拍手再録２
拍手再録その２です。
金と銀
「ありがちですいませんが」
張り込みの時間つぶしに、フーゴがネタを振った。
「森の泉にうっかりあんたの大切なものを落したとしましょう。
日頃の行いの良いあんたに泉の仙女さまが現れて、両手に『それ』を持って聞いてきま
す。えーと……
『警官に成り立てで真っ直ぐで恐れを知らないぴちぴちのアバッキオ１８才』と、
『身も心もリーダー・ブチャラティに捧げまくったギャングのアバッキオ２１才』と。
あんたの落したのはどちらのアバッキオですか？ と尋ねられたら、どっちを取ります
か？」
「そんなもの」
ネアポリスの裏の顔、美しき守護女神は即決で言いきった。
「それがアバッキオなら強欲といわれようが両方もらって帰る。
両手がふさがったなら背に負うか口にくわえてでもな。
まだ隠し持っていないかその仙女とやらを拷問してやりたいぐらいだ」
しまった、録音しておくんだった。
それがあれば当分あの堅物をコントロールできたのに、と、フーゴはしばらく放心した
のちに後悔というものをしていた。
拍手お礼 １１
金と銀、別解
（泉に落したアバッキオを、例によって仙女が２種類出してくれますが……）
「それがアバッキオなら強欲といわれようが両方もらって帰る。両手がふさがったなら背
に負うか口にくわえてでもな。まだ隠し持っていないかその仙女とやらを拷問してやりた
いぐらいだ」
「……じゃあ、まったく曇りのない眼で見上げてくるアバッキオ５才ぐらいとか」
「望むところだッ！」
「バリバリ硬派でちょっと生意気、でも男女のことにちょっと関心もあるアバッキオ１５
才」
「大好物だあッ！」
「ちょっと落ち着いてきて大人の色気も漂わせ始めたアバッキオ２８才なんかは」
「バッチ来おぉぉい！！」
「ここで意表を突いて５０代ぐらいの……」
「なーちょっと聞いていい？ あんたら二人が揃って朝から張っててなんで取り逃がした
の？ 具合悪かったの？ ひょっとして仲間割れしてた？」
ミスタがごくごく悪気のない眼で聞いてきた。
言葉もなくブチャラティとその参謀は恥じ入った。
拍手お礼 １２
リヴァース・ヴァージョン
恋人達の夜は隠微に始まる。
編み上げのコート・ドレスの胸元を、細い指先がゆっくりと緩めていく。
そうしてくつろげられてゆく胸元を、少しずつ、少しずつブチャラティの指と、唇が、
探ってゆく。
白い、弾力のある隆起にじわじわと血が通ってゆくのが彼には面白いらしい。
「もう一段……まだてっぺんは見えてこないな……」
もうすっかり蕩けているのに、「氷の人形」の解凍に時間をかけるブチャラティだった。
ただ息を潜め、声をこらえている方は……
「……あの、サ」と、努めて何気なく言い出した。
「この服後ろあきなんだけど？」
「そりゃ判ってるけど……なに、レオナ、もうガマンできない？」
「違うッ！」
「……だってさ、プレゼントの包みでも、ババーッて開けたら怒るのは女の方だろ、普通？
その気になったらおれはスタンドで全部切り裂けるんだしさ？」
「だからって、鼻血が出るほどぶん殴るなんて、もう抱いてやる必要ないと思いますけど
ね、ぼくは」
フーゴの部屋に避難して、手当をしてもらいながらブチャラティは肩を落とした。
蛇足。
たぶん男アバのジャケットも、ウエストの所がホックか何かで脱ぎ着は一発だと思うけ
ど。
いや！ 穴があったらのぞきたい！ ヒモがあったらほどいてみたい！ それが本能っ
てもんだ！
拍手お礼 その１３ （１０−ＪＵＮＥ−０９）
天国の入り口にて。
（愛するレオーネ君（ｗ）のお出迎えがなかったのでブチャおねえさまご立腹です）
「サルディニア島では、愛するおまえの亡骸を捨て置いて先を急がねばならなかったこと、
文字通り身を切られるような想いもして、わたしのために命も捨てると誓ってくれてのこ
ととはいえ、さぞおまえは怒っていようとこのち、い、さ、なッ！ 胸を痛めておったと
いうのに、それでもこの身体の熱が尽きて、魂が天に召されるときには、とうとうおまえ
に逢うことができる、その顔を再びこの目にすることができると密かに期待していたこの
女心を踏みにじってッ！
天使の出迎えなんぞ要らんッ！ ただおまえが両手を広げて待っていてくれることこそ
が一番のわたしに対する褒美だとなぜ解ってくれないんだッ！」と、例によって顔色も変
えずに大げさな長台詞を噛みもせず。
「アリアリアリアリアリアリーデ……」ヴェルチ（さよなら）はまずいと思ってか途中か
らラッシュは無言になった。
「悪か……ちょ……待て……」
