ハーレム五部
ジョルノ以外全員女体化
とりあえず設定書き出してみる。
ブチャラティ
普通にポルポのお手つき。スレンダー×微○美乳。テクはあるが不感症。
ケーブルカーの対戦のあとほぼ合意。さっぱり受け入れる。が、以降交渉はほとんど無
い。
アバッキオとは相思相愛な百合。ジョルノがチーム全員に手を付けたことは知ってるが
放置。
「アバッキオを泣かしたら去勢する（キリッ）」
アバッキオ
警官免職時に同僚から「卒業」集団レイプ、その後転落していろいろ。ブチャラティに
拾われて百合関係で安定。グラビア系美人。
フィレンツェ行き特急の中でほぼレイプ。「悔しいけど感じちゃう！」 ジョルノが全
員に手を付けたことは気付いてない。関係に少し悩んでいる。
ナランチャ
女子少年院時代に刑務官にレイプ。以後はフランクに経験。貧乳。
ジョルノとも歓迎会でふつーに関係。「おまえ巧いなー」
ハーレム状態も別に気にしてない。
最初に妊娠するがジョルノの子ではない。
フーゴ
ジョルノがはじめて。やや小さめの美乳。
ブドウ畑の隠れ家でほぼレイプ。知的レヴェルではいちばん気が合う。やや本気なので
からだから始まった関係であることと、チームの中では関係が自分だけと思って密かに悩ん
でいる。密かに嫉妬深いがプライドで表にださない……と思っている。
ミスタ
どん欲なプレイガール。ボンキュッボンのナイスバディ。ノリも良い。
ポルポの遺産ゲットのあと関係。身体の相性は一番いい。普段は同室。
ハーレム状態も気にしてない。浮気（？）も普通にする。
トリッシュ
正妻。ジョルノが初めて。
性格がきついのでジョルノは心から愛してるとは言えない。ボスの立場を保証するため
に前ボスの娘としてトリッシュを正妻にしている。
でも浮気されたら腹が立つだろうとは思っている。
皆はトリッシュにハーレム状態を知らせないようにと配慮している。
トリッシュは感づいている。
サイテー、鬼畜、とは思っているけど助けてもらった恩もあるので安住。
なんといってもジョルノ様の下半身にメロメロ……？
これでいったい何をしようというのだろう？
って、書き始めたらなんとか書けちゃった。
ひみつの花園
女体化護衛チームによるハーレム５部
１
なんとか全員生き延びてボス・ディアボロを倒すことができて、ブチャラティ・チーム
の美（少）女一同（美少年含む）はほっとチェーナの卓を囲んだ。
「これからのことだが、トリッシュの身の安全とジョルノ、おまえの権力の安定化を考え
ると、トリッシュを取り込んで置いた方が良い……できれば結婚して」
ブチャラティが凛々しくも冷静に口を切った。
「それはぼくも考えないではなかったのですが……時期尚早では？」
青ざめた顔でフーゴが追認する。
「ちょっと！ あたしの意志！」
すぐにトリッシュが被せる。赤くなって椅子から腰を浮かせて。
「まあ、話だけだ。２人ともまだ中学生？ だし」
ブチャラティは冷静に遮った。
「当面の組織対策だ。結婚はそれなりの年になって、それぞれ好きなひとができたときに
そのひととすればいいってことだろ」
リーダーの割り切ったものいいには慣れているアバッキオが、取り上げたティーカップ
に目を落としながら言った。
「そう、まずは組織を一気に掌握することです」
フーゴ、なんかホッとしてるな、とナランチャが見た。
「ぼくはあなたとの関係を出していくべきだと思っていました」
当事者たるジョルノが戸惑ったような声を出す。
「あなたとの？」
「関係？」
ナランチャとフーゴが代わる代わる突っ込んだ。
「あは、あれはあれきりだろ？」
ブチャラティはあっさり認めた。そして、切った。
「ノーサイドのあとのエール交換みたいなもんで。なんだ？ わたしはあれでこまされて
おまえをチームに入れたことになってるのか？」
いつものずぶといまでの白い顔で、ブチャラティは問い返した。アバッキオの顔がどん
どん曇ってゆく。ありゃーねーちゃんやばいぜとミスタが背中に汗を感じ始める。
……もしかして、そーなんじゃないかなーって、思わないでも、なかった、よな？
……「当たってたらイヤな予感」、でしたけどねぇ。
ナランチャとフーゴも目を見交わしている。
「どちらかというと協力者としての契約？ ですかね。あなたの協力あってこその勝利と
思っていますし。どうぞ、これからもお願いします」と、ジョルノは熱っぽく身を乗り出
した。じつは、ケーブルカーの一戦のあと軽い気持ちで路地に引きずり込んで手を出した
のだが、ジョルノは支配するはずの組織内協力者のテクニックに圧倒されてしまっていた。
あれ１回というのは実にもったいない、生き延びた今となってはそう思っている。
「ああ、それはもう、そのつもりで。だが、ジョルノ、言っておくがわたしはアバッキオ
と身も心も許しあった仲だから」
「え？」
「ちょ、ブローノッ」
泣きそうになっていたアバッキオが、顔から火を噴いてブチャラティの方へ身体を向け
た。
「それって、その、いわゆる？」
トリッシュが顎を落とした。
「男とプライヴェイトで関係を持ちたいなんて思ったことはないな。女とだってないが。
だから、わたしはビアンってわけじゃない。アバッキオが運命の相手だっただけだ」
男前な女性幹部は言い切った。
「ブローノ……」
目を潤ませたアバッキオは感極まって言葉もない。彼女の方の想いはサン・ジョルジョ・
マジョーレ島の船着き場で皆に伝わっている。
……いやーそれはガチでビアンでしょ。
……男ッ気のないひとだとは思ってましたけど。
……ここでカミングアウトしなくても。ジョルノ、トラウマにならないと良いけどな。
２人の世界に入ってしまった年長組をよそに、年少組プラス・ミスタは言葉もなく視線
で会話した。トリッシュはわなわなと言葉もない。
「ってことは涙目のルカの件を調べに行ったときですか？ さすが、即断即決ですね」
すぐに立ち直りを見せたフーゴが無駄に時期を特定して見せた。
「はえーよな。じゃあオレとヤッたのは次の日じゃん」
ナランチャが被せるように爆弾発言をした。
「そうでしたかね？」
ジョルノは曖昧に肯いた。
「ちょ、ナランチャッ」
フーゴがとうとう魂を飛ばした。
「このヤリチンが」
ミスタが明るく笑った。カプリ島で組んで以来、一連の旅の間、ミスタはジョルノとほ
ぼ毎晩同室だった。２人ができているのは誰の目にも明らかだった。
「ちょっとッ！ まさかチーム全員と関係してるんじゃないでしょうねッ！？」
トリッシュがいきり立った。
「ハハハ、そんなまさか」
笑って見せながら、ブチャラティは自分の言葉を信じていない。
「ハハハハ」
ジョルノは爽やかに笑いながら黙秘している。
「ハハハハすげーなジョルノ」
「ハハハハミスタさんしてやられちゃったわ」
根っから明るい２人は笑い飛ばしたが。
「……」
アバッキオはただ青ざめて脂汗を滴らせている。
「……まさか、ハハ」
フーゴは紙のように白い顔で、ペンも折れよと固く手を握り締めていた。
「……最低」
トリッシュが吐き捨てた。
「あたし、そういうひととは考えられないから」
トリッシュは荒々しく席を立って出て行った。
「話は早い。それじゃあ、ボス・ジョルノを『心から愛する』側近一同でこれから組織を
締めていこうじゃないか。
ン？ じゃあ、ジョルノが法定結婚可能年齢になるまでに妊娠したやつが正妻でどうだ？
トリッシュは気にしなくていいから。
公平にローテーションは毎週１回で抜け駆けなしでいこう。アバッキオ、フーゴ、２人
でクロス・チェックして不正のないように見張ってろ」
まるきりいつもの、大物過ぎてどこか一本大切なところが欠けているブチャラティその
ものの爽やかすぎる顔で、この女性幹部はとんでもない提案をしてのけた。
「ちょ、トリッシュを入れても６人ですけど、一週間では……」
フーゴが泡を食って確認する。
「２日はオフ、というか予備日だ。いくらボスがヤりたい盛りでもキツイだろ。おまえた
ちの具合の悪い日に当たったら振り替えればいいし。ふだんは行為はナシでわたしが詰め
ていよう。皆で健全に盛り上がってもいいし。
そこら中の幹部連中が女を貢いでくるだろうし、かたぎの女の子とちょっと遊んだりも
したいだろうし。……実はそれが一番心配だ。若い男の子が一番無防備になる瞬間だから
な。ホントを言うと、確認の取れてない人間とは、ベッドでは一緒にいて欲しくない。
信頼できる警護スタッフが揃うまでわたしが毎晩詰めてやらなくちゃと思っていたんだ
が、皆で交替できるならその方がこっちも身体を休めることができる。助かるよ」
異論のあったメンバーも、ジョルノの身辺警護を兼ねていて、その分ブチャラティが身
を休められると聞かされると、渋々従った。
「……どうぞ、お任せします」
密かに魂を飛ばしていたらしいジョルノは、苦笑して席を立った。
２
とくに揉めもせず、月曜はブチャラティとなった。
「……と、重要な『ビジネス』はこんなところだな。とりあえず夏休み前までに幹部会は
押さえられそうだ。気をつけるのはフィレンツェとジェノヴァが……どうした？」
夜伽当番も単なる不寝番ぐらいにしか思っていないブチャラティは、ここぞとばかりに
ボスを勉強机に縛り付けて幹部教育を叩き込んでいたが、若きボスがやさぐれた顔をして
いるのに気付いて屈み込んだ。
「あんなに巧いのに、男と寝るのが嫌だなんて、ウソでしょう？」
すかさず手を捉えて。上目遣いのジョルノは、年相応の少年に見えた。
「だって、好きこのんで身につけたテクじゃないもんな。愉しくもなんともないし。しな
いですむなら済ませたいよ、そりゃ。
だいたい他人に身体を好きにいじくり回されて、場合によっちゃあ理性も飛ばすなんて
そんな恐ろしいこと、よく他の連中はできるな」
あっさりとブチャラティは言ってのける。さすがたたき上げのギャングの危機管理能力だ。
「ぼくとでもですか？」
ジョルノは捨てられた小犬の顔をしてみせた。幼い頃から、顔のきれいさだけは認めら
れてきた孤独な少年。母の友人達のおもちゃにされもして。自分に性的魅力を感じない人
間がいるなど考えたこともなかったのだろう。
「おまえはしたいのか？」
ブチャラティは、逆質問で逃げた。
「だって、あなたはきれいだし、巧いし。
つなぎ止めておきたい……あなたにとってそれが有効ではないというなら諦めるべきな
のかも知れないけど。
ぼくをボスだと言うのなら、たまにはサーヴィスしてくださいよ」
「つなぎ止めておきたいって。わたしはおまえの側近だよ？」
ブチャラティはだだっこをあやす顔になった。
「パートナーと言って欲しかったですね。今でもこれだけの根回しにあなたが身体を張っ
たと思ったらいらっと来るぐらいには……好きですよ」
書類を手でぴしゃりと叩きながら、ブチャラティが立場を気遣って言わなかった言葉を、
敢えて踏み込んでジョルノは言ってみた。あと４人のチームのメンバーに手を付けられる
のとはまるきり別建ての、彼にしては奇跡的にきれいな感情がそこにあった。
「ははは、身体を張った訳じゃないよ。長年、といってもせいぜい５年だが、のつきあい
と、実績かな。組織でのわたしはキャリア組扱いだよ」
ブチャラティはそれをきれいに無視してのけて、言った。
「キャリア組って……」
「女を使ってのし上がったんじゃなくて、真面目に組に貢献してのし上がったってことさ。
スタンドを使っていろいろ汚れ仕事をしたりとか、ポルポの遺産を上納したりとかね」
それ以上の追求を絶つために、ブチャラティは正しく「女を使った」。ギリギリの駆け
