リヴァース
その朝（１３）
アバッキオ女体化ヴァージョン
その日、あたしの全ては終わった。
身から出たサビ。
あたしが賄賂をとっていたあの男が、強盗を働いて、あたしはそれを見逃すことを求め
られ、躊躇した隙に、先輩のスフォルツァさんが撃たれた。あたしを庇って。
ネアポリス市警に女性警官として奉職したあたしは、１年と持たずに無職になった。
その日から、あたしは自分の記憶に責め続けられている。目を閉じれば、脳裏に、目を
開ければ、暴走したあたしのスタンドに。あの日の光景が、エンドレスで再生される。
酒に強い体質なのが災いして。
飲んでも、飲んでも、意識が乱れない。無限の再生は終わらない。もっと強い酒を、もっ
と激しい快楽を、もっと深い眠りを。
お堅い優等生、警官になるために産まれてきた女。そんな今までのレオナ・アバッキオ
は、粉々に砕けて消えてしまった。今は、酒場を這いずり回り、一夜の相手を探し、朝に
は死にたいほどの自己嫌悪を抱えて目覚める日々だった。
制服を脱いで、はじめて、「氷の人形」とあだ名された自分に男達がどのような目を向
けていたかを思い知った。
どうにでも、すればいい。
ふつうの女の身には恥辱でも、もはやあたしにはどうでもよい。そんなことを言い立て
る権利もない身の上と思い定め、ただ、はやくお迎えが来て、この泥にまみれた生を終わ
らせてくれることを望んでいた。
「ねえさん、楽になれるクスリ、あるよ？」
作り笑いをした男が寄ってくる。もっとも危険な誘惑だ。その声に、耳を傾けたら、お
しまい。永遠にそれなしにいられなくなり、体を売って生きることになる。
……それもいいか。
ちょっと、量を間違えたことにして、一瞬の最高の快楽の中に終わらせてしまおうか。
「注射は怖いんだ」
冗談に紛らわせてみる。
「今は吸引もあるよ」と、白い粉の袋を見せたところで、その男がかき消えた。
「困るな、ここでは麻薬は売ってもらっちゃ困るんだ」
白地のスーツを着こなしたボブの若い男が、歯を見せてたっていた。
「別に、本気でクスリをもらおうと思ってたわけじゃないよ」
あたしは、かぶりを振って後ろに下がった。どこに行ったのだろう？ 足音もさせずに
売人は消えた。
「最近ここで誘ってるだろ？ 苦情が来てる。あんたみたいなきれいなアマチュアにお商
売されると、おれたちにお金払って立ってるプロが困るんだ」
「おれたち」。この場を仕切るギャングらしい。
「あたし……商売なんて、してるつもりは……泊まるところさえあればいいんで」
娼婦に間違われるところにまで堕ちたらしい。
家賃を滞納して、フラットは追い出された。トランク一つの荷物を駅に預けて、その日
暮らし。そろそろ夜は冷え込むというのに、あたしはサマードレスを着たきりだ。
「泊まるところがあればいいんだな？」
あたしの手を引いて、男は歩き出した。
あたしより、少し背は低い。前髪から少しずつ取って編み込んだ頭頂部が見下ろせる。
「クスリには手を出さない方がいい」
低い声で、言ってきた。
「解ってるッ」
ギャングのくせに。この町でも、クスリの流通が増えてきたって、仕事をしていた頃に
聞いたのに。この男は、なぜだか麻薬に対する嫌悪を隠さずに言いはなった。
「ここがおれのうちだ」
そう新しくも、高級でもないフラットの一室に連れ込んで、男は言った。
きれいに片付いた部屋。わりに几帳面な性格のようだ。ギャングのくせに。
「じゃあ、はじめようか？」
あたしの掛けた声に振り返った男があまりに若くて、きれいな顔をしてるのにあたしは
ちょっとぶるった。
哀しい目をしてた。
そんな顔をされるほど、あたしはひどい格好なのかと思い知らされた。
「シャワーだけ、使わして貰える？」
黙って案内されたバスルームで、あたしはバスタブに坐り込んで、頭からお湯を浴び続け
た。あんただって、あたしのからだが目当てでここへ連れてきたくせに。顔立ちだけはき
れいだけど、ニコリともしない、冗談も通じない、氷の人形（バンボーラ・デル・ギアッ
チョ）。今も同じ。あんたたちはあたしのからだを好きなように弄べばいい。あたしは目
を開けたまま、あんたたちがする浅ましい行いを、全部見届けてやる。いっさい感情を動
