後夜祭
その朝（３９）
えっとね、別に読んでていやーッわいせつッ……って内容じゃないですけど
（その辺は自重、ジチョー）、地味にきわどい下半身とそれに付随する心の問題ですんで、
そういうお話がお嫌な方はお戻りください。すいません、ブラウザ・バックで。
１
相手を子供返りさせるスタンド能力者、アレッシーはアバッキオに続いてブチャラティ
をも狙ったが、力及ばず２度までも返り討ちにされた。かなり惜しまれながら。
なんといっても、１４，５才のブチャラティはスマートで可憐で、そして見知らぬ年上
の少年たちに怯える様が常にない様子で、とても少年ギャング達の庇護欲をそそったのだ。
「ゆったりした服を着てたほうがいいですよ。能力者を倒すと戻るのもすぐだから」
アバッキオの時で経験したフーゴは、アレッシーを捕捉したという連絡を受けるとちゃん
と心配りをしてちいさいフロラを寝室へ追いやった。
「迷惑を掛けたな」
果たして、すぐに身支度をした彼らの敬愛するチーム・リーダーが元の通りの姿を現し
た。
「いいえ……あんたには悪いですが、ちょっと、楽しかったですよ」
少しはにかんだ様子でフーゴが答える。
「ああ、わたしもだ」
微笑んで見せた顔には嘘はなかった。
アバッキオたちが帰ってきて、ちゃんともとの姿を回復したブチャラティと、また乾杯
した。小さくなっていたのはほんの一晩なのだが、彼らには十分話題を提供した。
「しかしねーさんも凄いよな。すうーっと、ごく自然にアバッキオのとこ行って、離れな
かったもんな」
ミスタは愉快そうに冷やかした。
「そこら辺はもう、魂が覚えてたんだろう」と、ブチャラティはぬけぬけと言う。子供返
りしている間のことは、記憶があるようだ。
その前の数日間、同じく１５の頃に戻ったアバッキオが当然ながらまるきりブチャラティ
のことを覚えておらず、よそよそしい態度をとったのとは対照的であった。意趣返しとい
う訳でもなさそうだ。単に、生きるための智恵であろう、とフーゴは見た。その場で一番
強い物を一瞬で見切って、作為を感じさせずに取り入ったあたりの振る舞いの見事さは、
他人の眼の中で育ってきたフーゴも舌を巻いたところである。
「でも、あんたは昔から美少女でしたから、ナランチャがはしゃぐことったら」と、フー
ゴは話題を逸らせた。
「フーゴだって猫なで声出してたじゃんかよ」
「猫なで声なんかじゃないッ！ 実質知らない顔なんだから怖がらせちゃいけないと思っ
てッ」
ムキになってフーゴが声を荒げた。
「気を使わせて悪かったな」と、ブチャラティが割ってはいる。
「でもおれ小さいブチャラティとゲームやれて楽しかったぜ！」
「ぼくもです」
「わたしもだ。あれははまるな……アジトでやるときは熱中しすぎないようにな」
ブチャラティが笑って締めた。
そうして、少女のブチャラティがどうやって生き延びてきたのか、皆が察してしまった
ことについては、なんとか触れないままに場は解散した。
２
少女のブチャラティがどうやって生き延びてきたのか。
黙ったままのアバッキオは、そのことについて考え続けていたらしい。
「あんたも苦労したんだな」
ブチャラティのフラットに戻ってきて、二人きりになって、しばらくしてアバッキオが
そっと言った。ブチャラティの頭を抱き寄せて、その髪の中に指を差し入れて梳きながら。
「ああ、まあ、否定はしないが。
うちのチームの連中はみんな紳士だったな」
からりと笑ってブチャラティは受け流した。かるく首を振って距離を取ったのは、これ
からいたぶるためだ。
「紳士って言うか、だって、いくら小さい女の子に見えたって、あんただって解っててそん
な、悪いことはできねえよ」と、気づかずにアバッキオは謙遜して見せる。
それで、現恋人のアバッキオが眼を光らせていては、純粋にちやほやして楽しむ以上の
ことはできまい。そのアバッキオも、真っ直ぐ思慕と見える視線を向けられて悪い気はし
