決壊
リヴァースモード生還篇（５）
５部本編終了後、女アバッキオが記憶を失ったまま蘇生して、ボス・ジョルノは彼女を
手に入れました。が、やがて寂しくなったジョルノは彼女を餌にフーゴを組織に呼び戻し
ます。インセンティヴ契約で月イチデイトをフーゴと女アバッキオが恐る恐る楽しんでい
たところ、アバッキオが妊娠していることが判明し、ジョルノはアバッキオをフーゴに押
しつけました……今ここ。
１
「……やっぱり妊娠してるって」
ちゃんとしたかたぎの産婦人科に診て貰って、帰りの車の中でアバッキオは顔面蒼白だっ
た。
「そうですか」
付き添って行ったフーゴは、それ以上はうちで、とたしなめて、ジャケットの裾で隠す
ようにアバッキオの手をそっと握った。
帰宅してハーブティーを用意させると人払いをして、２人は今後のことを相談し始めた。
「落ち着いたら、住むところと……仕事探して貰える？ しばらくは新しいコトしないほ
うがいいらしけど」
「なに言ってるんです」
交渉は最初から決裂した。
「あんたはぼくがボスから貰ったんです。あんたの衣食住はぼくが保証します！ 仕事なん
てする必要ありません！ 組織の仕事だって当分は免除して欲しいくらいです！」
「だって、あなた」
このところは表情も戻って、元通り気の強い様も、きまじめで細かなところで意地を張
る様も見せるようになったのに、どうしてこんな困ったような弱い顔を見せるのだろう。
フーゴはまごついた。
「こういうこと、聞くのもなんだと思うけど……あなた」
顔を俯けてアバッキオはためらった。
問いたいのだ。本当に、子供ごと自分を引き受けてくれるのか……そこまで愛情を持っ
てくれているのかと。
ボス・ジョルノはフーゴがアバッキオに恋心を抱いていると決めつけて、それを常々フー
ゴいじりのネタにしている。フーゴは口ではそれを否定し続けているが、アバッキオに対
する態度は単なる組織の「先輩」やボスの愛人に対するものではない。毎月のインセンティ
ヴは当然の権利としていつも楽しそうに方々へ連れ出してくれるし。７分の６がお堅い優
等生だったとはいえ、一応女を２１年もやってきたアバッキオには解る。
だからといって、４つも年下の、まだ１７の「子供」に、自分の身を、これからの人生
を委ねてしまって良いものか。
「……思い出さなければ良かった」
アバッキオはぽつりと言った。
「あのひとのことも。あのひとがもういないことも。組織に入る前のことも」
「それは、……配慮がなくて済みませんでした」
フーゴは自分が納得することしか考えていなかった。ヴェネツィアで、トリッシュを送っ
ていったブチャラティの身になにが起きたか、どうして多大な犠牲を払って仕えてきたボ
スを裏切ることになったのか。
連れ出したヴェネツィアで、あの日のことを彼女に再現させてしまった。
それは目の辺りに見れば納得のいく決断だったのに！
泣いて。絶望して。
消え入りたいと思ったその身を、アバッキオが抱きとめてくれた。
抱きしめ合って、そのまま……。
そのときは、それしか考えられなかったけれど、今となっては羞恥と後悔が身を駆けめ
ぐる。
最初、ジョルノに命じられての時と、ヴェネツィアでのその時と。
それ以外にアバッキオと行為を持ったことはないけれど。
アバッキオを貰い受けたということは、この先、アバッキオを性的パートナーとするこ
とを意味している……？
ボス・ジョルノは当然その意味で彼女を彼に譲った。
親切ごかして。
そして、自分は理性は否定しているけれど、内心ではそれを楽しみにしていることを正
しく感知している。ごくごく単純に、あの素晴らしい肉の歓喜にまた自分もありつけると
密かに心を躍らせている！
彼女がためらっているのはそこだ。
彼女が自分になど抱かれたくないと思っていたら。自分を嫌っているとしたら。
