王様の耳はロバの耳
その朝（５５）
１
春になると、人間だって、いや、人間こそが籠もっていた家から出てきて陽光を浴びる。
果てのない自虐の連鎖から解き放たれて、ようよう新しい生活に慣れてきた男が、ネアポ
リスにもいた。
ネアポリスの下町の外れ、郊外へ延びる大きな道路の起点にほど近いバールの前に大き
なオートバイが止まった。並みの体格や度胸ではとても御しきれない、まだ真新しい、鉄
の馬。乗っていたのは、銀の髪を背に垂らした若い男。ヘルメットを取ると、白い端整な
顔が現れた。溜め息に出迎えられて、その男は店に入っていった。
「よ、よう、アバッキオ、いいバイクだな。よく走るだろう？」
咳払いで息を整えて、年かさの男が声を掛けた。
「ああ」
短く答えて、ようやくなじんできた街の仲間に愛想がなさ過ぎと反省したか、言い添え
る。
「まだ慣らしの途中だが」
おや。
ほんの少しの笑みが、知らず、その唇の端に浮かんでいる。
「ああ、おまえさんがそういう顔をするんだったら、ブチャラティも買ってやった甲斐が
あるってもんだ」
この名実ともにネアポリス１の色男の微かな笑顔につり込まれて、ひとりがうっかりと
口を滑らす。
そう。この立派な鉄の馬はかれが額に汗して働いて得たものではない。かれに惚れ込ん
だこの街の女神が、かれの機嫌を取るために買い与えたものだ。女に養われ、愛玩される
身であることを、繊細なかれが誇りには思わない性分であることはもう知れている。
……おい！
少し前なら、それは変わりやすい春の天気のようにすぐさま暗雲が立ちこめ、雷雨にも
なろうという失言だった。
「そんで、ブチャラティは後ろに乗せてやったのか？ 二人してツーリングにもいい季節
になったろ？」と、また別の親爺が場を繋ぐ言葉を掛けて、なんとか取り繕おうとした。
「いや。あいつのことは乗せない。……なんだって乗せなきゃならないんだ？」
アバッキオはただ眉間にいつもの皺を寄せただけで素っ気なく言い捨てた。
集まっていた連中の息を呑む音だけがバールの中を通り抜けた。
アバッキオはそれに構わずまっすぐカウンターに進むと、ミネラル・ウォーターを注文
した。あとは、誰をも近くへは寄せないオーラを発して、カウンターに背を預けて一息つ
いた。
今夜はどこまで行ってきたやら。たくましく張り詰めた胸の筋肉は、呼吸につれて静か
に動いている。照明を落とした店内で、銀の髪が光を放っていた。
街の連中より頭一つ大きい立派な体格は、今や激情のままに暴力を振るうことはない。
いつもは悠然としたサバンナのライオンそのままに、街を目配りしながら歩いている。
長い髪にも慣れて、掻き上げる仕草が堪らなくセクシーだと女衆が黄色い声を上げる。そ
れでいて、面倒見が良く、大きな身体を折り曲げては少年達やお年寄りに気軽に手を貸し
てやっている。
まさに女神の愛を受けるに値する男と店内の男達は黙って意見を同じくしていたのだが。
２
「あんた、かっこいいのね」
進み出たものがいた。
金髪を背中に流した若い娘。まだ高校生にも見える。けばけばしい化粧がかえって幼さ
を際だたせて。デニムのミニスカートは、きっと見るものが見ればそれなりの趣のあるも
ので、値も張るのものだろうが、興味のない大人にとっては着古したボロ。かれにも、そ
う見えた。
「そうか？」
興味なさげに、かれは水を口に含んだ。
「乗せてくんない？」
娘は胸を押しつけるように身を寄せて、かれの顔を覗き込んでくる。鼻の周りに薄いそ
ばかすが散っているのまでつくづくと見られるほどに間近で。
「悪いが……」
かれは腕を伸ばして、距離を取ろうとする。娘は負けずにすり寄る。
「あんたの好きな所、どこでも連れてってくれていいから」
……ああ、もう春だな。
聞くともなしにそのやりとりを聞いていた街の連中が、ふと思った。暖かくなって、気
分がうきうきしてくると、大都会たるネアポリスにはこういう若いのが押しかけてくる。
夏ほどでもないが、十分問題になって、町内の集まりでも、警察からのお達しでも、それ
から怖いお仕事の人たちも、それぞれそれに対応するするよう申し合わせがなされる。ちょっ
とした遊び人と、家出娘がかりそめの恋に落ちる、こういう光景もかれらは見慣れていた……。