ていなかった。
「おまえは誘ったらあっさりベッドまでついてきたな。フーゴにはポルポさんのことなん
か聞いておいて。何を期待してたか丸わかりだ。やっぱり男は初物が好きなんだな、よく
解った」
ブチャラティは傷付いた顔を作って見せた。
「バッ……そんなんじゃねえよッ」
狼狽えてしまっては認めたようなものだ。
「おれはあんたが、あんたがひどいことをされてないといいと思っただけでッ……」
「ああ、大丈夫、手荒なまねはされてない。ちゃんと見込みがあるって可愛がっていただ
いた」
さばさばと言うからなおアバッキオはその環境を思いやって逆上する。
「見込みがあるってッ」
「ポルポさんの若い頃はきれいならとりあえず手当たり次第だったらしいな。ポルポさん
の収監前なら危ないのはおまえもだったぞ、きれいなレオーネ」
「げえッ」
あからさまに肌を粟立たせてアバッキオは絶句した。
「わたしは石頭の小さいレオーネが混乱するといけないと思って自重したのになあ。ああ、
もったいないことをした。フーゴに任せないでうちに泊めて可愛がってあげておけば良かっ
た」
「フロラッ！」
「女はその辺目覚めるのは早いからな。わたしはあの時ふつうにきれいなおにいさんと仲
良くしたくてワクワクしたぞ。以後、小学生とだって女と寝室では二人きりになるなよ。
殺すぞ」
「ならねえよッ」
他でもないブチャラティに、それも寄る辺ない少女の姿で心細げに袖を引かれたのだ。
下心が全くなかったとは言わないが、眠るまで側についていてやろうと思った気持ちに
嘘はない。
「でもあんた、ほんと、小さいときからきれいな子だったんだな。それで気も利くし」
「ふふん」
褒めすぎだ、とばかりにブチャラティは身を翻した。
「その辺にしておけ」
てきぱきとシャワーの準備をしながら、何気なさそうにいった。
「ヨゴレてないレオーネとヨゴレてないフロラでは永遠に出会わない。わたしたちがここ
にこうしているのは不幸な過去があってのことだ」
「あ、ああ」
「済まないが、前に言ったとおり、おまえに真っ当な未来を迎えさせてやりたいという気
持ちはもう捨てた。おまえには、もう、ここでわたしと生きる以外の未来を捨ててもらう」
ブチャラティは、静かに言った。
「それでいい」
昂然と顎を挙げて、その言葉をアバッキオは了承した。
「それで、レオーネ、わたしは一週間ほども離ればなれだった恋人の機嫌をどう取ってや
ろうか考えているんだが」
真面目な顔でそんなことを言って、堅物なアバッキオが怒鳴り返す前にブチャラティは
バス・ルームに消えた。怒ったのなら帰ってもいいが、間をおくとそれだけわたしは余計
なことを考えるぞ、とだめ押しして。
……だからそんな身も蓋もない男性観を植え付けられる前に出会って何とかしてやりた
かったんで……。
アバッキオはミネラルウォーターをラッパ飲みしながらうまい口説をトランプの塔を積
み上げるように脳裏に描いていた。
３
何事にも手際の良いチーム・リーターはシャワーも手早く済ませて出てきた。と、上気
した顔で小走りに近寄って、アバッキオに頬を寄せる。
「良かった、いてくれて」
こつんと額を触れあわせて、眼を覗き込んで言う。
「ホントに帰ってしまうんじゃないかと、冷や冷やだった。大至急で。この辺まだ泡がつい
てないか？」と、タオルを巻いたままのうなじを見せつける。
「ばあか」
ちょっとそこにキスしてやって、アバッキオは立ち上がって自分もシャワーを使いに行く。
「ちゃんと塗るもん塗って先ベッド行ってろよ。寝てていいから」
「起こせよ？」
「勝手に始めさせてもらうさ」
「嘘ばっかり」
そういうところで卑怯な真似はしない男だ。いろいろ不満は感じていても、黙って恋人
の意向を尊重してくれる。本当に、真っ正直な男だ。
「待ちくたびれた」
アバッキオが姿を現したとき、ブチャラティはとうとう礼儀もなにもかなぐり捨ててベッ