かされたりしないで……。それがあたしの、最後のプライド。心までなくしたあたしは、
人形になりきる。
お湯が溜まってきた。
何日お湯を使ってなかっただろう。信じられない。きれい好きだったあたし。短く整え
ていた髪が、もう、肩に落ちかかってる。脂じみて。ああ、いやだ、少し待たせても洗っ
てしまおう。シャンプーを借りて……手が、伸ばせない……ああ、疲れてたんだあたし、
なんだか、眠い……。
目が覚めたら、まだ薄暗かった。なんだか一枚、シャツを羽織ってた。それだけ。ベッ
ドの上、あたしの横には、昨日の男。あのまま眠ってしまったようだけど、男はあんまり
無茶はやらなかったようだ、とくに痛むところはない。……どころか。つい、自分の子供
の頃からの秘密の友人を呼び出して、昨夜のあたしを再生させる。薄青い人形が、額のカ
ウンターを逆回しにして、すぐさまあたしの形を取る。
……うわ、お姫様抱っこだ。
バスタオルを巻かれたあたしが運ばれてくる。あたしのこと抱き上げられるなんて、細っ
こいけど力はあるんだわ。身長相応に、体重もあるんだから、あたし。堅太りだし。ベッ
ドに横たえられる。ここから始まるはずの自分の痴態は、まだ慣れられないけど、自業自
得だから目を据えて見ることにしている。この性格がいけないのかも知れない。
「……レオナ」
小さい声で、呼ばれた。この男に名乗ったっけ？ どうしてあたしの名を知ってる？
頬を微かに叩いた様子。少し肌の表面がへこみ、髪がひと束引かれた。
「せっかく拾ったのに。……寝るなよ」
情けない、小さな声のあとは、タオルを引かれた。頭から順番に、優しく水気をとって
ゆく。胸も背中も、とくにいやらしい動きは見せずにぬぐっていった。下半身も。ぐった
りと力を失ったあたしの体は、シャツの袖に手を通させられて、そのあと、横たえられた。
打ち合わせのところをすこしめくって、左の胸だけが露出させられた。
ああ、おとといだか。そこに噛みついた男が居たのだった。あたしがあまりにも無反応
だと言って。歯形が薄く残っていた。
タメイキ。
歯形に添って、肉が少し沈んだ。なぞったらしい。
ボタンがかかって、あたしの体は毛布にくるまれた。
髪が梳かれている。手櫛だろう。引っ張られて房に分かれる髪の間隔が大きい。
「レオナ、レオナ、こんなになるなんて……」
頬がすこしだけ、たぶん唇の形にへこんだ。
あたしの脇の毛布がめくられて、男はそこに潜り込んだらしかった。
あたしのムーディ・ブルースは、そこで動かなくなった。
「バッカじゃないの？」
あたしは人形を消して、傍らでまだ寝息を立てている男を見下ろした。まだ夜が明けき
るには時間がある。だったら、夜やることをやる間もあるだろう……。あたしは、男の襟
元に、手を差し入れた。
「ん……？」
男のからだが目覚め始めた……。
（あんまり暗れえから方向転換するぜ。）
寝室から物音がするのでブチャラティは耳を澄ませた。ベッドのきしむ音、微かな人声、
からだの触れあう生々しい音……。ドアを開けると、そこには、もう１人の自分がいた……。
たった一人で、空間を相手に無様な動きを曝している。
「なんだ……これは？」
その声に、無表情にそれを見据えていたアバッキオの目が、ブチャラティを捉える。
「見えるのか？」
「見える……？ これは、スタンドなのか？」
ふと思い当たって、ブチャラティはアバッキオに問いただした。
「スタンド？」
生まれつきの能力者なら、この名に思い当たることはないのだが。
「こういうものだ……超能力の一種らしい」と、自らのスタンドを呼び出して、ドアを殴っ
て見せる。ジッパーを引いて、リヴィング側への通路を開ける。リヴィングは南側で日当
たりがいい。細い光がすき間から一筋差し込んだ。と、心の乱れから、再生が飛んだ。聞
き苦しい言葉を口走りながら、体を揺すり上げてアバッキオを責める見ず知らずの男の姿。
それは、一定せず、時折逆転再生も交えながら、不規則に姿を変える……。ついには、そ
の本体が一番見たくない姿になる。
「アバッキオ、見逃してくれるな？ おれが捕まると、おまえが賄賂を取ってたこともば
れるんだぜ……？」