「どこでもいいのか？」
色の薄い目で娘を一瞬、上から下まで見た後、かれは白い喉を見せて水を飲み干した。
勘定をすぐに済ませて店を出る。娘の細い手首を握って引いていた。
……って、おい！
「ア、アバッキオ！？」
「あんた、冗談だろ？」
背にかかる声には、向き合って、ちょっと肩をすくめて見せた。
「告げ口はしないでくれよな」
呟くような捨て台詞だった。
爆音を轟かせて、オートバイはアバッキオと家出娘を乗せて走り去っていった。
「ど、どうする？」
「おれァなんも見なかったッ！」
「そういうわけにも行くかよ！？」
「おれはブチャラティには借りがあるから、いくら男同士のつきあいって言っても見て見
ぬふりは出来ねえッ」
「ああそうだな、おまえひとりいいこちゃんしてろよな」
「いや、これは正直に見たとおり言ったとしてだな、ブチャラティによく教えてくれたあ
りがとうなんて言われると思うか……？」
「いや、………………どうかな？」
「なんも見なかったことにした方がいいんじゃねえの？」
バールの中は、再び縮み上がった。
３
少しのサーヴィス精神でネアポリスの湾岸を少し流した後で、かれはオートバイを慣れ
た場所の裏手に駐めた。
「どこでもいいって言ったよな？」
「いいよ？ あんたハンサムだし。やさしくしてよ？」
がっちりと手首を捕まれて、ぐいぐいと引っ張って行かれながら娘は目を潤ませている。
強引なくらいにリードしてくれる。たくましくて、頼れる男だ。あたしは幸運だ……。
「その髪、染めてるんだろ？ 親からもらった髪の方があんたには似合うと思うがな」
ふと振り向いて、彼女の髪に目を留めて、かれはらしくなく説教がましく言った。
「余計なお世話よ！ あんたはそれは地毛なわけ？」
「ああ、生れつきだ」
「ありえない！」
「ブロンドなんて、そんないいもんじゃねえんだよ」と、呟いた後は暗い裏口から素っ気
ないコンクリートの建物に連れ込まれる。
「おい！ おまえみたいなのが顔出せる場所じゃねえんだ！」
行き会った制服の男が悲鳴を上げる。どこだろう？ 娘は軽い疑問を抱く。てっきり連
れ込み宿の類と思ったのに。なんというか、殺風景な普通の役所のような……？
「ああ、済まねえ」
軽く謝って、かれは歩く速度は落とさない。まっすぐ目指したオフィスのドアを開けて、
声を掛けた。
「マルコ、いるか？」
蛍光灯のまばゆいオフィス。書類の束の紙の匂いとコーヒーの香り。巻き毛の暢気そう
な制服の男が眼を上げて、そのまま直立した。
「レオーネ！？ なんだってこんな所に……見違えたよ」
一瞬の驚愕の後は、顔が泣きそうに緩む。それには答えず、短くレオーネ・アバッキオ
は説明した。
「家出娘だ。下町で引っかけた。
……おれの彼女の方に引っかけられると、一生親に顔向けできないような就職を世話し
てくれるんで、その前に。頼む」と、娘を前に押し出した。
「あ、ああ、解った。
シニョリータ、さあここへ掛けて。名前と住所は言えるかな？ 今、捜索願が出てないか
検索してあげよう」
気のいいお巡りさんを続けている友人は、がさがさと左手で書類を探しながら、心から
の笑顔を作って家出娘に向き直った。
「あ、あんた警官だったの！？」
うっかり騙されて警察に突き出された家出娘は金切り声を上げた。
「もと、な」
銀の髪の男はもう背を向けている。
「レオーネ、大丈夫なのか？ こんなことをして」
マルコ巡査は首を伸ばしてそれを見送る。
「さあ。また腹に一発ぐらいは喰らうかな？」
その言葉は、ただ口の中にわだかまっただけだった。
ネアポリス市警のオフィスを身を縮めるようにして出ると、アバッキオはバイクをスター
トさせた。ブチャラティはかれに甘い。
「山だから、自転車は危ないといって乗せて貰えなかった。もう、町中の大人が一丸となっ
てて。週に一度郵便屋がバイクで山を登ってきて、みんな乗せて貰いたがるんだが、いち
どお茶を振る舞っておいてその隙に持ち出した悪ガキがいて、うまく扱えなくて事故を起
こして大ごとになってからはそれも厳禁になって。……バイクはちょっと憧れだな」
寝物語にそんなことを言ったら次の週にはオートバイを貢いでくれた。ナランチャも目