引きで、必要に迫られたときの最後の切り札として。ジョルノに特別な感情なんてないと
ハッキリ解らせるために。
巧みな舌使いで１５の少年には過ぎた快楽を引き出しておいて、ブチャラティは汗ひと
つかいていない。
「そうだな、おまえはきれいな男の子だから、腹の出たオッサン相手よりは楽しいな」
純粋に受け身の快楽に浸るジョルノを見下ろして、ブチャラティはクスリと笑って見せ
た。
火曜はアバッキオ。
真っ青な顔をして私室に文字通り出頭したアバッキオを見て、ジョルノは眼を細めた。
ネズミをいたぶる猫の表情だ。
昨夜のことは、彼女からのレイプでは有り得ない。自分が望んで彼女に強いたことだ。
そして気持よすぎるほどによかった。しかし、言いようもない哀しさが残った。それを、
コドモたる彼はブチャラティの恋人にぶつけるつもりがある。
「それで、ブチャラティがあなたを売ったことに対しての心の整理は付いたんですか？」
冷たい声で先制攻撃をかけた。
「売ったってッ！？」
アバッキオはプラチナの髪を乱して声を荒げた。
「だってそうでしょう？ 『恋人』のあなたをぼくの所に来させるなんて」
アバッキオはぶるぶる震えだした。
……可愛がって貰っておいで。ジョルノは年のわりに巧いだろ？ きれいな子だし。抵
抗、そんなにないだろ？
ブチャラティは、素でそんなことを言ってアバッキオを送り出した。優しくて、きれい
で、剛胆な恋人だが、ときどき理解できない発想をする。そこにアバッキオは尊敬を抱い
てもいるのだが。
「ま、ぼくはあなたと遊ぶのは楽しいですけどね」
そういう心の動きをつぶさに見て取って、年下の少年は言葉通り満足げにしている。言
葉通り、憂さが、少しは晴れている。
「楽しい？ どうして？」
アバッキオはおうむ返しになる。
「あなたは視覚的アピールが強いですから。そうして、反応も、それに反して可愛らしい。
男の虚栄心と、それから普通に達成感を充足させてくれるんです」
「充足……」
アバッキオは喘いだ。
「恋心だと思った？」
「ちがッ……」
必死にかぶりを振る。心の奥底は、純でまじめなひとだ。そういう、心の動きが、たや
すく見て取れる、誘導して、操るのもたやすい、そこに面白みがある。
「安心してるでしょ？」
ジョルノはそれを追い詰める。
「やっかいなことに、ならなくて、よかったと……」
長い細い首を埋めて、上目遣いに返す。
「うん、可愛い。とりあえず、それでいいじゃないですか。あなたが今夜はぼくに付いて
いてくれれば、あのひとはとりあえず今夜は熟睡できるでしょ」
「そう、だね……」
「そしてあなたはたまに少しは愉しむと」
「そんな……」
真っ白な肌に朱が上る。それすら見ものだ。まったく見事な愛人。
「来てください。服、自分で脱ぎます？」
結局言いくるめるのはたやすい。最初の時から。そして、腕の中に入れてしまえば、た
めらいながらもさまざまに痴態を演じて見せて、愉しませてくれる。
「ヨかったでしょ？ 結局」
聞いてやると、黙って顔を背ける。
「うん、可愛い」
４つも年下の少年のそう言われて、嬉しいとふと思っている自分に戸惑う様も、また目
の保養なのだった。
３
水曜はミスタ。
「どしたの？ ボス」
ドアを開けるとあっさり部屋に入ってきて、笑った。
「あなたを恋人として公表しなかったのはまずかったのかなと思っているところです」
「別にいいじゃん。誰に赦しを貰うようなことじゃないし」
ミスタはあっさりと笑った。
「妊娠ダービーなんてことになりましたが？」
「好きな男の子を産んで落ち着きたいなんて、もうあと１０年したら思うようなことじゃ
ないの？ 今はとてもそんなこと思わないね。ナランチャもフーゴも、絶対イヤって思っ
てるよ」
ブチャラティもだろう。アバッキオはどうだろうか。
「そう思ってくれると助かります」
ジョルノはぎこちなく頬を動かした。
「もっと楽しいコトしようよ、お互い」
「ええ」
それで盛り上がれるのだから、やはりミスタはジョルノにとって相性が良い。
木曜はナランチャ。
「やっほージョルノーッ！」
下手なりに化粧を凝らしてナランチャが飛び込んできた。
「ブチャラティはすげーな！ おかげでオレまでジョルノの愛人さんの１人にしてもらえ
たぜ！」
喜色満面でそんなことを言ってのける。
「いいんですか？」
さすがのジョルノも圧倒される。
「えー？ おまえは大変カモだけどよ。オレは週一だし。なに？ 週末もオレとデートし
てくれる？ それとも、ミスタ呼んでさんぴーってのやってみたい？」
無邪気な言いように、ついジョルノは頬を緩めてしまう。
「それはゆくゆく試してみることにして。
今日の所は２人で愉しみましょう」
「おー！ おまえ年のわりに巧いからいいぜ。やっぱ顔いいともててケーケンチ上がんの？
オレ年少のけいむかん？ にヤられてさー。アバッキオもセクハラとか卒業レイプとか
苦労したらしいし、フーゴはセクハラ教授ぶっ飛ばしてうち出されたみたいだし。やっぱ
女はソンだよなー」と、重い話もさらりと垂れ流して。
……ほんと、お手軽で、和みます。
ジョルノは癒やされる自分を実感していた。
４
金曜はフーゴ。
「いったいきみはなにを考えているんですッ！？」
部屋に来るなりフーゴはまくし立てた。
「いえ別に。凄いことになったなあとは思ってますけど」
迎え入れて、ジョルノは目を見張って見せた。
「……ほんとにみんなと……関係したのか？」
部屋の奥のベッドから目を逸らして、フーゴは口ごもりながら問うた。
「とりあえず今週は。ここまできて手を出さないのもかえって失礼かと思って」
１６才になったばかりのボスはけろりと言ってのける。
「あ、あなたが嫌ならいいんですけど。どうせ金曜は精進日ですし。ベッドは譲りますか
らどうぞ」
ジョルノはさっさとソファに腰を下ろして、本を開いた。まったくフーゴの肉体なんか
には興味がないと言いたげに。
「それは食事の話だろッ、チェーナで肉平らげておいてよく言う……あ、はい、要は夜の
間のボディガードですからね……」
一度気を吐いた後は毒気を抜かれたようになって、フーゴはとぼとぼとベッドに直行し
てちょこんと腰掛けた。
いったいいつの間に５人とも口説かれたんだろう。順番でいうとブチャラティにナラン
チャに……？ ブドウ畑のあの隠れ家でイライラとナランチャを待っている間に気がつい
たらジョルノに身体を許してしまっていた。まったく恐るべきスケコマシだ。男嫌いの自
分やアバッキオまで毒牙にかけたというところが信じられない。いや、身を以て知ったか
ら理解できる。あの琥珀の目に真っ直ぐ見つめられて、欲しいといわれたらもう拒めない！
だから今夜もそうなるのだと思っていたのに。
「……ジョルノ、それできみは……ブチャラティに……恋ッを、してッ……いるんですか？」
使い慣れない使い方をして、ループしたり、脇道にそれたりして大変なことになりなが
ら、この一週間の間考え続けて至った結論を、決死の覚悟でフーゴはぶつけてみた。心臓
はもう出入りの時より激しく打っている。なんだ、こんな音。
ドドドドドドドドド。
「さあ、どうでしょうね」
ジョルノは深入りを許さない。本から眼を上げもせずに答えた。それだけで、フーゴは
泣きそうになる。自分は何の心のつながりももなく遊ばれただけ。ジョルノの真意を問い
ただす資格すらないのだ。
「……あなたたちのことは、それぞれ可愛いと思ってますけどね」
タイミングを計って、ぼそりとジョルノは付け足した。
「カワイイッてッ！？」
そんなこと、言わせたこともなかったフーゴはいきり立つ。
「少しでもそう思えない相手とは寝ませんね。当たり前でしょ？」
ジョルノは本から眼を離して、流し目をくれた。カァァァァァッとフーゴは顔に血が上
る。
「あなたも、可愛い。そういうところが」
ふっと、眼が細くなる。
「ジョ、ジョルノ、ぼくは……ッ」
とても見つめてなどいられない、フーゴは目を落として深呼吸をした。
「嫌なの？」
蜜のような声が飛んで来る。自分を拒むことなど有り得ないと信じ切っている声が。
「ぼくは、好きな相手を他人と共有するなんて、有り得ないッ」
それは理性を振り絞って出した拒絶の言葉だ、ジョルノはボスだけど、それは主義を曲
げるほどの権威じゃあない。殺されたって構うもんか、最初にがつんといっておかないと
どんどん浸食されるッ……？
「ぼくのこと、好きなんですね」
ジョルノは足音もさせずに近寄っていた。もうベッドの脇に立って、屈み込んで耳に囁
きかけていた。
「え、違ッ」
フーゴは総毛だって否定した。
「他の人と、共有したくないんだ？」
「や、それはものの喩えでッ」
「だって言いましたよ今」
言いこめられて、言葉がなくなって、ただ奥歯を噛みしめながら、前髪越しに憎らしい
金髪の少年を見上げる。初めてのときから、ずっとそうだ。
「きみはそう、身持ちの堅い人だ。好きじゃない男と軽々しく行為を持ったりしない、ね？」
フーゴは初めてだった。それを当てこすってくる。
「だから信頼できる。きみはぼくに心を捧げてくれる」
そっと口づけて、目を合わせてくる。
「あ……はい」
フーゴはもう金縛りになったようで動けない。
「気が乗らないのだったらただ護衛だけしていって。無理強いはしたくない。
でも、ごめん、今そこにあなたがいると思ったら、本に集中できない。可愛いひと。
……ほんとにダメですか？」
「ダダダダダダメっていうかッ……」
ぶるぶると震えている。蛇に睨まれた蛙。
……ジョールノっ、処女なんかとヤってもつまんねーだろ？ フーゴは温存しといて金
曜（こんや）もあたしを呼べよ？
昼間、そう言ってミスタが煽ってきたのをフーゴは思い出している。フーゴのためらい
を見越しての助け船だったのかも知れないけれど。すぐさまアバッキオに、公平なローテー
ションだってブチャラティが言ったの聞いてなかったのかと小突かれていた。
……温存したあとの使い道に興味がありますね。
ジョルノはしれっとダークな方向に話を振った。フーゴの処女は頂いてしまったとはお
くびにも出さずに。
……そこは処女大好きなオッサンに献上して組織の運営に役立てるとかー？ いちおー
びしょーじょだし？
がははとミスタは笑ってみせる。
……グンバツの美少女だって！
すかさずナランチャは無関係な方向に突っ込んだ。相棒の無邪気な思いやりはそれはそ
れで嬉しいけれど、どこに腹を立てるべきか行き先が見つからずにフーゴは口をぱくぱく
させるしかなかった。
……そういうの、わたしは好かないな。
ブチャラティが真面目に締めてくれたのでフーゴはホッとしていた。
……せっかくジョルノが組織を乗っ取ったんだ、うちはそういうのできるだけナシで行
こう。
そのために、ジョルノの周囲はもとのブチャラティのチームで固めるのだ。ジョルノに
も、そういうことはさせないし、旧幹部連中からの、チームの皆への誘いも圧力も、そう
いうことではね返す。
理性では理解できる。ジョルノは尊敬できるボスだ。ブチャラティの方針は正しい。じゃ
あ自分の気持ちは？ ジョルノのことが好きなんだろうか？ ジョルノがブチャラティに
恋い焦がれていても平気？ だってブチャラティはアバッキオを愛してるし。ジョルノに
は心を向けない。じゃあミスタやナランチャを抱いたのも平気？ ２人はあけすけに感想
なんか言い合っていて、ジョルノは巧いらしい。２人がジョルノで楽しい思いをしてるの
に、自分がのけ者になるのはくやしい。処女なんてつまんないなんて見下されるのもイヤ
