遅い昼食のナイフが止まってしまっている。これで３度目だ。どうやら本当に、
彼らの「おねえさん」はヤツにイカレてしまっているらしい。もう３時過ぎ、ラン
チの時間は終わってしまっているが、店の好意で、彼女に出される料理に時間制限
はない。
フーゴは相手に気づかれないように溜め息をついた。ごくごく単純な彼の相棒に至
っては、彼の悩みも、「大好きなおねえさん」の異状にも気がついていない様子だ。
これだからぼくって苦労するんだよなあ、そう独りごちて、彼はじぶんだけ先に出
来ることを片付けることにした。
昔からそうだ。
宿題は、自分だけすぐにやり方が見つけ出せて、自分だけがすぐに片付いた。
あとは寂しい自由時間。
「ブチャラティ」
エスプレッソを流し込むと彼は席を立った。
「ちょっと約束を思いだしたんでお先します。どうぞごゆっくり」
そうして、返事を待たずに出口へと急ぐ。
「彼は大丈夫だと思うか？」なんてむかつく質問を耳に入れないようにするために。
ブチャラティが夕べ拾ったプラチナ・ブロンドの男が、今、ポルポの試験を受けて
いる最中なのだ。
フーゴは天才だ。普段は考え終わってから走り出す。だからといって彼の判断はいつ
も瞬時で、それは間違っていたことがない。自分を含めてひとを待たせて思考をめぐら
せたことはない……。
「いいライターですね」
見切り発車で、彼は話しかけた。
「ああ……」
「ぼくの知ってるひとのライターに、似てますよ」と、言葉を選びながら近づいた。
「そうか？」
入団テストの要領は、去年のナランチャの時と、すなわち、自分の時と、変わって
いないらしい。眼を自分に向けたまま、男は火をさりげなくかばっている。
「煙草吸わないんですか？」と、不思議そうに聞いてやる。
「いや、そういうんじゃないんだ……行けよ、オレに構うな」
男は途中から、いらだちを顔に表わしはじめた。
……あんまりコミュニケーションがうまくないタイプかな。ぼくもひとのことはい
えないけどね。
フーゴはわざとらしくジャケットの裾をぱたぱたやって、風を立てる。さりげなさ
を装いながら、男は風からライターを遠ざける。あからさまにかばって、興味を引か
ないように、さりげなく。
……バカではないな……。
ナランチャの時のことをふと思いだしてフーゴは思い出し笑いを堪える。心配で途
中まで迎えにいくと、歩きながらもう半べそになっていた。と、彼の思考を破る音が
鳴り響く。近くの教会から、夕べの祈りの鐘が鳴り響きはじめたのだ。組み合わせら
れた鐘楼の鐘の音は、あちらでもこちらでも、固有のメロディを奏でてゆく。
陽が落ちる。
彼は決心した。
遅れに遅れた昼食を採りながら、今朝拾った男の首尾が気になってしかたがない彼
の大切なひとのために。
かがみ込んで、一息にライターに息を吹きかける。
「何すんだ！」
間一髪で、男は火をかばってライターを引き寄せた。
炎はまだ、燃えている。
「そのライター、知ってるって言いましたよ。バッジ見せましょうか？」
静かに、フーゴは笑って見せた。
「見せろ」
短く男は要求した。フーゴは襟の内側につけてある団員の証を見せてやった。
「ブチャラティのチームで、手伝いをしてます。今朝はあんたはまだ眼が醒めてなかっ
たですけど、ぼくは部屋に顔を出したんで、事情はなんとなく解ってます。いい人に
拾われて良かったですね」
昨夜はいい思いもしたみたいだし、とまでは言わない。彼もまださすがに大人の冗
談を言うまでには成長していない。
「知ってるならなぜ火を消そうとする？ おれがファミリーに入っちゃあ迷惑なのか？」
男は立ち上がって、いつでも立ち去れる体勢になった。その影が、もう長く伸びて
いる。猶予はない。
「入団の審査の意味は、ただ火を守り抜くことにあるんじゃないんです」と、フーゴ
は真実を明かすことからはじめることにした。
「なんだと？」
「精神にプレッシャーを掛けた状態で任務が全うできるかをまず試す、それもありま
す。しかし、それを遂行しただけじゃあ、なれるのはただの地回りです。ブチャラティ
のチームに入るのは無理です」