をキラキラさせて跨ってみたりあちこちいじったりしていた。足が届くようになるまでは
だめだと言ったらしょぼくれていた。
風を切って走るのは爽快だった。男も、女も、憧れの目で自分を見た。狭いアジトの中
でうじうじと悩む日々からすれば、大きな気分転換になった。彼女もそれを期待してのプ
レゼントだったのだろう。
ファミリーのシノギの邪魔をするなとさんざん頭にも体にも叩き込まれたが、どうして
も目を曇らせることができない。仕事として命令されれば悪に属することもこなすが、命
令のない時に、自分がいいと思うことをする分には許して貰えるのではないかと思ってし
まう。警察に連れて行ったとしても、あの家出娘がそのつもりなら幾らでもこれから道を
間違う余地はある。ちょっといい男にオートバイで飛ばしてもらったという思い出だけを
持って家へ帰ってくれたらいいのだが。そんなことを考えてしまう自分はやはり小市民的
で、ギャングの幹部候補生には不釣り合いなのだろうかとまた思考は鬱にはまりこむ。
とりあえずは余計なことをしてしまった。美しいネアポリスの守護女神はまだ起きて待っ
ていてくれるだろうか。また今夜も抱きしめてくれるだろうか。
「ブチャラティ？ おれだ」
ノックの音に、室内は反応した。
４
「たしかにここに駐めたんだが。鍵もちゃんと。……このへんはあんたの地元だから油断
した。おれがいけなかった。やっぱりああいう目立つものは自分ちにちゃんと持って入る
かそれなりの車庫を借りるべきだったな」
翌朝、アバッキオは紙のように白くなりながら、言葉だけは冷静に事態を報告し、問題
点を反省して見せた。
「アバッキオ……」
ブチャラティも言葉少なにそれを聞いた。
アバッキオの愛車は消えていた。部品の一つも残さずに、きれいに消えていたところを
見ると、誰かが盗んで売り飛ばしたのだろう。ほんの数日の楽しみだった。
「せっかく買ってくれたのに、済まなかった。弁償する。何年かかっても金は返す。おれ
の給料から天引きで、フーゴに計算してもらっていいか？」
「アバッキオ、そんなことはいい……」
ブチャラティは悲しげだった。
「あんたってひとは！ だから真っ先にブチャラティを乗せてツーリングに行ってこいっ
て言ったでしょうが」
フーゴもなにやら遠慮がちだった。
「そんな、あれにブチャラティを乗せるつもりはねえよ」
アバッキオは言い捨てる。昨夜、バールに集まった親爺どもに答えたのと同じ声音で。
ブチャラティが、ほんの少しよろめいた。と、それを庇うようにフーゴが足を進めて追
求した。
「どうしてです？ ブチャラティに買ってもらったバイクなんですよ？」
「誰に買ってもらおうとだ。おれはあんたを後ろに乗せたりなんかしねえ」
後ろめたいのか、目を逸らし、アバッキオはいらいらと去りかかる。
「聞いておこうか、アバッキオ、その理由を」
擦れた声で、ブチャラティが自分を励まして言った。
「だってよ、……昔おれがバイクに乗りたがったときに親父に説教されて。
バイクは、自転車と大差ないフレームにエンジン載っけてそれでタイヤを回して走るなん
て原始的な乗り物だ。それだけに楽しみは奥深いが、乗ってる人間は生身でそのスピード
に晒されてて、怪我しやすい。トラックやサルーンと同じ速度で同じ車線を走ってるのに、
人間は生身だなんて、喧嘩したら絶対負ける。スピードが落ちたらまともに立ってること
もできない乗り物なんだぞ？ 危険すぎる。
だからおれはオートバイは勧めない。２人乗りなんてもってのほかだ。もしおまえが自
分の責任でオートバイに乗るようなことがあっても、２人乗りだけは絶対するな。どんな
ロマンに目をくらまされても、大事な女性は後ろに乗せたりするんじゃないって。
あんたは大抵の危機は自分でなんとかできる女だけど、時速１００キロ超えて道路とキ
スなんかして無事とは思えないし、なにより、たとえ大丈夫って言われても、……おれの
大事な女性なんだから、おれはあんたを後ろに乗せたりはしねえ。そういうことだ」
観念したアバッキオは耳を赤くしながらぼそぼそと事情を説明した。
「……それを最初に言っておけばよかったんですよ」
