キルケ
その朝（２１）
１
「それは聞き捨てならないな」
「だろう？ ブチャラティ、お願いだよ、探しておくれ。うちの娘はそんな、何日も家出
をするような子じゃないんだよ」
「うちのファミリーじゃあ、若い娘をさらって売り飛ばしたりなんてことはもうやってい
ないはずだが」
それは別組織に任せて、管理・保護と上納金の徴収だけやっているというのは、かたぎ
には言わない。
「親のわたしが言うのもなんだが、そんな、取って喰いたいと言うほど育ってもいないん
だよ。まだ、小説やコミックの登場人物にきゃあきゃあ言ってるような、子供子供した……」
「ああ、可愛らしい娘さんだったな」
ブチャラティもまとわりつかれて閉口した覚えがある。
「そういえば、最近知り合いになった友達が、やっぱり同じような趣味で、その子のうち
に遊びに行くと言ってた」
「じゃあ、そちらに？」
「だが、『ぜーんぜん！ 心配要らないって！ ほんとに同じ趣味の話で盛り上がるだけ
だから！』って出て行ったんだよ」
「趣味の集まりか……」
丁度手が空いていたブチャラティが、軽い調査のつもりで出て行った。
そして、帰ってこなかった。
２
「で、これで３日目なんです」
フーゴはオフィスのデスクに坐り込んでため息を吐いた。
「本当に、あんたにもなんにも連絡は入れてないんですね？」
「ああ」
アバッキオは突っ立ったままフーゴの常にない様子をいぶかしげに見下ろしている。
「一応聞いときますけど、ケンカとか、してませんよね？」
「ないな」
短く答えて、アバッキオはまた着信も入っていないのに携帯を検める。
フーゴは、姿勢を正すと、凜とした声を出した。
「うちのチームは、ブチャラティがついてた前のチーム・リーダーの影響で、そこんとこ
厳しいんですよ。
３日無断欠勤が続いたら、死んだものと見なす。
権限は即時に次席のものに委譲、１週間以内にポルポに報告して追認をもらう」
「聞いてないぞ！」
アバッキオが身じろぎして、背に流れる髪がさらさらと揺れた。
「一応、年は一番下ですが、キャリアが長いということでぼくが次席です。今日からはぼ
くが指示を出します。年長のあんたを一応は尊重しますけど、指揮はぼくです。解ってく
ださい。
ぼくが倒れたら、次はナランチャです。ナランチャはあんたを頼ると思いますから、立
ててやってください。ミスタは一番新しいし、現場の方が生き生きするタイプだから巧く
使ってください。
リーダーとサブリーダーはなるたけ一緒には行動しない。共倒れを防ぐためにね」
「海軍かよ……」
アバッキオが吐き捨てた。
「前のリーダー、昔、軍艦乗りだったそうですよ、あだなが艦長（カピターノ）。ブチャ
ラティはみっちり仕込まれたらしいですよ。
あんたは毎日ブチャラティと一緒に出勤するでしょう。ナランチャは毎朝ぼくんとこに
誘いに来るし。ミスタにはホント手を焼いてますけど、今までギリギリやばかったことは
何度もありましたが、３日連続は今のところないです。ブチャラティだって、電話の一本
も寄越さないことはなかったんですよ、今までは」
「どこに行ったんだ！？」
「だからあんたに言ってるんでしょう。追いかけられますよね？」
ムーディ・ブルースを使えと言っている。
「あ、ああ」
「あのひとも若い女性なんで、どれだけ悪い予想をしてもしすぎることはありません。そ
ういう意味でも、あんたに行ってもらうんです。パートナーのあんたに。
はっきりいってあのひとを拘束できる人間なんて、ぼくにはちょっと想像が付きません。
よっぽど凄い能力者か……ぼくらの知らない大がかりな組織か。……一応昨日からいろん
なところに照会してるんですけど、動いてるところが見つからなくて。
……ちょっとひどい事態になってて、あんたも、あのひとも、どれだけダメージを負っ
ても絶対連れて帰ってください。こっちのメンツもあるんで。ああ、戦略的撤退は認めま
す。そうでなくてもある程度掴んだら連絡入れてください。能力者じゃなかったらグリマ
ルディーニから兵隊借りても徹底的にやります。なに、女神様の救出作戦となったら志願
者はいっぱい出るでしょうよ。
でも、あんたはいつもあのひとに寄りかかるばっかりだから、たまにカッコイイとこ見
せてくださいよ。あのひとにお姫様体験させてやってください」
「そんなお気軽な事態か」
「面喰いっていってもそこはちゃんと弁えてますから、人身売買組織のボスがいくらいい
男でも、入れあげて３日も帰ってこないことはありえません。元警官の酔っぱらいをうち
に連れ帰ることはあってもね。
案外、足をくじいたとかで身動き取れなくなったお年寄りに捕まって、延々介助させら
れてるのかも知れないし」と、空気を変えるためにクスリと笑ってみせる。
「ああ、そりゃ、あり得るな」
アバッキオも、頬の肉をようやっと動かして笑う形にした。
「くれぐれも気をつけて。手に余るようならミスタを呼んでください」
「解った」
「……あんた、ブチャラティがいなくなっても、うちにいてくれますか？」
フーゴがデスクに眼を落したまま、ぼそりと言った。
「行くところがないからな」
「身も蓋もないひとですね」
苦笑して、フーゴが眼を上げた。
「おれは、あいつより１日でも、１分でも先に死ぬのが望みだ。ばかな男だ、でも、少し
は役に立ったとこの顔にあいつの涙を注いでもらうのがおれの理想の死に方だ。あいつが
おれより先だなんて……そんなことはあり得ない。考えたことはない」
眼を向けているのは、フーゴではなくて、その椅子にいつも坐っていた強いひとの幻影
にだろう。
「あんたの個人的なロマンチシズムはいいですから。じっさいそういうことが起きたらど
うするんです？」
「１分でも１秒でも、間を開けないで……かな」と、頭を傾げて、アバッキオは薄く笑っ
た。
「バカップル」
フーゴは両手を頭の上に組み合わせる形に深く頭を垂れて、ほぼデスクに突っ伏した。
「残されたこっちの身にもなってくださいよ」
「大丈夫だ。赤ずきんちゃんはおばあさんと話し込んでるだけさ、きっと」
「そう祈ってますよ。上にはまだ伏せておきます」
アバッキオは、つとめてなにげなく出かけていった。
あとは、アリバイ工作。
「アバッキオ、今日も一人で。ブチャラティはどうしたんだい？」
「……別行動だ。野暮用で」
フーゴは窓を開けて下の路地のやりとりを見おろした。さっそくアバッキオは商店の親
爺に捕まっている。
「寂しいだろう。なんかヴィデオ差し入れようか？」
「……いや」
悪気なく声を掛けてくるが、半ばはこの堅物をからかうつもりもあるようだ。
「べつに疚しいもんじゃないよ」という顔がもうにやにやしている。
「……いやいいから」
先を急ぐアバッキオはもう額に皺が寄り始めている。
「しつこいってアルフォンゾ」
「あんた、レオーネになにを見せようッてんだい？」
「いや、ちょっと面白いヴィデオ・ソフト回してもらったから、アバッキオにもって」
