プラネット
リヴァース・モードの生還篇２
警告！ ここから先は１８禁！
例によってご案内申し上げます。
アバッキオが女だったらどうよというリヴァース・モード、原作通りにブチャラティが
天に召されてしまった後、アバッキオが生き返ったらどうよとやったのが生還篇なんです
が、やりたい盛りの少年２人に文字通りもみくちゃにされて……アバッキオねーちゃん嬉
しい悲鳴。爽やか鬼畜なジョルノ様がフーゴの純情をおもちゃにすると……ほんとすいま
せん。今回生々しいシーンは無いような気がしますが、なまなましい事件はあります。純
情派のかたはブラウザ・バックでお願いします。
１
医務室のドアが開くと、飛び込んできたのはフーゴの拳だった。
「ミスタッ！ この色ボケの無責任男がッ！
だれがきみに独自判断を認めましたッ！？」
次には容赦ない怒号が。
フーゴがいつか言っていた、音と光とでは光の方が段違いに早い、だからジャポネの弾
丸列車「シンカンセン」は、最初、いちばん速い列車の愛称を「ひかり」、それよりやや
遅れる各駅停車のものを「こだま」といったんです……。
自分のミスを自覚していたグイド・ミスタはその両方を逃げずに受け止めた。
「いやーだってねーちゃんならあれくらいの仕事、１人で大丈夫だと思って」
口は例によって言い訳をひねり出していたが。
「１年も押し込められて運動不足なんですよッ！？ そうでなくてもいろいろ鈍（なま）っ
てるにきまってるでしょッ！」
一言に数十倍の言葉が返ってくる。無謀としか言いようがなかった。
「やめろ、フーゴ。ドメニコくんが怯えてる。あたしは大丈夫だ」
低い声が遮った。それで、フーゴは理性を取り戻した。
「あんたの無事を真っ先に確かめるべきでした。失礼しました。
それでアバッキオ、……ボスにお任せしましょうか？」
「ロレンツォ医師（せんせい）が診てくれるから大丈夫だろ」と、プラチナ・ブロンドの
美女は、傍らで看護師に指示している前髪の後退しきった初老の医師を顎で示して言った。
たしかに、これはハサミで切った方が速い。血に染まったスーツの上から、同行者の惑
乱をそのまま示すようにありったけのタオルやバンダナの類がぐるぐる巻きにされていた。
アバッキオは見た目の出血の割りに、理性をしっかり保っているようだった。派手な出
血に取り乱しているのは、男達の方。
「ミスタ、ペナルティはあとでボスから下されると思いますから。
ドメニコくん？ 状況説明を」
フーゴは冷たく言い捨てて、アバッキオをここまで担ぎ込んだ同行者に目を向けた。
「は、はいッ！」
部屋の隅で小さくなっていた下っ端の青年が縮み上がった。
「この度はせっかくのミスタさんの思し召しだったのにおれの不注意で大変なことになっ
てしまって申し訳ないと……はい」
「そういうのは時間の無駄ですから。事実を、できるだけ簡潔に」
フーゴが立ったままに遮った。下っ端は床に跪かせている。年齢が逆転しているのだ、
せめて目線だけでも大きく差をつける。頭でっかちの少年たちの支配する組織は、いろい
ろ細かい。
「今日の調査は、フーゴさんのご指示と聞いています。なんでもアバッキオの姐さんでし
かできない……過去見の調査だそうで。ボディガードとしてミスタさんが付いていくとい
うことだったそうですが、その、ミスタさんが外せない用事がおありになるそうで、おれ
にチャンスを下すって……その、姐さんもかなり使えるほうだから、そんなに気をつける
こともないって」
「そういうふうにだまくらかされて勝手に重要な任務に付いていったと？」
フーゴの碧い瞳が氷の冷たさをたたえて見下ろした。
「……そうです」
哀れな下っ端は年下の少年に見据えられて震えている。ただの少年ではない。イタリア
全土を恐怖で支配するパッショーネの、最高幹部の１人だ。ボード・ゲームでも、「ビジ
ネス」の戦略でも、唯一ボスと差しでやり合える天才参謀と言われている。気の短さと恐
るべき必殺の超能力でも恐れられている。いちど組織の最高会議が内紛で恐慌に陥ったと
き、この線の細い少年は会議テーブルを蹴倒して議場の中央に出るなり、裏切り者を一瞬
のうちに骨にしてのけた。そして、部屋に飛び込んできた時のやりとりでもうかがい知れ
る、ボスの愛人に騎士道精神にも似た愛を捧げる育ちの良い美少年でもある。
ボスの愛人で、希少な超能力で組織に貢献するアバッキオに怪我をさせたペナルティを
考えて、ドメニコは死さえ覚悟していた。
「調査場所へは車を使って。一応気はつけていたんですが、てっきり組織がもう『掃除』
したと思ってまして。……姐さんに先に入っていただいて、おれは部屋の外で見張ってたん
ですが、……中にチンピラが入り込んでたようでして」
「チンピラというほどのこともない、ホームレスだ。あたしが油断してたんだよ」
アバッキオが口をはさんだ。眼をやって、２人はぎょっとして目を戻す。
「見るんじゃありませんッ！」
「へえッ！」
上半身の衣類を全て取り去って。ぬぐい清められた傷口は左の乳房の上、脇ギリギリだっ
た。
「れいの代理人が廃屋にブツを隠したまま死んだってんで、あたしが駆り出されたんだ。
あそこをねぐらにしてるやつがいて、ヘンなのが紛れ込んだっていってちょっかい出し
てきたんだ。こっちも『仕事』に気を取られてたからビックリして。あたしがしくじったん
だよ」
極上の美人がひとりで廃屋にやってきたのだ、それは妙な気を起こしたとしてもおかし
くない。そこに居合わせたものはチンピラの心情を一瞬で理解した。そして、アバッキオ
はスタンドで再生中は無防備になる……。ミスタを付けるのは当然の措置だった。
「シニョーラ、黙ってください。縫いますけど麻酔は？」
傷口を検めていたロレンツォ医師が冷徹に告げた。
「要らないよ」
「ドットーレ（せんせい）……」
血圧の値を見て看護師が眉を顰める。良く意識がある、と言いたげだ。
「輸血したほうがいいかな、きみ、赤十字に電話」
医師は次々と指示を出す。
「ねーちゃんに輸血なら志願者が組織からいくらでも出るぜぇ？」
ミスタが声を掛けた。
「クスリやら病気やらやってるかもしれんやくざものの血なんか、シニョーラに入れたら
ボスに叱られますよ」
「ドットーレ、ひでーな」
ミスタが笑った。
アバッキオはベッドに移された。てきぱきと手術の支度が調えられている。
「それで、ナイフまで出してきたチンピラにこのひとが胸を斬り付けられている間、きみ
は馬鹿面を下げてドアの外で張り番をしていたんですか？」
フーゴが舌鋒鋭く問い詰めた。
「そう……ですッ。誠に申し訳ありません！」
「それで？」
「はッ……？」
「アバッキオを傷つけたチンピラの身柄は押さえてあるんですよね？」
「おい、フーゴ」
ミスタが間に入ろうとした。
「いえ、あの、急に部屋から走り出てきたので、姐さんの無事を確かめる方を優先しまし
て」
「そのまま逃がしたしたと？」
つめたい目が確認した。
「申し訳ありませんッ！」
「フーゴッ……ぐッ……しょうがないだろッ」
アバッキオの声が割り込む。ロレンツォ医師は輸血パックの到着を待たずに手術を始め
てしまったらしい、看護師達がアバッキオの身体を押さえつけて、荒っぽい縫合が行われ
ている。さすが、組織の子飼いの医師だ。
「あんたは黙って治療に専念してなさいッ」
「顔ならあたしが再生できる……慌てて身柄を押さえることはないだろ？」
「そんな些細なことにあんたの力を使うことはありませんッ」
フーゴがぴしゃりとはねつけた。
「草の根分けても探し出しますッ！ 姐さんをこんな目に遭わせた報いを受けさせますッ」
這い蹲ったままにドメニコが宣誓した。
「よろしい。ボスにはそうお伝えしておきましょう」
フーゴが冷たく決めつけて、ロレンツォ医師に向き直った。
「ドットーレ、細心の注意でお願いしますよ？ 万に一つも傷が残ったりしないように」
「まーわたしの腕では千に一つは残りますがね。その時はいい形成の医者に渡りをつけま
すから」
「ドットーレのその肝の太いところとほぼまんべんなくどの科も診てくださる実力をぼく
らは貴重に思っていますからね。こちらにも残念な未来が来ないように努力してくださる
よう期待していますよ」
「素直にオネガイしたらいいんじゃねーの？ ねーちゃんには傷が残らないよう最善を尽
くしてねって」
ミスタが話を簡単にしてみせた。
「！ ボスがいらしたようです。ぼくらは席を外しましょう」
フーゴがボスの到着の気配を聞きつけた。
「じゃ、ドメニコ、いこーか」
ミスタが下っ端の襟首を掴んで立たせた。
「はいッ、失礼しますです。姐さんゆっくり養生してくださいッ」
「ああ……済まないね」
医務室は、一瞬静まりかえった。
２
まだ高校生のボスは、威厳に乏しいというので、先代ほどではないが露出を控えている。
ある程度以上の幹部で、実際に逢って多少なりとも言葉を交わしたり、その振る舞いを
目にすることがあれば、この金髪金目の少年を侮るという気を起こすことは思いもよらな
い。ただ年を重ねたのでは絶対付いてこない底知れぬ落ち着きとか、普通の人間が世の中
を渡っていくためにつけるせこい常識のたぐいどころか、もしかしたら、自分の命さえど
うでもいいと思っているかもしれないヤバさとか、そういうものが「わかる」のがこの世
界で生き抜いてきたものの感覚だ。しかし、そういう『目』を持たない下っ端には、ジョ