言葉を挟むこともできずに吹っ飛ばれるアバッキオ。天国ではもうスタンドは出ないた
め、腕力勝負なら負けないはずなのに、どうも勝てないと刷り込まれてしまっているよう
だ。
「腹は治して貰ったのか？」
いつものようにマウントポジションを取って、ブチャラティはアバッキオの服を脱がせ
にかかる。
「ああ……」
元通りに腹筋の割れた腹に頬ずりして、ブチャラティはなまめかしく笑った。
「サルディニア島では身体が終わってしまっていて愉しませてやれなかったが、今ならで
きそうな気がする。うん。久し振りにフルコースでやってやろう……」
「え、ちょっと、待て……」
「あの、もし……」
背後から、声がかかった。
「こちらは神様の御前でもありますし、暴力並びに性行為は控えていただきたいのですが」
見ると、白い衣の「業界人」が恥ずかしげに立っていた。
「はいーッ！」
全身を真っ赤にしてアバッキオは上体を起こしたが。
「愛し合っているもの同士が下界での勤めを終えて再び巡り会って、この平和な世界でいっ
たい他に何をしろと言うんだ？」
ブチャラティは平然と問い返した。
「人間界では神の栄光をたたえるために人間には生殖行為をして同胞を増やしてもらう必
要がありましたが、こちらではその必要はありません。娯楽としての行為はお慎みいただ
きます」
「本当に天国なのか？ ここは」
「フロラ〜〜〜〜〜〜〜ッ！ 黙っててくれッ！」
アバッキオは涙目になって叫んでいた。
「アバッキオ様やギルガ様のたってのお願いで天使をお迎えに差し向けましたが、どうも
あの女性は今世紀中、いえ、今千年紀中の列聖は無理かと存じます……」
「業界人」に渋い顔で囁かれて、アバッキオは胃の辺りを撫でた。
「あんたも黙っててくれ。おれまで罪深いことを口走りそうだ……」
いやキリスト教の天国ってホントはどうなんだろうね？
たしかイスラムは処女とやりまくり（女にとってそれはどーよ？）、仏教は手を握った
だけでイけるらしいけど。
拍手お礼 その １４ （１９ーＪＵＮＥー０９）
「コーヒーと紅茶が間違ってきてしまったというお題によるＳＳ」別解
（ブチャラティの頼んだカフェ・ラテがミルク・ティと間違われたというのに
まったく動じなかったのに呆れたアバッキオがブチャラティに質問を）
「あんたに一度聞きたいと思っていた」
返事がないが、構わず続けることにする。
「あんたは、これはしまった、予想外だとうろたえたことがあるのか？」
「あるさ」
書類から眼を離さずに、すぐさまブチャラティは言った。
「聞きたい」
「今年新採用の、いい目をしためっぽういい男の警官がどんどん表情をなくして、しまい
には賄賂を取り始めたって聞いたら、そいつがらみで同僚が殉職して、自分も免職になっ
ちまったとき」
「あァ？」
「そんな成り行きはまあ想像がついたんだが、いつまで保つか、みんなして賭けたんだ。
大穴で１年保たねえってのに洒落で突っ込んだらそれが大当たりしちまってな。最初はあん
だけ誇らしそうな顔してて、まあ
……あれには驚いたな」と、にこやかに笑う。
アバッキオは泣きそうな顔になった。
「怒るなよ。おかげであのときの酒場の借金は全部きれいにしてやれたんだし。
やっぱり、あれか、これが神様のお導きというやつなのかもしれん」
「バ、バカヤローッ」
「まだ少し残ってるな。どうだ、こんどコンサートでも行こうじゃないか。クラッシック
でもいいが、寝ても怒るなよ」
アバッキオは言葉を失って、背を丸めてただただカプチーノを飲み干した。
拍手お礼 その１５ （１５−Ｊｕｌｙ−０９）
お得意様
「あのさー、ちょっと聞きてーんだけど」
ミスタが食卓で話を振ると、皆が一瞬身構える。この日はどんなやばい話だったかとい
うと……。
「なんでブチャラティは通りの向こうの花屋しか使わないわけ？ たしかにあそこのおか
みさんカンジのいい人だけど、こっちの店の方が花の種類が多いし花束のセンスがいいぜ？」
当のブチャラティはリーダー同士の集まりがあって、川向こうで食事を兼ねた会議にで
ていて留守だ。
「ああ」
フーゴが心得げに首を振って見せた。
「だってさ」
ナランチャも肯く。
「マリアさんのところは、昔から一度だって上納金を遅らしたことがないですから」
「そんだけかよ？ じゃ、こっちのマルコの店は？」
フーゴは水を飲んで、アバッキオが皿を下げてキッチンに去るまで待った。その目つき
で、ミスタは続く話の内容に心づもりをする。
「あそこは。本人じゃないですけどね。もう死んだ先代が、３ヶ月も滞納した挙げ句にブ
チャラティに愛人になれって抜かしたんですよ」