「どういうことだ？」
さあ、乗ってきた。
「本当の試験は、火が消えてから始まります。火が消えて、ライターを再点火すると、
試験官が現れるから」と、伸ばした手でフーゴが煽ごうとするのを、男はまだかばう。
……頑固なヤツだな。
フーゴは少し感心した。
「黒衣の悪魔が現れて、あんたに矢を突き立てます。それが本当の入団試験。その矢
を受けて、生きていられたら合格。そういうことです。だから、早い方がいい。夜に
なったら、生き残るのは至難の業だ。……よっぽど強いのが出ない限り。あんたも、
ぼくなんかに手助けして貰うのは嫌でしょう」
表層の事実を見透かす優れた考察で、積み重ねた常識を飛び越えるならいのある少
年は、自分が出した判断をひとにも押しつけるきらいがある。同じだけの理解力がな
い相手がそれを受け入れないことがあることを、彼には理解できない。理解できない
と、彼は理性を感情が凌駕する。
「それを、信用しろと言うのか？」
同じ経過を、たどるのかとフーゴは思った。
好意で手助けをしてやろうとしたのに！
拳を固めるその瞬間に、その声は耳に届いた。
「いや、それが頭のいいやり方なんだろうな」
溜め息を吐いて、男は２，３歩下がるなり、柵に腰を掛けた。
「おれはだめだ。頭が悪い。そういう、全体を見てうまく立ち回るってことが出来な
いのさ。それでしくじった。
もう次はねえ。だったら、今までやってきたやり方でいくさ」
「違うでしょう、今までのやり方でダメだったんなら、変えないと、変わらないと生
きていけないんじゃないですか」
フーゴの声は震えていた。
「あァ、そうだな」と、自嘲するように男は笑った。
「だが、ひとに教えて貰った裏技で合格ってのも、男として情けないじゃあねぇか。
言われたのは、明日、同じ時間まで火を消さないでおくこと、これだけだぜ？ だっ
たら火を消さないでおくことに全力を尽くすぜ、おれは」
……だめだ、このての人間は、一度決めたらどんなに説明しても動かない。
フーゴは、溜め息を吐いて、男から少し距離を取って、しかし、十分眼の届くとこ
ろへ腰を下ろした。
「ブチャラティ、一応今夜も泊まるように言ってませんでした？」
気にしてましたよ、あんたのことを、とは口が裂けても言わない。
あのひとの代わりに、様子を見に来たんですとも。
「ああ、だが、これはおれの試験だから、厄介掛けられないと思って……火が消える
とやばいことが起きるなら、なおさら、な」
「ずっとここにいる気ですか！？」
「夏の間は結構この辺で夜明かししたな」と、あっさり言う。ずいぶん荒れた生活だっ
たようだ。自分はわりにはやくに父の知人経由で組織に預けられた。ナランチャを拾っ
たときも思ったが、幸運だったのだなと身に沁みて思う。
「いいときに拾われましたねえ」
これから冬に向かう。野宿には辛い季節だ。
「ああ、今日は風がなくて良かった」
かみあってない会話になっていることを理解しているのだろうか。
結局男は一晩じゅう火を守り抜き、フーゴも遠慮なくうたた寝しつつ、ときどきか
みあわない会話をして男が眠り込んでしまわないよう付き合った。
「あのひとは……いつもこんな風に男を拾っているのか？」
「そんなことはない！ ……のかな？ とりあえずうちのチームにはぼくが拾ったヤ
ツがいるけど、あのひとが拾った人間はいません。
もともとうちのチームは、あのひと、ブチャラティがぼくと組んでやるよう上から
指示されてできたんで。上から回されたメンバーは２，３人いたけど、すぐよそへ回っ
たり、『いなくなったり』で。今は３人です」
「３人？」
「市街のこっち側の決められたシマの面倒を見るだけだから、そんなに人間はいらな
いんです。こっちは平和な街だし。ブチャラティは優しいけど締めるところは締める
ひとだから、みんなに頼りにされてますし」
「そうか」
「普通に家出娘とか、親父さんとケンカしちゃった若いのとかはよく拾ってきますけ
ど、２，３日で片付くところへ片付けてしまうし」それはぼくも人のことは言えない
し、と、フーゴは内心付け加える。