ドに持ち込んで読んでいた報告書から眼を上げて言った。
「おまえはだいたい風呂が長い。前々から思ってた。最初の朝から！ せっかく差し向か
いで食べようと思って待ってたのに！ 先に食べるなんて行儀の悪い真似をしてしまって
一生の不覚だ」
いきなりまくし立てられてアバッキオはむっつりとベッドに近づいた。
だって礼儀だから。
ほんとに全身くまなく愛してくれるものだから、気を使って足指の間までいちいち洗い
直してからこのテクニシャン過ぎる恋人の前に立つことにしている。
いちいちきゃあきゃあ声を上げて、灯りも付けさせてくれない小娘ってのも困りものだ
けど。
眉一つ動かさず、自分を翻弄するだけ翻弄し尽くす残酷な女神のような恋人ってのもちょっ
といかがなものかと。
まあ、自分はもうそれに慣らされてしまって、残酷できれいでやさしい女神様に尽くす
ことに決めてしまったのだけれど。
勇気を振り絞って朴念仁は言ってみる。
「なあ、時間無制限でサドンデス２セットマッチというのはどうだ？ そのあとに、その、
エキシビションつきということで」
「エキシビション？」
ブチャラティがいぶかしげに目を見張った。
「そうだ。できればその、こちらが、主体で」と、申し出はどんどん尻すぼみになる。
「レオーネ、謙遜するなよ」
残酷な女神は、完爾と笑んだ。
「言ったろ？ 離れてたのは１週間だ。単純計算でもそこは７セットと言わなくちゃ」
「おい……」
さすがにアバッキオは青ざめた。
「まあ、そこは切りのいいところで５セットに負けておいてやってもいい」
自分が消耗することのないブチャラティはこともなげに言った。
「あんた、タフだな」
「いやいや、さすがにだるくて次の日くちを利く気にもならないときだってあるぞ」
どこが、とは聞けなかった。いやもうホント、この小癪な女を一度でいいからベッドか
ら出られないようにしてやりたい！ ……雷神の加勢なしで。
「それじゃあとりあえず、そっちからどうぞ？」
気がつくとアバッキオは白い両腕に絡め取られていた。
開始１３分。アバッキオ ０−１ ブチャラティ
「ちょ、まッ…………悪りい」
「早すぎる。まさかペース配分なんて物を考えてるんじゃないだろうな？」
手についた分をブチャラティは見せつけるように舌を伸ばして舐めている。
「……まさか」
「無気力試合は提訴だからな」
どこへ、とは聞けずにアバッキオはティッシュに手を伸ばした。
開始５２分。アバッキオ ０ー２ ブチャラティ
「まあ頑張った方かな」
「……」
ハーフタイムの間、言葉もなくアバッキオは全く静かに上下するブチャラティの裸の胸
の稜線を指でたどってみた。
「こらこら、いたずらをするな。言っておくが無駄だぞ。ポルポさんがいろいろ開発して
くださったんだが結局物にならなかったんだから。わたしはその辺の神経が切れてるんだ
そうだ」
「切れてるってッ」
ばれてしまったのでこの機会にとさばさばとブチャラティは自分の秘密を明かす。
「全然、全く。ああともいいとも言わないから呆れられて、それでもうお相手をしなくて
いいことになった。まあ、簡単に言うと捨てられたんだな、ええと、一昨年くらいに。お
まえが配属になった頃か？ タイミング良かったな」
「あんた」
アバッキオは喘いだ。
「そういえば、小さいころからくすぐられても結構平気だったし。転んでも泣かない子だっ
たって親が言ってたけど、泣くほどの痛みとも思わなかったしな。感覚神経全般が鈍いん
だろう」
……そんな、ひとの心の痛みには敏感なのに。
口を開けてもなんの言葉も出せずにただアバッキオはブチャラティの顔を見つめていた。
「そんなのべつに、感じないなら感じないで演技すれば良かったんだが、なんにも感じな
いのにばかみたいに声を上げるのもいやで。そういう強情なところがまたお気に召さなかっ
たみたいで。