だ。自分だってジョルノを悦ばせてやれるんだと証明したい。頭でっかちで女としての魅
力がないとは言わせない。それで自分もうっとりさせてもらいたい、話に聞くばっかりの
男女のことを、自分だって経験したい……。
「仕事、だろ？」
理性をたぶらかす最後の言い訳を、フーゴは口にした。たぶんそれで、アバッキオもジョ
ルノに抱かれてやった。
上目遣いにジョルノを見上げると、琥珀の目は冷ややかになった。
「フーゴ、じゃあいいです。
一番年が近くて、遠慮せずに高度な話もできる相手のあなたを、仕事づくで抱かなきゃ
いけないならボスなんてなるんじゃなかった。
適当に自分で慰めるから、あっち向いててください」
「ジョルノッ」
思わず、フーゴはその手を捉えてしまった。
「……手伝ってくれます？」
にんまりと、ボスは上目遣いになった。
結局うまく持ち込まれてフーゴは痛いばっかりの夜伽を終えた。
……なんでだろう？ やっぱりぼくがジョルノを好きじゃないからなんだろうか？ そ
れともジョルノがぼくのことをそんなに好きじゃなくて手を抜いたとか？ もしかしてぼ
くっていわゆる冷感症なんだろうか？ それとも期待が大きすぎたってやつか？ みんな
こんなものなのにナランチャやミスタがぼくを担いだとか？
悶々とするフーゴにジョルノが囁いた。
「ちょっとがっついてしまったようですが、最初のうちはあんまり感じられないものだそ
うですから、これに懲りずに付き合ってくださいね」
……付き合ってっていうのは夜伽の相手をしろってことで恋人として付き合ってってい
う意味じゃないぞこれは絶対、誤解するな誤解するな誤解するな……。
フーゴは必死に自分に言い聞かせる。
「……すっごく、痛かった。もうイヤだ」
わざとそんな率直な感想を言ったりして。
「むしろぼくはいいです。きつくって。このままキープしていて欲しいです」
「……ばかやろう」
行為はナシで、２人っきりで全身全霊言葉でその気にさせてくれるならそれだけでいい
なとフーゴは考えていたりする。きれいで生意気で頭の回転がはやくてひとと感覚の違う
ジョルノは会話を交わす分には最高に刺激的だ、それはもう。
５
「それで結局全員コマされちゃったのねッ！？ 最低ッ」
トリッシュはいらいらとカプチーノのカップをスプーンで掻き回した。一般人に戻ると
言ったトリッシュはなんだかんだいって月イチで事務所に顔を出して近況報告をしていく。
「トリッシュ、混ざりたいなら言えよー」
「土日はまだ空いてるぜ？」
ナランチャとミスタがあっけらかんと笑った。
「金輪際結構ッ！ あたしは今失恋したてなのッ」
「えー誰に？」
ナランチャは無邪気に問い返した。
「誰でもいいでしょッ」
「男の傷は男で癒やすもんだぜ」
訳知りにミスタが笑いかける。
「おとこじゃ……ないもの」
すぐにトリッシュは秘密を零れさせる。
「あーうん、あれはショックだったよな」
ナランチャがすぐに察して肯いた。
「女性だからしょうがないかって、自分で勝手に諦めて。バカよね。ビアンなひとだった
ならダメ元で告白ぐらいしておくんだったわ……」
「いや、それはビアン関係なしに無理だし」
すぐさまナランチャは笑った。
「ねーさんたちカミングアウトしてもうおおっぴらだぜ」
今日も幹部オフィスの隅では百合色の世界が広がっていて、荒くれたちは物珍しそうに
覗きに来ている。
「いいのよあのひとたちはあれでッ」
トリッシュは頭を振って言い切った。そう思って目の辺りにすると、割り込めないのは
解るらしい。
「ふーん」
「乙女っていろいろ大変だねー」
「きみたちはそれでいつまでたらたらお茶してるんですッ！ さっさと持ち場について下
さいッ。トリッシュ、あなたもあんまりこちらに出入りが激しいと一般人として看做され
なくなりますよッ」
フーゴがやってきて眼を三角にした。
６
「やべーできちゃったぜジョルノ」
３ヶ月もしないうちにナランチャが報告にやってきた。
「おや」
ジョルノは言葉を短く切って、反応を控えた。
「ちょ、早くないですか？」
フーゴが慌てた。
「いやーおめっとさん、じゃーナランチャが正妻ね。意外なところにできたな、てっきり、
年から言ってねーさんかアバねーちゃんが来ると思ってたぜ」と、ミスタがあっけらかん
と祝福した。
「何週目だ？ 安定期に入るまで仕事は外すからな。いい子を産めよ」
ナランチャを抱きしめて頭を撫でてやりながら、ブチャラティが言った。
「うん、８週って」
「え？」
アバッキオがスケジュール帳を開いて眉を顰めた。その様子に、ラップトップ・パソコン
に向かっていたフーゴがクロスチェックをしている自分の方のファイルも開けた。
「８週っていってもきっかり８週間前にヤったってコトじゃあない。それは最終月経のあっ
た日のことだ。行為のあったのは多分その２週間あとぐらい……」
ブチャラティ詳しいな、とフーゴは微かに思ったが流した。やっぱりオトナの女性だか
らその辺は一般教養なのかもしれない。
「その頃、おまえ出張してなかったか？ ……ほら」
アバッキオが該当部分を見つけ出してブチャラティの袖を引いた。
「ええ、ミラノの出入りの後始末に。ぼくも付いていきました……」
フーゴも記憶を蘇らせて青ざめる。
「え？ あ、そーかッ。ミラノの若いのにちょっといー男が居て盛り上がったよなー」
……バカッ！
フーゴは心中舌打ちした。そうだ、向こうの若いのと意気投合して、ナランチャはその
夜ホテルの部屋に帰ってこなかった！ その時の子だとしたら。
「とりあえず、その頃ぼくはミラノには行ってませんね」
あとはよろしく、とジョルノは席を外した。
「ちょ、待て、じゃーそれボスの子じゃないじゃん！？」
一同は、決定的な言葉はミスタに言わせることにしたようだった。
「なんで生でやらせるんですかッ！？ それより、なんでボス以外の男とッ！？ きみは
自分の立場を考えてるんですかッ！？」
「え？ ジョルノ以外と寝ちゃだめなのオレ？」
１７才の母親は素でそんなことを聞いてきた。
アバッキオは頭を抱えてへたり込み、フーゴは天を仰いだ。
「すみません、ぼくがついていながら」
ナランチャはもともとその辺はおおらかだ。ジョルノとも歓迎会で盛り上がったあとす
ぐに関係したらしいし、ネアポリス時代から、優しくしてくれた男にはわりと簡単に身を
任せてきた。フーゴとはそこがいつも合わず、２人はよくケンカしていた。
「一応妊娠したもの勝ちという競争をやっているからな。それに、わたしたちはボスの愛
人という建前になっているから、ボスのメンツを潰すことになる」
ブチャラティがナランチャを固く抱きしめながら言った。
「やばいじゃんそれ」
ミスタが表情を固まらせた。じつは、ミスタもちょくちょく浮気を楽しんでいる。相手
はその辺で引っ掛けたかたぎ男性だったり、ネアポリス時代からのセフレだったり。
ブチャラティとアバッキオは大人の目交ぜをした。そして、ミスタに二人して目をやる。
「近いうちに。ムーディ・ブルース出すから」
アバッキオが厳かに言った。
「あー解ったよ！」
ミスタは頭を一振りした。
「しっかりしてくださいよ」
ナランチャの「一夜の恋の相手」は事故死するな、とフーゴは予感に戦（おのの）きな
がら親友の頭に拳固をくれてやった。
「いてえ……ねえ、堕ろすの？」
ナランチャが泣きそうな顔になる。
「そんなこと、しなくていい。その代わり、ペナルティだ、生まれるまでボスに近づくな。
当番はわたし達で肩代わりする」
ブチャラティは締めるところは締めながらも、ナランチャを優しく抱きしめていた。
「当然、認知はナシの線で」
なんだか自分の声は冷たいかな、とフーゴは思った。
「養子に出すか？」
アバッキオがブチャラティの指示を仰いでいる。
「わたし達で育てればいいだろ」
ブチャラティの懐の深さはいったいどういう経験で培われたものだろう、とフーゴは舌
を巻いた。
落ち着こう、と言って、アバッキオが皆にコーヒーを淹れた。ナランチャにはホットミ
ルクだ。
「フェアじゃないかもしれないから言っておくが、わたしは妊娠しない。だからわたしが
正妻になることは有り得ない」
ブチャラティが静かに口を開いた。
「１６……１７になったところだったかな？ 中絶手術に失敗したんだ。子宮を傷つけて。
もう子供はできないと言われた。わざとだったって話も後で聞いたな、だからわたしはキャ
リア組なのさ。子供を産んでただのポルポさんの愛人のひとりになるより、スタンド能力
で組織に貢献しろってことらしい」
「ブチャラティ、あんた……」
アバッキオが蒼白になった。
「みんなも、スタンド能力者としての自分だけが自分じゃないぞ、ふつうにジョルノとい
ちゃいちゃして、子供を作って、幸せになればいい、そう思ったんだが」
……それが５分の１ってのはどうかと思いますけど。
フーゴは非難がましい目で尊敬するリーダーを見やった。やっぱりずれてる、このひと。
自分がもう子供をもてない、幸せな家庭を築くことは有り得ない、しかし、組織を離れて
生きることはできないと思い詰めて、余計な想いを押しつぶしてしまったのだろうか。
そりゃあ、ジョルノは法律とか倫理とかを超えた存在だけれど。５人みんなをそれぞれ
可愛いと思うと言ってのけ、実際公平に抱いているらしいのだけれど。
嫌なら断ればいいのに、受け入れてしまった辺り自分も共犯者だ。フーゴはまた同じ結
論に舞い戻る。自分とて、かたぎの青年などと恋をしたいとは思いもしない。スリリング
で、哀しくて、そして愉快なこの業界から離れることはもうありえない。美しくてムチャ
クチャでいろいろ自分を振りまわして楽しませてくれるジョルノの側にいるのが今では超
絶な快楽だ。
「おれ、ジョルノとブチャラティのために働くよ。ごめん、もう浮気しねえ」
ナランチャがしんみりと言った。
「ぼくはもとより、ボスに命を捧げると約束してます……帰参を認められたときに」
フーゴは明言した。
「アタシも。ジョルノはあたしに幹部の席を与えてくれた。ちゃんとそれには報いないと
ね」
ミスタが胸を反らした。結局いちばん相性がいいらしく、プライヴェイトはミスタが随
伴することが多いのだ。
「あたしも、ブチャラティの選んだ人に仕える」
アバッキオは結局ブチャラティが第一。ぶれないひとだ、とフーゴは苦笑する。
「そういうわけか。じゃあみんな、これからも心を１つに頼むぞ」
ブチャラティがにっこりと笑った。
「じゃあ、アバッキオ、フーゴ、ローテーションの変更を相談してくれ。決まった新しい
ローテーションはすぐに皆に流してくれ」
「Ｓｉ，シニョーラ」
恋人同士のくせに、アバッキオは上司に対する返事をした。
７
「ブチャラティ、あなたはほんとに誰がボスの子を妊娠してもいいんですか？」
２人きりになったとき、フーゴは聞いてみた。
「なんだ？ フーゴも妊娠してるのか？」
「いいえ。ぼくはまだそういうことにはなりたくないので付けて貰ってます」
「真面目にやれよ。正妻になりたくないのか？」
「まだぼくはひとの親になれるような人間じゃないので。もう少し、自分のこととか、い
ろいろ解ってからにしたいです」
「それが正しいんだろうな」
ブチャラティは透明な笑い方をした。１６，７の頃というなら、出会った頃だ。今の自
分の年頃でもある。そんな頃に、妊娠するようなことをして、そして、二度と妊娠できな
いような身体にされたのだ。自分がそんな経験をしたら、男はこりごりと思うことだろう。
「……アバッキオが、妊娠しても、平気なんですか……？」
考え考え、フーゴは口にした。
「ああ」