「それはいやらしいヴィデオなんじゃないだろうね？」
「いや、違うって」と、騒ぎになっているうちに、うまく振り切った。
街のひとたちにも、ブチャラティの不在が知れ渡り始めている。
……まずいな……。
「ルチア、ちょっと頼まれてくれない？」
携帯を取り上げて、フーゴは早々と切り札を使った。
「この季節若い女のひとがご機嫌でパリに行って、帰ってこないって用事ってなにかな？」
「なあに？ こんどはアリバイ工作？」
大学を２年で出て、今はスイスのフィニッシング・スクールに行っている友人は、すぐ
さま意図を理解した。
「あたしならシャトーや寺院を見て回ってるだけで毎日幸せだけど。ありがちなところで
ルーヴル。でも、女のひとなら断然お買い物でしょ。もう春夏物が出てるわよね。服にあん
まりこだわらないひとでも、コロンの新作ぐらいはチェックするんじゃない？」
「服にこだわらないひと」。
フーゴが頼ってくるということで、ブチャラティのことである可能性もちゃんと念頭に
入れて答えを出してくれる。まったく助かる救いの女神だ。
「なるほど、参考になったよ、ありがとう」
「ちょっと、お礼はちゃんとしなさいよ。もう何ヶ月逢ってないと思ってるの？」
「いろいろ忙しくて。……だってきみ、ネアポリスにいないんだろ？」
「今度そっちに行ったときに声かけるわ。すっぽかしたらひどいわよ！」
「そんな。喜んで時間をつくるよ」
笑って通話を切った。その笑った顔が、すぐさまこわばって、空々しくなる。
ブチャラティのいないオフィスは彩りも温もりもない。書類をめくる音も穏やかな笑い
声も聞こえない。
こんな場所に、リーダーとして君臨するなんて考えられない。
自分は、参謀でいい。
ブチャラティに、是非帰ってきてもらわなくては。
フーゴはアバッキオが巧くやることを期待していた。
３
その筆舌に尽くしがたい陵辱を受けているはずの美しいひとは、優雅にお茶を楽しんで
いた。
「わたしが思うにはねッ！ アシュレ・ウィルクスはもうある時点からスカーレット・オ
ハラにとっては恋愛の対象の男性ではなくなっているのよッ！ でも、振られたという一
点において、スカーレットはアシュレを忘れ去ってしまうことができないのッ！ かえっ
て、そのことによってアシュレは最大の価値を付加されたんだわッ！ だれも、レット・
バトラーでさえもアシュレには勝つことができないのよッ。
初恋のひとって言うのはそれくらい女にとって大切なものなのよッ！」
眼を黄色に輝かせた娘が、身を乗り出して力説している。
「解るわ。うちのマンマも、今でも『きみとは結婚できない』って昔の恋人に言われた夢
を見て飛び起きるって言ってるもの」
「だって、クリスティナのご両親って、とっても仲がいいって……」
「そういう両親でもそうなのよ。今の幸せと初恋が成就するかは別物なのよ」
「難しいのねえ……」
「そんな、致命的な恋をしてみたいわ」
「それは致命的じゃなくて宿命的じゃないかしら」
「どっちでもいいわ。ああ、ステキ……」
前時代的な装飾過多の裾の長い服を着た少女達が、テーブルを囲んでそんな話に盛り上
がっている。
……これは恋に恋するというお年頃だな。
ブチャラティは、紅茶をゆっくりと楽しみながら、ため息を押し殺しつつ周囲を観察し
ていた。
ブチャラティに直接話を持ち込んできた薬屋の親爺の娘も、いつもはＴシャツにデニム
姿だというのに、クラシカルなドレスを着込んでお嬢様ごっこを楽しんでいる。なるほど、
全然安全な趣味の集まりだ。
「おねえさまは？」と、話を振られる。
「おねえさまは、もう、初恋はなさった？ いいえ、もう、男のひとと、愛を交わしたり
なさってるんでしょ？」
きゃーッ！ っと、文字通り黄色い悲鳴が上がり、少女達がさんざめく。黄色い眼が、
興味深げにひたとブチャラティの顔に向けられる。
「そうだな……好きな人は、いるな」と、いいながら、頭の奥に霞がかかったようになっ
て、その名も、顔も、すぐには浮かんでこない。
「どんな方？」
「どういう風に出会ったの？」
「どうか教えて」
「ええと……」
記憶をたどると、微笑む口元だけが浮かび上がった。
……いいよ、ぼくは太っちゃいけないから。ぼくの分をフロラにあげる。
……××、甘やかすんじゃねぇよ。皆で均等に分けたんだ。フロラ、みっともない真似
をするんじゃねえ。
……艦長、いいじゃねえですか。××は体が商品なんだし。ほら、フロラ、有り難くも
らっときな。
……ありがとう！
……フロラ、ありがとうだけじゃダメだ、「大きくなったらあたし××のお嫁さんにな
る！」もつけねえと。
……え？
……あはは、赤くなりやがった！
……いいよ、予約だけしておこう。フロラは絶対この先美人になるから。
……てめえら、よく聞いとけよ？ ××がもてるのは顔でじゃなくて口でだ。
言葉は荒いが、気のいい人たちに囲まれた日々が蘇る。この前、昔話をしたからだろう
か。黄色い眼をした少女達が、昔の仲間を思いださせるのかも知れない。
……初恋って、そうだっけ……？
……ナランチャ、そこを右だ。ちょと今日はルートを変えよう。
……えー？ そこさっきも通ったじゃん。なんで？
……どうも気になる。そこの通り、なにか臭い。
……そっかなー？
いつの記憶だろう。そう昔のことではない。いつものパトロールのルートを変えると、
何かの予感で心臓がひどく脈打った。何かが、起こる。しかし、それが何かは解らない。
さっきも通った大通りの、交差点。交通整理の警官がいつも立ち番をしているくらいだか
ら、重要な拠点だ。銀行や大きな企業の支店も軒を並べている。ネアポリス市警の青い制
服。いつもの当番警官は立ち話をしたり、通行人の女性をからかったりしているのに、今
日のは真面目に立っている。さっきも見たのに、もう一度その顔を確認する。白い、ええ
と……その顔には靄がかかっている……。
「今日は当たり！」
心臓が、破裂しそうだ、なぜだ、なぜだ、なぜだ……。
……遠回りをさせて悪かったな、ナランチャ。フーゴには言うなよ？
……え？ いいの？ ありがとうブチャラティ！
ナランチャにアイスクリームを奢って口封じをしながら、ブチャラティは恐る恐る自分
の胸に手を当てた。不整脈は収まった。なにかの病気なのだろうか。このところ、パトロー
ルに出ると胸が苦しくなる。だからといってパトロールを代わって貰ってアジトにいると、
さらに居ても立ってもいられない気分になる。闇雲にどこを歩いてもいいというのではな
い。あの交差点の、あの角を見に行きたくなる。いや、あの角だけではない。車に敏感に
なっている。ランボルギーニ・ガヤルド。色も、青だけだ。あの、ネアポリス市警の車に
だけ、反応してしまう。運転者をチェックせずにいられなくなっている。
……いったいどういうことなんだ……？
……ブチャラティ今日はご機嫌だね。