ルノ・ジョバァーナは据わった目をした細っこいきれいな少年にしか見えないだろう。実
際、日頃のジョルノはそういう「もしかしたら頭が良いかもしれない大人しい少年」を装っ
ている。
この日も、ごく冷静に、かれは現れた。
「ぼくです。失礼しますよ」
手術は終わって、傷口を覆う処置が取られたあとだった。
「ああ、良かった」と、短く告げて、アバッキオの空いた右の手を軽く握って自分の唇へ
持っていったあとは、医師に向き合った。
「命に別状は？」
「ありませんな」
「全快までの時間は？」
「経過が良ければ１ヶ月ってとこです。ばい菌が入らないように。風呂はいけません。過
激な運動も止めてください。縫ってますから、患部を揉んだり触ったりしないように。あ
あ、溶ける糸使いましたから抜糸の必要はありません。抗生剤出しときますからちゃんと
飲むように」
「傷は残りますか？」
「すんごいプレッシャア掛けてくれましたからね、手元が多少狂ったとしてもほとんど残
らんでしょう。万が一の時は責任持っていい医者を紹介します」
患者がボスの愛人であることを正しく理解して質問に答えている。さすがは組織の配下
の医師だ。
「ありがとう、ロレンツォ医師（せんせい）」
「どういたしまして」
「もう動かしても？」
「もうすぐ輸血バッグが届くところです。ちょっと焦って縫合を先にしちまいましたから。
これだけの出血だ、血圧も低かった。輸血はやっといた方が良いでしょう」
「解りました」
看護師達は仕事を終えててきぱきと後片付けに入っている。と、ノックの音、かたぎの
病院からの要請をすっとばして大至急で届けられた血液パックが使いの手によって持ち込
まれる。支柱がアバッキオの脇に立てられ、赤黒い液体をたたえたパックが吊された。
「もう構いませんよ。ストレッチャーを回しましょう」
「必要ありません」
医師の目が開かれる。見た目は細身の少年であるジョルノが、大柄で豊満なアバッキオ
を軽々抱き上げていた。
「連れて行きます。ドットーレ、ありがとうございました。あとで、なにか差し入れをし
ておきましょう、お楽しみに」
「お気遣いありがとうございます」
輸血パックがふよふよと宙を飛んで、彼らの後に従った。
「あなた、フーゴの所に行ってはどうですか？」
自室にアバッキオを連れ戻ってベッドに横たわらせた後、しばらく黙り込んでいたジョ
ルノが問題発言をしたのは、張っていた気を緩めてアバッキオが眠りにつく寸前だった。
「……何だって？」
重そうに目蓋を持ち上げて、アバッキオは問い返した。
「報告を受けるなりあんなに取り乱して。ぼくを放り出してすっ飛んでいきました。彼の
方があなたを想っていると誰にも判ったことでしょう」
「フーゴがあたしに過保護なんだって……」
「それこそが、愛する相手には当然の態度なんでしょう？」
「上のものが些細なことで感情を露わにしちゃいけない……あなただって、……来てくれ
た。ここまで、誰にも任せずに運んでくれたじゃないの」
「ゴールド・エクスペリエンスに手伝ってもらいましたよ」
「それはアリでしょ……ごめ」
詫びことも最後までは言えずに、アバッキオは眠りに落ちた。その頬に手を伸ばしかけ
て、ジョルノは手を止めた。窓の側に足を向けると、黙ってしばらく外を眺めた。
しばらくしてアバッキオの意識が戻ると、ボス・ジョルノはいつもと全く同じ無表情で
参謀を呼び出し、同内容を申し伝えた。
「組織には残って貰います。このひとの能力は貴重だ」
まるで、女性としてのアバッキオには興味を失ったかのようなもの言いだ。
「あたしに飽きたんだね……」
簡単にまとめたアバッキオの声が部屋に落ちた。
「バカにするんじゃねえぞこのエロガキがッ！ 猫の仔をやりとりしようってんじゃないん
だッ！ 怪我をしたひとを追い出すなんてッ……だいたいがひとを愛するってことはどう
いうことか知りもしねえで安手のポルノみたいなことしやがって！
解ったッ！ 男が解ったッつったからには本気で貰うからなッ！ 這い蹲（つくば）っ
て頼んでも絶対返さねえッ！ 覚えとけッ！」
嵐のような怒号の後には、頬をしたたか殴られたボスの呆然とした顔。いや、その口元
は苦く笑んでいる。
「行きますよ」
右手を軽く振った後は、優しく声を掛けて、フーゴはアバッキオを抱き寄せた。
「……フーゴ？」
アバッキオは理解が付いていかない。輸血は終わっている。看護師を呼んで傷口の保護
をさせてフーゴは抱き上げた。
「大丈夫」
優しい顔を作って見せて、ドアを開けると、控えていた下っ端に低い声で告げる。
「車を回してください」
廊下をしばらく進んだ後、アバッキオが小声で言った。
「フーゴ、いいよ、自分で歩ける。下ろして」
「何言ってるんですか、靴も履いていないのに」
フーゴはいよいよ腕に力を込め、揺すり上げる。
「重いでしょ」
身長は、まだアバッキオの方が高い。……多分体重も。
「大丈夫……パープルヘイズでちょっと助けてもらってます。最近デスクワークばっかり
で鈍ってますかね？」
「ジョルノもそう言ってたよ」
微かに笑んでみせる。組織を乗っ取ってから１年半、イタリアを裏から支配していても
この少年達は、まだまだ学校に行っていておかしくない年なのだった。
「まだぼくらは、あのときのあのひとの年にすらなってません。あのひとのような懐の深
さを持てなくて、あんたのことを傷つけるばかりで済みません……」
「しょうがないだろ」
アバッキオの手が伸びて、フーゴの首筋をぽん、ぽんと叩いた。
車に乗って向かったのは、フーゴが住まいにしている高級アパート。上階で、２フロア
を使っている。その一部屋に、アバッキオを案内した。他の部屋はフーゴの貴族趣味で重
厚な雰囲気に統一されていたが、ここはカントリー調の家具でまとめられている。部屋の
雰囲気も明るい。田舎育ちのアバッキオが思わず安堵のため息をついた。
「一応客用寝室です。バスルームもありますし、鍵も中から掛かります。
身の回りのものを調達してきますから、しばらく休んでいてください。うちのものに申
しつけておきますから、薬は時間ごとにきちんと飲んでください」
素っ気なく言いおいて、フーゴは背を向けた。
「フーゴ」
「全治一ヶ月でしょ？ どうせそのうち頭を下げてきますから、あんたは治療に専念するッ。
かれが一番コドモってこと、忘れてませんよね？」
「……解った。ありがとう」
「ホントに、あんたがたは、世話の焼けるッ」
言いおいて、フーゴは部屋を後にした。
夕食の時間になって、２人は差し向かいで食事を採った。
「あんた、犬にアレルギーはありませんね？」
「ないけど？」
「一頭お迎えしようと思って。
犬はいいらしいですよ。忠実だし、可愛いし、なにより、散歩に連れ出してくれる。そ
れで、運動不足も解消して、散歩の途中で知り合いも増える。愛犬家の爽やかな好青年と
でも、恋に落ちたらいいじゃないですか」
「バッカ」
冗談でなく言っているのかも知れないが、アバッキオは頬を緩めた。
「大きい犬がいいですか？ 番犬にもなるような。このうちの規模ですとあまり大きいの
は可哀相なんですが……」
食後にカタログを見ながら、どんな犬がいいかしばらく話し込んで２人は気分転換をし
た。
「だいたいかれはイギリス人を父に持つらしいじゃないですか、成る程、人生においてな
にが重要な位置を占めるかと言うことを理解していません」
もったいをつけて言って、アバッキオの手を取ると、フーゴは言った。
そういうフーゴはフランス系入ってるんじゃなかったかな、愛がどうとか、やっかいな
ことを言い出すんじゃないかとアバッキオはちょっと身構える。
「かれはあんたのミートボールのトマト煮がイタリア１だってことを知らないんですよ！
そこがただのマセガキだって言ってるんです！ あんたと１年余りも暮していて、料理
をさせたことがなかったんですって！？」
「あ、ああそうだね」と、アバッキオはいい意味で外されて狼狽えた。
「その、今すぐとは言いませんから、そのうちに、材料はなんでも調達しますから、作っ
て貰えませんか、昔みたいに……辛いかもしれませんが」
昔、ブチャラティやナランチャが揃っていた頃のように。田舎の家庭料理だけど、と言
いながら、アバッキオは意外にも料理上手で少年達を感動させてくれた。フーゴは１７の
少年の顔で素直に甘えてきた。ただのチームの親しい年上の女性に対するように。
「ああ。昔みたいに」
アバッキオは、昔を懐かしむ顔になって肯いた。
容赦ない言葉を浴びせながら、フーゴは心の底からはアバッキオを嫌っていなかった。
大好きなリーダーに想いを真っ直ぐ返さないのをじれったく思っていただけで……？
フーゴは胸をかすめた思考を捕え損ねて一瞬怪訝そうなかおになった。
３
「とーとーやったな参謀殿。ボス、今日は大事な試験があるッてのに腫れが引かなくてぼ
やいてたぜ」
翌朝、ミスタがやってきてアバッキオに花束を捧げた。アバッキオの姐御の負傷はもう
伝わっていて、昨日から見舞いの花でフーゴの家のスタッフは応対にてんてこ舞いだ。さ
すがに溢れかえる、とまでいかないのが高級賃貸住宅の凄いところ。
今は応接室に２人になっている。フーゴの趣味の猫足の椅子に２人、それぞれ腰掛けて
いる。
「当然でしょう。ぼくになにかお咎めでも？」
フーゴは顎を挙げて言ってのけた。
「いんや」
ミスタもにんまりと笑った。
「そんなこと言って、普通の顔をして試験を受けて、普通にいい点取るんでしょうね」