答えは短かった。
「年から言って、アバッキオが妊娠するんじゃないかと思ってた。そうなってくれたらい
いなと」
「だってあんたは、彼女を愛してるって、身も心も許しあったって！」
「だって、わたしはアバッキオに子供を授けてやれないもの」
フーゴは腑に落ちた。ビアンのカップルは、子供を得るために人工授精を試みたりもす
るという。ジョルノは２人の種馬にされたのだ。
「ボスの子を生めば、アバッキオの立場は組織では確かなものになる。得体の知れない馬
の骨から子種をもらうより、気心知れたきれいで才能ある少年から貰った方がこっちも安
心できる。
アバッキオはあの外見で男に苦労しすぎてるからな、きれいな子に抱いて貰って、楽し
いって気持ちを知って欲しいんだよ」
……ああ、なるほど。
豊麗な金髪美人。性格は真面目で一本気で。男達にとって征服したい象徴のようなもの
だろう。自分をからかって楽しんでいるジョルノがアバッキオのことも面白がって相手す
るのは想像できた。
「どんなにわたしが心を配って、女同士だからこそ解る可愛がり方をしてやっても、男の
あれがないばっかりに、究極のところは味わわせてやれないもんな。切ないよ」
「ブチャラティ……」
……それにな。
ブチャラティは秘密を告げる顔で付け足した。
「アバッキオは、親身になってくれていた先輩を死なせたことを悔やんでる。信心深い子
だから、自分が子供を宿すことを許されたら、それで、神様がお赦しになったと思ってく
れるんじゃないかと、そう思って」
あっとフーゴは胸を突かれた。
……ま、いろいろだ。あの子が本気でめり込んだら凄いからな、じつはわたしも時々持
てあまして引いてる。みんなに迷惑かからないように、少しでも鬱のもとは取り除いてお
きたいじゃないか、そう偽悪的にブチャラティは笑って見せた。
「ナランチャの子が生まれたら、アバッキオに育てさせてやってくれ。心の優しい、まっ
とうな感覚がまだ残ってる子だから、きっといい母親になれると思うんだ」
「ええ」
フーゴは、なぜか胸が苦しかった。
８
ローマはもう秋。ローマの名門私立高校は、新学期から１人の編入生を迎えた。ネアポ
リスの出身という金髪の、琥珀の眼が印象的な美しい少年。学業もスポーツも、飛び抜け
た才を発揮したりはしないが、なにか威厳すら感じさせる落ち着いた生徒だった。あまり
人付き合いが上手でないようで、いつしか校内で彼に構うものはいなくなった……。
「おい、あれ、編入生じゃないか？」
枯れ葉散るカフェのテラス席に、見知った顔を見いだした高校生が傍らの友人に語りか
けた。
「ああ！ ええと、Ａ組のジョルノ……ジョバァーナ」
「やつめ！ デートだ！」
金髪の少年の同じテーブル、差し向かいの席には淡い亜麻色の髪の少女が腰掛けていた！
「すげえ！ モデルかな！？」
天使のように整った貴族的な顔立ちに、ユニセックスのパンツ・スタイルの服が似合っ
ている。どこのブランドだろう、スタイルと度胸がよくなくてはとても着こなせない！
大きく胸元が切れ込んでいて、見えそうで見えない！ モデルのようなスレンダーさで、
男の大好きな胸のふくらみはそんなにないようだが、そんなのなくたって構わない、むし
ろ、ない方が中性的な魅力を引き立てている！ 派手すぎない絶妙な淡い色合いが、髪の
色にも彼女の雰囲気にもよく合っている。
「ちくしょう、いいなあ……」
「ジョルノもきれいな奴だからなあ……」
少年達は、羨望の気持ちでかれらを暫し見つめた。
ジョルノとガールフレンドは、ノートにいろいろ書き込みをしながら筆談をしているよ
うだった。楽しげに眼を見交わして、いろいろペンを動かしているが、口は動いていない。
声も発していないようだ。
「なんだろ？」
「深刻そうな……でも楽しそうだぜ」
「きっとデートの計画だぜ。もしかして婚前旅行とか！？」
「かーッ、いいなあ……」
「お似合いだもんなあ」
その２人は、周囲を憚ってスタンドで会話していた。
……腐ってますね。
……ええ腐ってます。
……どうします？
……お好きなように。ぼくはボスのご指示通りに運びますから。
……めんどくさいなあ、サッカー場とかにみんな一同集めてきみのパープル・ヘイズで
全滅とかさせません？
……ボス……。それは、ちょっと。
……もしかして、そういうことを言うとぼくが引いたりするんじゃないかとか、気にし
てないでしょうね？ きみは本来冷徹な判断をくだせるひとでしょ？
……それは、どうかな……。
意外といいところを突いている。このところのフーゴは作戦立案に少し甘いところが出
始めている。こんな残酷なことを提案して、ジョルノは何と思うだろう、そういうためら
いが無意識の間に働いてしまっている。
……初対面のあなたは強烈でしたよ！ フォークで仲間の頬をブッ刺したりするんです
からね。
……そうじゃないと躾けられないんです彼女はッ。
……そのあとミスタのお腹をホチキスで繋ぐし。このひとを怒らせるのはやめようって
心から思いましたよ。
和やかに微笑むジョルノを見て、フーゴは赤面して言葉に詰まった。いや、言葉は発し
ていないが。
…………じゃァアバッキオのことはどう思ったのか聞いてみたいですね。あんなことを
されて。
指はティーセットの絵を描き出している。
……すっごいところに来ちゃったなあって思いましたかね。
ジョルノは屈託なく笑った。憎らしいほどの余裕の笑顔だ。
……彼女、取っつきにくいですけど、仲間って認められたらすっごくだいじにしてくれ
ますよ？ ナランチャなんかほんと面倒見て貰ってて。
言っておいて、フーゴは余計な一言だったか、とひやっとした。
……ええそれは、まあ。
ジョルノは曖昧に微笑んでいた。もう尽くす相手と認められて、年上らしい行き届いた
世話を焼いてもらっているのかも知れない。
……ぼくはぼくのできることであなたに尽くします。お誓いします。
フーゴは小さくなった。
……ぼくと関係を持つことによって余計な感情を生じさせて、それであなたの頭脳が鈍
るようなことがあるのなら、ブチャラティに言ってあなたは外して貰うようにしますから。
琥珀の眼を光らせて、ジョルノは冷静な宣告を下した。
……解っています。
美しい横顔を、悲壮な決意が流れた。
「いい雰囲気だよなァー」
よせばいいのに少年達はまだ２人を見ていた。と、舞い散る枯れ葉が彼女の髪にこぼれ
落ちた。ジョルノは身を乗り出してそれを取ってやる。どんな手品を使ったものか、彼の
手の中で、それは色鮮やかな花へと形を変えた。
「えッ！？」
ジョルノはそれを少女の髪に挿してやる。そのまま、髪をなで下ろす。少女が頬を染め
た。かぶりを振って、なにか反論する、と、ジョルノはその頬をとらえて、身を乗り出す
と、唇を奪っていた。
「チクショォー！ シビれたりもアコガレれたりもしないぞォ、リア充爆発しろォー！」
「おい、よせって！」
思わず叫びだしてしまって、出歯亀がばれた少年達は、慌ててその場から逃げ出した。
「ああ、学校の同級生みたいです」
飴と鞭を地でいくジョルノは澄ました顔でカプチーノをすすった。
「大丈夫ですか？ 噂になったりしません？」
フーゴは少年達が去っていった方向へ眼をやる。
「かえって虫除けになっていいかな？」
「もてるんですね、本当に」
感嘆のため息が漏れる。
「だから手を出す相手は厳選してるんだ」
にっこりと笑われて、フーゴは思わず胸を押さえた。
「冷えてきた？ もう少しおしゃべりしませんか、……仕事以外の話」
ジョルノが、テーブルの上に残っている方の手を握ってきた。
９
「ボスってばセリエＡの選手よりギャングスタになりたかったんだってさァ〜」
お茶の時間のオフィスで、ナランチャが暴露した。もう安定期に入ってはいるが、さす
がに出入りには出せないので、これ幸いと組織の勉強を詰め込まれている。
「オレのことはチームに入りたいって言ったら殴っといて、ブチャラティ、それはどうよ？」
上目遣いになりながら、そこは屈託がない。
「べつに口に出してそのとき言った訳じゃないですからね」
ジョルノはややたじろいでいる。その時にはもうすっかり悪さをして小遣い稼ぎをして
いる不良生徒だった。
「じゃあ晴れて夢が叶ったんだから見に行くか？」
ブチャラティがそこには触れないで笑って見せて、フーゴはすぐにパソコンで必要な情
報を照会してチケットの手配に入った。
側近一同の慰安のための観戦は、ローマはスタディオ・オリンピコにＦＣネアポリスが
乗り込んでの今季初の試合となった。
「そんでホームじゃなくてアウェイ側なわけね。組織の力ならＶＩＰ席取れるんじゃ？」
ミスタは高揚感を隠せない顔でそれでも突っ込んだ。
「今日の所はお忍びで。だってせっかく久し振りにネアポリス訛りが聴けるんですよ、懐
かしいじゃないですか」
ジョルノも、久々に目立たない生徒でも恐ろしい少年マフィアでもない自分になれて晴
れ晴れとしている。
「やっぱり応援するのはＦＣネアポリスなのかァ？」
大切な身体だからとずっと閉じこめられてきたナランチャはゴキゲンだ。
「当然ですね」
そこは日本生まれでも、ネアポリス育ちのジョルノは胸を張った。
「あたしも」
真面目な質のアバッキオは、地元以外を応援するなんて考えられないのだろう。
「若い頃はエレヴェーターで。今年はＡに残れるかって毎年冷や冷やしたもんよ」
まだ２１のアバッキオの若い頃って。皆は突っ込みたくて突っ込めない。
「あんたら赤ん坊だったかもだけど、あたしの小学校上がる年が凄くって、リーグ優勝は
するは、スーペル・コッパは取るは……それ以降の停滞がもうウソみたいな……」と、熱
い解説が続きそうなのをブチャラティが冷や水をぶっかけた。
「あはは、詳しいな。わたしはそんな余裕なかったけど」
ブチャラティの若い頃って。アバッキオは先日聞かされたブチャラティの悲惨すぎる青
春時代を思いやってすぐに口を閉じて顔を俯けた。
「アタシはローマ（こっち）にきてからローマも見るようになったけどォ？ 結構イケメン
選手多いんだわァ」
ミスタが空気を変えようとした。
……ってこの前ローマの選手とデイトしてたのは黙っていてあげますよ。
フーゴは心中補足した。
「ぼくはどこでも」
実家はインテルの後援企業だったな、とふと思い出している。
「ナランチャ、あまり昂奮するんじゃないぞ」
ブチャラティが注意をくれて、一同はスタジアムに入った。
「おい、あれ」
試合を見に来ていた若い男が、隣の男を小突いて注意を向けさせた。
「すっげえなあ、まだ小僧っぽいのにいい女引き連れて。あれ位になりてえな」
話を振られた男はまだその意図に気付いていない。
「あれ、パッショーネの美女軍団（アマゾネス）だぜ」
「え？」
「ボスの愛人の最高幹部たちだ。ブルネットの豹みたいな女がたしかリーダーのブチャラ
ティ。ネアポリスの幹部の愛人だったんだが、旦那が死んだらその遺産を上納して自分が
幹部に成り上がった。そのあと、今のボスと組んで前のボスを追い落として今はパッショー
ネを仕切ってる。
プラチナ・ブロンドのグラビア系がいるだろ？ こいつがアバッキオ。あーんななりし
てもと警官。マーシャル・アーツでは無敵だとよ。
もうひとり、ブルネットの、グラマー。あれがガンマンのミスタ。百発百中らしい。
ブルネットでちっこいのがナランチャ。こいつも可愛い顔して武闘派。
すっげえモデル系の美人がフーゴ。これが金庫番で参謀。あれで天才少女で、エクセルっ
て何ですかっていうぐらい、さらっと見ただけで帳簿の数字合わせるらしいぜ」