ナランチャも笑顔になる。
……ナランチャ、その……もう一周だけしようか？
今日は「当たり」だから。
……なんだこれは。
ブチャラティは、混濁した記憶に混乱した。
ずっと昔の記憶と、つい最近、と言っても一昨年くらいの、がごちゃ混ぜになっている。
黄色い眼のあの人達にはもう逢えない。優しい笑顔の……
……誰だっけ？
ブチャラティは、頭を抱えた。
その感触も、いつもと違っていて狼狽える。凝った巻髪の、ブルネットのカツラを被ら
されている。自分が着ているのも、少女達と同じ、装飾過多の動きにくいドレス。指には
アンティークな指輪まで。
「おねえさま、どうかなさったの？」
「ああ、昔のことを思い出そうとしたんだが、なんだかうまく思い出せなくて」
「そんなの、無理に思いださなくってもいいんですッ！ おねえさまはおねえさまとして
ここにいらしてくださればッ！」
場を仕切っていた少女が、被せるように言って立ち上がった。
「さあみなさん、お茶のお代わりはいかが？ 音楽を聴きましょうか。こういう日にはか
えってヨハン・シュトラウス二世なんかいいかも知れなくてよ？」
「それはステキ。うきうきしましょう」
「こちらはアナログ・レコードなのよね。クラッシックで、ステキ」
「やっぱり音が違うらしいのよ。その分、針を乗せるときがちょっと、ドキドキ」
「それもまた魅力よね」
なんでも「すてき！」を連発する年頃の少女達の様子に、ブチャラティは微笑んで、回
想をそこで打ち切った。
４
……佳（い）い女だよなァ。
鼻歌交じりに山への道を歩いているブチャラティの姿を取ったムーディ・ブルースを追
いながら、アバッキオは心中独りごちた。
弱冠２０才でネアポリス全市をほぼ掌握し、スタンド能力での対戦でも後れを取ったと
ころを見せたことのないギャングとしての手腕もさることながら、恋人としては自分にい
つも心を配ってくれているし、そうでない行きずりの人にでも生まれながらに持った優し
さは遺憾なく発揮される。そういう、眼に見えない、触れあわないと気がつかないところ
の魅力を抜きにしても。
数メートル先を油断なく歩いている若い女の姿は、老若男女ほぼどんな人間が見たって
好ましいと思うのではないか。
すらりと高い背格好。日頃目立たせるようにはしていないが、きちんと年頃の女らしく
付くべきところにはちゃんとふっくらと好ましく肉が付いている。いつも短く切りそろえ
てあって、頭頂部は浮かないように編み込んで押さえてある艶やかな黒髪。それに縁取ら
れた小さな白い可憐な顔。澄み切った夜空のような青い眼。
その笑顔を思い浮かべるだけで、胸が締め付けられるような気がする。
誰だって、好意を抱くに違いない。
その好ましい女が、３日も、行方不明だ。
そりゃあ、最悪のことを考えざるをえないだろう。
……あいつはノリがいいから、案外大受けで大事にされてたりして。テクニックもある
し。
羞恥だのプライドだので自分が拒否してきているいろんな技術を披露できて、ブチャラ
ティも楽しんでいるかも知れない。
「冗談じゃねえッ！」
思わず吐き捨ててしまって、数歩先を行くブチャラティの姿をしたムーディー・ブルー
スが振り向いたのに驚ろかされる。偶然、ほんの偶然。
……それで、受け身の快楽に気づかされて、溺れてしまっていたら。
口でもケンカでも勝てない彼女を、どうやって連れて帰れるというのだろう。
……手に余るようならミスタを呼んでください。
ああ、参謀殿はさすがだ。あの明るさの奥に底知れない冷静さをもったミスタなら、自
分がいろいろ考え込んでいる間に、「ねーさん、ちょっとごめんよ」なんて軽い口調で冷
静に当て身を喰らわせて、ブチャラティを担ぎ上げそうだ。
……おれの役割は追跡・調査。
自分の内面の迷路に分け入っている場合ではない。
「おいおい、なんだって言うんだ？ おまえたち……ただの動物じゃ、ないのか？」
ブチャラティ’が戸惑ったように足を止める。服の裾が数方向から引かれ、引き留めら
れているようだ。
「この先が危ないんだな？ 大丈夫。見てきてやるよ。ありがとう」
腰をかがめ、撫でてやる仕草をする。
……やめろよ。危険と解っていてなんで行くんだ。
「大丈夫、本体を倒せば元に戻れるよ。ほんの少しの我慢だ」
そう言いおいて、ブチャラティ’は小道の奥、木立から屋根が覗いている瀟洒な山荘に
近づいていった。
「バカヤロー……」
アバッキオは自然、独りごちていた。
あんたは世間知らずなんだよ。幼い頃から苦労して、いろいろひとの知らないことをいっ
ぱい知っているけれど、それでも知っている世界は狭い。恐ろしいほどの判断力や胆力で
どんな修羅場も乗り切ってきているけれど、それは綱渡りの連続だっただろう。
あっちのことだって。
だから、尽くしてくれようというのが解るけれど、それより、教えてやりたかったのに。
女の方が、受け身の方がずっと快楽が深いということに、はやく気づいて、相手に体を、
心をゆだねることを覚えて欲しかったのに。
立ちつくす彼の袖を、誰かが引いた。
クゥン……
黒い円らな眼を濡らして、犬が２，３頭も彼を誘っていた。
「あ、あァ、おまえ達か、あいつを引き留めたのは」
屈み込んで、なにを訴えたかったのか問いただそうとする。
グォォ、フゴ、フゴッ……
鼻を鳴らす声が聞こえ、体重１００キロは下るまいというイノシシが姿を見せた。背後
に回り込んで、どしん、と体当たりでアバッキオを山荘の方へ押し出す。見ると、小道の
陰からはゴリラがなにか言いたげに彼を見ては頭を下げ、腕を忙しく上げ下げする。
「まァ、またお客さんね。でも、今度は男なのね。あんまり嬉しくないわ」
耳障りな音をさせて鉄の門扉を押し開けて、高校生ぐらいの女の子が出てきた。裾の長
い、ひらひら飾りのいっぱいついたドレスを着ている。
眼が、猫の眼のように黄色かった。
「男は、要らないわ。その低俗な心のままに、地を這い回るがいい。
ウィッチィ・ウーマン！」
少女が歌うように声を掛けた。アバッキオは、目の前が黄色になった感覚に襲われた……。
そのあと、その場には銀の毛並みの長毛種の猫が現れた。
「あら、結構いいかしら？ そうね、あなたなら、入っても、よくてよ？ でも、お行儀
良くしなくちゃダメよ」
門扉をゆっくりと閉めながら、ほんの少し、猫が通れるほどのところで止め、声を掛け
る。
銀の毛並みの猫は、すばやく山荘の敷地に入り込んだ。
５
時間は少し遡る。
「すまない、そんなこと聞かれても、どっちがいいかなんて、わたしには解らない。……
読んだことないんだ、その、『風と共に去りぬ』？」
ブチャラティは、少女達に詰め寄られてたじたじとなりながら、持ち前の率直さであっ
さりその場を冷やしつくした。
「読んだことないですって？」
「あ、ブチャラティおねえさまは、幼い頃から家族を助けるために働いてたそうだから」