別に痛いとかじゃない、一定のラインを超えてこないだけで地味になんか感じはするし。
それだけのことも、やっぱり好きな相手だと愉しいし。
だから気にしないでおまえは自分が気持ちよくなることだけを考えていればいいんだ」
からりと笑った顔を見ていられなくて、アバッキオはただその顔を自分の胸に引きつけ
た。
「だめだ、そんなの」
アバッキオは知る限りの技を繰り出した……。
４
「ばか、ちょっと、そんな、ムキになるな、無理だって、無理、ちょ……ッ」
大きくブチャラティの背が反った。
「痛いのか？」
「いや、そうじゃなく……そのへんは大丈夫、そうじゃなくて、あ、や、待て、なんか……ッ！」
ブチャラティは惑乱しつつも声を漏らすまいとする。それは身についた癖で生きるため
の知恵のようなものかも知れなかった。食べ物に限らない、対人関係も、ちょっとした趣
味の範囲のものも、ブチャラティは好悪を表に出さない。弱点をひとに掴ませない。それ
だけのことだ。
その顔を見据えながら、アバッキオは確かに見つけ出したポイントを容赦なく責め立て
る。
「そんな、ば、かな……」
そこへ、無粋な電子音が鳴った。
すぐさまブチャラティが手を伸ばして携帯を取ろうとする。アバッキオがそれをさせま
いとする。
「こら、よせ」
いつもなら仕事を優先するが、今は一年に一度あるかないかの好機だ。これから先、ブ
チャラティの人生を豊かにするかどうかの瀬戸際でもある。
「今だけ、今だけは我慢してくれ」
必死に押さえつけるので、ブチャラティは反則技を使った。
「………………わたしだ」
息をようよう整えてブチャラティが電話に出る。スティッキィ・フィンガーズで両腕を
切り離されたアバッキオは、泣きそうな顔でベッドから転がり落ちた。
「お楽しみのところすまない、ブチャラティ。うちの３号店で喧嘩だ。昨日から港にロシ
アの貨物船が入ってるんだが、その船員さんと今日の昼に入ったジャポネの船の船員さん
とが立ち回りだ。ジャポネの船は今人手不足でそこいらじゅうの船員を乗せてるから、言
葉も通じなくて抑えが効かないらしい」
「そりゃ、大変だ」
若い頃から懇意にしている若旦那だった。ブチャラティは右手でもう身支度を調えにか
かっている。
「うちの黒服じゃ太刀打ちできねえ。頼む、おまえのところの白いライオンさん出してく
れ」
「解った。３号店というのは表通りのあれだな？」と、ブチャラティは通話を切っておい
て、スタンドを解除する。
「ご指名だぞ、レオーネ」
アバッキオは、繋がった自分の両手でとりあえず自分の頭をかきむしった。
「ああ、ああ、解ったよ！」
５
「おまえら、もっと穏便に、ひとに迷惑を掛けないように盛り上がったらどうなんだーッ！？」
５分で駆けつけたブチャラティ・チームの白いライオンさんは、すごい迫力でちぎって
は投げ、ちぎっては投げ、自分より体格に優れた肉体労働者たちを圧倒し尽くしてその場
を鎮圧した。
「もしかして、ものすごーくタイミング悪かったか？」
責任上現場を見にやってきた依頼主の若旦那が、ブチャラティを見つけて愛嬌のある顔
を済まなそうに、また、面白そうに歪めて見せた。
「さあ、そこのところが微妙で。まあ、フォローはしておくが」
ブチャラティはいつものとぼけ顔を崩さない。
「おまえ、結構最近いい顔するようになったな」と、この街のチームに引き取られた頃か
ら知っている間柄だけにさりげなく言ってくる。
「誰にでもそんなことを言って通用すると思うなよ、ラウル」
「いやほんと。良かったよ。やっぱさ、おまえみたいないい女が修道女みたいな生活って、
痛々しいじゃん」
「誰が修道女だ、失敬な」
ブチャラティは取り合わない。そういうところも知り尽くした幼なじみはクスリと笑っ
た。
「おまえ、中学でスカートめくりが流行ったときもしれーっとしてたよな？ その中まで
見られるならまだしも、下着がちょっと見えたぐらいはたいしたことじゃないとか言って。
