グレフルの正しい使い道
「おッ？ 久し振りに出勤か？ 金が尽きたか？ 『ミカエラお姐さん』」
リーダー、リゾットのオフィスから出てきた美人に、口笛を吹いてホルマジオが声を掛
けた。
「えッ、嘘ッ！？」と、イルーゾォまで物見だかくも鏡から半身を乗り出した。
「バカ野郎、出『陣』だ」
イヴニング・ドレスに身を包んだ「絶世の美女」は、口調だけはいつものままにチーム・
メイトを冷たく見やった。
「え？ だって、今はペッシの教育専念で『仕事』はやらないんじゃ？」と、イルーゾォ
はうっとり艶姿を見上げながら問うてみる。今年加入したばかりのペッシは潜在能力は大
きいものの、まだまだどうにも本人の心の成長が足りず、チーム一の気合いと覚悟を認め
られているこの能力者に預けられることになったのだ。
「どうしてもオレに相手して貰いてぇんだと、向こうさんが。そりゃ、悦ばせてやらねぇ
とな。天国見せてやるぜ、片道切符でな」
右手をかざして見せて、プロシュートは不敵に笑った。
「その名もグレイトフル・デッド（心地よい死）、おっそろしいスタンドだよなぁ」
ホルマジオはまだのんきに笑っている。
パッショーネ秘蔵の高級娼婦「ミカエラ」がベッドに降り立つとき、そこには生気を吸
い尽くされたかのような干からびた死体が残される。見たものを死へと誘う麗しき告死の
大天使だ。
「さすがはアニキ、女装してもキレイですぜ。まるで貴婦人だぁ」
尊敬する「兄貴分」の初めて見る仕事用のいでたちに、ペッシは夢見るまなざしで言っ
た。
「あ、ペッシ……」
イルーゾォが注意しようとするが、
「ふっふーん」と、ご機嫌なプロシュートはいつものように驕慢に顎をあげてペッシを見
下ろすと、両頬を指で摘んで思いっきり引き延ばしてもみくちゃにした。
「女装ってのはよ、男が女のなりをすることで、普段男の格好をしてるやつがたまに女の
格好に戻るときはなんつったらいいんだよ、クソッ、クソッ、クソッ……」とギアッチョ
が突っ込んだが、もう彼の癖になれてしまったペッシは言葉を深く吟味しない。
「ドレス・アップでいいんじゃないの？ さあ、車が来たよ」と、そのプロシュートに手
をさしのべて、車までエスコートするのは得意げなメローネ。
「珍しいもん見たからって誘惑されるんじゃねえぞッ」とギアッチョが吐き捨てれば、
「えーそれってジェラシー？」と、愉快そうにメローネが返す。
「するかよ、メローネごときをよ」
付き合っておれぬというふうにプロシュートは頭を振って階段を下りて行った。
「リハビリちゃんとやったのかーあ？ イかされまくって仕事忘れてくるんじゃねーぞぉ！」
品の悪い見送りの挨拶のお返しに、瑪瑙のピン・ブローチがホルマジオの眉間に突き立っ
た。
「全身暗器かよ……スタンドなしでもバリバリ暗殺要員な」
とっさに顔の前に構えた雑誌に刺さったピン・ブローチをこわごわ抜き取りながら、ホ
ルマジオがため息を吐いた。
「取り扱いには気をつけろ。毒が塗ってあるはずだ。そうだな？ メローネ」
いつの間にかオフィスから出て一部始終を見守っていたリーダーが、戻ってきたメロー
ネを見やる。
「だいじょーぶ、オレ解毒剤持ってるし」と、ぎょっとして手を引っ込めたホルマジオの
代わりにメローネがピン・ブローチを回収してデスクの引き出しにしまった。
「でも、アニキ普段は女みたいだとか言われるのあんなに嫌がってたのに、仕事だと女装
までやるんですね。そこまで割りきんないといけないんッスね」と、感に堪えないといっ
た風にペッシが言った。
「ハァ？」
皆が曖昧な、やさしい、哀れむような、いたぶるような、笑みをそれぞれ浮かべる中、
ギアッチョはあからさまに見下した。
「自前の胸がちゃんとあったろ？ ありゃア、女だ」
「へッ？」
ペッシが目を丸くした。
「ヘッ？ じゃねーよッ！ あれだけ日頃顔くっつけたりしなだれかかられたりしてて気ぃ
ついてなかったのかよッ！？ めでてーなッ！ だからおめーはマンモーニなんて言われん
だよッ！」
「女のひとだッたんすか？」
「女も女、バリバリに女」
「メローネ、なんでおめーがそんなに自信たっぷりなんだよッ？」と、ギアッチョは全方
位突っ込み型。
「だっておれ幼なじみだしー？ 性格はあの頃からアレで、もう引き取られたその日のう
ちにそん時に屋敷にいた小僧ども締めて『アニキ』になって。おれのことも結構構ってく
れて、お医者さんごっことかかなり真剣にお互いやったしー？」
「お医者さんごっこッ！？」
イルーゾォが顔に血を上らせた。
「もープロシュートったらおれのあそこいじり倒してくれちゃってン♪」
蕩けそうな顔でメローネがワルノリする。
「そんで？ そんで？」
ホルマジオも身を乗り出した。
「モチロンおれもお返しはしっかりー♪」
……アニキが女のひとなんだったら、アニキにドキドキするおれはヘンタイじゃなかっ
たんだ……よかった……。
妙な盛り上がりを見せる暗殺チームの先輩達をよそに、ペッシはひとり頬を染めていた。
（１３−０５−０９）
蛇足。
暗チといったらこのひとでしょォォッ！？
もともと某暗殺チームサイトでグレフルはスピード感に乏しいのでホントの暗殺には向
かないのではとか言う話が出ていて、そうじゃない、相手が油断してるときに１対１になっ
たらゆっくりあの世に行かせられる、そして死体は生気を抜かれたようになっているなら
まるでサキュバス（女の淫魔）に襲われたようだろうなと考えていて、そういう腹上死偽
装の暗殺専門の娼婦というのもいいなと考えてたので。アニキ体張りすぎ。いや、目標に
近づければ必ずしも行為は持たなくていいんだけども。
問題は話が思いっきりきわどくなってしまうことだな。ここは一応１５禁サイトと言う
ことになっておるが（小中学生は見ちゃいけませんですよ〜！）。
もともとアニキを慕っておったペッシは一気に恋愛感情を自覚。イル蔵くんも単純にき
れいな格好しているときは好き（怒鳴るときはイヤ）、リーダーは地味に片想いしておる
が無自覚、ホルマジオは単純にチームメイトとして好き、メローネは幼なじみとして心身
ともに一番近いのでギアッチョはたぶん妬いてる。
じつはなんで暗殺チームに入ったかとかいう幼少時の暗い妄想設定はそれこそ５部読ん
だすぐの去年のうちからあった。「その朝」シリーズとは別趣向の（暗チだけに）間違っ
た愛の世界が繰り広げられる……かもよ。