を開花させるんだと思うんです。だから、それだけの覚悟を示せる、能力者以前の心の強さってやつを、育てていかないと。そこんところが母親である露伴さんの責任だと思うんです。そりゃ、ぼくや仗助くんも手助けはしますけど」
「判った。わたしが思い違いをしていたようだ」
他ならぬ康一の言葉だ、露伴は黙って引き下がった。
「やはりきみは言うことが違う。わたしにそれだけの直言をしてくれるのはきみだけだ。心の友よ、康一くん、本当に感謝している」
真っ直ぐに眼を見て手を握ってくるから、康一は赤くなってしまう。
「いやだなあ露伴さん。ほら、仗助くんがヤキモチ焼きますよ」
「あんなトンマのことはどうでもいい」
素でそんなことを言うから、康一はいよいよ汗をかいた。
情歌と仗助を回収するなら車で来るべき所を、機動性を優先して単車で現れた辺り、露伴も少しは混乱していたようだ。そのことに気づいて、康一は少し唇を緩める。
「おまえが負ぶって帰ったらいいだろう。情歌はおまえに懐いている。おまえも昔物語の主人公のように幼い子を自分しか見ないように育てて恋人にしたらいいじゃないか。この先もてない君が結婚するにはそれしか手段はないだろう」と、露伴はふて腐れて言わずもがなのことを言う。
「なんてこと言うんだこのクソアマ！ おれは別にもてないわけじゃねーの！」
「ほほう？ じゃあしじゅううちの娘にまとわりついていないでリアル生活を充実させたらどうだ？ もてる仗助様に子守なんかおさせして悪かったな」
「くぅーッ」
「露伴さんも仗助くんもそれくらいにして。情歌ちゃんが起きちゃうよ。
露伴さん、情歌ちゃんはちゃんとぼくが送りますから」
「厄介を掛けて済まない。トニオも、助かった。また日を改めて食事に来る」と、礼を言って一同はトニオの店を後にした。
「またのお越しをお待ちしまス」
輝く笑顔がそれを見送った。
７
月日は流れて、何年目かの面会日のこと。
「それで、パパは結局何回やらせて貰ったの？」
二人きりになるなり情歌は承太郎に切り込んだ。女子中学生の言うことではないな、と、承太郎は判断して聞こえなかったことにした。
「聞こえなかったふりしてもダメよ。無責任男の濡れ衣着る代わりに母上と何回セックスしたの？ それとも本当に身に覚えあったの？」
「……どうしてそんなことが知りたいのかを考えてた」
たっぷり時間を取って、承太郎はそれだけ答えた。
杜王グランドホテルのスイート・ルームのヴェランダからは、美しい海岸が望めたので、父娘はそこがお気に入りだった。初秋の微風が、承太郎のロングコートの裾をなぶっている。
「あんまりあたしたちに優しすぎるから。やっぱり、それぐらいの役得はあったのかって思って。……ごめんね、子供過ぎて、前はパパたちが一応は愛し合ってたんだと思ってた。無理に母上けしかけてゴメンね。パパは本当に紳士。一度も外泊させなかったよね。みんなで旅行行ったときも、なんでパパはいつも一晩中ソファーに座ってるのかと不思議だったの」
「露伴は仗助を愛しているから」
「よねー。でも、ソレとコレとは別じゃない？」と、腕組みをして、情歌は追求をゆるめない。
「情歌、ひとには越えてはいけない線というものがある」
「でも、ごめん、みんなして必死に隠してる秘密でも、あたしはそれを暴かないと前に出られない。自分の一番根源的なところがあやふやなのよ？ こんなの、ちゃんとしたおうちでまともに育ったパパには解らないかもだけど」
「シングルマザーでも、真っ直ぐちゃんと育った例が目の前にある。だから心配はしていない、あの時露伴はそう言ったから、おれは協力する気になったんだが」
「親父？ そうね、親父は性格はいいかもね」
「情歌！」
承太郎は目を見張った。
「うん。解るわよそんなの。毎日鏡と家族の顔見てれば。母上は、パパも親父もジョースター家の男だからたいして変わりはないとか思ったのかもだけど、絵描きのくせに舐めすぎ。もうみんな察してるわよ。あたしが生まれる前から一緒に暮らしといてさ。肝腎の名義だけパパに押しつけて。ずるいわよね」
「おまえがそういうふうに思うとは思わなかった。あのときは、仗助と、おまえに傷を付けないように皆が一生懸命考えた結果がこれだった」