か細い声で、ブチャラティを知る薬屋の娘が助け船を出した。他に、微かに安堵のため
息を吐いた娘もいる。親世代には、英語圏では名作でも、さすがに２１世紀にもなったイ
タリア語圏では誰もが読んでいるとは言い難いのだ。
「映画にもなってますわ」
それは、第２次世界大戦前だ。
「見る機会がなかった」
両手を開いて肩をすくめてみせるブチャラティは、まったく悪びれない。
「見ましょう。レーザー・ディスクがあります。丁度いいわ。ね？ みなさん」
レーザー・ディスク！ もはや忘れ去られようとしているメディアで、もしかしたら世
界中のロマンス映画を収集してあるのかも知れなかった。
……どういう親に育てられたらこういう娘になるのか解ってきたな。
ブチャラティは愉快な気持ちになっている。
ＡＶ機器のディジタル化が始まった８０年代に、当時最新のハードとソフトを揃えるこ
とができた先見性（？）と財力を持っていたと言うことだ。
「キアラお嬢様……」
恭しく現れたのは、髭をたくわえた初老の執事。皺の中に表情を隠して、さすがのブチャ
ラティにも感情を窺わせない。
この山荘に招かれてから、３度の食事は家政婦が用意しているようだ。差配はこの執事
が行って、あとは大人の気配がしない。
……あれ？ 食事は何度採ったっけ？
ブチャラティは、時間の感覚が狂ってきているのに初めて気がついた。
……さっきのは午後のお茶で、昼は２回、いや、３回食べたっけ？ チェーナは豪華な
フル・コースで、昨日が牛肉の網焼き、一昨日が仔牛肉の煮込みで、あれ、なんだかもう
一回鹿肉だかを振る舞われた覚えがあるぞ、じゃあ３日経ってる？ まずいんじゃないか？
フーゴが心配してる。艦長に叱られる。××は心細いだろうな、携帯はどうしたっけ、ケ
イタイってなんだ？ 艦長って誰だ？
おまえは誰だ？ わたしの名を呼ぶな、そんなに泣きそうな顔をするな、わたしはここに
いるから、殴られても、吐かれても、それでも一緒にいられるだけで幸せだから……。
ブチャラティは、混乱する頭を抱えて身を二つに折った。
「……解ったわ。あたしが出ます。おねえさまたちに『風と共に去りぬ』をお見せして」
「承知いたしました」
「ちょっと失礼するわ。皆さん、楽しんでいらして」
優雅に微笑んで、その少女は部屋を出て行った。
……やっと終わった。
正直なところ、ブチャラティには拷問。毎年のローマの支部長会議で各支部のその年の
成果を延々報告されているときの方がまだましだった。
……なるほど、その色男には既に１回完膚無きまでに振られているのに諦められなかっ
たというわけなんだな。
根があっさりしているブチャラティには、その時点でもう別世界の話だ。廊下で二人、
行き会ったらどうするのだろうという広がったスカートと同じぐらい理解不能。
……自分に興味がない色男と、自分を深く愛してくれるそこそこいい男とだったら、自
分を愛してくれる方がいいに決まってる……？
あれ？
……ブチャラティ、おれとつきあえよ。
なんか、そんなこと言われたような気がする。
顔も思い出せない誰か。
……今、そういう余裕ないから。
そう言って逢う度断っているうちに、相手は抗争で死んでしまった。
そういう稼業。
だから、声を掛けることもできなくて。
誰に？
ええと……ああ、そう、自分に眼もくれない色男。青い服の似合う……。
誰だっけ？
ブチャラティは無理をするのをやめた。思考を方向転換する。
……服がないからってカーテンで服を作るなんて……日に焼けてたいへんなことになっ
ていやしないか？ ああいううちはカーテンも日に焼ける前に作り直してるんだろうか？
そういえば、ポルポさんのお屋敷もカーテンはいつも買ってきたばかりみたいだったな……。
と、またしても回想に入り込む。
……おい、あんた達、待ちなさい。
呼び止められて、二人して飛び上がった。青い服の似合う「彼」。ついさっきの角で、
いざこざを起こして逃げ回っていたチンピラを丁度見かけて、ナランチャが締め上げたば
かりだった。ナランチャは膝をすりむいて血を流していた。
……怪我をしてる。車に救急キットがあるから手当てしてやろう。
……結構です。家が近いので。
狼狽えないようナランチャに眼で合図して、ブチャラティが答えた。
……遠慮するな。市民のための警察だ。そのくらいの役にぐらい立ってやるさ。
気さくに言って、停めてあったパトカーから救急キットの箱を下ろすと、屈み込んでナ
ランチャに脚を出させ、手際よく消毒して、絆創膏を貼ってくれた。ブチャラティは、そ
の手元より端整な顔をじっと見守っていてしまった。
……どうもありがとうございます。
……姉弟、なのか？ 最近よくここを通るな。
姉弟に間違われたと知ってナランチャがとたんにうれしがる。覚えられたと知って、ブ
チャラティの胸にも灯りが点る。
……家が近いんです。
ウソ。ずっと、通りの奥の奥のアジトから、わざわざルートを変えてまで見に来てるん
です。
あなたを。
……あァ、それでか。
少し笑って、その警官はナランチャの頭をぽんぽんと叩いた。
……坊主、美人の姉さんと仲良くな。気をつけて。
……どうもありがとうございました。
頭を下げて、歩き出す。
……美人の姉さんだって！
顔が自然と緩んでしまう。「彼」の叩いたナランチャの頭を、なんとなく撫でたり抱き
かかえたりしながら歩く。
……ナランチャ今日はお手柄。
……へへ、ブチャラティ今日はご機嫌だな。
……そりゃ、美人って言って貰えればね。
……えーそんなの事実じゃん。じゃーおれ毎日言うよ。ブチャラティは美人、ブチャラ
ティは美人、ブチャラティは美人。
……おーそーいッ！ 最近パトロールの帰り遅いですよッ！ 道草くってますねッ！？
フーゴがアジトの２階の窓から顔を出して怒鳴りつけてきた。
……うわ、マジギレ寸前。
……急ごう。
二人して猛ダッシュした。
５
「みなさん、お待たせして済みません。あら、丁度終わったところでしたのね」
キアラが戻ってきた。懐に、なにかふわふわしたものを抱いている。
「なあに？」
少女がひとり、立ち上がって覗き込んだ。
「気をつけて。この山荘の庭に紛れ込んでましたの」
「まあ、こんな豪華なペルシャ。野良なんてことありませんわ」と、横に座っていた少女
が眼を丸くする。
たしかに、銀の毛並みと言い、透き通ったブルー・アイといい、とてもきれいな猫だっ
た。周囲を見回していた猫は、キアラの腕から飛び降りるなり、ブチャラティに直行した。
「うわ」
「まあ、おねえさま、猫お嫌い？」
キアラが眼を輝かせて笑った。
「いや、とくに嫌いじゃないが……この猫、おかしくないか？ なんでこんなにわたしに……」
猫はブチャラティに飛びついて、するすると膝をよじ登った。膝の上にたどり着くと、ひっくり返っ
て腹を見せる。
「おやおや。どうしたっていうんだ？」
ついつい手を当てて撫でてみるが、腹に、なにか傷跡があった。あわててブチャラティが手を引っ