ため息をついて、フーゴはかるく首を振って前髪を揺らしてみせる。
「そこんとこはな」
軽く応じておいて、ミスタはジョルノの味方をする。
「ショックだったんじゃねえの？ ボスはひとから大切にされた経験がねえ。ねーちゃん
のことも、ああいう『可愛がり方』しかできなくて、常日頃おめーにチクチク言われてた
ところへあれだろ？ 出遅れて、自分はねーちゃんを愛する資格がないとか思っちまったん
じゃね？」
「資格だなんて！ だからコドモはコドモらしくデートに誘うところから始めれば良かっ
たんです、いきなり鎖に繋いで監禁なんてことをするからッ！」
「だってコドモだもんよ？ ちょっと憧れてたきれーなねーちゃんが記憶失ってたら、ま
ずはうちに連れて帰ってどこへも行けないようにしといて、腰が抜けるまでヤりてえよ」
と、ミスタは素で言ってのけた。
「ああッ！ もうッ！」
フーゴは頭をかきむしって唸った。
「おめーはお育ちいいよ。解るよ。親も夫婦仲良かったんだろうな、男女の仲にすっげー
いいロマン持ってて、実践しようって思ってる。
でも、世の中そーゆー人間ばっかじゃねーってことよ」
ミスタが、その肩に手を置いて言った。
「そんなことでどうします？ かれはまだ１７なんですよ？ 周囲のもののせいにする暇
があったら、その間違った対人感覚を自分でなんとかしたらどうなんです？ 人生はあと
５０年もありますよ？」
フーゴは肩をひと揺すりしてそれを自然に外した。
「でもなにせマフィアのボス業忙しいしー？ あんまり世間並みに純情になられても困る
しー？ そこんとこはおれ達が骨折ってやらにゃー。年不相応な好待遇受けてるし」
「その辺は『ムシュー』にでもお願いしてくださいよ、年の功で」
「ムシュー」ポルナレフは、亀の中からボス・ジョルノの後見をしている。あの旅で寮を
抜け出して無断外泊をしたジョルノが退学になるところを、「同じく事件に巻き込まれ、
ジョルノに命を救って貰ったフランス人の富豪」として一芝居打って、命の恩人だからと
ジョルノの母にこれからの「援助」を申し出て、かれをローマの私立校に転校させた。今、
高校生のジョルノがローマで「自宅通学」をしているのはそういう事情だ。新パッショー
ネの組織はボス・ジョルノの二足のわらじを全力で支援している。もっとも、最初の１年
はさすがに行き届かず、ボスが留年しかかるという笑えない事態を招いてしまったが。そ
こは、「優秀な人材」を招いて対処したので、現在は改善されている。
「『ムシュー』は笑ってたなあ。まだ１７で人生決めんなって。もしやっぱりねーちゃん
がよくっても、預け先がフーゴの所なら安心だしってさ」
「安心って！」
フーゴは鼻で笑った。当然、アバッキオに手を出していないし、今後もそのつもりはな
い。それを見透かされたのをやや忌々しく思っているようだ。
「いいぜ、成り行きで奪っちゃっても。ボスにはいい薬だろ。だいたいおめーの方が先だっ
たんだし。年も上だし。幸せな家庭作っちまえよ。そんでお手本見せんの」
ミスタは明るくけしかけた。
「何言ってるんですか」
フーゴは立ち上がって背を向けた。
「ぼくは誰とだって、幸せな家庭を築くつもりはありませんね。……作れるわけがない」
「またーあ。なんで？ 言ったろ？ おめーが一番まともな育ちをしてるって」
「……ぼくが離反したせいで、親友と、リーダーを死なせてしまっているんですよ？ そん
な人間が、幸せになっていいと思ってるんですか？」
「まー参謀殿ったら自信過剰ッ！ あの状態でどんな策を立てれば誰が死ななかったって？」
ミスタはすぐさま言い返した。顎を挙げて、無神経なほどの明るさで。
「……済みませんッ」
押し負けて、フーゴが頭を垂れた。
「そんな気に病んでたのかよ。
しよーがねえよ。
その代わり、今おれ達はすんげー苦労してるだろ？
やつらはお空の高いところで楽してる。きっとね？
そんでいーじゃん。そう思おうぜ」
「ミスタ、きみってひとは」
涙を隠して、フーゴが笑った。
「固いこと考えてんじゃねえよ。押しも押されぬマフィアの大物幹部になって、しぶーい
爺さんになった頃に、そうだな、施設に入れるには微妙、ひとりで生きてくにも微妙って
年頃の身寄りのない美少女なんか引き取って、一緒に暮すってのどーよ？」
「聞いておきましょう。それもロマンティックでいいですね」
フーゴは少し笑った。おお、こいつの感覚解ってきたよ、とミスタも機嫌を良くする。
「ボスもね、子供でもできりゃーイッパツよ。どんな理屈捏ねても、腹がドンドン膨れて
くれば覚悟決めるっきゃねーっての。世の中巧くできてるね」
「薬を飲んでるって聞いてますよ」
「あ、あーあれね……」
ミスタはガールフレンドである組織の薬剤師のプリシラをふと思い出していた。いつも
はガードが堅いのに、先日ふと気の迷いでミスタに許した。そう言えばその時漏らした秘
密は……。
……シニョーラにお出ししてる薬、間違ってダミーばっかり８週間お詰めしちゃったの
よね。でも、大丈夫よね？ そんなにすぐ「当たった」りするもんじゃないわよね……？
ボス、そこはとっても気を遣ってらっしゃるのに、厄介なことになったりしないわよね……？
ミスタは背を軽く揺すってその言葉を聞かなかったことにした。プリシラの不安を打ち
消してやることを優先して。
「そんで、フーゴ、ねーちゃんとはもうヤった？」
ダメ元で確認だけはしておいて。
「そういう下品なところがぼくは嫌いなんですッ」
キレのいいアッパーカットを喰らわして、フーゴはミスタを部屋から追い出そうとした。
「なーそんでねーちゃんの部屋だけなんであんな雰囲気違うの？ 金足りなかったの？」
ぐいぐい背中を押されながら、ミスタは上目遣いに聞いてくる。
細かい。
フーゴは内心舌打ちした。
「……もしかしたら、ケンカとかで、あのひとをうちで引き受けることがあるかと思って
準備して置いたんですよ」と、目を逸らして小声で言った。人間、秘密を守りきることは
難しい。とくに、心を込めて作り上げたような大きな秘密は。内心暴露したくて機会を窺っ
ているのだ。趣味に反する明るい素朴な、けれど居心地の良い部屋……。
「ねーちゃんのためにか？」
かああっと赤面した顔が、肯定していた。
「ほんと、純情だよなおめー。ボスが負けを認めるわけだわ。うん、ミスタさんが許す。
ねーちゃんをこのまま貰っちまえ！」
ミスタが晴れ晴れとその背をどやしつけた。
「きみに許しを貰う必然性なんか感じません！」
真っ赤な顔のままにフーゴは絶叫していた。
４
「フーゴ、欲しいものがあるんだけど」
２，３日もして、アバッキオが済まなそうに切りだした。
「なんです？」
「音楽を掛けられるもの。ポータブルでいいんだけど。曲は……『聖母マリアの夕べの祈
り』」
「モンテヴェルディですね？ あんたいつも落ち込んだとき聴いてましたっけ」
「前のうちに置いてあったやつでいいんだけど、あれはもう処分されたみたいで」
「それはもったいなかったですね、ちまちま買い集めたＣＤがいっぱいあったのに。いい
でしょう、見繕って調達しておきますよ。アーティストは……」
「特に……誰でもいい」
「それまでは、なにかぼくのを適当に持ってきておきますから聴いていてください」
「済まないね」
アバッキオは寂しそうに笑った。
「なに言ってるんですか……」
ジョルノに呼び戻された半年前から、フーゴは彼女の前では調子を狂わせられてしまう。
いちどまっさらになって、ジョルノの愛を受け入れて。しおらしく大人しくなってしまっ
たアバッキオなんて……アバッキオじゃない。
ミスタの言っていたようにジョルノもそれを感じていて、フーゴを探して呼び戻してみ
たのかもしれないが、昔の通りの意地っ張りで人当たりのきつい彼女の面影はもうみられ
ない。
これ幸いと欲望を満たすことにしてみたが、昔とのギャップに耐えられなくなって、と
うとう手放したということだろうか。
フーゴだって、儚げで自信なさげでジョルノのことだけを想って忠誠を尽くすアバッキ
オには耐えられないが、だからといってアバッキオを大切に思う気持ちが消えてなくなる
というものでもないようだ。そこのところが、ミスタの言う「片想いの時間の長さの違い」
というものなのだろう。
だからといって、アバッキオがこのまま自分の恋人としてこの家に留まってくれるとい
う未来は思いもよらないフーゴだった。
……あのひと達に申し訳ない。
今はもう空の高いところにいるはずのひと達を想って、フーゴは背筋を伸ばした。
「長いつきあいじゃないですか」
アバッキオの細かい好みを知り尽くしているのも、アバッキオのためにできるだけのこ
とをしてやりたいと思うのも。
昔からのチームメイトとして当然だ。
フーゴはそう自分に思いこませた。
翌日からまずいことに雨が降り始めていた。
フーゴはオフィスの窓から雨に濡れる街を眺めて、アバッキオのことを案じていた。
「ボスなら登下校は車を使ってるから濡れないよ」
ポルナレフは見当違いのことを言いかけてくる。
「……そうですね」
ポルナレフはもちろん、急ぎの旅の中であの事情を告げる余裕のなかったジョルノも、
アバッキオのトラウマになっている雨の日の事件については知らないのだろう。
「古傷がうずきます。今日は早退させてください」
硬い表情のまま有無を言わさぬ口調で切り出すと、
「……ああ？ そういえばおれも雨の日はなにかときつかったな」
