シラノ
その朝（５３）
１
人間が伸びるかどうかは失敗に学ぶことができるかにかかっている。
フーゴは自他共に認める天才児であるので、目に見える失敗というものは少ないが、弱
冠１６才の神ならぬ身では心の中のシミュレーション・レヴェルでの取りこぼしも多々あ
る。それから目を逸らし無かったことにしたりしないことで、彼はようよう天才少年参謀
としての矜持を保っている。
というわけで、フーゴはこのきわめて自省的で、見かけによらず女性に優しい男にはむ
やみにお節介を焼いたりせずに新年からこっち様子見をしているのだが。
「フーゴ、今年はまだ決まらねえみてえなんだが」
「一応各色引っ込めないで残しておいてやってください」
「もうここら辺で手を打ったらって何度も言ってるんだけど」
「好きにさせてやってください」
「チョコレートはいいのかね？」
「それは自分でどこかから調達したみたいなんで」
街の衆が、本人を憚ってフーゴに進捗と対応を尋ねてくるので、フーゴもいちいち相手
をしてやって、こっそり情報交換している。
とりあえず、できる参謀の公式発表はこうだ。
「２月に入った段階で、アバッキオはまだヴァレンティヌスの日に恋人に送るカードの用
意をしていないらしい」
「大丈夫なのかよ？」
さんざん気を持たせた挙げ句に去年は本人が外傷と胃潰瘍とで入院してしまったから、
ヴァレンティヌスの日当日に贈り物を渡すことができないという取り返しの付かない事態
になった。街で一番の人気の２人のことだから、周囲のものは気が揉めてしょうがない。
「まあ彼も今年こそはと思ってるでしょうから、どうかあんまり構わないでやってくださ
い」
今年は自分のほうが神経性胃炎になりそうなフーゴであった。
２
いったい何にひっかかっているのか。
とりあえずその辺だけでも知りたいと思ってフーゴはアバッキオに近寄ってみた。
携帯音楽プレイヤーでなにか掛けながら、アバッキオは眉間に皺を寄せている。ふつう
悩んで無限の思索にはまりこむときには没入する感じだが、今日のは、眼まで閉じて、もっ
とせっぱ詰まって耳を澄ませている感じだ。
……随分ぼくもこのひとに詳しくなっちゃって。
フーゴは気がついて自嘲の笑みを漏らした。
気配を察して、アバッキオが眼を開けた。ヘッドフォンも外して意識を向けてくる。
「どうした？」
漏れ出てくるのは耳になじむ明るい恋の歌だった。
「なに聴いてるんですか？」
おや、珍しい。ポップスを真剣に聴くような人じゃあなかったと思ったのに。
「……いや、ナランチャに借りた。どういうのが流行ってるのかと思って」
「珍しいですね」
「ま、ちょっと行き詰まってな」
本当に珍しい。このひとが簡単に弱みを見せるなんて。
「それよりあんたはすることがあるでしょうに。町中のカードショップ全部さらえてもま
だ気が済まないんですか？」
１月からこっち、買い物の時間が長引いても、パトロールのルートが寄り道だらけでも
文句を言わずに見守ってきたというのに、成果を上げられていないのだ。
「しっくり来ねえ」
獅子を名に持つ男はプラチナのたてがみを広げて大きく頭を振って見せた。
「オリジナル・デザインをローマに発注してもいいですから来年はもっとはやめに準備を
整えるようにしてください。町中みんな心配してるんです」
「町中かよ」
「ええ」
ご苦労な、とかお節介な、という言葉を小さく口の中で呟いて、アバッキオは溜め息を
吐いた。
「文句が決まらねえからカードのデザインもどうしたらいいのか判らねえ」
「もしかして、自分で考えてるんですか？」
「当然だろ？」
フーゴは絶句した。
そりゃあ、これでこのひとは必要なときにはちゃんと甘い言葉も言えているらしいんだ
けれど。
女を口説くことについては英才教育を受けているようなイタリアーノでも、聖ヴァレン
ティヌスの日やナターレに贈るようなカードくらい、できあいの「世界中の愛をきみに」