フーゴは今更に思い当たって逆上した。
２
「ぼくの男としてのメンツですッ！
ぼくがほんの……ほんのちょっとでも想いを掛けたひとが行く当てもなく、着るものに
も食べるものにも困るなんて事態、考えるだけでも鳥肌が立ちますッ！
あんたはボスの名指しでこのぼくが貰ったんですからこのぼくの責任で納得いく待遇を
保証しますッ」
「メンツ」
ぽそりと言って、アバッキオは笑った。
昔の、自暴自棄な暗い目が一瞬蘇った。
「意味不明。あんたはおれのものになったんだ、つべこべ言わず素直にヤらせろと言われ
た方がまだしもだね。あんたあたしのこと誰にでも身を任せる……娼婦も同じあばずれっ
て言ってたじゃん」
「なんでそんなコトまで思い出すんですッ！？ ……あのころのぼくは子供でしたッ。思
慮が足りなかったのは認めますッ！ あなたのことも傷つけてしまって申し訳なかったとッ……
当時から思ってました、その分も含めて、あなたにはできるだけのことをしたい。
あなたの気持ちなんて聞いちゃいない。あなたはそういう心配をしないで、ただただ大
切にさせて下さい。赤ちゃんのいる身じゃないですか。
いくらなんでもそういうひとに、れ、劣情を感じたりなんかしません。神掛けて」
語るにつれてフーゴは首を垂れ、語調も静かになっていった。
「……それって、要するにあんたの着せ替え人形？」
アバッキオはかたちの良い眉を寄せた。
「……人聞きの悪い」
フーゴの顔も相似形になる。
「……だってあんたその容姿で。なに着せても似合うし放っておくと同じものばっかり着
てるし。男物のシャツにパンツ姿とか。もったいない。
……いいじゃないですかぼくはそれができる財力があるんですから。女性に服やアクセ
サリを買ってあげて嫌がられるなんて聞いたことありませんよ、そんな、逆ならまだしも。
ぼくだって……男なんだから、きれいにした女性と毎日食事をしたり散歩したりすれば
それだけで嬉しいですから」
小さくなりながら、フーゴはくどくど言った。
「それだけ？」
顎を上げて、アバッキオがうさんくさそうに質してくる。
「それだけですッ！ あんたジョルノに合わせすぎですッ！ いくら命を救って貰ったか
らって……服も着せないで鎖で繋ぐなんて安手のポルノみたいなッ！ ひとをバカにして
いますよッ」
「そうなの？ よく……解らない」
アバッキオはまた自信なげな顔に戻った。フーゴはふと胸を突かれた。
……ああ、このひとは望んで男に抱かれたことなどなかったのかも知れない。
最初はもと同僚に。
積極的に調べようとしたわけでもないが、情報は集まってきた。警察官といえども腐り
きった連中は、自らの醜行を自慢げに語ってくれた。この中では、アバッキオはなるほど
息苦しかっただろう。それで自分はそういう話をまた得意げに「情報を得た」と猟犬さな
がらにブチャラティに告げに戻ったのだっただろうか。酸いような気持ちが胸にこみ上げ
る。
いや、そうだっただろうか。
皮肉に、大人びた笑みを見せて、軽蔑を露わになにか毒のある台詞を吐いて見せたので
はなかったか。
もう既に、彼女のことを守るべき身内と認識していて、自分たちまで辱められたように
怒りを覚えたのではなかったか？ 真っ直ぐで、まっさらであるからゆえに染まりやすい、
このひとを哀れと思い始め、配慮をしなくてはと思い始めたのではなかったか。
「思い出したんなら、解るでしょ？ あんたは、あのひとが遺したひとなんだから。ぼく
に手出しができるわけがありません。ジョルノに騙されるんじゃありませんよ、あれは彼な
りの嫌がらせなんですから」
「あ、ああ、そう」
「そういう意味で、ぼくを警戒する必要はありません。ぼくはあんたに指一本触れません
から。
でも、そうですね、ぼくの生活の潤いとあんたの体調管理のために、食事はぼくがうち