込めると、なにか訴えるような眼をして鳴く。「ニャーゴ」ではなく、「グルル」と、凄みのある声
で。
「痛かったのか？ ごめんな。そんなに怖い顔をするな」と、ブチャラティは喉を撫でてやろうとす
る。
「おねえさま、わたしにも抱かせて。なんて綺麗な猫ちゃん」
横から、大きなリボンを頭に飾った少女が手を伸ばす。
フゥーッ！
「痛ッ！」
猫が威嚇の声を上げ、爪を出した前脚で少女の手をかすめたらしい。
「まァッ！ 乱暴な猫だこと。お怪我をなさったのね。
セヴァスティアーノ！ 怪我の手当を！ それから、猫を追い出して！」キアラは勝ち誇って宣言
した。猫はブチャラティの膝を離れまいとドレスのスカートに爪を立てて身を固くする。
「こら、離れないか、お客様のドレスが傷んでしまう、こら！」
「おねえさまから離れなさいよッ！ 四つ足で地を這うものの分際でッ！」
キアラの眼がまた黄色く光った。猫は意識を失って、運ばれていった。ブチャラティは、スタンド
が発現する気配を感じたが、それが何を意味するかを考える力をもう失っていた。
「おかしな猫ちゃんでしたわね」
「まるでおねえさまのことが、好きで好きで堪らないみたいな」
「それを言うなら、運命の恋人、のような」
「ええそうよ、魔法で猫に変えられてしまった王子様なの」
「おねえさまにキスしていただくともとの姿に戻れるのね」
「よしなさい、それじゃあキアラが魔女ということになってしまうぞ」
せいぜい気の利いた冗談のつもりで、ブチャラティは笑って見せた。黄色い眼をした少女達は言葉
もなく押し黙った。
６
誰言うとなく話題が変わって、「ジェイン・エア」におけるような女性からのプロポーズが許され
るかどうかという話になった。
「ええとそれは、またアメリカの話？」というブチャラティの質問は、礼儀正しく無視された。
「ジェイン・エアという作品の画期的なところは、美男美女じゃなくても燃えるような恋ができる、
恋をしてもいいんだと言ったところにあるんですッ！ 必ずしも、当時の社会状況に鑑みてあり得な
い、いいえ、今のわたしたちの感覚でだってあり得ない女性からのプロポーズは、それは壮大なカタ
ルシスを物語にもたらすことはあっても、逆に絵空事感を感じさせたと思います。言ってしまえば、
いくら愛していて、そのままでは事態が打開されなくっても、女性の側からプロポーズなんて、……そ
こまでするかって感じ。ある意味冷めました」と、眼鏡を掛けた赤毛の娘が力説する。
「そんなことッ！ 女性から結婚を申し込んだっていいじゃないッ！ それこそ絵空事なんだものッ！」
と、反対意見が飛び出した。
「だって、あのスカーレット・オハラでさえ、結婚は申し込ませるものだったのよッ！？」
「自分の方から結婚を申し込むなんてッ、もし巧く行かなかったらの時のことを考えるとくらくらし
てしまうわッ！」
そんなバカな。
ブチャラティは腕組みをして話に耳を傾けながら心中吐き捨てた。
相手から結婚を申し込ませるなんて悠長なことをしていて、そのうちに相手が死んでしまったらど
うするんだ？ 後悔したって、墓石と寝るわけにはいかない。
今日は、顔を覚えてもらった、今度、なにか差し入れでも持って、素性を明らかにして挨拶に行こ
うか。お堅いやつらしいから、慣れ合いはしないと言って突っ返されるだろうか。
そんなことを考えているのも楽しかった。
考えているだけで毎日楽しくて、好意を拒まれるのが怖くて、実際のアプローチは一日送りにして
いた。
そうやって近づいていれば、結果は違っていたかも知れない。
少しずつ互いに知りあって、あの石頭に、現実社会ってものを教えてやれたかも知れない。立場が
違うから、向こうがちゃんと弁えて、恋に発展することはなかったろうけど、友人として笑い合うぐ
らいのことは、すぐにできたかも知れない。
その方が良かったのかも知れない。
自分の方は思うに任せぬ関係に泣くことがあったかも知れないが、あの運命の日が来ることはなかっ
ただろう。
××が生涯消えぬ十字架をその背に負うことはなかっただろうから。
どんなに想っても、祈っても、それは代わりに負ってやることも、軽くしてやることもできない。
あんなにきれいで強かったひとが、苦しみもがくさまを、横から見ていることしかできない。
「やっておけばよかったという後悔は、やらなければよかったという後悔より苦いらしいぞ」
ぼそり、と少女達に向かって言葉を投げてみる。
一瞬、少女達は静まりかえった。
「ほらッ！」
「ねーッ！」
「やっぱりおねえさまの仰ることは違うわッ！」
「じゃアやっぱりおねえさまも、女性から積極的に声を掛けるべき派なんですか？」
「ああ、いや、それは場合に応じて……」
やっぱり自分が愛されているという確信が欲しい。額に皺を刻んで、いつも辛そうにしている姿を
見ていると、嫌がられるのを承知で、自分のことをどう思っているかを問いただしたくなる。もう生
きていたくないという人間を生かしたのはいけないことなのか、反社会的な稼業に引き込んだのは迷
惑だったのか、女に養われるという形が我慢ならないのか、次々に聞いてはいけない疑問が胸の中に
溢れてきて、切なくて堪らない。
……××、わたしのやったことは、余計なことだったのか？
内心の葛藤を振り払うように、ブチャラティはなおも口を開いた。
「それはもちろん、自分の中に自信を持ち続けるための燃料のようなものとして、相手から告白させ
るに越したことはないな」
淑女の嗜みとか、そういうものとは関係ない。
……どうせわたしはギャングだ。それしか生きる道がなかった。嗜みとか、正しいあり方なんてく
そ喰らえだ。
「おねえさま、そのしぐさはなんだかエレガントじゃなくてよ？」
奥歯を噛み、アームチェアに深く背を沈めて腕を組んだ姿をみとめて、キアラが注意してきた。
「上等だ。わたしはエレガントじゃなくていい」
カップを取り上げ、喉を鳴らして紅茶を飲み干した。
「お嬢さん達に教えてあげよう。
わたしは自分から彼を誘った。全然ロマンティックなことなどない。彼が欲しかったんだ。下町の、
汚い場末の酒場で、有り金もなく、酒場を守る黒い服の男達に袋だたきにされて地に這っている惨め
な男を、拾って自分のものにした」
息をのむ声が、耳に届いた。
「今手に入れなくては、永遠に失ってしまうと思ったから。そして、失って後悔するのはごめんだと
思ったから」
なにか、窓の外で変な音がしている。引っ掻くような、擦るような。
……ああいう奴らな、できるなら１１月までになんとか行き先を作ってやるんだ、いいな、ブチャ
ラティ。
橋のたもとや公園の隅に一人、二人ウロウロしているホームレスに声を掛けて、教会や一日限りの
仕事を紹介してくれる事務所を教えてやって、日に焼けた赤ら顔の……艦長！ そうだ、艦長はそう
言った。
……１２月になると、もうヤバイ。周りは聖誕祭の準備でうかれ出す。そんな季節に、てめえは帰