それでみんな頭が冷えて、馬鹿らしくなって急に廃れたんだ。先生もあとで感嘆してたよ。
実に冷静で適切な対応でしたって。そういう、なんか大物っぽさがあったぜ、ガキの頃か
ら」
「知るか、忘れた」
ブチャラティは幼なじみの勝手なもの言いを腕組みをして聞き流していた。
「あー片付いた、片付いた！ アバッキオ！ 助かったぜ。ナターレにはいい酒差し入れ
るから期待しててくれ！」と、若旦那は調子よく今夜の勇者に手を振った。
６
「もう、そのままでいいから来い！ 続きをやりたいんだろう？」
ブチャラティはあくびをしながらベッドに直行した。８人分の血と汗と砂埃に塗れたア
バッキオは髪から洗い直すつもりでバス・ルームに入った。
長い髪を生乾きにまでドライヤーを当ててベッドを覗くと、当然、ブチャラティは夢の
世界に遊んでいた。白い、ちいさな顔が少しほころんで楽しげにしている。
……どんな夢を見ているのだか。
……ここでわたしと生きる以外の未来を捨ててもらう。
ブチャラティは宣言した。ならば、ブチャラティも、自分と生きる以外の未来を考えて
いないということだ。
……先は長い、よな？
少し微笑んで、アバッキオはとりあえず身体を休めることにした。また、次に機会が訪
れて、この仕事熱心な女神を忘我の境地に遊ばせることができることを信じながら。
（１７−１０−０９）
蛇足。
アバッキオ本気を出して可哀相なフロラを呪縛から解きはなってあげて欲しい！ と思っ
たんですが、先に「媚態」のおまけでやっちゃってたんで、時系列のすり合わせ考えたら
どうもこっちでそれやっちゃダメかと。……思ったら「媚態」は秋でこっちは１２月入っ
てからだった。もしかして、最初と限定しなかったら行けてた？ ……あーっ消しちゃっ
たフロラたんの色っぽいシーンもったいないッ！（いやそれ書いちゃうと１８禁になるから）
あーあ。あーあ。あーーーーーーーーあ。（タメイキ）
ちゃんとプロット書いて年表とすりあわせを字の上でちゃんとやってから書こうと反省
したおかあさんでした。
別解。
「そうだ。できればその、こちらが、主体で」と、申し出はどんどん尻すぼみになる。
「あのな、やってもいいが、よく考えろよ？ わたしはポルポさんに太鼓判を押されてい
る。全く、なんにも、表情が変わらないそうだ。そういうわたしに受け手に回って、ただ
なんにもしないで見上げられてて愉しいか？」
ごくごく冷静に理詰めで恋人に説かれてアバッキオは手を止めた。
「解ってくれたか？ よしよし。ホントに申し訳ない。だからせめておまえだけでも気持
ちよいようにしてやるからな……」
Ｓｏ ｃａｌｌｅｄ ”ｔｕｎａ”！？
そんでもって ｔｈｅ ｏｔｈｅｒ ｓｉｄｅ
……ナイス・タイミングだった、ラウル。やはり持つべき物は友だ。
アバッキオの立ち回りを見守って、腕組みをしたまま、つれない顔で黙ってブチャラティ
は思いを巡らせている。
……あのまま力任せに朝までごりごり続けられていてはこっちが擦り切れてしまうとこ
ろだった。まったく、フーゴに聞いたが、なんとかいうオーストリアの偉い軍人が一番戦
場で邪魔なのは無能なのに真面目なやつだと言ったというのがよく解る。なんとかこれか
らもうまく手綱を取っていかないと……。
闇の世界で生きてきた女に本音などという物は存在しないのだった。
……いやいくら何でもここまで黒いとは思いたくないけど。
これは蛇足じゃなく、必要な捕捉。
「戦場で邪魔なのは無能なのに真面目なやつ」云々は、正しくは「無能な働き者は間違いに気づかず
どんどんやらかして迷惑をかけ続けるだけだから処刑するしかない」云々だそうで、言ったのはドイ
ツのゼークトさんでした。クラウゼヴィッツさんと勘違いしてました。ま、その辺はフーゴ（もしく
は聞いたブチャ）の記憶違いと言うことにしといてください（ヒドイ）。