とか、「あなたを想っています」と印刷したカードで済ませるのが普通だろう。
「それ、あんたの在所の習慣ですか？」
「あっ、今いきなりひとを田舎もの扱いしたろ？
……うちの近所はそりゃ田舎だが、今時分だけは薬屋や小間物屋の店先にだってカード
も置くんだよッ。役場には街から行商が来るしッ。みんなそこで買うんだよッ。休みの日
に街に出たりもするしッ。
……ああ、うちだけだ。うちの親父がやりはじめて、おれが習ってるだけだ」
なにか事情が？ と目で尋ねると、アバッキオはむすっと黙り込んで心の整理を付けて、
しばらくして語り出した。
「おれのばあさん、父方のほうの祖母の姉が、近所に住んでいて。戦争で婚約者を亡くし
て、ずっと独身で通した気丈なひとだった。気が強くて、口が達者で町の男衆にも言い負
けたりしなかった。だから他に嫁のもらいてが無かったんだろうとも言われてたんだが。
そのばあさんが、結構長く患ってたんだが、デスクの奥の抽出だけはひとに触らせなく
て、きっと証券でも入ってるんだろうとか言われてた。
亡くなるときに、とうとうおれのオフクロに、死ぬときは棺にその中のものを入れてく
れと言って息を引き取った。オフクロが開けてみたら、それは、亡くなった婚約者から貰っ
た手紙とカードだった。きれいな薔薇色のリボンできちんと縛ってあって、ときどきほど
いて中を読み返してたみたいで、折り目はもう擦れて破れかけてきてたし、リボンはくた
くただったって。
昔のことだから、手書きで、難しい文句はなくて、ただ、愛してるとかそれだけだった
みたいだが。
ばあさんおれたちにはその婚約者のこと、愛してるともなんとも言ってなかったのにな。
おんなの方でそこまで大切にしてくれるってなら、こっちもそれだけのものは書いてや
らないと。それから、親父は毎年ヴァレンティヌスのカードは手書きするようになったん
だ。それを貰うオフクロも、なんだかくすぐったそうな顔してよ。それなりに効果あるみ
たいだったから」
去年も、頑張って手書きした、とアバッキオは肩をすぼめて言い足した。
「いいんじゃないですか」
素直にフーゴは肯いた。
「いい話を聞かせて貰いました。よく考えればぼくはこの方面はまったくひとに意見がで
きるような経験はないんですし。あんたが自分の思うようにやればいいでしょう。きっと
あのひとも喜ぶと思います」
それで、巧い文句が思いつかずにその文句書くにふさわしいカードも選ぶことができな
いという現状なわけだ。
「それでも、カレンダーを良く見てくださいね？ 一日遅れで名文句をみせられるよりは、
やっぱり陳腐でも大切な日にみなと同じようにカードを貰った方が嬉しいに決まってます
から。今年こそはあのひとに寂しい思いをさせたりしないでくださいよ？」
「わ、解った！」
アバッキオは冷や汗をかいて肯いた。
「それで聴き慣れないポップスなんか聴いてるんですか……いまどきのラヴソングじゃあ
あんたにとっては即物的すぎるんでしょう。あんたドイツ語は聴いて解るんでしたっけ？
シューベルトでも聴いてみますか？」
事態を認識すると、必要な手だてをすぐに講じることのできる参謀であった。
「とりあえず、そろそろ夕食の買い出しに行って下さい」
掛け時計を示して、フーゴはアバッキオを追い立てた。
３
……おんなの方でそこまで大切にしてくれるってなら、こっちもそれだけのものは書い
てやらないと。
胸を張ってムチャを言ってのけたアバッキオは、しかし、凛々しかった。
フーゴはアームチェアに沈み込んで、顎に手を当てた。
……あのひととは先がない。後に残るものを贈って迷惑を掛けるつもりはない。
しぜん、輝く目をした少女のことを考えてしまっている。
ルチアには食べて消えるものしか贈ってこなかったフーゴだった。お互い利用しあって
いるだけ、ちょっとした友達と言いつくろえるだけの関係。そう信じてきた。