る家もなく野宿だ、寒さと、飢えと孤独とで、奴らの方に生きようっていう気がなくなってくる。年
が明けた頃が一番来るかな？ 丁度７日目ぐらいに寒波が来るもんだ。その頃、永遠に冷たくなって
る。始末するこっちも寝覚めが悪いからな、早め早めに行き先作ってやって、なんとか冬を越させる
ようにするんだぞ。
それほど行き届いた対策を採っていても、２，３年に一度は、冬の戸外で、冷たくなっているひと
を見た。それは自分がシマを引き継いでからもそうで、フーゴも最初にそれを見たときは頬を引きつ
らせていた。それだから、あの子がナランチャを拾ってきたときも、絶対自分の眼の届く範囲でそう
いう人間を出さないという意志が感じられたので、その場で手近にあったスパゲティをそのまま与え
た。
その姿勢は、ナランチャにも受け継がれているはずだ。
ナランチャを拾ってからは、自分のシマで行き倒れを出したことはない。
……それが、わたしたちのプライド。
誰も自分を救ってくれなかったから、自分で運命を切り開いた。自分がなんとか立っていられるよ
うになったからには、自分の目の前に倒れ伏すひとをなくす。
……ブチャラティ、アレ何とかしてくれよ。
苦情が入って、やっと消息がつかめた。
……ケンカっぱやいんだよ、困ったことに。うちの黒服達を総なめで。金は払っちゃくれるんだが、
客たちが怖がって寄りつかなくなっちまって。
……なんでもカラビニエリとの対抗戦で３人抜きをやったって。もう、体もでかいし、誰も相手し
たくないってのに絡んでくるんだよ、殺して欲しいって気がアリアリで。川向こうなら、「そんなに
死にたいなら死なしてやりな」って、タルティーニさんとかが言いそうなんだけど、それも寝覚めが
悪いしよ？ 始末とかも手間だし。頼むよ。
……しょうがないな。わたしが行こう……。
見つけた！
あの端整な顔は無惨に痩けていたけれども。プラチナの髪は伸び放題に乱れていたけれども。
あの彼と、再び逢うことができた。
「相手の了解を、得もしなかった。ただうちへ連れて帰り、わたしが服を脱がせ、わたしが彼を導い
て、この身に納めた。
そうしたかったから。
嗜みなんかくそくらえだ。そうしてわたしは彼を手に入れた。酒場の金をきれいにしてやって、仕
事の面倒を見てやって、毎晩うちに来てもらって、彼はまだわたしの手の中にいる。
おとなの関係なんて、こんな即物的なものだ。夢を壊して申し訳ない」
胃液の匂いのする唇、垢じみたジャケット、優しい言葉を掛けてやっても殴られて。なんの潤いも
ない行為だったが、ブチャラティにとっては大切な思い出だった。
残らず事実をぶちまけてやっても、ブチャラティの脳裏にまだその大切な彼の顔は像を結ばない。
よほどの暗示がかかっているのだろう。
……負ける、ものか……ッ！
「……素晴らしいわ」
誰かがぽつりと言った。
「おねえさま、ステキです」
「おとなの恋って、そういうものなんですね」
「飾らないなまの迫力がありました」
「おねえさまはご自分を飾ったり偉く見せたりなさらないから」
「それは本当にお強い方のなさりようよね」
「おねえさまのように、ご自分の仕事を持っていらして、ちゃんとご自分の足で立っておられないと
できないのだわ」
「やっぱり女性は自立しなくちゃ！」
幻滅し尽くしたであろうと思われたのに、少女達の気持ちは、その場の雰囲気で一気に針が振れる。
……なんなんだ、いったい。
ブチャラティはあっけにとられた。と、窓ガラスを割ってなにかが飛び込んできた。ブチャラティ
は瞬時に身構える。
「あ、さっきの！」
銀の毛並みを乱した猫が、再びブチャラティに迫る。ドレスを駆け上って、胸の上に踏ん張って首
を伸ばす。氷河のような淡いブルーの眼が圧倒的ななにかの想いを込めて見つめてくる。
ニャァ〜ゴ
切ないまでの鳴き声で、猫は顔を擦りつけた。自分の絹糸のような毛並みを誇るように、背を手に
押しつけてくる。
……だから、おれについて難しいことは考えないでくれ。
熱は下がったと言っていたのに、顔を朱に染め、言葉を選び選び言う姿が蘇る。顔、顔も！ つり
上がった眉、秀でた額には皺が標準装備で。通った鼻筋に、固く結ばれた形の良い唇。
「レオーネ、おまえなんだな？」
嬉しそうに口を開けた猫の口に、ブチャラティは思わず唇を押しつけていた。
「ダメよッ！」
キアラが制止の声を上げたときには、もう、銀の猫はスタンド能力の支配を逃れていた。
「ブチャラティ、この嬢ちゃんは、能力者だ」
長いジャケットの裾を翻して、プラチナ・ブロンドの男が肩をいからせて立った。
「ああ、なるほど。それでわたしも延々お茶会にご招待されていたわけだ」
頭からカツラを引きはがしながら、ブチャラティが晴れ晴れと笑った。
「ギリシア神話にいたぜ、屋敷に近づく男を豚に変える魔女がな」
体にまだ残ったガラスの欠片を、身をひと振るいしてアバッキオは落とす。少女達はそのさまをお
伽噺のクライマックスであるかのように見つめている。
「豚じゃなくて良かったな、お互いのために」
余裕でブチャラティは笑って見せた。
「キアラ、あなたの能力は、その眼だな？ 催眠状態にして、女の子は仲間にして、迎えに来た男は
動物に変える。
あからさまに犯罪行為というわけではないが、お友達は未成年ばかりだ。うちに帰してあげて、ま
た遊びに来てもらってはどうだ？」
「イヤよ！」
キアラは言い張った。
「あの人達なんか大キライ！ 勝手なのよ、大人なんて！
あれだけご本を読みなさい、ご本には世界の全てが入っているわなんてひとを焚きつけておいて、
いざあたしが大きくなったら、キアラ、あなたは本の世界に入り込みすぎているわ、もっと現実をご
覧なさい、そんな絵空事ばっかりみていちゃいけないわって、どういうことよ！？
だからあたしは現実にお友達をつくったのよ？ あたしといっしょ、本が大好きで、現実の頭の悪
い乱暴で下品な男なんかより、本の中の理想的な男の方が好きなお友達を！ そして、頭の悪いお友
達とはできない物語についての深く熱い語らいをしてただけじゃないの！
現実なんか汚いわ！ あなたはそう思わないの？」
「正しいな」
アバッキオが肩をすくめた。
「全くもって異論はない」
ブチャラティがため息を吐いた。
「だが、わたしには遊んでいる余裕なんかなかった。楽しみのためになんか、本を読む暇はなかった。
汚い現実に対応して、泥を啜って生きるしかなかったんだ。キアラ、あなたは恵まれている」
「お説教なんか聞かないわ！」
キアラの叫び声に反応して、奥から執事が出てきた。
「お嬢様に何をする！」
他に武器を置いていないのだろう、モップの柄を手にアバッキオに殴りかかってくる。
「スティッキィ・フィンガーズ！」
鬱憤を晴らすように、ブチャラティがそれを１０p刻みに切り刻んだ。
執事は、信じられないものを見たかのように眼を丸くしている。