にいる時は一緒に採って貰います。インセンティヴも継続してもらいますから、月に一度
は外出に付き合ってください。音楽とか、聴いた方が良いんでしょう？」
「あ、ああ……」
アバッキオはぎこちなく笑った。
……でもやっぱり、きれいな服を着て見せて、食事を伴にして少し会話もして心の慰み
になって、コンサートに一緒に出かける相手といったら、やはりペットというかコンパニ
オン扱いなのかな、とフーゴは少し反省した。
「お茶のお代わりはどうです？ 温かい牛乳にして貰いますか？
お願いします！」
言うなりフーゴはドアの外に声を掛け、控えていたメイドがすぐさま入ってきた。いつ
になく慌てた様子で。
と、その数十秒前の話。
「あなたを心から愛していますというふうに聞こえるのですが、当世のお若い人の会話術
というのは変ってしまったのでしょうか、それとも、わたしの生国がここではないからつ
いて行けないのでしょうかな？」
ドアの前にうち揃って聞き耳を立てていたスタッフ達のうち、リーダーが首を傾げて言っ
て見せた。
「いいえ、シニョーレ・モリスのお見立ては間違ってませんとも」
料理人のマルタが大きく肯いて見せた。
「ご主人様はマジメでいらっしゃるから！」
メイド達が声を揃えて肯いて、……そこにフーゴから声が掛かって飛び上がった。
３
「契約」がまとまったあとすぐに死ぬほどの悪阻が始まった。なにを見ても吐くアバッキ
オを見て、さすがにフーゴは食事に付き合うことを免除した。なになら食欲を示すか、な
にが一番身体に障らないか、フーゴは本を調べ経験者に尋ね毎日市場中をかけずり回った。
ネアポリス時代、ようやっと食えるようになって以来ずっと変えていないお気に入りのコ
ロンさえ控えるようになった。それも報われずとうとう入院することになって。
……ほんとに「悪魔」の子ですね。
フーゴはその恐るべき母体への影響に舌を巻いている。
枕元には、香りが刺激とならないように最高級の造花を捧げていて。
「でもあんた、外は雪だってのに着るものの一枚もくれないで、寒いって言ったらミンク
のコート買って寄越すだけで。
お風呂は入れたけど、上がったらタオルで拭いてそれっきりで。あとは、ずっと。食事
も、ジョルノ様がいるときだけで、その時も、食べたり、……食べなかったり。
あの冬のことを考えたら、夢みたいよ。
あんたが、デイトするんならそれなりのカッコしてくださいって、服を差し入れてくれ
たときにはほんと嬉しかった……化粧品も、ハンドバッグの中のものも、ハンカチ一枚か
ら揃えてくれてて。
ネアポリスにいた頃は、いちいち細かすぎると思ってたけど、ほんとあんた行き届いて
て、……助かった」
点滴を受けながらアバッキオが恥ずかしげに口を割ったので、フーゴはやっと報われた
気持ちになる。水色の目から大きな水滴が盛り上がって、零れた。
「ごめんね。
ジョルノ様はきっと気がついてたんだわ。
あたしがあんたに逢える日を楽しみにするようになってたって。あんたに毎日大切にさ
れて暮したいって……思ってたって。
動けるようになったら、あんたの着せ替え人形、ちゃんとやるから。
あんたの好みの、お上品な奥様になるから。
……大丈夫になったら、好きなだけヤらせてあげるから……」
フーゴは緩みかけた頬を直ちに朱に染めて遮った。
「そういうことは期待していませんッ！」
「……ほんとに？」
哀しそうに見上げられて、フーゴはぐっと詰まった。
「ああああんたが寂しいって言うなら、付き合ってあげるにやぶさかではありません……」
真っ赤になって言うのに、そっとアバッキオは毛布の下から手を伸ばしてその手を取っ
た。
「やくそく……」
「ええ」
４
それからアバッキオは体調も持ち直し、胎児が安定期に入ると退院できた。