ポルナレフは片眼をつぶって見せて退出を許してくれた。長生き（？）の人間はこうい
う時に役に立つ。
タルトをいろいろと箱詰めにお土産にして、フーゴは自宅に帰った。
「フーゴ様……」
心配げに自宅の管理スタッフが出迎える。やはり、彼女は鬱にはまりこんでいるらしい。
「入りますよ」
せっかくの部屋のカーテンも開けずに、アバッキオは椅子に坐り込んでいた。
「傷が痛むんですか？」
「……なんであたしは生きてるのかしら」
地獄の底を覗いた声がした。
寝起きのままのもつれたプラチナ・ブロンド、青ざめきった頬。ただシャツの袖に手を通
しただけの姿で。
あの頃だって、ここまで荒んだ姿をひとに晒したかどうか。
「強かったからでしょ」
とりあえず、フーゴはその背にガウンを着せ掛けた。
運も引きも込みで。
気が強くて、理想が高くて、周囲の腐った環境に心からなじむことをしない。そういう
彼女を、放っておけないと思った先輩があの夜彼女を庇った、結果、彼女は生きてここに
いる。
仲間たちからさえ暴行を受けて、自分を許せない。なにも信じられない、と街をさまよっ
ていても、その美しさは人目を引いた。結果、彼女に密かに想いを寄せていたギャングの
リーダーをうまく引き寄せた。お人好しでヘンに真面目なところのあるあの優しい男を。
彼の温かい保護を受けて、彼女は立直った……筈だった。
ヴェネツィアで死に別れて、サルディニアで臨死を経験して。
一度まっさらな警官の頃に戻って、ジョルノのものになって。
それで彼女が生きていけるならそれでも良かったのに。
「甘いものでも食べて、元気を出しなさい。あんまり考えすぎるのもいけない。
ちょっと、仕事を持ち帰らなきゃならなかったんですが、あんた手伝ってください」
「あ、……うん。厄介になってる身だしね」
少し、眼に光が戻った。
「そういう律儀なところはあんたの美点です」と、フーゴは素っ気なく言った。
細かい帳簿の計算は、パソコンでソフトを使えばすぐにできる類のものだったが、あえ
てアバッキオに電卓を叩かせる。余計なことを考えないで済むように。
「はい、それでよろしい。助かりました。お茶にしましょう」
もう、戸外はとっぷりと暮れている。陽の落ちるのがはやい季節になっていた。
「寒くはないですか？ なにか羽織るものも調達しましょうか。
好みがあるなら聞きましょう」
フーゴは紅茶を運ばせて、お土産のタルトを次々勧めた。
「別に……」
予想はしていた。このひとの身なりに構わないところには昔もさんざん気を揉まされた！
気を引き立てるようにフーゴは話を振った。
「ほんとは何色が好きなんです？ 昔着ていたあの服はブチャラティの趣味なんでしょう？」
真っ黒の、ぞろりとした長い服。魔女のようだと、あの頃はあげつらっていたっけ。
「普通に、ブルー。でも、あのときはあれが良かったんだよ」
身も心も堕ちきっていて。格好から入るタイプなのかもしれない。
ジョルノに引き会わされてからしばらく、自分の好みで堅いスーツを買い与えていたの
は間違いでもなかったとフーゴは思い至った。
「フェミニンな服、着てみますか？ あんたはそういうのも似合うかもしれません」
「任せるよ」
つれない顔のまま、俄然張り切る参謀殿だった。ロマンチストというのは当たっている
かもしれない。
５
夕食は、鳥の食べるほどだった。あれだけ出血したのだからと、強いて食べさせた。薬
も、全て出させて、フーゴは立ち会って飲むのを確認した。
「今までだって、雨の日はあったでしょうに。ジョルノはどうしていたんですか？」
「あの部屋にいた頃は、そういうことを考えなかった……ジョルノ様のことだけ。それが
楽で、幸せだった」
記憶が戻ったのがいけなかったのか。
無理に戻すつもりはなかったのだけれど。
かれが、ブチャラティを変えてしまったヴェネツィアでなにがあったのかをアバッキオ
に再生させたとき、彼女もそれを見て、思い出してしまったのだ！
「……思い出してからは？」
「解らない。ジョルノ様は、忘れさせてくれた……？ なにも考えられないようにしてく
れた、一緒にいるときは」
アバッキオは、自分で自分の身を固く抱いた。
それは、つまり。
精神が不安定になる間もないほどに、性的に彼女を圧倒した……？
嫉妬の炎が冷静さを焼き尽くす前に、フーゴは燃料のバルブを閉めて事象を捉え直した。
ものごとをそれにばかり絡めて見てはいけない。かれの知らない１年の間には、恋の炎
を燃やした時期があったのかもしれない……いや、「すぐにことに及ぶことができる」と
うそぶいていたように、純粋に、かれは若い時間を費やしたのだろう。服を着る間もない
ほどに。生活の基本を整えることも、心を通わせることも、必要ないとばかりに。ミスタ
が言っていた、コドモなんだから、当然……。
……まさかこのひとと歓を尽くすのにはまって留年になりかかったんじゃないだろうな？
ふと、フーゴは疑念が萌して我知らず頭を振った。
「ジョルノ様が、あたしを、要らないと言った……」
アバッキオはぶるぶると震え始めた。それでもジョルノはアバッキオの心を深く捕えて
いる。フーゴは目を堅くつむる。見たくない、こんなアバッキオなんて……！
「フーゴ、忘れさせて。なんでもするから。あたしのからだを、どうにでも愉しんで、そ
して、燃えさせて、なにもかも忘れるくらいに……お願い」
暗い目のままに、自分でシャツのボタンを外し始めていた。フーゴは拳が白くなるほど
に握り締めた。
……自己評価の低いひとは、テクニシャンになる素質がありますね……。
したり顔に言っていたジョルノの声がフーゴの脳裏に響いた。
せっかく、ブチャラティがあれだけ苦労して立直らせたひとを、コドモの思いつきで、
おもちゃにして。こんなになるまで、壊してしまって。
そして、飽きて放り出した。
……万死に値するぞジョルノッ！
フーゴは歯がみした。胸に顔を埋めてきたアバッキオを、最後の理性でそっと抱いた。
「いけませんよ。あんたは怪我をしてるんですから。寒いなら、毛布を持ってこさせましょ
う。心細いなら、ここで手を繋いでいてあげます。
大丈夫。あんたが生きていてはいけないなら、ぼくだってそうです。でも、ちゃんと生
きないと、ぼくたちを生かしてくれたひとたちに悪いでしょう？ かれらのやったことが
無駄になる……」
１年を掛けてやっと自分がたどり着いた境地を、なんとか言葉にしてみせる。
「フーゴ、言葉じゃあもう、救われないの、あたし……」
アバッキオが、頬にキスをして、ぴったりと身をすり寄せてきた。こんな媚態を覚えて！
フーゴは憤（いきどお）ろしさに全身の毛が逆立った。いや、そればかりではない。い
ちど肌を合わせた間柄だ、つい、身体が反応しそうになる……！
フーゴはアバッキオを突きのけて勢いよく立ち上がった。
「このアマひとが優しく言ってやりゃつけあがりやがって！
ああ、可愛がってあげますよッ！ なんてったってあんたはこのぼくのほんのちょっと
した憧れだったひとですからね。おまけに、少しは魅力的な外見をしていることだしッ！
そりゃもう、外聞なんてほっぽり出して、機会があるなら抜け目なく頂きますともッ！
誰だってそうすることでしょうよッ！
でもッ！ いまのあんたは怪我人なんだってッ！ 無茶できないんですッ！
解りましたッ！ １ヶ月養生しなさいッ！ あんたのおっぱいを縫った糸が溶けて消え
て、もとのきれいな肌に戻ったら、なんぼでも愛してあげますッ！ それこそ一晩中ッ！
いいえ、昼日中でもッ！ ひとが怪しむほどあられもない声をあげて、身動き取れなく
なるまで可愛がってあげますからッ！ 覚悟してなさいッ！
……だから今日のところは大人しく寝るッ！」
最後の理性を振り絞って、フーゴはぎりぎりかれの教養が許す限界のいやらしい台詞を
言ってのけた……つもりだった。
「あ……はい」
効果はあったらしい。毒気を抜かれたようになって、アバッキオはしずしずとベッドへ
入った。
「ここにいますから。何かあったら声を掛けて」
モノトーンのキルトの掛かったベンチに腰を掛けて、フーゴは腕組みをしたまま眼を閉
じた。
「はい、……おやすみなさい」
「おやすみなさい」
劇的に晴れるならまだしも。翌日は、雨こそ上がったが、陰鬱な曇りだった。
……人生なんてこんなもの。
フーゴはゴキゴキ首を鳴らしながら嘆息した。ベンチで座ったまま夜明かしをしたのだ、
体中の関節が悲鳴を上げている。
……せめてカウチを入れておくんだった。
自分の家具のセレクトも後悔していたりして。
アバッキオの部屋に運ばせて、２人で朝食を採った。
「ぼくはね、衛星でいいんです」
ぼそりと、フーゴは呟いた。
「ボスのことを太陽とも思って、それなしに生きられないなら、あんたは惑星としてその
側にいて、照らされていればいい。
ぼくはその周りをウロウロして、太陽の恩恵も受けるんです。それでいい。張り合おう
だなんて、思っちゃいない」
「だってそれじゃあ」
「でも、考えてご覧なさい、月が太陽を遮ることだってあるんだ、日蝕。
今回のことも、そういう感じで。毎日のことじゃありません。そのうちにいつもの日常
に戻る。
あんたは安静にして、傷を治すことをまず第一に心がけてください」
「解ったよ」
アバッキオは根負けした様子で淡く微笑んだ。
６
それから、小犬を家族に加えたり、ジョルノの胸の悪くなるような煽りに耐えたり、ポ