アバッキオが青ざめ、ぶるぶると震え出す。
「あんたはそういう趣味なのか？」
とぼけた顔で、ブチャラティは尋ねた。
「違う！ 今、制御できないんだ。１人で居ると、どんどん再生が始まってしまう……止
められないんだ。見たくないのに、もう見たくないのに！」
頭を抱えて、アバッキオは身をすくませた。涙が溢れて、頬を伝っている。
「それで荒れていたのか……それは、辛いな」
ブチャラティは、近づくと、泣く女を抱きしめた。彼にとっては、それは、ただの、今
泣いている憧れていた女だった。
「でも、スタンドがあるなら、力になってやれる。おれのところへ来るんだ。悪いように
はしない」
抱きしめて、耳に囁いてやった。
「ただ、うちには年頃の子供がいろいろいるから、できれば再生は一人きりの時だけにし
てくれ」
「それで、拾っちゃったんですか？」
フーゴがカウチに図々しく寝そべっている新入りを見やって言った。
「……ああ、まあ、そういうことだ。生まれつきのスタンド能力者みたいで。ポルポさん
の試験も通ったみたいだ」
「へえ。それはよかったですね」
「良かった……のかな？ ……口を利いてくれないんだが」
「……面倒はあんたが見てくださいよ」
うわーこれは立派な野良猫、というか雌ライオン。ブチャラティに飼い慣らせるかなー
とフーゴは首をすくめた。
「やっぱり手を出すべきじゃなかったのかな……」
「手！？ 出したんですかあんた！？」
「だって、ずっと憧れてた女が裸でのしかかってきて！ ふつう反応するだろ……」と、
しどろもどろの弁明は、右ストレート一発で中断された。見事な腕力を見せつけた雌ライ
オンは真っ赤に頬を染めてもうカウチに戻っている。
「とりあえず、戦力としては期待できそうですね」
フーゴはスルー能力を身につけた。
「そのコートドレス、きれいなんだが、……その、胸元、もう少し控えめにならないかな？」
金をもらって服を調えてきたアバッキオにブチャラティが遠慮気味に言った。
「もう少し動きやすい格好したらどうですか？ 本気でお商売始める気じゃないでしょう
ね？」
フーゴが辛辣に言い添える。アバッキオの眉がつり上がった……。
「下はとりあえずスパッツかなんか穿いてくださいね。見せるんならもう少し色気のある
やつ穿いたらどうなんです」
「……マセガキッ！」
膝蹴りを鼻に食らって鼻血を出したフーゴと、シャープペンシルの先で胸元をへそまで
切り開かれてドレスの前を押さえたアバッキオはブチャラティとナランチャに引き分けら
れた。
とりあえずアバッキオは賄いからさせられている。
「意外と食えますね」と、フーゴが目を瞬いた。
「うめーよ」
ナランチャは素直だ。
「美味しいよ」
ブチャラティは笑顔を見せた。
「……悪くないんじゃないですか？」
食事を進めるうちに、フーゴが渋々認めた。
「だからうまいって」
ナランチャは肯く。
「うん、最高だね」
ブチャラティも屈託ない。
「外で食べる気がなくなりますね」
フーゴが満足した。珍しいことだ。
「あーもーおれ食えねえ！」
ナランチャは幸せそうだ。
「幸せもんだなおれは」
笑顔を向けられて、突っ立っていたアバッキオは少し頬を染めて顔を背けた。
「フーゴ、その、また怒らせてしまったみたいなんだが……」
ブチャラティが、途方に暮れた顔で参謀を頼る。
「また余計なことを言ったとか？」
「プレゼントが気に入らなかったらしい」
「そんなもの、買わなくたっていいでしょうッ」
「だって、笑う顔が見たいじゃないか」
「ぼくは別に見たくありませんッ……なにを買ったんです？」と、フーゴは根負けして聞
いてやる。
「指輪なんだが……早かったかな？ でも、ピアスはしないし、イヤリングは落すから、
指輪ならいいかと……」
「サイズ確かめましたか？ 指輪はやっぱり本人連れて行かないと」
「サイズ……ああ、それで入らなかったのか。子供用のを間違えて買ったのかと」
「あのひと堅太りですから。普通に売ってる指輪だとサイズが小さかったでしょうね。で
も、普通サイズが入らないってのは女にとっては傷つくことでしょうからね……って、やっ
ぱり傷つくのか、あのひとでも」
「堅太りって……グラマーと言うんだよ。あんなにきれいな手をしてても普通より太いの