「インセンティヴをそろそろ。体調はどうです？ 午後からのコンサートなら遅くもなり
ませんし、いいでしょう？ 温かくして、天気が良いようならちょっと歩いたりとか」
「いいわ」
「冬物のアンサンブルを見繕っておきました。あまりお腹を締め付けないようなデザイン
で揃えて貰ったんですが、きついようなら言ってください、無理はしないで」
「そんなにまだ目立ってきてないの、大丈夫」
口ではアバッキオに恋人らしいことを望んでいないようだが、それでもフーゴはそわそ
わしてその日を迎えた。自分の身だしなみも念入りに整えて、はやる心を抑えながら居間
で「お客様」のお支度の調うのを待っている。
「お待たせ」
アバッキオが現れた。
落ち着いた色合いのアンサンブルが、白い肌に映えている。ファーをあちこちアクセン
トに留めつけて、温かな雰囲気を醸し出している。あまり身体の線のでないデザインの服
だが、確かに、妊娠などしていない普通の、スタイルの良い女性にしか見えない。流行り
の丈の短いブーツも、華奢なデザインを活かしながら踵は低く抑えられている。
「素敵です」
「ありがとう。いつも、気を遣ってくれて」
「自分の楽しみのためです。気にしないで下さい。ほんと、あんたは無駄に外見が良くて、
……飾りたてがいがある。似合わない服がないから無駄にならない。経済的です」
女性スタッフにとくに声がけをして、アバッキオの美容やお洒落の相談に乗ってやるよ
う頼んでもいる。メイド達はきゃあきゃあ言いながらアバッキオのマイ・フェア・レディ
ごっこに協力してくれている。支度を待つ間、華やいだ声が客用寝室からしていたのをフー
ゴは聞いていた。贈ったアクセサリも、品良く使われているのを見てまたフーゴは唇を緩
めている。
「はい、はい」
アバッキオも、フーゴが憎まれ口を利いている方がかえって気安いようで、顔には微笑
みが浮かんでいる。
「では行きましょうか」
フーゴが先に部屋を出ようとして、アバッキオに呼び止められた。
「あの、ちょっと……」
「なんです？」
「うん……」
アバッキオは口ごもる。
「体調（からだ）、やっぱり悪いんですか？」
フーゴはきびすを返し、２，３歩戻って側に立った。
「……手、貸しなさいよ」
「だって」
「あたし、今、普通の身体じゃないんだし。……掴まらせなさいよ」
アバッキオは俯いて、ためらいがちに左の手を差し出した。
「あ……はい」
フーゴが、照れくさそうに右肘を張って出して見せた。
初デートの高校生のように初々しく、アバッキオはその端に手を掛けた。
「行ってらっしゃいませ」
モリスがいんぎんに頭を下げて、２人を送り出した。
２８−０８−１２
別解。
最期までまよった別ヴァージョン。
アバッキオにどうしてここまでしてくれるのと尋ねられて……。
「あああああんたに惚れてるんですッ！ しょうがないでしょオオオオオオッ！ あんた
があのひとを忘れられなかったり、ボスにめちゃくちゃに……圧倒されてあのこと以外考
えられなくなっていても、ぼくはあんたが他の男の所にいるなんて考えるのも嫌なんですッ！
あんたの嫌なことは一切しませんから、どうかぼくの所にいてくださいッ！」
恥辱に頬を染め、悔し涙を流しながらフーゴは一世一代の絶叫をした。
「あんた……バカ？」
困ったように、アバッキオは笑った。
「自覚はしてます。なんとでも言えばいいでしょう？」
思いの丈を吐き出し尽くして、フーゴは椅子の上で小さくなった。
年上のひとは、席を立って、かれに近づくと、屈み込んで頭を撫でた。
「……ッ！」
見るも哀れなくらいに、天才参謀は震えた。
「あたしの方から触る分には、いいんでしょ？」
「あ……はい」
眼を細めて、アバッキオはかれにくちづけた。
「粋がってるんじゃないわよ、バンビーノ（ぼうや）。
あたしは結構、まえからあんたのこと、ちょっと好きだったわよ」