……初めて表情を変えるところを見たな。
ブチャラティはふと愉快な気持ちになる。
「聞き分けがないならお尻ペンペンするぞ」
ずいっと、アバッキオが半身を乗り出した。
腰を抜かしてその場に坐り込んだキアラ「お嬢様」は、わんわん泣き出した。緊張の糸が切れて、
スタンドが解除されたのか、あまりにも非現実的な事態に眼を覚まさせられたのか、少女達は眼に生
来の色を取り戻し、ざわざわとここ数日の記憶についてお互いに確かめ合っていた……。
６
「ああ、着いた？ ええちょっとした恩を売っておこうと思って。それを買いに行っていたってこと
でいいじゃない？」
ルチアからの電話に、フーゴは逃げ回りながら出ている。
「いや結構。いまちょっと電話だから……ごめんね。
ありがとう。おかげさまでアリバイはバッチリ。やっぱりきみにはみんなお見通しなんだね」
「それは偶然。キアラって、あたしと小学校が同じだったんだけど、あの子はそんなに勉強が好きじゃ
なかったから普通に中高、年の通りに行ったのよね。昔ッから本が好きで、それもばりばりのグラン
ド・ロマンばっかり。なんでも『赤毛のアン』はギルバートが解りやすい『女の子に好意を持つあま
りいじめてしまう男の子』で、あとで恋に落ちて結婚するから許せるけど、『若草物語』はジョーと
ローリーが結婚しないのは許せないから二度と読まないって言うような子で」
「ええと、それ読んどかないと上流階級のひとと話ができない？」
フーゴは守備範囲外の書名が出てきて面食らっている。
「女の子が読むものだから、それも、英語圏。大丈夫、あたしも１０ページ読んで脱落した」
幼稚園の頃から建築の写真集を見ていたという天才児は感覚が違う。
「親とケンカして山荘に籠もって何かしてるって聞いてたんだけど、まさかそんな変な力を持ってた
とはね」
「ルチア、くれぐれも内密にね？」
「誰も信じやしないわよ。それで、女の子達はちゃんと家に戻ったんでしょ？」
「いまはうちに入り浸ってるよ」
「なにそれ？」
「おねえさま、今日はどんなお紅茶を召し上がる？」
「アバッキオさんは？ 今日はわたしがマドレーヌを焼いてきたの」
「みんな、気持ちは有り難いが、ちゃんと学校には行ってるのかな？」
たじたじとなりながら、ブチャラティが質した。
「もう休みです、おねえさま」
「心配してくださってうれしい」
「こうやって見るとほんとうにお似合い」
「グランド・ロマンが目の前で見られるなんて。なんてステキ」
「お二人の愛の奇跡、今度はあたしが小説にして全世界に発表しようかと思うの」
「わぁ、ステキ。できあがったら読ませてね」
「じゃあ、挿絵はあたしに描かせてね」
「……なんかもっとやばい方向に行ったみたいなんだよね」
「どういうこと？」
電話口には、きゃあきゃあいう声が遮りようもなく通っているようだ……。
「フーゴ、あなたも加わって。おねえさまとアバッキオさんの愛を見守る仲間ですものね、あたした
ち」
「さあ、こちらに来てお茶を一緒しましょうよ」
「フーゴ、あなたも、『変身物語』の中のナルキッソスみたいよ」
「いいえ、アドニスじゃないかしら、ふふふ……」
笑いさざめく声が響いた。
「フーゴ、楽しそうね？」
電話の向こうのルチアの声が、重くなった。
翌日のこと。
「あれ？ 今日はあの女の子たち来てねーの？」
ミスタが当てが外れたように言った。ブチャラティたちを目当てに来ている少女達は、当然ミスタ
には眼もくれないのだが、それでも女の子に囲まれるとなんとなくいい気持ちになっていたのだった。
「この世には、スタンド使いよりコワイひとがいるんです。そのひとを怒らせたみたいで」
フーゴが首をすくめながら言った。
（０７−０５−０９）
＜おまけ＞
「実のところ、おれは大穴はレオーネなんじゃないかと思ってる」
ネアポリス市警、巡査達の控え室では無邪気な会話が交わされている。
「まさか！ おまえ、大胆だな」
「しかし、ここはくやしいがジョヴァンニ１点張りで」
「それが定石だよな」
「なんの話をしているんだ！ 警官がおおっぴらに賭博か！？」と、通り抜けざまにその噂のアバッ
キオが一喝した。
「おお、石頭が来たぞ」
「固いこと言うなよ、賭けてるのはせいぜいカプチーノの１杯だぜ」
「罪のないお遊びさ、おまえはどう思う？」
立ち上がった新人警官は、手をうんと伸ばして背の高い同僚の頭を脇に抱き込んだ。
「なにがだよ？」
「最近よく通るだろ？ ブルネットの美人。弟連れで、よく、おれたちが立ち番してる角のとこ」
「あ、ああ」
「このネアポリスの下町の守護女神なんだってさ」
「そりゃ、言い過ぎなんじゃ？」
ネアポリスの海のような静かで美しい眼をした若い女、レオーネも気になっていた。しかし、眼を
引く派手さはない。その姿がふっと視界に入ると心が安まる、そういった種類の美しさだ。
「去年まではそんなにこっちに歩いてくることはなかったんだが、ここ数ヶ月、おれたち新人が立ち
番するようになって、急によく通るようになったんだって」
「ほう？」
たしかに、１日に２度３度見かけることもあるような気がする。
「だから、先輩達に言わせれば、おれ達のうちの誰かがお目当てなんじゃないかって」
「だから、一体誰がその幸せ者かを賭けていたのさ。おまえは誰だと思う？ それとも、もう焼き菓
子ぐらいは貢がれたか？」
「まさか。それで、一番人気はジョヴァンニというわけか？ 下らん。班長が聞いたら怒るぞ」と、
堅物はそのまま歩き去ってしまった。
「そりゃあ、怒られるよなあ」
「ああ、あのきれいな守護女神は、パッショーネのギャングのチーム・リーダーだってんだろ？」
話していた二人は、顔を見合わせて首をすくめた。
「先輩が言ってたぜ、あれでもう７年もキャリアがあるポルポの秘蔵っ子だって」
「イアイかなんかの達人で、あいつにやられると体中切り刻まれるんだってな？」
「なんでもない壁からにゅって出てきて、笑って、おや、見られたか、これで目こぼししてください、
つってウィスキーのミニボトル差し出したって」
「そりゃ、酒持ってそんなこと報告したって怒鳴られるだけだしな、酔ってんのかッて……」
「ええ〜？ そういうことならおれコマしてやりましょうか？ 班長。そんで寝返らしちゃおう。ポ
ルポの秘蔵っ子ならそうとう情報引っ張れますよ？」と、ジョヴァンニはあくまで軽い。
「やれるもんならやってみな、はは」と、班長は余裕の笑顔を見せた。
「わしは案外ああいうのはレオーネがタイプだったりするんじゃないかなと思うがね。ひとは正反対
のものに引かれるというしな。
だが、レオーネじゃあ、相手に同情して入れ込んで、それこそ抜き差しならなくなって心中しちま
いそうだから。ジョヴァンニ、期待してるぞ」
「でも、おれは案外レオーネが当たりだと思うんですけどね」と、マルコが呟いた。
「レオーネが立ち番してると、２度のところが３度回ってきたりするから。３度回ってきたの見たっ