「あ、犬や猫はしょっちゅう。サルや生きてる鴨、エビが逃げたってのもあったかな？」
と、思い出し笑いをする顔は年令相応だ。
「ホントにもう、『ブチャラティ何とかしてくれ』の一言で。街の何でも屋」
ラララレーラ、とフィガロのアリアを口ずさんで、育ちの良いところを見せる。理
解して唇を緩めて見せたところを見ると、この男もある程度の育ちはしてきたらしい。
「あんたは？ そんな年で、ファミリーのお坊ちゃんが、将来の為に修行でもしてる
のか？」
腕が疲れはしないのか、男はライターを握りしめたまま、低い声で尋ねてくる。
「お坊ちゃん？ そんな」と、フーゴは自嘲の笑みを浮かべる。
「親に預けられたというのは合ってますね。不祥事を起こして、家にいられなくなっ
たんですよ。どうにも暴力沙汰が絶えなくて、たらい回しの末、ここまで。ちょっと、
人に言えない特技もあって」
おっと、しゃべりすぎ。フーゴは気を引き締めて、寝たふりをしてやり過ごす。
「不祥事なら、おれもさ……人間、堕ちるときは一気だよな」
そう。一族の期待の星だったフーゴは、一気に恥ずべき鼻つまみ者になった。
「あのひとも、苦労してますから、そういうひとには優しいですよ」
つい、言葉を返してしまって、フーゴはまた余計なことをしゃべりはじめた。
「丁度上のひとが死んで、空きがあったのもありましたけど、いくらまじめにつとめ
てたからって、どう見ても女学生のあのひとと、中学生のぼくですから、最初は随分
舐められて。面白くない思いもしたと思いますよ。いやらしいこと、言われたりとか
はしょっちゅうで。あのひと、結構綺麗だと思いません？ それなのに、女らしい格
好、全然しなくなっちゃって。
おかげでずるい駆け引きとか、悪辣な引っかけとか、随分上手になりました。ええ
もう、見かけによらないでしょ？ 血を見るのも慣れっこですよ。おや、ぶるってるん
ですか？
でも、いまさらかたぎには戻れないし。この世界で食っていくしかないんですから。
せいぜい脚を掬われないようにしないとね。
だから、使える仲間が増えるのはいいことなんですよ。こっちにとっても。あんた
みたいな、大人は大歓迎です。荒事に向いてるひとはね。あのひとの横に立って、に
らみを利かせてくださいよ。ぼくやナランチャじゃだめなんだ。いざとなったらのこ
とじゃなくて、日頃、かたぎさんやちんぴら連中に舐められない程度のことだから。
せいぜいがんばって合格してください。せっかくチャンスを貰ったんだから」
そんなに入れ込まず、しかし、見捨てもしない絶妙の距離感で。それが、彼の大切
なひとへの礼儀だと思ったので。恋までいかない、しかし、とても優しい、大切な感
情を抱いていた女性への。
「こういうひとってどれだけいるんでしょうねえ。まさか本当にやり遂げてしまうなん
て」
朝日が高く昇ってしまって、とりあえず朝食を採らせるためにバールに案内しなが
らフーゴは呆れた。
「さあ。とりあえずはあと少し、刑務所まで保てばいいみてぇだな」と、男は店にか
かった時計を気にし始める。
「それで、火が消えたら何が出るって？」
「悪魔が出て、矢をあんたに刺すんです。それで、なんていうか、矢に選ばれると合
格だったんですが」
残念ながら、その可能性は男が自分で捨ててしまった。まあ、選ばれなかったら死
ぬわけだから、それが良かったのかも知れない。
あ。
別に、助けてやらないで、強引に火を消して、ポルポの矢の洗礼を受けさせれば良
かったんじゃないか。それで死んでしまえばおしまい。これ以上、男はブチャラティ
に近づくことはない。
そういう、黒い作為の選択肢が自分の中になかったことを、フーゴは参謀の端くれ
として一瞬ひどく恥じた。しかし、あのやさしいネアポリスの守護女神の側に立つ者
として、それはそれでいいのではないかという判断もすぐに立ち上がってきた。
……いや、でも、みんながお人好しになってしまったらやばいぞ。やっぱりだれか
が冷静で冷たくて汚い計算をしていないと。チームとしては危険だ……。
「パンパカパーンと祝われるのか？ くだらねぇ」