「はぁーすげえな。そんで、アレ全部愛人かよ。羨ましい……まだ高校生ぐれえに見えね
えか？」
暢気な男は素直に感嘆して見せた。それにしても、マフィアの下部組織に出入りもして
いると常々言っていたが、この友人はかなり深入りしているようだ、一般人が知っていて
いい知識じゃあない……。
「コーコーセなんだとよ。畜生、マフィアのボスならボスらしくＶＩＰ席取って安全に見
に来やがれってんだ、お忍びぶって一般席に出張ってきやがって！」
「おい、マリオ……？」
「もーッ、いいところだったのにーッ！」
ナランチャがまだ手を大きく打ち下ろして悔しがっている。試合は１−０でホームのロー
マが勝った。当然とも言える。ＦＣネアポリスのサポーターたちは、遠路ネアポリスへの
帰途につこうとのろのろ駅へと動き始めている。バス・ツアーの一行がハンド・スピーカー
で誘導されている。試合後は恒例とはいえ、大変な混雑だ。
「ナランチャ、足元気をつけてくださいね」
フーゴが気配りしている。もともとが細っこい体つきだが、やはり見るとお腹が目立っ
てきている。
「大丈夫か？」
ブチャラティが恋人を気遣った。このところふさぎ込んで考えがちにしているので、少
しは気晴らしになるかとこの観戦を企画したのもあったのだ。
「ああ、大丈夫。楽しかったよ」
もとから色の白い美女は、笑顔を強いて作って応えて見せた……。紙のような、白いし
ろい顔……。ブチャラティはつい注意をそちらに向けた。
「結局ボスはミスタさんが目配りすることになるのよねー」
油断無くピストルズを出しているミスタが、役得とばかりにジョルノの手を取った。
１０
「ネアポリスが負けるのは当たり前だァーッ！
パッショーネのボスがそんなところに紛れ込んでるんだもんなァ！
てめえ、スパイに来やがったな！？」
突然、調子外れの声が上がった。敗戦に苛立っていたサポーターどもがざわめき出す。
「まずいですよ。パッショーネは立場上ローマのチームを後援してることになってます」
フーゴが青ざめた。
「だからお忍びなワケね。
ごめんそこ通してくれる？」
ミスタがすぐに対応する。
「パッショーネ！？ おまえらが？」
すぐ側の荒くれが目を剥いて問いかける。
「間違われやすいんです」
ジョルノはひとを食った笑顔で煙に巻こうとする。
「まさかだろ、この子はまだ高校生……」
ミスタが道を切り開こうとする。
「ジョルノッ、後ろッ！」
ナランチャがいきり立つ。
「きみは引っ込んでなさい。普通の身体じゃないんだから」
フーゴがナランチャを庇った。
「おいッ、坊主、いいご身分だな、女を引き連れてカルチョ観戦か」
もはや、ジョルノがパッショーネのボスかどうかは問題ではなくなった。
「だったらどうした？ 高校生に因縁つけんのか、ネアポリスのサポーターは？」
アバッキオが声を荒げた。
「あァーッ、ねーちゃんちょっと言葉選んで」
ミスタが人混みを掻き分けながらジョルノを通してやって振り返った。
「おまえらのノリ悪かったのは試合中気になってたんだよ！ 声ちゃんと出さねえから選
手が力を出せねーんじゃねえか！ 女侍らしてチャラチャラするんならよそへいってやり
やがれッ」
別のサポーターがまた絡んでくる。
「ノリが悪かったか？ 済まなかったな、身体の具合の悪い子もいたんだ、そう責めない
でやってくれ」
すかさずブチャラティが割って入ってなだめにかかる。
「具合の悪いやつはうちへ帰ってＴＶで見てろ！ サポーターなら、スタジアムに来たら
血の巡りが良くなるもんだ！ 雰囲気を壊すんじゃあねえッ！」
「なんですその言いぐさは、チケット買って応援に来たファンに向かって。ネアポリスの
サポーターも堕ちたものですね！」
振り向きざま、ジョルノが皮肉に言い捨てた。
「ボス、控えて！」
フーゴが悲鳴をあげる。
「この……ガキ！」
フラストレーションは、絶好の吐け口を見いだした。相手がマフィアのボスだろうが、
女たらしの高校生だろうが構わない。気に入らない小僧を、ぶちのめす！ サポーターが
フーリガンと化した瞬間だった。
「叩きのめせ！」
「おう！」
「ちょ、ボス！」
ブチャラティがスタンドを出しかける。
「ナランチャが先です」
「スティッキィ・フィンガーズ！」
「ブチャラティッ！ オレもや……」
皆まで言わせずにナランチャは亜空間に匿われた。
「ミスタ、発砲は許可できないッ」
ブチャラティが手近の男の顔に拳を叩き込む。
「解ってるってェねーさん！ 素手でも強いよ？ アタシ達って」
ミスタはゴキゲンで行く手の男どもをぶちかまして道をこじ開けている。
「たまにはいいんじゃないですか？」
ジョルノはフーゴの手を引いて庇いながら襲いかかる手を払いのけている。
「おふざけでないよッ！ こんな乱闘、チームにも迷惑がかかるだろッ！」
アバッキオは怒り狂って、ジョルノにつかみかかろうとする男どもをたたきのめしてい
る。庇われながら、フーゴは携帯を操作して警護班に連絡して、迎えの人手を頼んでいる。
「……ちぇ、あのままフクロにされて、ついでに再起不能にでもなりやがったらこの機に
乗じてローマぐらいは獲ってやれると思ったのにな」
ジョルノへの敵意を煽る一声を浴びせて、あとは様子を窺っていた男は頭を掻いた。
「一声でこんな騒ぎを起こすかよ……おまえが怖（こ）ええよ」
のんきものの友人はすっかり引いていた。
結局騒ぎを聞きつけてチームのスタッフも出て騒ぎは沈静化し、拳で道をこじ開けて立
ち去った一行がパッショーネのボスだったのかどうかは未確認とされた。
「やはりＶＩＰ席の方が良かったな。わたしの判断ミスだった」
ブチャラティがミスを認めた。
「余計なことを言ってしまったぼくがいけませんでした。せっかくの慰安の機会がだいな
しになってしまってすみません」
リムジンの中で、一息ついてジョルノが詫びた。
「でも胎教とかいってコンサート行くよりオレは楽しかったぜ！」
ナランチャが明るく話題を変えようとする。
「きみに怪我がなかったのは不幸中の幸いです。アバッキオは？」
ふと、切れ切れにうなり声を上げているアバッキオに眼をやって、フーゴは声を失った。
「……ブチャラ、ティ……」
無言のうちに、ぐっしょり血で染まったパンツの裾を指で示す。
「アバねーちゃん、なんでそんなとこ怪我って、もしかして！？」
ミスタが身を乗り出した。ジョルノがすぐさま運転士に合図して行き先を病院に変えさ
せる。
「アバッキオ！ ……汗の味が変ってきていたから、もしやとは思っていたが？」
ブチャラティが恋人に取りすがる。
「ナランチャに、悪いと、思って……」
苦しい息の下から、アバッキオは妊娠を認めた………。
「……ダメだった」
憔悴を眼のしたに強く表して、ブチャラティが現われると、病院の待合室で待っていた
一同に告げた。
「考え込んでいたから、そういうこともあるかとは思っていたんだが。ああいう場に連れ
出したわたしが間違っていた。ジョルノ、みんな、済まない」
「それは……残念です」
ナランチャの時とは違い、まちがいなく自分の子だ。ジョルノは複雑な気持ちもあろう
が、子供を悼む感情を出して見せた。
「また妊娠できるかどうかは解らないらしいが。……ジョルノ」
「名誉正妻ってことでどうです？ とりあえず最初だったことだし。あなたの大切なひと
です、ぼくも尊重します」
「そうしてくれると、助かる」
ブチャラティはいつにも増して言葉が簡潔だ。
「流産とか、子宮外妊娠とか、早産とか。妊娠って、そうそうリスクがない訳じゃないん
ですね」
フーゴが溜め息を吐いた。
「そんなことをゲームにしてしまって、悪かった。ナランチャもいっそう身体を大事にし
てくれ」
ブチャラティが、なおも顔を伏せて詫びた。
まずい、彼女の精神的ダメィジも大きそうだ。
一同は顔を見合わせて、それ以上リーダーに気を使わせないよう散会した。
１１
意識のもどったアバッキオは皆を病室に呼んで言った。
「あたし、ボスの妻になるのは無理だと思ってて。ちょっと、いろいろ考えていて、みん
なに言うのが遅くなって。こんなことになって、ごめん。心配掛けて。
やっぱりあたしの愛するのはブチャラティだけなんだ。ごめん。抜けさせて。そして、
できるなら、ナランチャの赤ちゃんをちょうだい。その子を育てることで、みんなと繋がっ
て、組織に貢献したいんだ。もちろん、ムーディー・ブルースが必要ならいつでも出しま
す。出入りの人手が足りないなら使って。
でも、ジョルノの相手はもうできないわ」
アバッキオは、儚げな笑みを浮かべて、詫びながら離脱した。
「済まなかった、大切なひとにさせることじゃなかった。ほんとに済まない……」
ブチャラティは、アバッキオを抱きしめて、その肩口に顔を埋めていた。
皆は合図をして、彼女に思いきり泣かせてやるために、部屋を出て行った。
「ねーちゃんが離脱するとはね」
サロンに移動して、ミスタが溜め息を吐いた。
「でも、もとからあのひとはブチャラティ一筋でしたし」
フーゴの顔色も悪かった。
「ぼく、振られてしまいましたね」
ジョルノは笑って見せようとして失敗した。
「ボスが悪いんじゃないさ」
ミスタはこんなときでも笑ってみせることができる。ためらわず、ジョルノはその胸の
中に顔を埋めた。
「トリッシュ呼んでぱーっと遊ぶ？」
ナランチャがアイディアを出して見せた。
「それも彼女に悪いような……」
その彼女とはアバッキオのことか、トリッシュのことか。
「とりあえずローテーションはまた組み直しですかね。ブチャラティも当分は彼女に付い
ていたいでしょうし」
フーゴが所在ないときの癖でパソコンを立ち上げた。
「護衛もスタッフ揃ってきてるから、禁欲日増やせるよ？」
ジョルノの内ももを撫で上げながらミスタが笑って見せた。
「それはありがたいようなありがたくないような」
ジョルノがミスタの胸の中から声を挙げた。
「やっぱりトリッシュにも入って貰います？」
「いえ結構」
そこは即答。
「……もしかして、ボスってトリッシュ好きじゃない？」
ナランチャがやばいところを指摘した。
「……とりあえず、ナランチャははやく無事身二つになって復活してください」
「あはは、ありがと、ボス」
ナランチャはくすぐったそうに笑った。
１２
アバッキオはしばらくして退院したが、ナランチャの出産にあわせて徐々に組織での仕
事を減らしていき、子供を育てる仕事に専念することを組織内に公表した。もちろん、
「名誉正妻」として組織内の立場も保証されることになった。もともと、美貌と仲間と認
めたものへの面倒見の良さでは「アバッキオの姐さん」は密かに慕われていたから、その
引退は惜しまれた。アバッキオの仕事はまず、ナランチャの通院の付き添いにはじまり、
２人して育児書を読んで、出産までにナランチャを母親として教育することになった。
新しい日常はすぐに手垢まみれになっていった。
「ボス、ちょっと今日は面白いもん持ってきたから試してみ？」
部屋を訪れたミスタがにんまりと笑った。
「ドラッグですか？」
小さなタブレットを見ると、すぐにジョルノは言い当てた。
「さすが。これ、今流行ってきてんの。脱法ドラッグ。法律で禁止されてるドラッグの構
造をちょーっと変えて、効果は限りなくそのまんま、でも、名前違うから禁止薬物ちゃう
よ、ってゆーあぶねーシロモノ」
「うちは麻薬は扱わないことにしたんじゃ？」
「うん、ねーさんの悲願。でも、やっぱそういうのに手ぇ出したいマヌケはいるじゃん？
だからあの手この手で沸いてくるワケよ、こーゆーのを売りさばく奴。麻薬を扱わなく