「え？」
「おいで。あんた約束したわよね、いつだったか、雨の日。すっごく恩に着せて、偉そう
に。
あたしの怪我が治ったら、真っ昼間からでも愛してくれるって」
「え、ちょ、あんた、正気ですか」
あれはアバッキオが鬱にはまりこんでいたときで、優しくしてやるつもりだったフーゴ
も忍耐が続かずに無茶を言ってしまった、自分でも忘れたい妄言だったのに。
「あたしがおかしくなってても、いいんでしょ？ いやらしいことしか考えられなくなっ
ていても」
「でも、今はあんた、あ……せめてベッドへいって……からに……しませんか……」
聞き耳を立てていたスタッフ一同は、頷き合って、静かに解散した。
蛇足。
アバッキオねーちゃんデレる。
腐れロリコンどもが書くような、小さい女の子をさらってうちに閉じこめて性的奴隷に
する話だと、ずっと裸のままで、女の子の毎月のものの時でも「風呂にいさせられる」と
か無茶なことを書いてあって。そんなん無理にきまっとるやろ。ってそれを読んで知って
いる自分は一体何なの。腐れ女ですごめんなさい。
それで、鬼畜ジョルノ様はやっぱりアバッキオのことはただ遠慮無く性交できる相手と
でも思っていたらしい（まあ、そこはねーちゃんアタマ真っ白になっていて活きのイイ会話は楽
しめなかったわけだけど）。かれはかれなりに自分を取り繕う必要が無くて楽だったと思
うけど、そこを説明してそれなりにかけがえがないのだと理解を求めなかったので、ねー
ちゃんは楽しかったチームの記憶ごと居心地いいフーゴの方に傾いていったと。やっぱ、
いちいち怒ったり笑ったりが激しいと楽しいよね。会話していて。あ、疲れます？ とり
あえずわたしにはフーゴは動かしやすいです。楽しい。……でもトップに書いたように
「受け」同士だから話が進まなくて大変だった。
そういうわけで必ずしも豊かな生活に釣られたんじゃないとご理解下さい。
いや真冬に裸は暖房効いててもきついと思うよ。ジョルノともほとんど会話なく（身体
の会話はあるにせよ）、食事も採ったり採らなかったり、そんで女性のどうしようもない
身体のことにもなんにもフォローなかったらほぼ精神が壊れると思う。こういうシチュエー
ション考えつく自分が怖い。そりゃ、ハンカチ一枚から準備してデイトに誘ってくれて、
おいしいもの食べさせてくれたらそっちに行くって。田舎ものでローマは初めてのねーちゃん
に１から観光させてくれたりとか。うちのフーゴは地味に気が利くのでした。そういう、
細かく神経が行き届くところ、ちょっとした好き嫌いを憶えてくれていて、多少の趣味の
違いはあるにしても、まだ尊重して譲ってくれる余地のあるところなど総合点でついには
フーゴ勝ちましたと。
でもねーちゃん迷うっていうか流されるひとだから、ジョルノが寂しそうにしてると
（でも表面上はだいたい超高圧的に有無を言わさずヤる）抱かれてやる。困った三角関係。
カラオケでオペラを歌いたがる迷惑なフーゴ、そういう「寝取られ」のあとはもう荒れ
て鬼気迫る感じで「道化師」の「衣装を着けろ！」（寝取られの挙げ句に姦夫姦婦を殺す
直前のマジ昼ドラな名曲）をやってしまう。ネタがネタだけになにがあったんですかとも
聞きづらい選曲で、ほんと千金を積まれても行きたくないジャイアン・リサイタル。お姐
さん達ご苦労様。うちではメイドさん達の手前平静を取り繕っているから、そこはプロと
して我慢してやって頂戴。
おまけ。
「ボスが取り寄せてくれました。ぼくの出生証明書。居住証明書、独身証明書、その他、
いろいろ。必要事項はこちらで埋めておきましたから、間違いがないか目を通して。
あと、あんたが署名すべきなのはこことこことここ。あんたの方の必要書類は今度挨拶
に行きますからその時に揃えて置いて貰ってください」