……って、会う度キスしてないか？ 最近。
グリマルディーニ夫妻の遊び相手に呼び出されると、高確率でルチアにも逢ってしまう。
このところはフィニッシング・スクールに入ってしまったので逢えないでいるが、電子メ
イルはひっきりなしに送られてくる。こちらからも、ボタンひとつで消去できるメイルは
何通も書いている。
……ただの友達以上のつもりはあるのか。
街の衆でなく、組織のものでなく、それでいて、フーゴの過去を知り、本名を知り、同
じレヴェルで語り合える唯一の存在。
ヘタを打って失ってしまうのはとても残念だけれど。
フーゴはノートパソコンを開けると、メイルを打ち始めた。
「親愛なるルチア。きみのところの寄宿舎はどのくらい郵便物を監視されてる？ エニグ
マ級の暗号レターにしたほうがいいかな？ それとも、開封されない安全なアドレスがあ
るならそれを教えて」
今、自分の顔は微笑んでいるだろうか、フーゴはふと頬に手を当ててみた。
４
「まっだっなっんでっすっかッ！？」
フーゴに弱点があるとしたら忍耐力が弱いことだろう。
２日と待てずに体中の毛を逆立てて催促した。
「なんかもうちょっと……」
アバッキオが済まなそうに肩をすくめた。
アジトの真ん中で始めるから、ナランチャもミスタも面白がって見ている。
「え〜？ ふつうに愛してるだけじゃダメなのか？ おれはそれで毎回巧いこといってる
ぜ？ カードのあとにはアツいボディー・ランゲージって手もあるし」と、ミスタが言う
なりエアー恋人を抱きしめてキスをしはじめた。
「よしてください、昼間ッから！」
さらにフーゴが逆上する。
「やっぱ少しは知恵を絞って気の利いたことを書いてやりたいし……年に１度か２度のこ
とだから」
「凝りすぎるんですよ。あんた、小さいころの寝る前の読み聞かせで『シラノ・ド・ベル
ジュラック』でも聞かされてたんじゃないんですか？」
「まさか」
アバッキオはちゃんと理解して否定したが、外野２人が反応しきれず目を瞬かせた。
「シラノ？」
「ナニ？」
フーゴは溜め息を吐いて解説してやる。
「エドモン・ロスタンというフランス人の書いた戯曲、お芝居です。ないものねだりのバ
カな女が２人の男を不幸にする話」
やや強引にまとめてしまったので、アバッキオから抗議の声が上がる。
「おい」
「解りましたよ……。
ルイ１３世の頃の話です。シラノ・ド・ベルジュラックはフランスの貴族で教養もあっ
て気っぷも良く、剣の腕も確かな一流の宮廷人だったんですが、ちょっと顔が残念で。
……鼻がちょっとバランスを欠いて立派だったそうです。そんなわけで、女性にはイマ
イチもてなかったと。そのシニョール・ド・ベルジュラックは従妹のロクサーヌに恋をし
ていたけれど、そういうわけで思いを告げることはできなかったんです。
そのロクサーヌが恋をしたのはクリスティアン。誰かさんみたいなハンサムです。ただ
このクリスティアンは、腕っ節も強くていいやつなんですが、口べたで、貴族のような巧
い口説が使えない、シラノが心臓を握りつぶされそうな思いをしながらお膳立てをしてやっ
ても、なんにも言えなくて逃げ帰ってきてしまうヘタレだったんです」
「そんなの、抱き寄せてキスしちまえばいいんじゃね？」
「なー？ 好きです以外に言うことあんのかよ？」
本など読むくらいなら昼寝する２人は、こういう話は参謀殿に振って、彼の突っ込みコ
ミでダイジェストを話して貰う方が好きだ。フーゴの方も、最近ではその役を楽しんでい
るようでもある。
「それじゃだめなんですってば。ことに貴族の女性はね。彼女の方も好きだってのは解っ
てるんです。ただ、それをそのまま表わすんじゃなくて、もっと耳を楽しませて欲しいん
です。
『綾をお付け遊ばせ』って。
きみたちも、どんなにいい肉だって、焼いてそのまま塩と胡椒だけじゃあ飽きるでしょ
う？ ソースを工夫しないと」