なったんなら、なおさらこーゆーのも押さえておかないと、根っこからひっくり返される
よ？ ボス」
「さすがですね」
ジョルノはようやく微笑みを浮かべて見せた。
「ちょっとアタシ自分で軽いのは試してみたけど、Ｈが凄いの。これは、若い女の子に流
したら飛びつくね。やべーわ」
「おや」
「ってことで、ボスもどう？ なにごとも自分で経験しなきゃ」
「ブチャラティにばれたら殺されますよ？」
ジョルノの目の色が深くなる。
「うん、フーゴには話通してある。今夜は階下のオフィスに詰めててくれるって。なんか
あったら対処してくれる」
……あんまりあのひとを汚さないで欲しいんですけど。
ジョルノの脳裏をちらりと苦笑のようなものがかすめた。ブチャラティに対する想いと
は別建てで、フーゴの青臭い知性を尊重する気持ちが芽生えている。それを言うなら、し
れっと規範を乗り越えてくるこのミスタのノリにも、同志のような相性の良さをごく最初
の頃から感じていた。アバッキオの見かけの豊麗さも精神のたたずまいの端整さも好まし
く、ナランチャの無邪気さには心を洗われる。
つまりは、フーゴに言って見せたように、チームの皆をそれぞれ愛している。
「何があっても知りませんよ……」
とくに覚悟を決めたふうもなく、ジョルノはハートを刻印したタブレットを飲み下し
た……。
おそらく、若いボスはゆっくりと荒んで行っていたのだろう。
ジョルノの意識はすぐに闇に飲まれた。
……その目つきが気にいらねえ。
振り下ろされる革のベルト。風を切る禍々しい音。背に、腹に刻まれる虐待の烙印。い
つの記憶だろう。
……オメエがいけないんだよッ！ ××には言いつけるんじゃねえよッ。
「ごめんなさい」は一生分言ったと思う。目つきがいけないと言われ、鏡の中の自分の眼
を、どれだけ見つめたことだろう。
……いけすかねえガキだぜ。
息を荒げ、背を向ける。この男が自分の父親などではないと心から信じられた。
……ぼくの本当のお父さんはこのひと……。
母の持っていたただ一枚の写真、まともにレンズをみてもいない金髪の男を、心の支え
として生きてきた。
……いつか本当のお父さんが迎えにきてくれる……！
そんな夢を抱いたこともあったかも知れない。夢は破れるものだと思い知らされた。本
当の父はもうこの世にいない。大柄な端整な美貌の金持ちなどではなく、世界を恐怖で支
配しようとする吸血鬼だったそうだ。母とのつながりも、愛ではなく、単なるきまぐれと
享楽の結果だった。
「……ぼくはそんなごりっぱな人間じゃないんですよ、ブチャラティ」
脈絡を窺わせない独白に、ミスタはびくりとした。
麻薬なんか、どうだっていい。虐げられた人々なんて知らない。自分が、憧れたギャン
グスタになりたかっただけ。組織の運営なんかやりたいものがやればいい。支部同士の遺
恨なんか知るか。欲の皮を突っ張らせた醜い大人達なんか、自分たちで勝手に殺し合って
滅びればいい。街の皆さんにはやさしいマフィアだって？ ぼくをいじめて無視してきた
奴らは街のかたぎのひとたちだった！
……結婚！？ 後継者！？ そんなものどうだっていい。吸血鬼の息子のぼくが一体誰
に愛されるというのだ？ 虐待を受けた子供は愛を知らない。自分が親になっても同じこ
とを繰り返すという。こんな自分が親になっていいわけがない。ナランチャの子の父親が
ぼくでなくてよかった。まだ父親になんかなりたくない。でも彼女たちのことは抱きたい。
性の技巧に長（た）けていることだけは確かだから。皆が認めて褒めてくれたから。気持
よいことはみんな好きだ。だから、快楽を与えている限り皆自分を尊重してくれる。彼女
たちも、自分に協力してくれる。子供なんか要らない。でも、ブチャラティは子供を産ま
せろと言った……。
「このぼくにどうしろと言うんです！？ たしかにぼくは子供だった、ギャングのボスに
ることの意味を理解してなかった。誰にも舐められない自分になる、腐ったオトナを見下
ろして、きれいな女性を何人も侍らせて！ それ以上のことを想像なんて、無理です！
……来るな！ あんたは永遠に死にもたどり着かない敗者だ！ 今のぼくを断罪する資
格など……」
急に訳の解らないことを叫びはじめたボスに、ミスタはすぐに対応した。暴れないよう
に羽交い締めにして、水を飲ませて落ち着かせようとする。渾身の力で振り払われて、肩
で息をしながらスタンドをすぐに呼び出した。
「ｂP、フーゴ呼んできてくれッ」
「何をやってるんですかあんたたちはッ！」
フーゴがすぐに駆けつけた。ジョルノはもう理性を失って、目の前に現われる幻影と闘っ
ているらしい。スタンドまで出して！
「ちょ、頼むフーゴ、ボスに発砲するわけにいかねーし」
「当然ですッ！ ぼくのパープル・ヘイズでも力負けしますし、ボスは免疫があって大丈
夫でしょうけど、この状態でヘイズのカプセルが割れたら、ぼくらが危ない……」
「どーすんだよッ」
「生身で最強の人を呼びますッ！」
フーゴは携帯電話に手を伸ばした。
「ボスがどうしたって！？」
アバッキオはすぐに駆けつけた。ジョルノは今や幻覚に脅かされて、両腕に側近に絡み
つかれてベッドに取り押さえられていた。ドアを開けに行ったフーゴが離れた隙に、ミス
タが払いのけられて壁に激突した。
「ぐえッ」
「なにをやった？」
見るなりアバッキオは顔を真っ蒼にして、短く問うた。
「脱法ドラッグ。ちょっと味見させて」
「ブチャラティが知ったら殺されるぞ！」
アバッキオはつかつかと歩み寄るなり、背後を取ってボスの首に腕を絡めた。
「ジョルノ、もういい」
「あそこに蛇が！ 炎に巻かれて！ ミスタ、火を消してあげてください。蛇は可愛い生
き物です。手も足もないのに進んで、けなげじゃないですか」
眼を血走らせて、手を無意味にばたばたさせて。不敵な悪の組織の若きボスには似つか
わしくない醜態であった。
「解った」
アバッキオは腕に力を入れた。急所を締められて、数瞬でジョルノは気を失った。
「アタシは何ともなかったんだよ？ Ｈが良くなる薬って。うちは麻薬をやめたからかわ
りにって流行りだして。試しもしないで禁止も代替も無理かと思って。でも、他人の身体
で実験もヤじゃん……？」
本気で怒ったアバッキオの形相に、ミスタは恐れをなして口を割った。そのみぞおちに
拳を叩き込んでフーゴに向き直る。
「ぼくがＯＫを出しましたッ……一理はあると思ってッ……こんな恐ろしい副作用がある
とは思いもよらず……」
平手打ちがその口を閉じさせた。
「裏で細々作ってるから成分が一定してないんだよッ！ 流通ルートも未発達でその時そ
の時で製造元も一定しねえしッ！ 反応も個人差が大きいッ！ 人に聞いてかる〜い気持
ちではじめても１回でオーヴァードーズでくたばる可能性だってあるッ！
それだけじゃねえッ！
麻薬の恐ろしいところは一度でも身体に入るとフラッシュバックがいつ来るかわからね
えところだッ！ これから一生ボスはフラッシュバックの危険性があるってことだぞ！
てめえら、一生ボスについて命で償えッ！」
「「Ｓｉッ」」
ふたりは異口同音に誓った。
「おかあさん……おかあさんどこ……ぼく、寒いんだよ……」
丸くなって、呟きはじめたジョルノをアバッキオが抱きしめた。
「大丈夫。大丈夫ジョルノ。ここにいる。あたしたちがここにいるから、ゆっくりお休み」
「そう、世間からはみだしたアタシたちだもの、ひとりやふたりじゃあ力が及ばないかも
だけど、ブチャラティがいてくれる。みんなで一緒にいれば、なんとかなるよ。ナランチャ
のことも、大丈夫。
家族になろう。な、みんなずっと一緒にいようぜ」
ミスタが這い寄って、その手を取って頬に当てた。
「そうですよ」
フーゴが手を伸ばして髪を撫でた。
１３
それからしばらくして生まれたナランチャの子供は男の子だった。
「ドン・ジョヴァーンニ！ ハハッ、あたし似で黒髪だ、父親もいい男だったもんな、きっ
とハンサムになるぞぉ！ よーし、おまえはボスみたいなすっげえ女たらしになるんだー！」
大騒ぎしながらそれでも軽めにお産は済んで、晴れやかにナランチャは母親になった。
「ちょっと待て、そういうふざけた名前の付け方はだめだッ！ ほんとに女性をおもちゃ
にするような不届きな男に育ったらどうするッ」
アバッキオはすぐ子供を抱き取っていきり立った。
「だいじょーぶ！ ママッキオが育てるんだから真面目人間になるさァ」
ミスタがウィンクしてみせる。
「ママッキオってのはなんです」
フーゴもツッコミながら感慨深げにしている。
輪に入れずに、表情を消したままジョルノが立ちつくしていた。
「混ざらないのか？」
ブチャラティが気遣った。
「ぼくの子じゃありませんし」
「わたしたちの子だ。みんなで育てるんだ……家族になるんだ。認知しろと言ってるんじゃ
ない。ポルナレフさんも入って貰って。もっと年上の男性や……ご婦人もいれば良いんだ
が。いろんな年代のひとと深く関わって、みんなで暮らすんだ。人間はそんなもんだ。
わたしたちは家族には恵まれていないが、そんなもの、後からでも作れるもんだ……なん
て、ネアポリスでチームを持って気付いたことなんだけどな」
「そうですか」
ジョルノの返事は短い。
「ジョヴァンニのことは、嫌わないでやってくれ」
ブチャラティは、深追いはしなかった。
「……努力はしてみます」
答えて、ジョルノは立ち去った。
「あはーナランチャ・ギルガ、ママになって華麗に復活ーッ！
ボス、ほんとにごめんな？ また当番回してくれてありがとな？
ちゃんと腹引っ込めたからまた相手してくれよな？ オレ絶対中年太りとかしねーから
なッ！」
産後の医学的チェックも終えて、ナランチャが復帰した。夜伽当番も、当然。
「でも胸のあたりは豊かになって、これはこれで魅力的ですよ」
寝室に迎えたジョルノもそう言って笑えるくらいには気分が回復している。
「じゃーやっぱオレにしかできないプレイで愉しんじゃう？ 母乳プレイ」
「ジョヴァンニの分がなくなったりしませんか？」
恐る恐る触れてみた乳房は張っていて、もう母乳がにじみ出してもいる。
「だいじょーぶ。来る前にたっぷり搾り取られてきた。アバッキオがもう鬼でさ？ 泣い
ても喚いてもひとのこと抑えつけて、サクニューキでしゅっこしゅっこ搾り取りやがんの」
「あはは。彼女もプロ根性ありますからね、真面目に子守をしてくれそうだ」
「うん、任せて安心。
だから、オレ、ジョルノに尽くすからな。ほんとゴメンな？」
真っ直ぐ見上げて、ナランチャはジョルノの胸に飛び込んでくる。
「いいですよ、もう。あなたにしかできないこともありますし」
「おう、出入りあったら任せろよ？」
「ええ……」と、抱きとめてもう２人はその気になっていた。
「なあ……大丈夫？ ガバガバになってたりしねえ？」
ライヴァルの多い１８才の母親の心配は「そこ」だったりする。
「大丈夫ですよ」
「ホントか？ ネアポリスじゃあ柄悪い連中が、子供産んだ女なんて……とかけっこーひ
でーこと言ってたぜ？」
「そんなことないです。
それに、それならそれで愉しみ方はいろいろありますから」
「やっぱジョルノはケーケンチ高いからいいぜ。あは、ありがと」
ナランチャはいっそうジョルノにしがみついた。
「ほんとに、あなたはそういう素直なところが得難いですよ……」
１４
「僕は逢う必要性を認めません」
反抗期の息子は言いきった。ストロベリー・ブロンド、というかほぼ赤毛に、緑の眼は
母親譲り。気の強さも、プライドの高いところも。あれもこれも自分の若い頃そっくりだ、