フーゴは書類の束を持って、アバッキオの部屋へやってきた。かさにかかって一気にま
くし立てて済ませようとする。
アバッキオは、書類の書式を見て驚き、まじまじとフーゴを見つめた。
「挨拶って……」
「だって、出さないと出生証明書の父親欄が空欄になるでしょ？ ドレスもお腹が目立た
ないうちに写真を撮っておきたいし。
あんたのおかあさんそういえばすっごくおっかないひとでしたっけ？ 小一時間説教喰
らうぐらいは覚悟してます」
「ちゃんと、してくれるのね？」
「当たり前です。あの吸血鬼の息子を自称している根性の曲がったクソガキに、うちの子
は正々堂々産まれたんだって言ってやるためです。
いいですか？ あんたとぼくが育てるんですから絶対曲がったことのきらいなどこに出
しても恥ずかしくない優等生、カラビニエリも出くわした途端敬礼キめて逃げるような堅
物な子になりますよ、絶対」
「ばっか」
アバッキオは笑った。
「バカじゃありません。するんです。これでもかと愛情を注いで。遺伝なんて、そんな強
力な、どうにも抗えないもんじゃないそうですよ。育て方が一番って、偉い児童心理学の
先生が言ってました」
「そうなの？」
「そうです。式は奴らが顔を出すのも憎らしいから役所で略式にするにしても、旅行も近
場でもゆっくりできるところにちゃんと行って、毎年夏とナターレには休暇を一週間も取っ
て……」
フーゴは胸を張って立て板に水にまくしたてた……が、姉さん女房は負けなかった。
「フーゴ、聞いてない」
「……え？」
「一番大事なことを聞いてないわ、あたし」
微かに笑んで、アバッキオはそこは譲らなかった。
天才参謀は観念して跪いた。
「１回しか言いませんから良く聞いて。
シニョリーナ・レオナ・アバッキオ、あなたに唯一の、永遠の愛を誓います。ぼくの妻
になって下さい」
「はい。喜んで」
２人は晴れて抱きあった。
後日、ネアポリス近郊の田舎町まで出向いたフーゴは、金髪のきれいな中年婦人に結婚
前に子供ができるなんてなんてふしだらな、そういえば前に誕生日に食事をしていた方と
はどうなったの云々と延々説教された挙げ句に結婚を許して貰った。
黄金の血を否定するとは荒木神にケンカを売ったなフーゴ（それはわたし）。
イタリアの結婚については、ネットではイタリア人と日本人との国際結婚ばっかり取り
上げられていて（そっちの方が需要があるのだろうそりゃそうだ）よく分かんなかったで
す。出生証明書に書く父親の名前は結婚してないとダメなのか、トリッシュの場合は空欄
だったのかハッキリとは分かんないです。なんか戸籍って海外はそんなガチガチでもない
らしいよ。わたしもいちいち結婚させるところが固いかな？ せっかくニョタイカしたし
ね、完全無欠に結びついた二人にしたいわけよ。あんな大物の間男を放置してなにが完全
無欠だ。どうしよう？ でも、コレ以降一切ジョルノのお誘いは無視しましたってのも、
できすぎだし、ジョルノ様可哀相だし。どうよ？
そして、アバッキオ奥様は翌年のクリスマスぐらいに、プレゼントのリクエストを聞か
れて、
「……あんたの子、生みたいわぁ」なんて呟いて、フーゴをまた悶絶させるといい。いや
そんなやっと落ち着いてできるようになった（ナニを？）のに、当分いいじゃないですか
とか必ずしもそれが目的なんじゃないですけどとか、それは欲しいのは山々とか……どう
です？
わたしは子供は３０前には生んどけ派なんですが、二十そこらで２人目３人目ってのも
大変だろうと。子供はやく見たいことは見たいけど、らぶらぶ恋人時代が短いのもそれは
それでつまんないわよね。悩ましくてよ（それで本編は別居１０年後に２人目にした）。
まあそこはフーゴご主人様、ドッグ・タグでも手錠でもない気の利いたアクセサリを贈っ
てあげてください（そこはおかあさんが今まで酷すぎ）。