「パパかわいそー」
短く言われて承太郎は息を呑んだ。まじまじと「娘」を見つめる。
「リスクを負ったのは露伴だ。仕事を一時中断しなくてはならなかったし、少年向けの作品を描いているのに不道徳だと一時はバッシングも受けた。妊娠が判ったときには可哀相なほどに憔悴していた」
「なんだ同情か」
「仗助も、おかげで露伴とは一生結婚できないだろう」
「それは自業自得じゃん」
「情歌」
承太郎は声を険しくした。
「少し黙っていろ」
優しいばかりだった「父」の怒りを察して、情歌は少し怯えたようすで震えた。
「これから先に話すことは、他言無用だ。自分が大人だと言うなら、衝撃も悲しみも他人には漏らすな」
「はい」
目は海にやったまま、少しの間のあと、承太郎は話し出した。
「最初の質問に答えよう。おれは、露伴とは一度の交わりも持ったことはない。神掛けて言える」
少しの吐息が、相づちのように入った。
「おれたちが出会ったあの春以来、露伴はおれに関心があるようなことは、本人も言っていたし、周りもそれを認めていた。仗助じしん、年の近い縁者のおれを慕ってくれているようだったから、二人の間の話題の一つとして、おれを理想化するような話が勝手に持ち上がっていたように思っている。実際二人で逢っている時の露伴は、そういう淡い憧れ以上の感情は、向けてきたことはない。
だから、おれも、弱みにつけ込むようなことはできず、露伴にそういうことを要求してこなかった。仗助に対する遠慮が無かったとは言わないが、純粋に、露伴の方にその気がないと見たからだ」
「パパ、いいですか？」
急に、言葉が丁寧になった。
「なんだ？」
「でも、パパは、母上のことはどう思ってたんですか？ 普通？ それだけじゃないと思うの、だって」
珍しく、承太郎がひとの話を遮った。
「好ましい」
「好ましい？」
「恋愛感情のうち、一番淡くて単純なものだと思ってくれ。愛憎混ざり合った深い強い執着ではない。が、明らかに良い感情は持っていた、特に、あの日……」
あの日、明らかに度を超して憔悴しきっておりながら、仗助に一切の責任を負わせず、自分一人で育てると言い切った姿に感動した時から。
それは、恋と言うにはあまりにもさわやかで軽い感情だったけれど。
承太郎は露伴を好ましいと思った。
役に立ってやりたいと心から思った。だから、よろめきながら歩き去ろうとした露伴を家まで送って、キスしてやって、写真誌に撮られた。
それで仗助を隠す隠れ蓑になれば、そして、そのまま露伴を手に入れられればとも思ったのだけれど。
事態はそううまくは転がらず、一度決定的に喧嘩したと思った二人は、地震の夜をきっかけにまた強く結びついてしまったらしい。
もとの輝きを取り戻した不遜な笑顔を見せて露伴が立ち、その横に、底抜けに明るい仗助の姿を見たとき、承太郎は敗北を認めて彼らの盾になり続けることを選んだ。
定期的に逢う約束の時、露伴が明らかに頬を染めて現れたりすると、柄にもなく胸が痛んだりもするのだが、そこは、大人の分別でなんとかやり過ごしている。
それは、やはり時期が悪かったのだろう。
その相談を受けた丁度同じ年、承太郎は妻と子に去られていた。
「あたしは徐倫て子の代わり？」
厳しく言いおいて、情歌は背を向けた。
容赦なく情歌は事実を突いた。
「文字通りの代わりに思ったことはないが、おまえたちを世話して見守ることで、彼女たちを失った痛みを忘れようとしたことは認める」
あくまで誠実に答えようとする承太郎だった。
「うん、ジョースターの人たちと会うと、かならず徐倫て子と比較されたのよ。年は静の方が近いってのに。あの子の時より早い、遅い。ここのところがやっぱり母親似、いや、父親似。そうね、徐倫はパパ似だったのかな？ それに比べて、似てない似てないって、耳タコだったかもね」
「それは失礼したな。誰なんだ？」
「ううん。忘れちゃった。あのひとたちみんないい人だもん。ふつうに親戚の中の子の成長チェックのつもりだったかもよ」
「おまえが楽なように解釈してくれ」
「ええ……ごめんパパ傷つかないで」
「強いな、情歌は」と、承太郎は嘆息する。