ルナレフにからかわれて半分本気で亀を２階の窓から蹴り落としたり、れいのチンピラが
病院送りにされたとの報告を受けたり、１年半ぶりのアバッキオのミートボールのトマト
煮にしみじみしたり、発生の単元でただの丸い受精卵からどういう過程を経てオタマジャ
クシに至るのかなんてのを暗記するのがいったい何の役に立つのかとジョルノに泣きつか
れたり（ボス・ジョルノは頭がいいぶん丸暗記に意味を見いだせないらしい）。
通常運行に戻る筈の毎日で、アバッキオがフーゴの家にいるのが普通になってしまった。
フーゴの家の管理スタッフのリーダーが、お客様のことを「奥様」とお呼びしていいかと
尋ねて即時却下されたが。
一ヶ月後、傷は完治し、一応の挨拶にアバッキオはオフィスに出向いた。ついでに定期
健康診断を受けて、学校から帰ってくるジョルノを待つ間久し振りにポルナレフやミスタ
とお茶をしていた。
「あのォ……」
言いにくげに、看護師が報告した。
「シニョーラ、妊娠していらっしゃいます」
「なんで？」
素でアバッキオは尋ね返した。一般人には亀に見えるポルナレフはともかく、ミスタの
いる場で報告を受けたのは油断だった。
「なんでって、あちゃー」
ミスタがガールフレンドの「失敗」を思い出した。
「最悪のタイミングだな」
ポルナレフが頭をかいた。いや、まだ４，５週なら父親はジョルノで間違いはないだろ
う。月イチのフーゴの「インセンティヴ」はじつに清純なお出かけであることだし。
「いつだって最悪だよ」
ジョルノはまだ高校生だ。マフィアのボスで、自称吸血鬼の息子だ。アバッキオは貧血
を起こしてひっくり返った。
例によってまたフーゴが飛んできた。
帰宅するなり報告を受けて、ボス・ジョルノはしばらく押し黙った。
「このひとはきみに差し上げたんです。堕ろさせるも産ませるもそちらでどうぞ」
明らかに動揺を押し隠して言ったその言葉に、ボスはまたぶん殴られた。
ミスタとポルナレフはそれぞれ天を仰ぎ、頭を抱えた。
「おまえさんが焚きつけたんだろ？ フーゴに貰っちまえって」
「ムシューだってノリノリだったくせにぃー。１７で人生決めるなって言ったろ？ フー
ゴだって１８の誕生日前じゃんよ」
「しかしフーゴは学生じゃあない。一応ダミー会社の経営も任せてある」
「まあそーよね。住むところもちゃんとあるしなー。
見てきたけど、ほんと、小僧ちゃんの純情って怖いわ、ねーちゃんの趣味ジャストフィッ
トで部屋用意してあったの。もう任せて安心ってカンジ」
「じゃあ、産まれるまで任せるかね？」
「ホント、煮え切らないボスって酷いわ、最近株価ウナギ下がってるカンジよ」
「おまえさんにまでそう言われるとはね」
ミスタとポルナレフがボソボソと善後策を協議していた。
「ジョルノに父親の話をしたのは間違いだったかなァ」
ポルナレフが肩を落とした。
「でもそれはしょうがないっしょー？」
吸血鬼であったＤｉｏが餌の女性に興味本位で手を付けて産ませたという事実に、ジョ
ルノは僅かながら持っていた夢を失ったようだったとポルナレフはミスタに語っていた。
「出生がファンタジーならせめてそこに夢を見たいよね。種族を超えて結ばれた恋！ と
かさー」
父の写真を財布に入れて持ち歩いていたほどなのだ。なにほどかの憧れはあったようだ。
「それで育ちも悲惨だったようだしな」
「これから多少方向転換していって、ゆくゆくは渋いマフィアの大物になって貰って、優
しい嫁さん貰うって未来も考えてたんですけどミスタさんとしては」
「だから最悪のタイミングだと言ったろ？」
「しょーがないじゃんよ、ヤることヤったんだから」
「それを言うとフーゴがまたキレる」
大人達は溜め息を吐いた。
「ミスタおまえさんは大丈夫だろうな？」
「あーそりゃだいじょぶ。ちゃーんと使うもん使ってる」
ミスタは当然でしょという顔をした。
７
「ハァー謀反？ あんた正気ですか？ プライヴェイトでなにがあってもぼくはボスの第
一の側近ですけど？ いったいどういう勝算があってそういうこと思いつけるわけですか
ね？ 誰と誰誘ってます？ この電話自動的に録音されるようになってますけどコピーを
ボスに流していいですよね？」
フーゴはことさら大声で通話に応じ、慌ててそれが切られると思いっきり受話器を叩き
つけた。
「厄介だと思うならなにがあってもボスとは一心同体ってところを見せるべきじゃないか
な？」
亀から身を乗り出して、ポルナレフがたしなめた。女のことでいちいちボスをタコ殴り
して、お咎めがないというのはやはり信頼されているのだろうとフーゴは逆に幹部連中に
恐れられているが、そこを読み切れないで野心を持つ部下もいて、ややこしいことを企ん
でいたりする。
「見せてるじゃないですか。ジャポネじゃあ、上司の妊娠した愛人を下げ渡されるのは腹
心の証で最高の名誉なんでしょ？」
フーゴは向きなおっていびつな笑顔を見せた。
「日本の習慣については知らないなあ」
「こうやって不満分子をあぶり出しているんですってしれっと言えたらぼくはもっと大物
なんでしょうけどねッ。こんなに頭が切れて容姿にも恵まれて、これで温厚だったら完璧
すぎて嫌みですよ、しょうがないでしょ？」と、フーゴは前髪を掻き上げて見せた。
「表現力にも長けているしね」
ポルナレフは、そこは百戦錬磨のフランス人なので、肩をすくめて言い返した。なんだ
か荒んでいるなと思っている。
荒んでいるのにはワケがある。安定期に入るなり、ジョルノはアバッキオを呼び出すよ
うになったのだ。一応は辺りを憚っているようだが、フーゴの家もまるきりの無人ではな
いのでひとに知られないわけがない。
「あんたはバカですか？ あれだけのことをされたのに呼び出されたらホイホイ出かけて……
そんなに……忘れられない？」
フーゴはこの秋にジョルノに身長で抜かれた。認めたくないのでできるだけ並ばないよう
にしているが、客観的に見てその事実は間違いない。もうジョルノはアバッキオに並んでも
見劣りしないだろう。日本人の母を持つそうだが、ジョルノはこれからどんどん体格が良く
なって男性的魅力を増すだろう。だいたいがイタリア人はコーカソイドとしては小柄な方だ。
フーゴが美少年で通用するのはもうあと１年内外。あとは、と考えるだけで嫉妬がこみ上げ
てくるのを感じる。
ことは容姿だけに限らない。紳士として口に出せない方面で問題にならないくらい魅力と
いうか能力の差をアバッキオが感じているとしたら、もう、立ち直れない！ いや、そっち
方向でジョルノに張り合おうというつもりはない（とフーゴは信じている）のだが。
「ごめん」
地べたに坐り込んで小さく小さくなられて、フーゴも言葉がない。それで行ったっきりな
らあきらめもつこうというのに、帰ってくるのだからまたバカにしている。面倒な日々のメン
タルやら医療的なケアはこちらに丸投げにしておいて、愛人としておいしいところだけ持っ
ていこうとするなんて……。
フーゴはもう考えるのを止めた。
「向こうに帰ってもいいんですよ？」
「うん……」
しょげた顔で、アバッキオはそれでも心の底ではフーゴを頼っている。それがなんとも嬉
しい、またそう思う自分がばかばかしい！
フーゴは頭をぐるぐる振って叫んだ。
「ああ、全く！
惑星というのは、文字通り『惑う星』から来ているんです。
とくに、太陽系の惑星は、天球上の恒星たちとはちがって、とりあえずは太陽を中心とす
る独自の軌道を行っている。その太陽が天球上を動いているから見かけの動きは複雑です。
つい数日前とは逆の向きに動いているように見えることさえある。宇宙をさまよう星に見え
たんです。
惑星の動きが体系づけられたのは、近世以降。望遠鏡と物理学が発達してからでした。
巧いことを言った気になってそんなものにあんたをたとえたのがいけなかったですよ。
……いいですよ惑って。
ぼくは別にあんたに恋い焦がれてるワケじゃない。あんたがボスを恋しがっても、心理的
ダメージを受けたりしませんから。
……単にバカじゃないかと思うだけです。それも、男女の仲なら当然のことなんですけど
ね。
当然のことなんだからそんなに最大の悪徳をやったような顔をしないッ！ うっとうしいッ！
ご飯は食べてきたんでしょうねッ！？ ボスと一緒だったんならさぞいいものを食べたこ
とでしょう。食欲も戻ったんですからせいぜい栄養をつけて元気な赤ちゃんを産んで……え？
このサルがッ！！
あんたはお腹に赤ちゃんがいる身でしょうがッ！！
あんたちょっと今から聖モニカ教会に行って肉欲を慎む大切さについてお説教聞いてきな
さいッ！
ちょっと、どうしたんですナランチャ？」
途中から犬が入ってきて、かれの前に立ちふさがって哀れな飼い主を庇った。アバッキオ
は犬の首にしがみついてうなだれている。
「向こうへ行っていなさい」
真っ黒い小犬は、濡れた眼を光らせてフーゴを威嚇した。いつもは可愛らしいのに、小さ
くても立派な番犬だ。たいせつな家族を守って、ひごろ餌を与えてくれる人間にも歯を剥い
てみせる。
フーゴは根負けした。
「あーッ！ もうッ！
いいからちゃんと食事を採って寝なさいッ！」
８
当然ボス・ジョルノの方にも、離間策とまでいかないが、フーゴの特別扱いの訳を正面
切って尋ねてくるものがある。
「かれは貴重な存在ですよ。頭脳や能力だけの話ではありません。ひとと真っ正面から付
き合うということがどういうことかということを、本気でぶつかって教えてくれる。得難