「まー、そうだね。去年みたいに一週間はきついな」
「アバッキオ、こないだの照り焼きソースうまかったぜ？ やっぱ牛肉にショウユってあ
うんだよなー」
食べ物に例えると、年頃の少年達はあっさり納得した。
「そういうわけで、『好きです』しか言えないクリスティアンはお呼びじゃなかったんで
す」
「じゃーシラノがじょーひんな名文句たらたらでラヴレター書けば落ちたっての？」
「それが、お人好しのシラノはそれをクリスティアンの名前でやってやるんですよ。逢い
引きの時も口説き文句を後ろから入れ知恵してやって。おかげでクリスティアンはロクサー
ヌと結ばれます」
「きっつー」
「ま、しょーがねーかな。そんでどうなるの？」
「ところが２人の仲を嫉妬した司令官がクリスティアンとシラノを前線に追いやってしまっ
て。決死の覚悟で会いに来たロクサーヌの目の前でクリスティアンは戦死するんです」
「シラノチャンスじゃん！」
「口説け！」
「ところがシラノはクリスティアンとの友情に殉じて、修道院に入ったロクサーヌを毎週
訪れるだけに留めるんですよ、１０年ほども」
「信じられねえッ！ お貴族って行儀良すぎ！」
「そこは未亡人速攻で口説くべきだろーッ！」
「そんでどうなんの？」
ナランチャは身を乗り出して聞いてくる。
「ある面会日、敵の陰謀で重傷を負ったシラノがロクサーヌの元を訪れたときに、クリス
ティアンがくれたラヴレターを読み返して見せて、それを一言一句みなシラノが暗唱して
いることにロクサーヌはやっと気づくんです。この手紙を書いてくれたのはあなたね！？
と。やっと想いが届いた時には、もうシラノは虫の息で、そのままロクサーヌの腕の中で
息絶えたのでした、と」
「ありえねーッ！」
「どーゆーことよそれッ！」
ナランチャとミスタは立ち上がってブーイングした。
「だから不幸にしたって言ったじゃないですか」
「……きれいな話だと思ったんだけどな」
アバッキオは鼻白んだ顔つきになっている。
「……アントニアは泣いてたけどなあ。やっぱ女は感じ方が違うのか」
失言をミスタの耳が拾った。
「女と観たんだな？ 映画にもなッてんのか？」
「い、いや、ＶＴＲで。高校の時ッ、あねきたちがきゃーきゃー言ってたからガール・フ
レンドと」と、どんどんアバッキオは言わなくていい情報を開示してしまう。
「……まああの映画は作りが良かったようですけど。
まあ、あんたほどの男がこの年までナニもない方が気持ち悪いですから。あのひとには
黙っておいてあげますけど。きみたちも、解りますね？」と、フーゴがそこで一応締めた。
「でもさーシラノがいっしょーけんめー仕込んで、死ぬ気で考えてしゃべったら、それは
それで受けたんじゃねーの？ カンペ渡されてそのまましゃべるんじゃなくて、ヘタでも
自分でなら」と、ナランチャが澄んだ眼をして言った。
「そーよ。お姫様はもともとクリスティアンの方をいいと思ってたんだからよ」
ミスタがにやりと口の端をあげて見せた。
「……だから死ぬ気で頑張ってるんじゃねーか」
アバッキオはソファーの横に積んである図書館から借りだしてきた「参考資料」に手を
伸ばした。
「さあ、邪魔はしないで。パトロール、もう行った方が良くはないですか？」
フーゴが立ち上がって、午後の休憩の時間は終わった。
５
「もうタイムリミットですよッ！ カードだけでももう買っておかないと！ さあ、ぼく
が付いていってあげますからッ」
前日になって、本人より消耗した様子のフーゴがアバッキオを連れ出した。
「いいですかッ、そもそも聖ヴァレンティヌの日というのは古代ローマ帝国時代の……」
蘊蓄を語るのも少しは発想の足しになるかとの配慮だ。
「なぜ２月１４日かというと、イタリアにおいてその日が小鳥が初めて巣を作る日だと言
う説もあります……聞いてますか？」
「ああ、小鳥な小鳥……」
ここ一週間で随分面やつれしてしまって、彼の大切な上司が心配して理由を尋ねてきた