鼻を鳴らして見せたこの男なら、大人の汚い考え方をする役割を担ってくれるだろ
うか。
「違いますよ。選ばれた人には、特別な能力が芽生えます。その能力で、悪魔を倒せ
たら、それでオーケー。その能力で、組織に貢献して貰います」
「倒せなかったら？」
「死んで終わりです」
「オイオイ！」
「確率については、ぼくはデータを貰ってないのでなんとも。とりあえず、ブチャラ
ティもナランチャもぼくも、それで組織には雇って貰ってるんで」
「おれにもその能力がないと困る訳か」
「困るのはあんたで、ぼくじゃありません。選んだのはあんたです」
「ちゃんと説明しろよ……」
少し困った様子で、男は手を目の前にかざして天を仰いだ。
「どんな立派な能力なんだ？ おれだって銃なら結構使えるが。あんたみたいなボー
ヤがって、帳簿の方か？ パソコンか？」
「もっと、その、超自然的な。スタンドって言います……こういう、人形が出ます……
見えると合格なんですけどね、見えないでしょう？」と、話の流れでつい、自分の分
身を背後に呼び出して見せた。
「……あァ？」
男は、端正な顔の眉を寄せた。
「嘘じゃないんです。騒がないで下さいよ、お願いしますから……」と、フーゴは声
をひそめる。
「そういう人形が出せればいいのか？」
「芸のある人形なら。ぼくのは大して役に立ちません。暴れるときは大変な被害が出
ますけど」と、フーゴは気づかずに話を続けてしまう。
「どんな芸ならいいんだ？」と、男の声も低くなる。
「何人殺せればいい？」
随分はっきりと言ったものだ。
「それは上が判断します。適材適所で。必ずしも戦闘や殺人向きでなくても。それこ
そ、帳簿やハッキングに向いているならそちらで働いて貰うことも……？」と返しな
がら、ふと彼の傍らに眼をやったフーゴの顔が驚愕に固まる。そこには、薄青い「人
形」が形を取り始めていた。
「調べ物なら、得意かな？」
微かに唇をゆがめて、笑みを作ろうとしている。彼の「人形」の額のカウンターが、
恐ろしい勢いで数を刻み、それが止まると、鏡で見慣れた美少年の姿に形を変えはじ
めた。
「いいライターですね」と、無邪気そうに近づいて、ジャケットの裾をはたいたり、
隙を見て息を吹きかけたりして、火を消そうとする自分の姿に。
「あんた……生まれつきの能力者か！？」
完全に、虚を突かれてフーゴは叫んでいた。
「大きな声出すなよ。ま、あのオッサンにあったのは昨日が初めてかな」
余裕を取り戻して、男は顎を上げて笑っていた。
「初めてあいましたよ……それを最初から出して見せてれば一発だったのに」
「そんなうまい話があるかよ。他のヤツに見えるもんだとは思わなかったな」
「ああ、生まれつきだとそうでしょうね……ケンカの役には立たないんですか？」
「おれが自分で殴った方が早いかな？ 試験勉強の時には役に立ったけどな」
実際の試験中には使わなかったのだろうか。使わない性格だろうな、と、一晩話し
てみて、なんとなくフーゴはそう思った。ガンコで、変なところが真面目。
あのひとには、こういう男が似合いかも知れない。
「じゃあ、ライターを返しに行って、ついでに、こういう隠し芸もありますって言っ
て見せてやれば、万々歳だと思います。
ブチャラティも喜びますよ」
最後の一言は、胸に痛みを感じずに言えた。
「時間だ。じゃあ、行ってくる」
男は、晴れ晴れと立ち上がった。そして、背を向けてから、また向き直って言って
くる。
「おい、あんた、世話になったな。なんて名だ？ おれは、レオーネ・アバッキオ」
「パンナコッタ・フーゴです」
「なぁ〜かたぎさんっていいよなぁ〜。ひとり巻き沿いで死んだだけであんだけ暴れ
てそんでやらせてもらえんの？ いいなぁ〜。フーゴお前の試験の時は何人やっちまっ
たんだっけ？ そんで一ヶ月ほど何も食えなかったってのに、頭撫でて貰っただけだっ
け？ ずりぃよなぁ〜」
ナランチャは絶妙のタイミングで失言をしてくれる。第一級のトラウマを二人分ジャ
ストミートしてくれて、さすがのブチャラティもどちらを先にフォローしたものか、
動きに困った。