「あのひとの娘ですから」
岸辺露伴の娘は、昂然と顔を上げて、美しい杜王の海岸を見つめていた。
「でもやっぱり親父に責任を取らせなかったのはパパ達の判断ミスだと思うの」と、情歌はきめつける。黙ったまま承太郎は先を促す。
「そりゃ、当時の親父は子供だったかも知れないけど、おかげでパパに対する完全な苦手意識ができちゃって。これから長い人生負け犬決定だよ？」
虚を突かれたようになって、承太郎は軽く口を開けた。珍しいことである。
「ごめんねえ、史上最強のスタンドを持つ子が生まれるかもとかいってパパのこと脅したんだって？ 生まれたのがこんなんで」
「いや、スタンドに関係なく情歌は凄いよ」
「はいはいありがとう」
複雑な育ちのせいか母親譲りの性格か、かなり情歌はドライだ。
「ジョースター家の男、ジョースター家の男って、言い過ぎるのもやめた方がいい。親父はそれに縛られて、新しい恋に足を踏み出すこともできない。母上はその線も見越して、何も言わないでパパにおっかぶせることにしたんでしょ？」
「そう言う考えは、思い浮かばなかった」
素直に承太郎はつぶやいた。
「パパも。離婚はショックだったかもだけど、もっと前向きに生きなさいよ。ジョースターのおじいちゃまは、６５からでも親父を作ったんでしょ？ まだまだ時間はあるわよ」
「それは、どうも……」
娘に諭されて承太郎は口ごもる。
「親父は最近やっと、こりゃどうもおれの娘かもしんねえぜぐらいには思いはじめてるみたいよ。鈍すぎ。ここはこの１５年のツケを一気に払わせたい気がするわ。でも、そんなことしたら後ろめたくて申し訳なくて、もう親父パパに会わせる顔ないかもね」
「全くその通りだと思うから、お願いだからやめてくれ」
承太郎は心の底から後悔を込めて言った。
「ふふん。カッコつけるのもいい加減にしろ、だわ。みんなして」
岸辺露伴の娘は、不敵に笑った。
「すまん……」
「それにしても、我が親ながら恐ろしいのはあのババアだわ。１５年もよく嘘を吐き通したこと」
「だから、尊敬している」
「パパ」
情歌は承太郎に向き直った。
「ハレルヤ・コーラス！」
黄金の羽が広がって、承太郎を包み込む。浮かんだのは、腹部に大穴の空いた学生服の青年。色素の薄い長い前髪が、顔の前に垂れかかっている。
「そのひと……助からなかったの？」
「……ああ。これが情歌のスタンドか」
夢を見たような表情で、承太郎はつぶやく。
「そのひとだけがパパのこと解ってくれてるわけじゃないわよ」と、情歌は早口に言う。
「花京院は……」と、いいさして承太郎はやめる。
「奥さんも、仗助も、母上もみんなパパのこと大好きで、近づきたいと思ってたのよ。亡くなったひとのことばかり考えてたら、パパの周りは永遠に誰も寄ってこないわよ」
「ああ、ああ、そうだな」
夢から覚めたように、承太郎は呟いた。
「パパ、幸せになってよね。徐倫にも、会いにいってあげて」
「そうする」
微笑んで、承太郎は情歌を抱きしめてくれた。
８
帰宅すると、露伴は例によって仕事場に籠もっていた。仗助はリヴィングでゲームをやっている。
「おかえり情歌ちゃん」
にこりと笑う顔は、くやしいが鏡の中の自分とよく似ている。
「聞いて来ちゃった」
情歌はぼそりと呟いた。
「あーそう……ってなにを？」
コートを脱いで、その動きの流れでボレロを脱ぎ、キャミソールの前をはだけ、スカートも引き下ろす。
「ぎょーぎ悪いな、部屋行って脱げよ」
仗助は、画面から視線を動かさない。
「いまのうちにやっちゃおう」
暗い声で、情歌は誘った。
「まだ仗助は知らないんでしょ？ じゃあ、今のうちなら知りませんでしたで済むから。そんで、あの勝手な人たちに復讐しよう」
「なに言ってんの？」
やっと顔を向けた父親に、情歌は顔ごとぶつけるようにキスをした。
「痛いよ、情歌ちゃん」
やさしく顔を引きはがして、仗助は笑って見せた。
「だって、今の今まで騙しておいて……ずっと好きだったのに。初めて好きになった人が、自分の父親だなんて……」と、情歌は声を詰まらせる。
「情歌ちゃん承太郎さんのこと男として好きだったの？」と、仗助は目を丸くする。ずっと自分を見つめてくれていた暗緑色の眼。