くらいだ。
「おや、本当だ、アバッキオ、小鳥が飛んでいきましたよ。小鳥も恋人を得て巣作りをす
るんですね」
「ああ、小鳥が飛んで。鳥が飛ぶのはって歌昔聴いたな、小鳥が空を飛んで、枝を探す……
フーゴ！ 小鳥だ！ 小鳥は枝を探し恋人は……
小鳥のカードを置いてたのはアンゼルムスの店だなッ？ 先に行ってるッ！」
一気に問題の解決を見たアバッキオは顔を輝かせて走り出して行った。
「ギリギリセーフですか……」
やっと肩の荷が下りたフーゴは、つい遠くスイスの方角を望んでしまった。彼を大切に
思ってくれている異性の友人のもとに、カードは届いただろうか。
６
２月１４日当日。気もそぞろに一日の仕事を終えて２人きりになって。ブチャラティは
楽しみにカードを開いてみた。
「小鳥が空を飛んで羽を休める枝を探す
人は心を休める相手を探す
おれの心が安まるのは あんたの側だけだ」
渾身の台詞を読み終わって、佳人は頭を傾げた。
「これはいわゆる
男は船、女はその港ってやつか？」
外した！
ブチャラティは漁師町の生まれだ。海に関連した例えの方が身近なのだとアバッキオは
すぐさまフィードバックに入ったが。
「船の例えだと、男は広い世界に出て好き勝手するが女は動かず待ってろみたいで気に入
らなかったんだが。小鳥ってのは可愛くていいな」
ブチャラティは静かに微笑んで言った。
「おいで、小鳥ちゃん」
地獄行きから一気に盛り返して、アバッキオは幸福感に全身を漲らせて恋人を抱きしめ
ていた。
「わたしのカードはこれだ」
そのブチャラティのカードにはなんと書いてあったかというと。
「言葉にできないほどあなたを想っています」
「……ずりい」
アバッキオは拗ねた。
（１１ー２−１０）
蛇足。
「シラノ」はブラックジャックで紹介されてたときから刷り込みで好きな話です。「有閑
倶楽部」でもやってたしね。作中話題に上がってた映画はジェラール・デュパルデューが
シラノで９１年作品、たしか観ました。アバッキオが観るには小さすぎるから、ＶＴＲで
観たという苦しい設定になりました。日本の話に翻案もされていて、「白野弁十郎」、独
り芝居のカセット・ブックになってます。台詞が格好いいんです。でもやっぱり、シラノ
はクリスティアンの死後すぐに事情を明かしてロクサーヌを口説くべきだったと思います
けどね。
チョコレート会社の陰謀だろうがなんだろうが、想いを示す機会があるのならノせられ
てでも示しておくべきです。たとえ拙くても。かっこわるくても。
小鳥が空を飛んで羽を休める枝を探す
人は心を休める相手を探す
やや意訳入ってますが。Ｇ．Ｆ．ダウマーの詩です。例によってブラームスが曲を付け
て女性二重唱になってます。「おれの心が安まるところは」の名台詞繋がりで丁度いいか
と思って。
おまけ。
「ちょっとッ！ 着いたわよッ！ なんてコトしてくれるのッ！」
ルチアからの電話にフーゴは心臓を握りつぶされそうになった。
「あんたの写真込みでこれうちの寄宿舎じゅう回ってるわよ！ 今年の聖ヴァレンティヌ
スの勝者はあたしねッ！ ありがとう！ こんなに得意な気持ちになれたのは生まれて初
めてかも知れないわ」
「ルチア？」
そんなにたいしたことは書いてないはずなのだが。
「あんたから貰ったことが重要なのよッ！ ああッ！ 苦節３年やっとあんたから聖ヴァ
レンティヌスのカードを貰えるまでこぎ着けたかと想うとッ！
いいこと、うちのスクールには本物の王族も一目見たら命が吸い取られるような美人も
世界で有数のお金持ちも来てるけど、今日一番みなからうらやましがられてるのはあたし
なんだから！ あんたはあたしを世界で一番幸せな女の子にしてくれたんだから！ 理解
しなさいよ！」
「う、うん」
「……ありがとう、一生大事にする」
すすり泣く声と一緒に言われて、フーゴは勇気を振り絞っておいてよかったとしみじみ
した。