「あァ、ナルホド。そんでいろいろ最初は絡んでくれた訳か、フーゴ先輩よォ」
とりあえず、年の功でアバッキオがあっさり流した。
「だよなぁ〜。ブチャラティは初恋の人だもんな〜」と、なおも空気を読まずにナラン
チャはピッツァをむさぼりつつ垂れ流す。
……こいつはお脳が不自由なんだ。お脳が悪い人間に心の底を洗いざらいしゃべっ
ちゃったぼくが悪い、ぼくの責任だ、ぼくは……１３を開平するとまず３が立って余
りが４、それに上から１００を下ろしてきて４００にして、３はもう一度３を足して
６０台の数にしてそれで二乗して４００に近くするなら６が立つ……
フーゴはれいの罵倒語を必死で噛み殺しつつ、なにやら複雑な計算を頭の中でする
ことで怒りを堪えているらしい。
「おや、そうだったのか、悪かったな。こっちもいろいろ余裕がなくて」と、ブチャ
ラティはすぐに体勢を立て直して聖母の微笑みを浮かべた。
「いえ、別に。『みたいなもん』ですからね。ぼくだってこれでもいろいろあったん
ですから」と、フーゴの方もとっさに体裁を取り繕う。
「そうそう、天才はいろいろ早熟だって言うからな、いろいろ」と、フォローになっ
てるんだかなってないんだか、多分に意趣返しも入っているだろう複雑な台詞をアバッ
キオが吐く。
「ふむ。わたしも最初は１２のときだしなあ。もう真っ黒だな」と、ブチャラティは
自分の両手を見て呟く。
「く、黒ってお前！ 黒くないだろう！ 断じて黒くないぞ！」
「やめてくださいよ、お昼っから！」
二人が赤面して叫びだして、ブチャラティは意味が解らない、と頭を一振りする。
ナランチャに至っては耳に入ってもいない。
「ブチャラティはかたぎには優しいんです！ ちゃんとしたマフィアならかたぎには
迷惑を掛けないものなんです！ ナランチャ、きみだって学校へ行けって叱られてべ
そかいたでしょうッ！」
切り口上にフーゴが叫んで、午後のミーティングはムリヤリに脱線を終わろうとし
た。
だが、参謀の気も知らないでブチャラティは真面目な顔で言う。
「さっきの件だが、未成年を相手にそういうフォローはやっぱりまずいだろう。当時
は二人でチームを立ち上げようって時期だし。抜き差しならない関係になってはやば
いじゃないか」
じゃあ、今なら割り切ったつきあいだというのだろうか。
とりあえず、１９になっていて良かったとアバッキオは思うことにした。
「この先チームのメンバーも増えていこうってのに、やりたい盛りを相手にいちいち
そんなフォローをしていたら、こっちの身が保たない」
……ブチャラティ、あんたはもうしゃべらないで……。
フーゴとアバッキオは同じ台詞を口の中に噛み殺した。
「ああそれから、ポルポさんにお願いしていた彼の件だが、うまくもみ消してもらえ
た。来週こっちに挨拶に来る。スタンドも無事でたそうだ。拳銃使いだそうだよ」と、
リーダーは新規加入メンバーの話に戻る。
「ああ、正当防衛で３人殺ったって彼ですか。使い物になりますかね？」
参謀の顔にすぐに戻ってフーゴが応じる。
「なんだか眼が据わってしまってた感じだったな。一本切れてしまってるかも知れな
い。まあ、しばらくは近くで監視しながらになるかな？」と、自ら網を張ってスカウ
トを決めた人材についてだから、ブチャラティも少し昂奮している。
正当防衛で３人殺して刑務所送りになるところをスカウトされた素人（ほぼちんぴ
ら）の少年。
射撃の才能は折り紙付。既にスタンドが発現して、眼が据わってしまっているって。
アバッキオとフーゴは黙って剣呑な視線を交わし合った。
「１７って、未成年かなあ……」
「……とりあえず、ブチャラティは面食いですから」
「そりゃどうも。年下趣味はあるんじゃないのかな？」
「どうでしょうね……？ やさしいひとですから」
やってきたミスタが噂になるほどの男前でなく、特に心にダメージも受けておらず、
ふつーに女の子らしい女の子を口説くのが好きな陽気な男だとわかって、胸をなで下
ろした二人だった。
「だから４はだめだっつったろッ！」
ただひとつ、妙なジンクスを持っている以外は。