「違うわよバカ。あたしずっと小さいころから仗助のお嫁さんになるって言ってたじゃないの」
「あーそーだね」
優しい笑顔は変わらない。それが、情歌にはガマンできない。
「本気だったのよ」
「無理だって。だって、情歌ちゃん、惚れた女の娘なんだぜ」
「そんで、自分の娘だったのよ」
少し、動きが止まって、そして返事が返る。
「ああ、やっぱりそうだったんか」
「パパは言ってたわよ。神掛けて母上とはやってないって」
「あ……そう」
へらり、と笑顔が隠しようもなく浮かんでいる。
「そこで安心しないでよ、腹立つ！」
「ご、……ごめん」
傍らのＴＶ画面には爆発の映像と「ＧＡＭＥ ＯＶＥＲ」の文字が浮かび上がっている。
「ハレルヤ・コーラス！」
黄金の羽の上に浮かび上がったのは、泣きながら露伴を詰る仗助と、腕を組んで仁王立ちの露伴の姿だ。
「結局あんたたちの不始末はあたしだけが負うのよね」と、自分に向けてスタンド能力を放つ。浮かび上がるのは、３歳児の自分が仗助にプロポーズして、すぐさま断られる思い出だ。
「本当に使えないスタンド。辛い思い出を消してくれるんじゃないのね。痛みを軽くしてくれるだけ……母上ってホント解ってるわ」
皆はジョースター家の男、ジョースター家の男と言うが、ジョースター家の女の恋愛についてはなにも教えてくれない。ホリィという伯母は、やはり一人の男しか愛した経験がないのだろうか。それでは、承太郎のように自分は行き止まりの心を抱えたまま生きていかねばならないのだろうか。
（承太郎パパ、幸せになって。行き止まりに心を凍らせたままじゃなくて、何度でも心を燃え立たせて、前進して幸せを掴むことができるって証明して見せて……）
誇り高い血統を抱えた娘は、自分と「父」の幸せのために祈った。
「じゃあ親父、あんたはあたしと母上を養って幸せにして承太郎パパにご恩を返す義務があるのよ。以後ヨロシク！」
厳しく言いおいて、情歌は背を向けた。
（１０−１０−０９）
蛇足。
あまりの暗さに途中放棄していた露伴ちゃんシリーズ、これでも健全ルート。これは承太郎さんが大人の分別を守って二人を見守ってきたという設定。
ジョースター家のスタンドは鉱物系の名前とか、基本糸系とか、日本人の血が混じると人型とかいろいろ裏設定があるそうですが、聞けば聞くほどオリジナルスタンドが出せなくなります。そんでもって洋楽にちなんだ名前でしょ？ もう、無視、ムーシ！
女性として愛する人と行為を持ったからには結果から逃げることはできないという考え方で、単純に彼と彼女との間に子供ができたらどんな感じ？ という罪のない思考実験に現実味を与えたら、なんだか深刻になってしまいました。だって相手未成年だったし。
相手に自由でいて欲しい、という露伴の思いやりと、自分も自由でいたいし、という闊達さからこういう道を選んだのですが、やっぱりいびつだったかしら。それでも、伝わる物は伝わるし、いつか真実は明らかになると思ったので、せっかくの配慮を無にする結末となりました。
自分じゃない男の子を産んだ（と言い張る）露伴とそれでも一緒にいる仗助も大物だと思うけど。認知はしないし日頃一緒にいないとはいえまったく身に覚えのない娘を引き受けた承太郎さんも凄い。子育ては毎日の積み重ねなんで、やっぱり毎日一緒にいて些細なことも一緒に経験してきた仗助の方が真の父親と言えるでしょう。その辺は、露伴の必死の工作は無駄だったということになりますね。結果的に娘の心は傷つけちゃったけど、それはよくある「おきくなったらパパのおよめさんになる」と同じもんだということで。情歌ちゃんには自由な恋をして幸せになってもらいたい物です。
まー仗助も情歌も、例外のジョセフの血を引いているし、リサリサの血も引いてるから、何度でも恋はできると思うんだけどね。頑張ってね（いや、仗助はもうしない？）。
これを書き始めたときはまだ６部読んでなかったので。徐倫についてはちょっと調べただけ。その辺は、パラレルってことで突っ込まないで流してください。そんなこと言ったら、うちの３部の「乙女花京院」シリーズの承太郎さんとの整合性は？ ってなっちゃうから。別世界です。