か？」
「器用に動くことは認めますけど、きれいじゃないですよ、あのひとの手は」ジュードー
とかもやってたようだし。握力などはハンパでない。これは、顔に騙されておるな、とフー
ゴは結論づけた。
「ブチャラティ、ライオンを拾ったんだってな？」と、顔見知りのバールの店主が声を掛
けてきた。
「ああ……」と、顔になんともいえない笑みが広がる。
「夏じゅうあっちで立ちんぼしてたってんだろ？ 大丈夫か？」と、声をひそめて。
「立ちんぼじゃあない……ちょっと、荒れてたらしいが」
ブチャラティは恋人の名誉のために、いちいち訂正して回っている。
「顔はきれいだが、てんでおもしろみのない女だってな。棒きれみてえだって」
「そんなことねえよ。すっごく乱れる。そんで、朝になると恥ずかしがってふて腐れ」
途中まで言いかけたところで、ブチャラティは顔を朱に染めたその恋人の蹴りを食らっ
て吹っ飛んだ。
「いい気になるなよ、小僧」と、雌ライオンはジョルノにも新人いびり。
（うわぁ〜アバ茶どうするよ、保留）
「ブチャラティ、あんたのペット、欲求不満みたいですけど。ちゃんと相手してやってま
す？」と、れーせーに、ジョルノはスルー。
……うわ、おまえが言うかよ。
……ナランチャ、相手しちゃいけません。
いろいろあって、サン・ジョルジュ・マジョーレ島の船着き場。
「あたしが心安らげる場所はあんたの側だけだ！」
「はじめてレオナがデレてくれたぁ〜！」と、ブチャラティ涙目。
「懐くな！ うっとおしい！」
「レオナ、この世の思い出にもう一回だけ！」
「触んな！ 手ェ冷たいんだよ！」
「幸せそうですね」と、ジョルノは相手にしなかった。
＜０４−０３−０９＞
蛇足。
アバッキオを女体化してみたら、悲惨すぎてお話にならなかった。
男の時にはスルーできたどん底生活が、もう、リアルになって……１８禁。
その分、「笑わぬ情人」のときにうまくアプローチ出来なかった拾われた側の心境に近
づけるかと思ったんだけど。無理。
あとは、サルディニア島でブチャがアバッキオを１人にした理由を、自分の死が確定し
たので、アバッキオを１人この世に残していけないと思ったブチャラティの深層としたファン
サイトの考察があったので。
「虞や虞や汝をいかんせん」の項羽の心境であったのかと。
だったら、ここはアバッキオ女のコヴァージョンの方がクるよね。自分の身を守れない
スタンドなんだし、と。
しかし、体の大きさといい、腕っ節記述といい、誰でも女体化できるもんじゃないんだ
な（当然です）。とりあえず、わたし的にはブチャ女体化は○でもアバ女体化は微妙だっ
た。ま、自分よりでっかくて強い女の子が心身ともに傷ついてるってのも萌えポイントか
も知れんが。（パラレル学園もの「スクールデイズ」にいたる）
とりあえず女体化アバッキオのスペック。
レオナ・アバッキオ
警官になるために産まれてきた女。志村みずえ警部補＠翔んでる警視みたいな。
幼少時から柔道も習っていて、格闘は市の女性警官では敵なし。
堅い性格と美貌から、あだ名は氷の人形。
もちろん男性経験なし（退職時まで）。
堕ちてからはもう悲惨。退職の前後に緑子＠「Ｒｉｋｏ ヴィーナスの永遠」みたいな
こと（もと同僚による輪姦。あれもひでえ話）があったかも。立ちんぼ（街娼）扱いされてるし。
ツンデレ！ グラマー！！！ ドイツ系の裏設定爆発！ コートドレスの胸元！ 胸元！
ドレスの下は生足！ 生足！ ヤクザキックはじつはパンチラ！（フーゴの忠告聞かず）
（おまえこれがやりたかっただけちゃうかと）
堕ちている間は心が死んでいたので感じなかった。ブチャラティの真心で「目覚め」て、
快楽を知る（が本人は認めない）。
料理はうちで仕込まれていたので普通に得意。イタリアの普通のマンマのつくる御飯系。
フーゴは家を出されて以来久し振りに満足いける味に出会ったと思っている（言わない
けど）。じつは胃袋を掴んでおるのでフーゴは最終的には味方。
フーゴとはケンカ友達。ナランチャとはじゃれ合い。ミスタ（未登場）とは未定。
氷の人形のエキサイト翻訳
Una bambola del ghiaccio