とトリッシュは溜め息を吐いた。ほぼ母子家庭なのもそうだろう。しかし、経済的な援助
は十分受けてきたし、いちおう正式に結婚してもいる。息子抜きだが、たまにデイトもし
ている。
「でも、お父様のお誕生日だから。……あなたのきょうだい達にも逢えるわよ」
「そんなものが存在すること自体、有り得ません。お母様の子は僕１人なんですよね？」
フォルツァは顎をあげて挑戦的に言いはなった。そこを突かれると痛い。
「ええそうよ。……そこのところは、彼らに逢ったときに説明するわ」
「説明していただくほどのことはないと思いますけど。要するに、どこの国でも良くある
事情でしょう？ お父様は艶福家だと」
「難しい言葉を知っているのね」
艶然と、トリッシュは肯定して見せた。単純にスケコマシだ。あの時は、自分はそう思
ったのではなかったか。
「お母様はそれで良かったと？ 結局のところ安定した生活が欲しかったんですね？」
揺るぎない瞳で、母親さえも追求してくる。難しい年頃の男の子だ。ちょっと彼の周囲
の逞しい女性達に助けを貰いたいのもあって、久々に繋ぎを取ろうという気になったのだ。
「そうだったかしら……忘れたわ。
でも、あなたのお父様は偉大な方よ？ 若くしてこの国の１つの勢力を乗っ取って、支
配して、そして今もそれを保っている。なかなかできないことよ、あたしの父も失敗して
命を落とした。そして、もう、この国の権力と結びついて、揺るがせない勢力になってい
るわ。あたしの命の恩人でもある。
そうでなくても、あのひとの個性は輝いているわ。何度も、あのひとを無視して、あの
ひとと関わり合いにならない人生を探そうとしたけれど、無駄だった。どんなに否定して
逃れようとしても、あのひと以上の男性には巡り会えなかった。だからあのひとのものに
なることを受け入れたの」
過去を振り返りながら、母の顔が輝いていることを、聡い少年は認めざるを得ないよう
だった。
「本当に、ぼくの父親はあのジョルノ・ジョバァーナなんですか……？」
トリッシュの息子は、物心付いて以来初めて父親に面会する気になった。
ボス・ジョルノの４０才の誕生日はそれぞれの家族を招いて内々ながら盛大な規模にな
るようだった。正妻のトリッシュが久々に参加し、息子を連れてくると言うのでそれぞれ
のジュニア達も緊張している。
「えーっオレ初対面だよな？ なんて挨拶したらいいのママッキオ？」
母親譲りの黒髪に、身体ばかり大きくなったジョヴァンニが育ての母にまとわりついて
いる。
「しゃんとしなッ。向こうは難しい年頃でナーヴァスになってるんだから、無理に構うん
じゃないよッ。ちょっと通り一遍の挨拶だけにして、向こうが話しかけてくるまで控えて
るんだよッ。
それより、その頭なんとかならないのかい？ 櫛は通したんだろうねまったく」
流産の後ジョヴァンニを引き受けてイタリアのマンマになりきったアバッキオは、まだ
まだ麗しい華の美貌ながらもう組織の仕事は引退している。
「アバッキオしばらくーッ！ かわんないね。ジョヴァンニと出歩いてもツバメにしか見
えないんじゃね？」
ゴキゲンで声をかけてくるのはジョヴァンニの実母だ。
「そんなわけがあるかッ、ふつうに親子だッ。そりゃ自分のことだろ、ナランチャ。いつ
までも若作りしてッ」
アバッキオはまだまだ若い格好のナランチャに噛みついた。
「あ痛ッそこ殴んのやめて、こないだの出入りでぶつけてヒビ入ってるんだから」
顔をしかめて見せながらも底抜けに明るい。
「まだ現場に出てるのかい……」
「ツバメって、それはないだろ。見事にそっくりな親子だから」
穏やかに割って入るブチャラティのスレンダーな美貌は変らない。こちらは押しも押さ
れもせぬ組織の大幹部だ。
「レオーネ、今日もきれいだな。ボスが惚れ直すぞ」
「何言ってるんだ、ブローノ……トリッシュも来るってのに、ありえねえ」
例によって２人の世界を作り始めたので、ナランチャとその息子は遠慮した。
「よー元気？ 今フーゴ来るから」
ミスタがピストルズを従えて現われた。ダイナマイト・ボディには衰えがない。
「じゃーガブも来る？ きれいになったろーなァ！」
ジョヴァンニは素直にイタリアーノとして美人が好きなところを見せる。
「当然。いやーボスもちゃんと種播（ま）くところは弁（わきま）えてるね。きれーな子
孫しか残さないつもりだぜあいつ」
ミスタがウィンクしてみせる。結局一番公私ともに長く一緒にいたミスタには子供がい
ない。護衛としてボスの側を離れるわけにはいかないという理由だ。えーっオレんとこみ
たいにアバッキオに頼めばーと言っていちどナランチャは殴られた。
「ってゆーとトリッシュの所も？」
ナランチャは眼を輝かせた。
「おー。将来楽しみな美形よ？ ミスタさんも１回お願いしたいところよ」
「そーゆーのママッキオの前で言うと殴られるよ？」
お堅い養母に育てられたジョヴァンニが笑った。
「遅くなりました。皆さん揃っていらっしゃる？」
フーゴが現われた。気品ある美貌はその場を清冽に洗い立てる。キレキレのブランドも
のスーツが今日も挑発的だ。もういい年の一児の母として、露出はそれなりに控えめになっ
たけれども。現在もボスを補佐して組織を率いる知性派最高幹部のひとりだ。
「さ、ご挨拶なさい、ガブリエル」
振り向いて、後ろに従った娘に声をかける。淡い金髪の、人形のような娘に……。
「みなさんこんにちは」
フーゴの娘が恐る恐る挨拶した。高貴な美貌を引き立たせる品の良いワンピース・ドレ
ス。露出が少なく、色も淡くただただ仕立ての良さと着ているひとを引き立てるおとなし
めのデザインが、ギャングの青年には別世界のように映った。
「……うーーーーーん」
「こんにちは。これは美人さんだ。どっちに似たのかな？」
ブチャラティは動じない。
「こんにちはガブリエル。どうした、ご挨拶なさい、ジョヴァンニ」
アバッキオは礼儀正しく挨拶し、息子にも声をかけた。
「あっは、圧倒されてるぜ、ジョヴァンニのやつ」
ナランチャが明るく息子の背をどやしつけた。アバッキオが顔をしかめる。
「びっじーん！ すげー！ やっぱかーちゃんが違うとこんだけ違うかね？ いやー妹で
も１回お願いしたい！ おれジョヴァンニ！ よろしくな！ 小さいころいっぺん逢って
ると思うけど。覚えてない？ オフクロは一応ナランチャで、アバッキオに育てて貰って
て。今組織で一応『兵隊』やってて」
氷が溶けたように、ジョヴァンニは昂奮してまくし立てた。
「これッ！ ジョヴァンニッ！」
アバッキオが慌てて手を捕えて大人しくさせようとする。
「あはー、氏より育ちってウソなんだ？」
ナランチャはあっけらかんと笑っていた。
「……お母様」
ガブリエルは圧倒されて、母親に助けを求めた。
「……血は繋がってないから、一応。あとはあなたの判断です」
フーゴは顔色も変えずに返した。
「そこで最高機密をあっさり言わない」
ミスタが突っ込んだ。
ジョヴァンニがジョルノの子でないのは公然の秘密だ。外見も黒い髪に青い瞳で、明ら
かに似ていない。当人が明るく真っ直ぐに育っているのと、とくに後継者として待遇を受
けていないので、組織内に波風は立っていない。血筋から後継者として見なされているの
は、正妻トリッシュの息子、フォルツァ。
「ボスが法定結婚可能年齢に達するまでに妊娠したものが正妻」
２５年前のゲームは、結局勝利者がなく、いろいろすったもんだの後で２人が２５の年
にトリッシュが求婚を受け入れて現在に至る。「ブチャラティ・チーム」の美女軍団はそ
れぞれにボス・ジョルノを愛し、組織の為に働いてきた。
「トリッシュが着いたぞ」
ピストルズの報告を受けて、皆はエントランスを見やった。初めてあった頃と変らない
自信にあふれた美貌、威厳さえ感じさせるたたずまいで、ボスの妻が入室してきた。
「みんな、久し振り」
１人の男をめぐってさまざまな葛藤もあったが、それを乗り越えた絆で明るい笑顔を見
せる。
「久し振り、トリッシュ。今日もきれいだ」
ブチャラティが両手を広げて迎え入れる。
「トリッシュ、ほんとに変らないな、気後れするよ」
アバッキオも微笑んで手をさしのべる。
「２人とも、それはこっちの台詞よ。変らず仲良さそうね」
「そんなことない、ジョヴァンニに取られて、わたしはいつも泣いてるんだ」
ブチャラティが、ジョヴァンニを紹介しようと眼をやった。
「あら……フォルツァ？」
トリッシュも異変に気付いた。
ゴゴゴゴゴゴゴ。
なんだか懐かしい精神に訴えかける音がしている。
「あれま」
ミスタは目を瞬いた。
１５
母親達が旧交を温めている間に、息子達は初対面の挨拶を済ませていた。
「よーいらっしゃい。フォルツァ？ おれがジョヴァンニ」
おっかない母親の眼を盗んでもうディナー・ジャケットを着崩したどら息子が、義弟に
声をかけていた。
「初めまして。フォルツァ・ジョバァーナです」
硬い表情で、フォルツァは頭のてっぺんから靴の先まで相手をつくづくと見た。
……てんでに好き方向を向いた長めの黒髪！ 内々とはいえちゃんとした集まりなのに
どうしてこんなスタイルで平気なんだろう！？ 青い眼は母親譲りなんだろうか、顔はど
こも自分に似ていない！ 写真のお父様にも似ていない！ 本当にこの男が兄弟なんだろ
うか。年の頃は２４，５。体格はいい、組織の仕事をやってるならきっと武闘派。日頃鍛
えているのだろう。ディナーの正装をこんなに着崩して。やはり組織の人間だからだろう
か。どんな音楽を聴くんだろう、やっぱり本を読んだりネットでいろんな情報を読み込ん
だりするより、ゲームやスポーツ観戦の方が好きなんだろうか。……きっともてるんだろ
うな、要するに自分とは合わなさそうな……。
黙りこくったまま、フォルツァは義兄に対する印象を固めた。差し出された右手のこと
は、無視したままで。
「えーと、握手、しようよ」
母譲りの人なつこい笑顔で、ジョヴァンニは左手で相手の右手をひっつかんで、無理矢
理に握手をした。
無言で、フォルツァは手を振ってそれをほどこうとした……が、果たされない。自分よ
り１０才ほど年上の義兄は、にこにこ笑ったまま、手を強く握りこんで離そうとしないの
だ。
「せっかく逢えたんじゃん、なかよくしよーぜ」
「その必要を感じません」
ムキになって、フォルツァは手をふりほどこうとする。ジョヴァンニはそうさせまいと
する。
ゴゴゴゴゴゴゴ。
パーティ会場には重苦しい音が響きはじめていた。
「なにをやっているの！？」
凜とした声がその場を打ち破った。２人には、今さっきまでシャンパンを冷やしていた
バケツの氷水がぶっかけられた。
「あなたたち、恥ずかしくないの？ ここはお父様のお誕生日を祝う会場でしょうに。子
供っぽい嫌がらせやケンカをしたいのならお外へ行きなさいな！」
「ガブリエル……」
顔を紅潮させて、フーゴの娘が事態を収拾していた。まず、ジョヴァンニが手をぱっと
離して言い訳をはじめた。
「ケンカなんかしてねーよ？ ちょっと挨拶の握手じゃん？ 力比べっぽくなってたかも
だけどよ？」
「あなたはもう大人なのに、どうしてフォルツァにムキになる必要があるんです？ あた
しに彼を紹介してくれもしないで」
ガブリエルがつんと横を向いた。いっそうジョヴァンニはおろおろする。
「あ、うん、紹介するよ、トリッシュの息子の……」
「フォルツァ・ジョバァーナです、お姉様。お姉様とお呼びすることをお許しください」
ジョヴァンニが振り向くと、ジョルノの息子はもう跪いて名乗っていた。