胸が詰まっているブチャラティの代わりにフーゴが赤くなりながらそう言って、もう、
朝からイヤになる、とぶつくさ言いながら立ち去って２人にしてくれた。
ブチャラティが黙って身を寄せてきて、アバッキオはあとはただ自分の不始末を謝り続
けた。
５
寝不足のフーゴは長い長い溜め息を吐いた。
まさしく、ブチャラティのフラットの前で！ ブチャラティが情人！ に買い与えたバ
イク！ を盗むなんて命知らずなことをやれるものはこの街にはいはしない。
昨夜、アバッキオのバイクのところで変な音がすると通報を受けて見に行くと、夜目に
も白いいつものスーツ姿のかれの上司が、なにかブツブツ呟いていた。
「……王様の耳はロバの耳」
そう言いながら、手はスタンドで彼女がプレゼントした高価なオートバイをばらばらに
している。
「アバッキオめ、いくら口止めしたって、ネアポリスであんな派手なことをやって、わた
しの耳に入らないわけがないんだぞ、ばかめ……わたしのことは乗せないのに金髪の女の
子は乗せるのか。金髪がいいのか、そうだな……」
自分の髪を少し指に絡め、考え込む。
「大丈夫、わたしは『ポルポの猫』、感情のない女、ブローノ・ブチャラティ。なんにも
感じていない。感じていないから辛くない……辛くないからなんにもしない。レオーネの
気を悪くすることは言ったりしない、言ったりしないんだ。誰が聞いているかも知れない、
だから誰にも何も言ったりしないんだ。感情を見せてはだめだ。それは弱点だ。弱点を持っ
てはしてやられる。生きるんだ。生き延びて……」
虚ろなブチャラティの眼が、虚空を見たまま言葉が止まった。
「生き延びて……なにをしよう？」
有明の月がその凄艶な横顔を照らした。
彼女の心の中で、少しの時間の錯誤があったらしい。
「……ああ、あの角のハンサムな警官、彼をデートに誘うんだ。いつかきっと。いいんだ、
わたしは今フリーだし。身分を隠して、ちょっとしたボーイ・フレンドのつもりで。深入
りしないで。いいじゃないか、軽い楽しみ。そんな、深い仲になんか、なるもんか……
あはは、そんなこと、夢物語。フーゴにばれたら笑われるぞ。内緒だ、内緒。
王様の耳は、ロバの耳……穴を掘っても、いつかはばれる。心の中に隠しておくんだ……
きれいなレオーネ。大好きだ、なんでもするから、どこへも行かないで……」
ぶつぶつと呟きながらの作業は明け方まで続き、オートバイを部品の一つ一つにまで分
解し尽くして、ブチャラティは自分の部屋へ戻っていった。
フーゴは、心の均衡を失いかけながらも決して涙を見せなかったブチャラティに免じて、
それを自分一人でこっそり処分したのだった。
６
「なあ、アバッキオ、それじゃあ車だったらなにがいいんだ？ フェラーリか？ ちょっ
とそれは今日言って明日というわけにはいかないが」
機嫌を直したブチャラティは、またも寝物語にプレゼントの希望を探る。
「ばかやろう。彼女にフェラーリをプレゼントさせたなんてばれたら全イタリアの男ども
からおれは寄ってたかってくびり殺されちまうよ。
フェラーリってのはそういうふうに乗るもんじゃねえんだ。成功の証だ……っていうか、
おれは田舎もんだからランボルギーニの方が好きだな。ありゃあもともとトラクターの会
社なんだぜ？
フェラーリは曲線だが、ランボルギーニは直線で流線型を作る。ペーパー・クラフトみ
てえな平たい造形がなんか触ってみたくて。あのスイング・アップのドアは初めて見たと
き心臓を鷲掴みにされた」
アバッキオはまた口が滑らかだ。この男にも若い男らしい趣味の分野があるらしい。
「じゃあランボルギーニならなにがいいんだ？ カウンタックはまだ中古が売ってるぞ？
スイング・アップのあのドアをいちど跳ね上げてみたいのか？」
ブチャラティが機嫌良く合いの手を入れるので、すっかり長年の夢を吐き出させられて。
「この色男。なにをやったらこんなに続けざまに高っけえプレゼントを貰えるんだ？」
「うちの坊主がカレンダーを見間違うじゃねえかよ。今はまだ４月だぜ？ ナターレはず
いぶん先だろうがよ」
数日後、ネアポリスの下町は黒山の人だかり。ランボルギーニ・ディアブロの新車がブ