い存在です。このぼくを、年齢なりの子供として対等に付き合ってくれている。今となっ
てはほんとうに貴重な存在なんです。
それに。
本気でかれを不愉快に思うようになったら、かれ程度は簡単に排除できます。ぼく自身
の手でね。込み入った追い落としのための策など要りません。
それができないぼくと思いますか？」
奥深い笑みをたたえた少年の姿に、それ以上なにも言葉を発することができずに、その
幹部はその場を去った。
「ジョルノ、どうしたの？ 最近お見限りだったわね！」
ガールフレンドとまでも行かぬ取り巻きに囲まれて、ボス・ジョルノはカフェで年令相
応のコーヒー・ブレイクを取っていた。
「ちょっとね。大事にしようとしていたひとに逃げられてしまったのさ」
もったいをつけて、ジョルノは笑って見せた。
「まあ！ そんな女性がいたの！？ ジョルノに？」
「ジョルノを振るなんて許せない！」
「まあ年も上で不釣り合いだから、最初からダメもとだったんだ……自分で降りたのかな」
「不釣り合いって、ジョルノならどんな美人とだって似合いだわよ！」
「年上って、どれくらいよ？ 二十過ぎなんてババアよ？ やめときなさいよ」
「まだそんな１人に決めることないわよ。あたしたちとみんなで楽しくやりましょうよ」
「……ぼくには出生の秘密もあるし」
「どんな秘密ー？」
「どこかの国の王子様なの？」
「有名女優の隠し子なわけ？」
「いいえ。ぼくは闇の帝王、吸血鬼の隠し子なんだ」
「ウソー！」
「やだー本気にしちゃった！」
「ひとをこの手に掛けたことも何度もある……超能力で、何人も、こっそり」
「いやー！」
「ほんと、ジョルノったら面白ーい！」
「その話今度友達にしてもいい？ 絶対あなたに逢いたがるわ！」
「いやだ、これ以上ファンを増やさないでよ！」
きゃあきゃあ笑いさざめく話の中で、ジョルノはひっそりと笑っていた。
９
「どうしました？ 彼女になにか？」
ある夜、ミラノの方へ出張して「商談」をまとめてきたフーゴが帰宅すると、スタッフ
達が心を乱して立ち働いていた。
「ご主人様、いいところへ。その、奥様が」
リーダーが言葉を濁しながらもホッとした様子で現われた。
「奥様じゃなくてお客様……どうしたんです？」
「いい、大丈夫！」
抑えた声が、アバッキオの部屋から響いてくる。控えめな、それでも必死な声が、医者
を呼びましょう、ご主人様に連絡を、と説得を試みている。
「どうしたんです？ お腹が痛いの？」
廊下を駆け抜けて、フーゴはその側に寄った。と、その部屋の様子に違和感を感じる……。
寝乱れたベッド、身繕いも整わないアバッキオの様子、後始末をしたゴミのこぼれ落ち
ている屑籠、まだ立ちこめる生々しい雄の匂い……まさしく情事の痕跡であった。
「……午後、ボスがお越しになって、お人払いを」
接客、給仕をつとめるスタッフが、言いにくそうに告げた。
フーゴの髪が逆立った。
「ごめ……ん」
腹部を押さえて苦悶の表情を浮かべながら、アバッキオはやっとそれだけを言った。そ
の両脚の間から、血がにじみ出ている。
「とりあえず車を回して、医者へ」
「畏まりましたッ」
一時は母子ともに危険だった。
アバッキオは意識がないままごめんなさいごめんなさいとそれだけを繰り返している。
医者は安定期とはいえ無茶をやっては負担が掛かり、流産もありうるとネチネチと注意
した。まだ若いから我慢もできないでしょうが、と見下して笑われたのが、フーゴには死
ぬほどの恥辱だった。
「ぼくじゃないって、言えばよかったのに」
未成年の身で女性を身ごもらせたのも、身ごもった女性に挑んで流産を起こさせるまで
なぶったのも。
意識を取り戻したアバッキオはか細い声で、頭まで引き被った毛布の下から言った。
「なに言ってるんです」
フーゴは怒りを抑えた声で言った。
「この子はぼくの子です。あんたも。ぼくの奥さんですから」
翌朝、病室に持ち込んだラップトップを使って一晩かかって作り上げた出張の報告書を
手に、フーゴはオフィスに出勤した。
普通にウィークディで、学校にしれしれと登校してきたジョルノが下校し、ボスとして
の業務に入った頃を見計らって、フーゴはボスに面会した。
「これが昨日の出張の報告書です。
あ、それから、夕べうちのスタンド能力者がひとり死にかかりましたけど、なんとか持
ち直しました」と、紙の束を示して見せつつ、何気なく話題を振った。
「おや、そうですか。報告は上がってませんが。なにか危険な任務でもさせていたんです
か？」
フーゴに対面しても顔色ひとつ変えずにジョルノは応じた。
「プライヴェイトですね。ちょっと悪ふざけが過ぎたようです」
普段の報告のように、皮肉に微笑んでさえ見せる。大事の前だ、フーゴは忍耐力を総動
員している。
「貴重な能力者なんですから、無茶をやらないように申しつけてくださいよ？ 誰の配下
です？」
ジョルノも、嵐をまだ予感していない。
「ボス直属ですね。他にない貴重な戦力です」
「というと？」
やっと思い至ったのか、ボス・ジョルノは眼を上げてフーゴを見た。
「アバッキオです」
大きなデスクを間において、フーゴは立ったままボスを見下ろしている。冷ややかに。
「なぜ……？」
事ここに至っても、午後までは元気だったなどと口走ったりしない。たいしたものだと
フーゴは舌を巻く。
「ボスはお若いからご存じないかと思って、一般論としてお伝えしておきますけど、妊娠
中の女性はもちろん性行為ができない訳じゃありません」
「そうなんですか」
フーゴをまっすぐ見上げてくる顔は、普段通りのすました少年の顔だ。
「だからといって、そうではない状態の女性と同じ扱いで激しい行為を持つことはできま
せん。余りにも深い官能の刺激を受けすぎると、子宮が激しく収縮して、胎児に悪影響が
出るそうです。妊娠期間がまだ初期のうちは、そういう刺激が流産を引き起こしたり、引
いては母体をも危険にさらすということだそうです」
「そうですか」
ゴゴゴゴゴというスタンドの現われるときの重い空気が部屋に満ちていた。
「アバッキオは死にかけましたよ」
フーゴの碧い眼が、前髪の下からじっとジョルノを見下ろしていた。
「死ななくて良かったですね、お互いのために。きみも以後は気をつけて」
その眼をまっすぐ見返しながら、ジョルノはしらを切った。
フーゴは背を向けて、部屋の隅に歩き出した。
「そういうわけで、報告書はちょっとぼくにしては時間が掛かってしまいました。徹夜し
ましたよ」
軽く笑ってみせる。
「別にそこまで急がなくても良かったんですよ。そういう事情があったのならなおさら」
ごく普通の声音で、ジョルノは優秀な側近を労う。
「向こうさんのナンバー２との差しの交渉でしたからね。これであの街の麻薬の流通はこっ
ちが握って、抑えこめる。ボスはそれを狙ってたんでしょう？」
ブチャラティの願いだったから。
ジョルノはマフィアのボスについて特にヴィジョンを持っていなかった。ブチャラティ
の死によって、かれの夢を代わりに叶えることを組織の活動の目標に据えた。そして、組
織を掌握した今、少しずつ、それを達成していこうとしている。
「フーゴ？」
壮絶に笑んで、フーゴはその報告書をシュレッダーに叩き込んだ。素早く電源を入れて、
出張の成果を刻み尽くした。
「なにを……？」
「なめてんじゃあねえぞこの薄汚ねえ間男がッ！
このぼくにくれてやると宣言したからには、もうあんたは彼女のご主人様なんかじゃね
えんだよ。遠慮しいしいこっそり逢うならまだ可愛げもあろうものを、よりによってひと
の留守に白昼堂々よくも！
恥を知れ恥をォォォォォォ！」
フーゴはシュレッダーの下扉を開けて、紙くずになった報告書を両手で掴みだして部屋
中にぶちまけた！
驚いてポルナレフが、デスクの上の亀から顔を覗かせた。
「おいおい、なにがあったんだ？」
「ポルナレフさんは黙っててくださいッ」
フーゴの剣幕に驚いて、フランス人の幽霊は亀の中に逆戻りした。
「フーゴ、それで、これをどうしようというんです？」
「決まってるでしょ、ボス」
一瞬にして天使の顔に戻って、フーゴは屈託なく笑って見せた。
「ぼくらでこれを元通りに繋ぐんです。そろそろコーヒーが届く頃です。付き合ってあげ
ますから、さあ、始めましょう」
１０
２人はマジメに復元作業に取り組んでいる。
「せめてもっとそっと取り出すとか、シュレッダーじゃなく手で引きちぎったりとかには
できなかったんですか？」
やっと１枚目の半分がかたちを作り始めて、ジョルノは溜め息を……揃った紙くずを吹
き飛ばすことを恐れて寸前で飲み下した。
「あいにく理性ってものが飛んでまして。なにせ最愛の女性を失うところだったので」
「おや、認めましたね」
ふと微笑みがうかびかけた頬をフーゴが容赦なく張り飛ばした。
「フーゴ」
「いけませんよ？ ひとの大切にしているものをあそび半分でめちゃくちゃにするなんて、
恨みの元です。だいたい、趣味が悪いですよ。お育ちが良くないっていうのはそういうの
を言うんです」
向かいあっててきぱきと手を動かしながら、フーゴはジョルノをたしなめた。
「あなたがどういう育ちをしたかは知りません。複雑な生まれだというのは伝わってきて
ますが、そういうのを余りに引っ張るのもみっともないことです。なにか外聞の悪いこと
をしでかしたときの言い訳にするのもエレガントじゃありませんね。