ていうのは、レオーネ以外いないから。話しかけるのは、ジョヴァンニの時が多いかもだけど、そう
いう時の眼は、話してても必ず誰かを捜してるから」
市警内でも気がつくひとは気がついていたという話。
＜別解＞
「一応聞いときますけど、ケンカとか、してませんよね？」
フーゴに尋ねられて、アバッキオはその前夜のことを脳裏に再生した。
「そうそうなんにでもちょっと待てだとか恥ずかしいだとか言われては、なんにもできないぞ」
顔に掛かる髪を頭を一振りして払いのけて、ブチャラティは苦笑した。
「なんにもってこたねぇだろ」
ベッドの上に身を起こして、アバッキオはふて腐れた。
「なんにもだ。レオーネ、もっと愉しませてやるから聞きわけておくれ、さ」と、笑った顔は近づい
て、耳元で囁くなり、肩を押して横たえようとする。それを、肩を突っ張らせてアバッキオは拒む。
「いやなものはいやだ」
「そんな乙女（おとめ）みたいなこと言わないで」
微笑みは苦笑に変わって、押しっくらがベッドの上で始まる。
「処女（おとめ）とヤったことがあるってのかよ？」
「おまえに自覚がないのなら、ないなぁ」
ブチャラティまだ笑った顔なのを見て、アバッキオは押し戻す力を急に抜いた。中学校の、物理の
初歩。両方から押し合っているものが静止しているとき、それは両方の力が釣り合っている。そのと
き、一方の力をなくすと、もう片方は押しているエネルギーが余ってそのままに押している方向へと
動く。
「うわ」と、ブチャラティは反動でアバッキオの胸に倒れ込んだ。
「黙って、横になっててくれないか」と、それを抱き留めてシーツの上に転がしおいて、覆い被さっ
てアバッキオが囁く。
「いやだそんなの。つまらない」
精一杯の余裕を見せてみたアバッキオが、固まった。
ブチャラティは、さすがにまずいと思って言葉を繰り出した。
「いや別に、今のはおまえがヘタだという意味じゃないぞ」
実に冷静に、いつもの端正な面持ちを崩さずに。
「じっさいわたしは常日頃そういうことは思っていない」
真っ直ぐにアバッキオの顔を見返しながら、言葉はよどみなく続く……。
「主導権を取っておまえを支配したいというのとも違う。そうだな、能動的に行為を愉しみたいとい
うか、いや、やっぱり実のところ……」
たっぷり時間を取って自分を取り戻した純情男は、口で勝てない恋人を無視して、服を着始めた。
「……邪魔したな」
一言だけ言い捨てて、そのまま自分のフラットに帰った。
「……再生終わりましたか？ ケンカしたんですね？」
泣きそうな顔になるアバッキオに取り合わず、フーゴは畳みかけるように確認して、このバカップ
ルと呟いた。
「フーゴ……」
「あいにくぼくは相談に乗ってあげることはできません。未成年で、経験がありません。そういう話
はエマヌエレ司祭にでもどうぞ。献金ははずんでありますから、喜んで相手してくれますよ」
「くっ……」
くるりときびすを返して部屋を出て行ったアバッキオを見送って、フーゴは教会に電話を入れた。
「ああ、ブチャラティのところのフーゴです。エマヌエレ司祭様を。
いつもお世話になってます。すいませんが、おたくの懺悔室の準備をしておいてください。今丁度、
うちの『アニキ』が出て行ったところです。ええ、毎度まいどすいません。今度という今度は現代イ
タリア男性として恋人の愛にいかに応えるべきかをじっくり教えてやってください」
「司祭様〜〜〜ぁ！ おれは間違ってませんよねッ！？ 男たるものが、恋人に××××××されちゃ
いけませんよねッ！？」
電話口に既に聞き覚えのある泣き声が入ってきて、フーゴはため息を吐いて通話を切った。
＜蛇足＞
ええと、深読み禁止で。批判とかをやっているつもりはありません。
本ばかり読んでいて親にもっと現実世界を知りなさいと言われたのはわたしです。
そんな、大人の言うことをいちいち真に受けちゃいけません。ポルポじゃないけど、打ち込んで全て
を忘れられるような何かを持っているならば、それはそういう楽しい時間を持ったものの勝ちです。
どうぞ、その何かを大切にしてください。あと、大好きな本の登場人物について熱く語り合える友は
やっぱり欲しいでしょう！ 友よ遠方よりウエルカム。イズント イット ハッピー？ 熱く語り合
いましょう。
イタリアの今の、「ハリーポッターはもう卒業」な年頃の女の子のはまってる本って何か見当が付か
なかったので、とりあえずいいうちの子なら古典かと思って「風とともに去りぬ」と「ジェイン・エ
ア」を出しました。ストーリーについてはウィキペディアでさらった程度なので、あまり突っ込まな
いでください。いや、「風と共に去りぬ」は読んでみたけど、数十ページも読んでもまだ冒頭のパー
ティーが始まらないので挫折しました。文庫で5冊の大河だしな。映画はあれで刈り込んだ方なんだな
あ。
よく考えたら両方とも英（米）文学だった。それじゃやっぱりイタリアの女の子は読んでない？？？
だってイタリア文学ってなに？ デカメロン？（古すぎ）
「ハイジ」と「フランダースの犬」は日本でしか有名でない名作って話は聞くけど。「赤毛のアン」
や「若草物語」も、ひょっとして英語圏（と翻訳大国ニッポン）以外では読まれてないのかしら？
先にプロットができていたのでシリーズ１６作目で採番したのに、よく解らないまま見切り発車した
その１９「不治の病」や旬のもののその２０「ベルザライオネス」が先に書き上がっちゃって、完成
したときにはまた採番のやり直し。「リヴァース」がシリーズ化するとシリーズ内シリーズになって
複雑になるからそのうちリスト作り直すことになるかも。
艦長は「３日無断欠勤の時は即座に次席に権限委譲」「海軍かよ！？」のやりとりから生まれたキャ
ラ。「不治の病」を先に書いたおかげでキャラが固まった。となれば逆順も意味があった？ 丁度３
月に出たラノベにそういうシチュエーションがあったが、実際海軍にはそういう習慣（緊急時のため
の細かい上下の別）があるらしい。
調べ直したら、ランボルギーニ・ガヤルドのパトカーとしての配備は２００４年以降。１９９９年に
は辞めてたアバッキオは間に合わない！！ それに、スーパーカーを町中でパトロールに使っても無
駄ァ！ とぼんやり思ってたら、配備は高速警察で、高速道路のスピード違反取り締まり用（あと、
移植臓器搬送の特別任務も！）だった。それなら納得！ まあ、どうせドリームなお話だからその辺
はスルーしてください。それで、普通の町中を流してるパトカーはどんなのなんだろう？
イタリアの警察に詳しいサイトさんによるとフィアットやアルファ・ロメオといったあんまりスーパー
じゃない車（失敬！）に加え、スバル・レガシィが結構お役に立ってるらしい。向こうでも頼りにさ
れる日本車。とっても意外だった。カラーリングは皆コバルトブルー×白。キレイよ。