チャラティのフラットの前に横付けされているのだ。
「これはプレゼントなんかじゃありません。アレッツォの店が新しく入れた高級レンタカー
の初乗りをコネで貰っただけですから。そんな贅沢ぼくが許しません！」
フーゴが目を三角に、けれど愉快そうに宣言した。
「アバッキオ、これは２シーターです。車種も色もあんたの理想にしたからには、解って
るんでしょうね？」
後ろ手に鍵を隠しながらフーゴ確認する。
「解ってるよ」と、アバッキオは顎を挙げて、進み出ると助手席のドアを開けて、ブチャ
ラティに向き直った。
「シニョリータ、ローマへジェラートでも食べに行きませんか？」
歓声が上がる。ブチャラティの顔が、瞬時に明るくなる。よろめきよろめき車に近づき、
手を取られて助手席に乗り込んだ。
「良くできました。行ってらっしゃい。ローマまで行っても夕方には帰ってこられるでしょ
う」
「ああ」
フーゴから鍵を受け取るなりアバッキオは車をすぐに出して、角を曲がって消えてしまっ
た。
「フーゴ！ ありがとう！ 最高のデートだった！ 本当におまえはよくできた参謀だ！」
帰ってきた喜色満面のブチャラティに抱きつかれ、大サーヴィスで頬にキスまでされて、
フーゴは一瞬真剣に今日の車の買い取りを検討した。
「……ガレージはマルロさんの所が空きが出たと言ってたし、これからせいぜい３年使い
倒すにしても、週１回あのひと達がデートで使えば福利厚生としてなんとかそっちの経費
として落とせなくもないし、ぼくの好感度の上昇という意味では形にならないメリットが
得られて……」
「フーゴ、なにブツブツ言ってるの？」
ナランチャが聞きとがめて、まるきり秘密に、とはいかなかった。
（１９−０３−１０）
蛇足。
ブチャアバさんに６９の質問、であった２人が車に乗るならどんな車種？ といった質
問から派生。ブチャがアバに単車を買ってやるけどどんどん女の子が引っかかるので取り
上げられる……という話。ブチャおねーさん夜中にこっそりバイクを壊すシーンは鬼気迫
る感じだったかも。泣きながら壊したら深刻になるので泣かないことにしましたけど、そ
れでも結構深刻だったよね。
レオーネ君、反省してください。
でも彼は彼なりに信念があってのことなので、ブチャもそこのところは理解してあげて
ください。
文中、オートバイという乗り物について身も蓋もない言い方をしていますが、これはオー
トバイを愛する作品からの記憶による引用で、引用元ではそれでもこの原始的な乗り物を
愛し、これとともに走ることに命を懸けることに悔いはないという文脈だったので、バイ
ク乗りさんは気を悪くされないでください。単純なだけに、風を感じて走る、路面などの
状況に自分で反応して主体的に対応する必要があるというところが得難い魅力に感じられ
るという考え方は理解できます。
でも、ひとたび転んだら運転者のダメージが大きいことは事実よ。たとえ原付でも、ご
用心。
「王様の耳はロバの耳」というより、「壁に耳あり障子に目あり」という話（秘密はどこ
からでも漏れる）なんですが、「王様〜」は元ネタギリシャ神話なのでともかく、「障子〜」
はイタリア人たる彼らが使うにはふさわしくないかと思って。その辺いろいろ気を使って
るんですよこれでも。５部のイタリア語版ではギアッチョが「根掘り葉掘り〜」を現地の
ことわざを使うようにアレンジされてたって聞くし。
わたしはスーパーカー世代なので、ランボルギーニと聞くとカウンタック！ なのです
が、もうあれ製造中止、代替わりして、５部の時代はディアブロ、今はムルシェエラゴなん
だそうで。時代って変わるのね（国産車の方がもっと激しいって！）。
ディアブロは耳で聞いて日本語にしたときのノリの違いぐらいの差で、ボス・ディアボ
ロと同じ言葉。「悪魔」です。平たくてカクカクしたランボルギーニ車が好きなのはわた
しの好みです。イタリア国家警察がランボルギーニのガヤルドをパトカーに採用したとい
う話のせいもあって、アバッキオが乗る車はランボルギーニという刷り込みができちゃっ
てました。残念ながら年代のすりあわせで、アバッキオ警官はガヤルド・パトカーには乗
れません（２００４年から）。１巡目の世界ででも是非。