１５でマフィアの組織を乗っ取るような大きなことをやった男が、ぼくは可哀相な被虐
待児ですから、女性とまともに向き合うのが怖いんですなんて逃げをうつんですか？
てめえがガキだってことを盾にするなら毛布にくるまって写真でも見ながらカッツォし
ごいてやがれ。色男ぶってひとの女に手ぇ出してんじゃねえよッ」
「……珍しいですね」
フーゴにしては最大限の卑語を使ったとジョルノの聴覚と記憶は認知した。
「自分の血を引く子供がこの世に生まれ出ることが怖いのなら、なぜ正々堂々処置を取り
ませんでした？ この組織の最大の権力者はあなたです。あなたのプライヴェイトに誰が
口を出すと言うんです？ 自分がひとにおしつけたものを、どうしてあとで慌てて手を下
しに来るんです？ 今からだって、もっと穏便な手だてがあったでしょう？ ……流れれ
ばいいと思ったんですか？ アバッキオもろとも死んでも良かったと？」
「そこまで考えてのことじゃあありません。
純粋に、久し振りに彼女のことを愉しみたかっただけで」
ジョルノの声は低かったが、明瞭なレヴェルは保持していた。
「エロガキッ」
短く弾劾して、フーゴはなおも作業を続けた。
意識してのことか、「彼女と」ではなく、「彼女のことを」と言った。やはり、深層で
はアバッキオのことをも自分の欲望を満たすためのものと認識しているようだ。
「ディアボロだって、そういう無茶をやって皆の忠誠心を根こそぎにして、自分から滅ん
だんでしょ？ あなたまでそれをやっちゃいけません。
ぼくはなにがあってもあなたを裏切りません。ですけど、そういうさまを日頃下のもの
が目にしていたら、みっともないとも面白くないと感じもするでしょう。そういうちいさ
な違和感が積み重なって、裏切りとか、反乱とかの芽に育つんじゃないですか。
もう少し、巧く立ち回るようにしなくちゃいけませんよ」
「これは裏切りのうちに入らないんですか？ 組織の大事な書類を……向こうのナンバー
２との間で交わした誓約書もあったでしょ？ 繋いでどうなるってものでもないんじゃ？」
と、ジョルノが言い返す。
「誠意を見せることが大事って局面もありますから」
目の下の辺りに疲労を滲ませて、それでもフーゴは笑って見せた。
「そして、ボスは部下のやったことに責任を持つ必要があるんでしたっけ」
ジョルノはまた、手近の切れ端を取り上げて、繋がる隣のパーツを探して紙くずの山を
そっとより分けはじめた。
「そうそう」
「本当にこれを全部繋ぐんですか？ 人手を増やした方がいいんじゃ？」
時計の針が１時を指すに至って、ジョルノは少し疲れを見せた。
「いいじゃないですか、久し振りに積もる話でもしながら２人でやりましょう」
フーゴの有無を言わせぬ笑顔は迫力がある。いつの間にこんな表情を覚えたのだろうと
ジョルノは想像を巡らせてみるが、根気が続かない
「ぼく明日はとっても集中を要する授業があるんですけど。
きみだって、彼女に付いていてあげなくていいんですか？
まだ彼女のことはお客様扱いなんですってね？ 彼女寂しく思っているんじゃないでしょ
うか。とくに抵抗無く」
「ボス」
コーヒーポットを取り上げて、フーゴはジョルノの額の上の巻き毛にコーヒーを注いだ。
「寝言を言うには早いですよ？」
フーゴが顎を上げて笑って見せた。ハンカチを差し出しながら。
「フーゴ、契約書はともかく、あなたの報告書は、パソコンで作ったのならデータが残っ
ていたのでは？」
明け方近くなって、空がさすがに明るんできた。報告書はほとんどがつなぎ合わせられ、
契約書もなんとか読めるまでに復元された。
「そうですね」
「こんなことをする必要はなかったんじゃないですか？」
「良く気がつきましたね」
フーゴは冷淡にあしらってまだ手を動かしている。
「契約書の方はどうするんです？ テープで繋いだものを相手方に見せて、頭を下げて控
えの控えを作ってもらうんですか？」
「ああ、控えはこっちなんです」
ゆっくりと、カップの底に残った冷め切ったコーヒーを飲み干して、フーゴはジャケッ
トの内側から３つに畳んだ正規の契約書を出して見せた。
「………………なにが目的です？」
しばらく開いた口が塞がらなかったジョルノは、やっとやっとで言った。
「え？ 単に、躾の悪いエロガキに、お仕置き。
ただ殴ったり口で言ったんじゃあ聞かなそうだったんで。言ったでしょ、『誠意を見せ
ることが大事って局面もあります』って。
お疲れ様でした、ボス。想定より２時間も早く終わりましたよ。１時間ぐらいはやすめ
るでしょう。どうぞ」
にっこりと笑ってドアを指して見せる。
「あなたもすっかり強かになって」
さすがにジョルノも笑顔が引きつる。
「なに言ってるんですか。キャリアが違うんですよ？ これでもぼくは１３の時からこの
世界で下っ端をやって這い上がってきたんです。神経を削る駆け引きなんてヴィデオ・ゲー
ムより身近でしたとも」
「お見それしました」と、ジョルノは右手を差し出した。それを、ぺんっと弾いてフーゴ
は両手を腰にずいと顔を突き出す。
「一晩かかっても言えないなんて、どういう根性です？
『ごめんなさい、もうしません』は？」
「落ち度は認めますが、二度としないとは誓えません」
やや硬い表情で、ジョルノは少し視線を落として言った。
「……ぶん殴るぞこのエロガキが」
フーゴは唇の端で少し笑って言った。
「いつもそういうふうに警告してくれるといいですね」
ジョルノは不敵に笑って見せた。解け掛かった前髪を掻きやろうとして髪がコーヒー臭
いのに今更気づく。登校前にシャワーをしっかり浴びなくてはと思っているようだ。
１１
「フーゴ、きみのお兄さんってうちの学校の関係者だったんですね」
すぐさまボスは逆襲に転じた。ああ、シャワーを浴びなくてはいけないのに。
「な……んですって？」
フーゴが一瞬のうちに青ざめた。
「初恋の人と結ばれて、うちの組織で役に立ってくれてますって言ったら感動に震えてま
したよ」
「きみ……」
それは怒りに震えていたのだ。家名に泥をぬった末の弟のことを、彼らは記憶から消し
てしまっていたに違いない。
「恋人が妊娠して途方に暮れてるって近況報告してあげたら、今後本宅と別宅の全て、そ
れから会社と領地の周囲１０キロに近づかないことを条件に出生証明送ってくれるそうで
す。
良かったですね、これで婚姻届け出せますよ」
それは解りやすくいうと勘当ということだ。今も似たようなものだが、実家は女性関係
の不始末には潔癖だ。完全に縁を切るということらしい。
「それは、ボス、手際のよろしいことで。
でも、おかげであなたの優秀な参謀はミラノ市街に足を踏み入れられなくなってしまい
ましたよ？」
フーゴは震えながら顎を上げて言い放った。
「きみのうちはミラノ駅にあるのかな？ 面白いことを言いますね」
「いいえ、ボスのユーモア感覚には負けますとも。やっぱりそれ、イギリス仕込みなんで
すか？」
ぎりぎりと歯がみしながら、顔には笑みを浮かべて２人はにらみ合った。
「初恋の人と結婚させてあげるじゃないですか」
「悪魔が間男に憑いてくるんだったら意味ありません！」
「おや、そんな珍しいストーカーが憑いてるんですか、彼女」
睡眠不足の２人の煽り合いは結局朝まで続いた。
「一時はどうなることかと思ったけど、やっぱりジョルノのお守りはフーゴが巧いな」
叫び疲れた２人にミスタ経由で朝食を持ってこさせて、ポルナレフは肯いていた。
１年後。
「フーゴ、あなたに預けてあるぼくの娘ですが、お誕生のお祝いはどうしましょうね？
組織のものにもそろそろお披露目をしたらいいかと」
ジョルノはふいに話を切り出した。
「は？ マレーナはぼくの娘ですが」
フーゴもいろいろ鍛えられて、顔色ひとつ変えない。
「だってきみは今でもアバッキオとは寝室も別なんでしょう？」
「うちの事情をあれこれ言われたくありませんね。ボスとは昔多少なにかあったかもしれ
ませんが、今はぼくの奥さんです。とっても料理上手できれい好きで。あのひともとから
家庭的なんです。あ、ボスがご存知の訳ないですよね。
だいたいあなたとは髪の色も目の色も違いますよ。ブルネットのきれいな直毛で……あ
あ、天国のあのひとの生まれ変わりだったりしたら素敵ですね」
「だったらあなたたちとだって違うじゃないですか。ぼくの母は日本人です。ぼくだって
スタンドが発現するまでは黒髪で……」
「ややこしい遺伝がどうとかなんて問題はナンセンスです！ マレーナはお腹にいたとき
からずっとぼくが保護して育ててきたんですからうちの子ですッ！ おむつも替えず夜泣
きにも耐えず、横から出てきて結果だけ盗ろうとしないッ！ だいたいあなたは大学受験
を控えている身でしょうッ！？ 学業に専念しなさいッ！」
パッショーネの若きボスとナンバー２は、今日も仲良くケンカしている。
「姐さん……」
側近が慌てて仲裁を求めると、
「ああ、放っときな」
若き母親となったアバッキオは、輝く笑顔でそれを見守っていた。
「ねーちゃん、そんでボスとは今でも時々デイトしてるってホント？ よかったらミスタ
さんとも１回どう？」
にっこり笑ったアバッキオはミスタの腹に一発肘鉄を叩き込んだ。
１０−０８−１２
蛇足。
どうしてこうなったマーク２。
「サラディナーサ」＠河惣益巳のヒロインみたいなことになっちまったよ。
結局フーゴはアバッキオを手に入れたのかそうでないのか、もうどーでもいいわ。フー
ゴのキレ方のヴァリエーションを考えるのが楽しかったです（オイ）。