「ガブリエル・フーゴです。ガブリエルでよくってよ。でも、あたしには兄弟がおりません
でしたから、そう呼ばれるのもなんだか新鮮でいいわ。仲良く致しましょうね」
優雅に右手を差しのべると、つとそれを押し頂いてフォルツァは甲に口づける身振りを
した。
「げえッ」
ジョヴァンニはすっかり引いていた。
「なにがげえッだ、面倒を起こすな、１０も年下の子を相手に」
母親がすぐさま出張ってきて、タオルでジョヴァンニの頭をはたいた。濡れた床はすぐ
さまスタッフがモップをかけている。
「あなたの息子は風邪をひいたりしないな？ トリッシュ」
ただ真っ直ぐ義姉に目を向けて、タラのテーマでも脳裏に鳴り響いているようなフォル
ツァの背にタオルを当てながら、アバッキオは大きな声でトリッシュに問いかけた。
「さあどうかしら。子供の頃は手がかかったけれど」
トリッシュは心のお姉様と旧交を温めるのに夢中だった。
「やあ、すっかりみんな盛り上がって。ぼくが出て行ったら盛り下がるんじゃありません
か？」
開始の刻限通りに始まらないのはこの国の催しの通例。それを承知でかっきり１分前に
ジョルノ・ジョバァーナは扉を開けて現われた。らしくなく、妻子達の様子に心を配って
いたものと見える。
まだ２０代と言っても通用する若々しい美貌！ それでいて、侮る気を相手に微塵もお
こさせない底知れぬ威容！ 集まった女達からの心からの忠誠と愛情がイタリアを実質上
手中に収めた男には注がれていた。
「いいえ、そんなことはないわジョルノ。
お久し振りね。お誕生日おめでとう。みんなあなたのお誕生日を祝うために集まったの
よ」
トリッシュが正妻として真っ先に声をかけた。
「４０歳おめでとうジョルノ。これからもあなたの人生が栄光に輝いているように」
ブチャラティが祝福する。
「おめでとう！」
「乾杯しようぜ！」
ミスタが声をかけて、グラスが配られる。「名誉正妻」のアバッキオが音頭を取る。
「ボス・ジョルノの長寿を祈念して！ 乾杯！」
「乾杯！」
「ありがとう、皆さん。どうぞ召し上がってください」
生まれてからこの方誕生日をひとに祝って貰ったことがない、誕生日が楽しいものだな
ど、思ったこともないと若い頃言ってのけて側近の度肝を抜いてくれたマフィアのボスは、
この日、誕生日を愛する女達やその子たちに囲まれて祝われていた。
しみじみとした感慨が、彼を捉えていた。
あとは、それぞれ「ボスの愛人達」が花を贈ったり、プレゼントを贈呈したりと賑やか
に盛り上がった。
１６
パーティはお開きになり、帰宅したトリッシュは息子にせっつかれて話をはじめた。
「あなたの兄弟は約３人いるのよ」
「約というのはなんです？」
「お聞きなさい。
お父様、ボス・ジョルノは愛を信じないお方でした。女性のことは欲望を満たす相手で、
ハントの対象としか見ていないところがおありでした……あたしたちが出会った若い頃に
は。
あたしは若い頃、実の父に殺されかけたの。あたしの父も、ひとの命をなんとも思わな
いマフィアでした。ブチャラティたちは、その部下で、最初は父に、あたしを警護して父
の元へ連れてくるよう言われたのが出会いだったのだけれど。
それは、父が確実にあたしを殺すために呼び寄せただけだった。そんなことのために命
がけの旅をして、父の元にあたしを連れて行ったブチャラティは、そのことを知って、父
に逆らったの。そして、皆で父に造反して、父を倒して組織を乗っ取ったのよ。
ひどい旅だったわ。何人も、何度も死にかけた。あたしも。襲ってきた敵はみんな死ん
だわね。父も。
チームのリーダーはブチャラティだったけど、最終的に父を倒したのはジョルノで、ジョ
ルノが新しくボスになることになったの。
そして、チームの皆はジョルノのものになったの。命を懸けた旅の中で、ジョルノに惹
かれていったのね。
ジョルノがあの頃本当に愛していたのはブチャラティだったわ。みんながそれは解って
た。でも、ブチャラティは、あのひとは男を愛せないひとだったの。後で聞いたけれど、
赤ちゃんを産むこともできない身体だったと。だから、ジョルノの為に身を引いて、みん
なでジョルノを守る為に、ゲームを仕組んだの。
ジョルノは一応、トリッシュと婚約する。但し、２人とも法定結婚可能年齢に達してい
ないから、それまでに、ジョルノの子を妊娠したものが正妻になる、とね。
きっと、それまでに誰かを真剣に愛して選ぶようになると思ったのでしょうけど。
最初に、その年のうちにナランチャが妊娠したの。
でも、それは、遊びで他の男との間にできた子だった。ナランチャは子供を取り上げら
れて、アバッキオが育てることになった。それがジョヴァンニ。
次に妊娠したのはアバッキオ。でも、そのころ出入りがあって、ジョルノを庇って大立
ち回りをしたアバッキオは流産したの。それで、アバッキオは「名誉正妻」ってことになっ
たの。ナランチャの子を育てる役目を貰って、組織も引退して。ナランチャは武闘派のリー
ダーだから、現場を離れられないってこともあったわね。
ミスタはちゃんとその辺を割り切ってみていて、自分は子供を産まないで、ずっとジョ
ルノの傍にいたわ。ええ、あたしと結婚してからもね。関係は持ってないって言ってるけ
どね」
「お母様、それではガブリエルは？」
フォルツァはせっついた。
「ガブリエルは、……時間切れアウトなのよ、気の毒だけど。
一番ジョルノが同レヴェルで話ができるのがフーゴなのよね。年はほぼ同じだし。なん
て言ってもきれいだし。ジョルノが子供を産ませたかったのは、フーゴなのかも知れない
わ。でも、ガブリエルが生まれたのは彼らが１８になってから。だから、ゲームはフーゴ
の負けだったの。あたしはそれを知って、いっそうジョルノを避けたけれど、……ブチャ
ラティがいろいろお膳立てしてくれててね。フーゴも、いろいろ複雑で、意地っ張りだし。
ジョルノと結婚するのはイヤだって言ったから。
難しいわね。みんな、ジョルノを愛していて、ジョルノの傍にいたいのよ。でも、関わ
り方はひとそれぞれで。あたしだって、一緒に暮らしたのはあなたが生まれるまでなのよ。
でも、幸せだったわ。ジョルノと一緒の時も、あなたと一緒の時も。
だから、あなたの兄弟は約３人いるの。ジョヴァンニと、ガブリエルと、そしてアバッ
キオのマレーナと。
複雑な家族だけど、今時はみんなそんなものじゃない？ 正式な結婚だって、２度３度
繰り返して、相手もそれなりだったら、血の繋がってない兄弟がそこら中にいるってのも
よその国じゃあアリアリって聞くわよ。
問題は、あなたが誇りを持って強く生きるかどうかじゃあないかしら？」
長い話をその言葉で終えて、トリッシュは蠱惑的に微笑んだ。
「今日ぐらいトリッシュの所に泊まればいいんじゃねーの？」
屋敷の寝室でミスタがジョルノに水を差し出しながら尋ねた。
「いえ……あんなに大きな子供がいると解ったら、そこのうちに泊まりに行くのはちょっ
と」
ジョルノは年を目の辺りにして少しまごついている。組織を掌握してから２５年。突っ
走ってきたし、遺伝なのか目立った老化もしないから日頃年月を感じたことはなかったが、
自分の放埒な「夜の生活」の結果をまとめて目の辺りにすると少しは感じるところがある
ようだ。
「なにを今更。じゃーフォルツァはミスタさんが夜這いをかけて気を散らせておくから」
「それも困ります」
「えーそれ親として？ ミスタさんのダーリンとして？」
ミスタはすぐさま茶目っ気を出して突っ込んだ。
「どっちがいいです？」
ジョルノも余裕を取り戻して笑ってみせる。
やはり気が合うのはこのひとだ、と思っているようだ。
０５−１２−１２
蛇足。
いやーもうおかあさんブチャアバなら百合もいけるかも知れない、とかいって書き始め
て。いやそうじゃない。ちょっとジョルアバ書いてみたら百花繚乱になってしまったので、
開き直って、じゃあ朝目新聞のジョジョパロ特集で見た、ジョルノ以外全員女の子の護衛
チームでハーレム書いてみたい！ って。ヴィジュアルは あら （＠ソラアゲハ＋）さん
のところの女体化護衛チームもいいかも知れません。ここはジョルノも女体化してました
が。
ヴィジュアルは可愛い感じで想定してたのになんかやっぱりダークになってしまってす
いません。能天気に始まっておいて、いろいろされて男を見限ってるブチャとか（そして
ジョルノのことは眼中にない）、虐待されて心に傷のあるジョルノとか、なんだかんだいっ
てまるっとジョルノを理解してるミスタさんとか、フーゴを評価してるジョルノとか、う
ちの各シリーズの集大成になってるところがコワイ。
麻薬は合法も脱法も絶対いけません！ ほんと人生めちゃくちゃになります。
繰り返し言っておきます！
おまけ。
「結構フーゴって可愛いひとでね。ジョルノがあたしのところに３日も泊まるとすっごく
むくれるんですってよ。だからって、ベッドに引き込むとあたしと結婚してるのに不道徳
だとかギャアギャア文句言うし。そんなこんなでジョルノはあたしのところに寄りつかな
くなって、つかず離れずで１５年……」
そんなこんなで勝者は不在の模様。いやフーゴなの？ どうなの？
もともとジョルトリの雰囲気はうちにはなかったのでちょっとジョルトリ・ルートのハッ
ピーエンドにはできなくて（「ロイヤル・ストレート・フラッシュ」はどうした？）。だっ
て、他のみんなが可哀相だし。
意外と、ジョルノを意識してるのにジョルノからは完全無視されてる、でもブチャラティ
（鈍感）には身を守るために結婚を勧められてて、ストレスで切れたトリッシュがジョル
ノを押し倒したのかも知れない。いやちょっとそれ不幸だろ。でも、虚心に見て条件では
ジョルノよりいい男ってそういないから、結局ループしてジョルノに戻るよね。相手は自
分のこと好きじゃないと解っててもそこはね。
おまけその２。
「こんなにきれいになってるとは！ ガブリエル、今度パードレとデイトをしませんか？
ヴェスパに２人乗りして『ローマの休日』ごっこをしましょう」
ジョルノは久々に娘に対面してやに下がった。
「映画のストーリー通りにプラトニックでしたらどうぞ」
フーゴが間に分け入って遮った。
「まるでぼくが娘にまで手を付ける鬼畜親父みたいな言い方じゃないですか」
ジョルノは鼻白んだ。
「あなたの下半身に理性とか配慮とかがあったときがありましたか？」
辛辣にフーゴはボスを見上げた。
「え〜？ ルールはちゃんと守ってたよなー？」
ナランチャが暢気に突っ込んだ。
「ボスがムチャやるのってフーゴ相手だけだって」
「そーそーメンバー以外に手を付けた女いなかったし。おぎょーぎいいわよねー」
ミスタも肯いて見せた。
「ブチャラティを尊重してたんだろ」
アバッキオが小首を傾げて見せる。
「さあ、どうかな？」
ブチャラティは変らず大物の笑顔で皆を見守っていた。
もう各人２人３人ぐらい産ませちゃってすんごいスタンド使い揃いの血縁軍団になる新
生パッショーネ！ にはならなかった。ジョルノどうした？ （でもフーゴには言われた
とおり最後まで避妊してやってそう。もう時間切れだからって生でやったら一発でできて、
だから相性最高……とか密かにジョルノは思ってたり）あ、でも、なんだかんだいって一
人っ子が続くジョースター家の血が入ってるからかな、そこは。
おまけその３
「え？ じょーすたー家ってせーえき薄いの？ そんな、別に味は他のと大差ない感じだっ
たけど？」
ナランチャは皆に揃ってフクロにされた。
あら。おかあさんたらお下品。失敬。