４部のロハンちゃんと似たような展開になっちゃって、おかあさんどんだけハーレム・
エンド好きなんや。でもこっちはまだハッピーエンドのつもり。でも鬼畜ジョルノ様の孤
独は深い……かな？ いややっぱ因果応報。
マフィア幹部のお嬢様のマレーナちゃんは２人のパードレに×取り合い○猫可愛がりに
されて、中学生になってスタンドが発現したら金髪になっちゃって出生の秘密を知るとい
いよ。
なんで生涯の友の名を犬に付けるよ？ すいません。犬種は良く分かんないけどすばしっ
こくって頭の良い犬と思ってください。「ナランチャ」が出るまではでかい長毛種をなん
となく想定してたのに一気に変わった……。
＞ 紳士として口に出せない方面で問題にならないくらい魅力というか能力の差を感じて
いるとしたら、
当然、こなした回数が違うのでそこんとこはジョルノ様の方が巧い。泣くなフーゴ。総
合的ＱＯＬでは当然フーゴの所の方が勝ってるから。待て、それって中国の古典笑い話の
「夜は貧乏イケメンのうちで、昼はブサメンの富豪のうちで」ってやつか？
おまけ。
「マレーナ、ぼくのことはパードレと呼んでもらって構わないんですよ」
「でも、ボス、あたしの父様はちゃんといます」
「かれはあなたのマードレのお世話係なだけです。余りにもあなたのマードレのことを恋
い慕っているからお任せしているだけのこと。だって、かれはあなたのマードレと一緒のベッ
ドでやすんだりはしないんでしょう？」
「それは父様が紳士だからです」
小利口で可愛くないのは自分の小さいころにクリソツなので（当然容姿も）ボス・ジョ
ルノは毎度やりこめられてもマレーナたんが可愛くてしょうがないといい。
アバッキオのトラウマは結局ミスタさんも知らないことにして、生き残ってるフーゴだ
けの知る秘密になってるといい。そしてなんとなく女のずるさを使うようになってきたア
バッキオねーちゃんは時々「惑う」。いや２，３ヶ月とか半年に１度ペースで（ジョルノ
様とは月に３，４回デイトしてる。いや、デイトというようなもんじゃなく、現われたら
即行喰われる感じ。ホントそれしかしない。隠しもしないのでバレバレ。フーゴにケダモ
ノ呼ばわりされるわけだ）。全くなんにもなくはないが、そんな月イチほどもサーヴィス
しない感じ。基本、「お預かりしてるボスの愛人様」と「憧れているけど手は出せない純
情幹部様」のスタンス。２２と１８じゃなあ。子供の前ではいい父親と母親。
「ねえ……雨降ってるじゃない？ なんかイヤなんだけど」
「なに言ってるんです。子供もいるのにでかい図体して」
「だってわけもなく死にたくなるんだもの……ねえ。マレーネ、もう、寝たから」
「ッ……しょうがありませんね、あんたみたいな肉体的訴求力のあるひとにそういうふう
に迫られたら男として断れるわけ無いじゃないですかァッ」
「ありがと。フーゴ」
「もうほんとにみだらになってしまって。恥ずかしくないんですか。ボスの悪の魅力にどん
どん染められていって。そのおこぼれに預かっている自分の情けなさを思うとぼくも死に
たくなりますよ……」
……なんてブチブチいいながら据え膳はしっかり食うといい。ネチネチ言うだけは言う
けどたいしたことなくて（執事の爺さんの説教レヴェル）、「言葉責め」という本質でい
うと当然爽やか鬼畜なボス・ジョルノの方がえぐい。どういうふうに抱いて貰ってるか根
掘り葉掘りしたりとか。またアバッキオも嫌がりながらあっさり吐く。やっぱそこら辺の
相性いいんだろうなとまた１８禁。
あと、うちのフーゴ（「その朝」シリーズ）は雷がコワイひとなので、雷雨の日なんか
２人で不毛な煽り合いをした挙げ句が結局ヤることになっても楽しい。
「……なによ？」
「別に。気圧が下がってきたようですよ」
「あら、そう？ そういえば、向こうの空がヘンにゴロゴロ言ってない？」
「気のせいでしょう。……妙な風が吹いてきたような気がしますが、あんた、大丈夫です
か？」
「ちょっと、ヘンなこと言わないでよ。あんたこそ、大丈夫？ 脂汗かいてるじゃないの？」
「ばかな。目まで眩んできました？ 意地を張らなくてもいいですよ、長いつきあいじゃ
ないですか」
「意地張ってんのあんたの方でしょ？ 怖いんならコワイって素直に言えば、抱いてやっ
てもいいのよ？」
「こちらの台詞ですね。なんにも考えられないひとときをくださいと言ってみたらどうです？
……うわっ」
「ほぉーら。まあ、可愛いこと。たまには素直にひとに甘えてみなさいっての」
「なに言ってるんですか、ちょ、苦し……そんなに押しつけないでくださいッ、いやらし
いッ」
「いやらしいって……どっちが」
「しょうがないでしょう、こんなにくっついていては……生理的反応というか」
「へーえ？」
「ちょ、あんただってなんです、こんなに自己主張してきてますけど」
「あんたが擦りつけるのがいけないんでしょ……ぁ」
「なに誘ってるんですか、いやらしい……」
「あんたがいけないのよ……ひどいひとね」
と、楽しい夜になりそうですが、ふとジョルノ様が乱入したりすると悲惨。
「楽しそうですね」と、声を聞くなりフーゴは脱走を図りますが当然絡め取られて未遂。
「３人で愉しみましょうか」ってことになって（当然強制的に盛り上がる、「リヴァイヴァ
ル」参照）、翌日から傷心のフーゴは出勤拒否でどっかへ逃げたりとかしたりして。また
ミスタさんが迎えに行かされるのね。ほんとにジョルノ様って鬼畜♪（鬼畜はおまえだ）
それで、いつごろ父様と母様になったかというと、
「ご主人様、フーゴ様、お客様のことはなんとお呼びすればよろしいので？」って、スタッ
フのリーダーに聞かれる。妊娠騒ぎがあって、組織内で公に「フーゴにくれてやった」と
言われるようになってからの話。
このリーダー（いわゆる執事）はフーゴが呼び戻されてから集められたスタッフだけれ
ど、そこんとこはプロだから、子供相手でもメンドクサイ性格をすぐ理解して忠誠を尽く
す。フーゴはいいうちの子なので、身の回りのことをひとにして貰うのに抵抗がない。て
ゆーか、ある程度格式を整えるとなるとすぐにそっちを思いつく。でかいうちに住んで自
分で掃除するとか、それができなくて埃まみれとかありえないと思うタイプ。
「お客様でいいでしょう？ でなければ名前で、アバッキオ様と」
「奥様ではないので？」
「違います。金輪際そういう呼び方はしないように」
「承知いたしました」
でも「メイド」たちは陰で奥様と呼んでる。そりゃ当然。アバッキオもまたメンドクサ
イひとだから「あたしは奥様じゃない」って言い張ると思うけどね。みんな密かにフーゴ
を応援している。でも、産まれてしばらくする頃には「ぼくの奥さん」と堂々言えるくら
いにはなってると。やっぱり流産の危機とか出産準備とかいろいろ９ヶ月で乗り越えて絆
を深めたりしたんだろうか。
「ええと、その、お客様のことは、向こうに聞いてみてよければ奥様とお呼びしてもいい
です。今朝からすぐにではあからさまなので、徐々にで構いません……」……なんて、朝
食前にちょっと赤くなりながらフーゴが指示を出したりしたら、スタッフ一同密かに盛り
上がるだろうなあ。やっぱ夜の間になんかあったとか勘ぐったり……。
でもなんかあった翌朝にすぐ「奥様！」だったら恥ずかしいよなあ。
やっぱりマレーナが産まれたとき、子供を見せて、「お父さんですよ」とアバッキオが
言うんだと思う。そこが唯一最大のデレだな。
「なにを戯（たわ）けたことを」なんて突っ張ると思うけどね。対外的には自分の子と言
い張るんだろうな。当然、ボス・ジョルノには逢わせない、渡さない。でも結局逢うけど。
うちのフーゴは早生まれ設定だからジョルノ様とは２ヶ月しか年が違わないんだった
（フーゴの生年月日は公式データ無いよね？）。書いてるうちにややこしくなって何度も
計算し直しました。それじゃあ年上扱いしないよなあ、ジョルノ様の性格からして……。
うちは４部で仗助を１６で父親にさせてるけど、やっぱ１８で父親は早いよなあ……。
だいたい人生が濃すぎ。
アバッキオがただ流されるオンナになってしまった。
彼女は「リヴァイヴァル」で自分が愛したひとに死に後れたことを知ったとき、彼が残
した少年達を守ることを自分の科したんだと思う。たとえどれだけ「汚れ」ても。そうい
うのを、うまく表現できなくて、「リヴァイヴァル」のあとがきはなんか放置気味になっ
た。すいません。あんま長々語るのもと思って（とカッコつけるとあとでこうなる）。
でもやっぱ男の子がオトナになるのは早いから、結局「奥さん」になっちゃうんだよね。
ま、いっぱい惑っていい女のいい母親になってください。
あ、要するにこの話、鬼畜Ｓのジョルノ様の間違った愛の矛先が、壊れちゃったアバッ
キオからフーゴに移ったってことだ！ ただフーゴをからかうために命がけで弄ばれるア
バッキオねーちゃんかわいそー（自分で書いとってタグ打つ時点まで思い至らなかった！）
３日掛けて悩んだんですが（これでも！）どうひねくり回しても、わたしにとってジョ
ルアバは一時的性的パートナーとしてはアリでも人生のらぶらぶパートナーにはなり得ま
せんでした。ゴメンよ。エロエロなジョルアバならなんとかなりそうだが、需要があった
らまたその時に。
思い出した、エロエロなジョルフーは昔書いたんだけど、献呈先が休眠しちゃって……
需要があれば出します。