フーゴが声を小さくしたのでミスタは耳を近づけていたが、思わずさらに身を縮めた。
「もう死んだって、それ、……自然死だろうな？」
上目遣いに先輩たちに質す。
「自然死、自然死」
「もうそれは。憎たらしいことに」
少年達は、囀るように言う。
「先代なんだろうが。しつこくねえか？」と、コーヒーのサーヴァーを持って帰ってきた
アバッキオが聞こえていたにしては意外にもあっさりと言った。左の手にはそれぞれのマ
グカップを指に引っかけてきて、あとは自分で、というふうにテーブルの上に置く。
「まあ、そういうわけで、マルコのところは言っただけですから」
「言っただけって……？」
「もっとひどいこと……、とりあえず、医者やブティックの店員なんか以外でブチャラティ
の服の下を見たり触ったりしたやつは、ぼくたちが責任持って始末してきました、そりゃ
もちろん」と、フーゴが澄ました顔で宣言すれば、
「やっぱ、なめられちゃダメだよな」と、ナランチャが肯く。
「リスト、見ますか？ ぼくがあのひとと組むようになってから過去に１回でも上納金を
払わなかった店にはチェックがしてあります。回数や悪質さで検索もできるようになって
ますけど？」
「そんで、使う店をランク分けしてるわけか？」
ミスタが舌を巻いた。
「当然でしょ。信頼ってのは、そうやって作り上げるものじゃないですか？」
チームの「新参者」であるミスタやアバッキオは、一部の街の衆がやけに機嫌を取ろう
と自分たちにすり寄ってきた意味を初めて知って唸った。
拍手お礼 その１６ （２１−Ｊｕｌｙ−０９）
月に一度は
意外なようだが２人は同棲していない。普段は一度アバッキオが自分の部屋へ戻って、
多少なりとも身だしなみを調えてまた出直している。それは最初の頃お子ちゃまの先輩が
大好きなおねえさんを取られることについてギャアギャア言ったせいもあるが……。
「そうムキになるな。まるで自分の部屋に女でも待たしているようじゃないか」
女性の事情で行為が持てない日には、アバッキオは必ず自分の部屋に帰る。それが不思議
で、ブチャラティも追求してみたことがあるのだが。
「あんたはッ！ ……言うに事欠いてソレかよッ！」
真剣に腹を立ててブチャラティのフラットを出て、駆け戻ったアバッキオが自分の部屋で
することとといえば……。
……こっちだって月に一度はイロイロあるんだよッ！ 髪質が丈夫な方じゃないからきっ
ちりトリートメントしねえと毛先がヤベえし、鼻の脇のとこ毛穴パックしねえと黒ずんでき
てるし、気合い入れて毎晩マッサージしねえともうこの眉間の皺は取れねえかもとか言われ
てるし、夏の疲れが出てきてるからとりあえず早寝して肌をちょっと休めてやんねえと……。
男のくせにこんな手間をかけているなんて、あの日頃なんにもしないのにきれいなすっぴん
の女神に知られたらもう生きておれない！
……そういうわけで秘密の一夜のために、毎月一度はうちに帰して欲しい色男であった。
「……また怒らしたみたいだ。ずっとずっと一緒にいたいのに、やっぱりまだ遠慮があるの
かな？」
傷心のブチャラティは友人を訪れている。
「あはは、やっぱ先人の言葉は偉大だね〜。昔から言うじゃないか。小鳥と男は追いかけて
も逃げるばかりって。フロラはしつこくしすぎ。ちょっと引いて、向こうから追っかけてく
るようにしなきゃ〜」
サンドラは愉快そうに幼なじみをベッドに転がした。
「だって、引いたらそれっきりまたどこかに行ってしまいそうなんだもの」
年相応の乙女の顔になってブチャラティはしょぼくれる。
「だいじょぶ、だいじょぶ」
この友人に対するときは口癖のようになってしまった台詞を繰り返してやりながら、サン
ドラはその顔にパック剤を塗り伸ばしてやる。
「それよりもう少し構ったらどうなの？ いつまでもすっぴんで出歩いて……日焼け止めく
らいは塗りなよ、シミになっても知らないよ？」
「めんどくさい」
「ああッ悔しい、眉毛も伸ばし放題で！ 元がいいコはこれだから！」と歯がみしながらも、
いつものことでサンドラは友人の顔に最高級の化粧品を惜しげもなく使って手入れをしてや
る。
「ごめんね、サンドラ」
……日頃なんにもしてないのに不思議にきれいなネアポリスの女神の美貌はこういうとこ
ろで維持されているのだった。
拍手お礼 ヴァージョン１７ （２１−ＡＵＧ−０９）
着道楽
「取ってやるよ。ここでいいんだな？」
ブチャラティは珍しく微熱があって支度に手間取っている。アバッキオが気を利かせた
つもりで部屋のクローゼットを開けてみて、絶句した。
いつもの、白地にエクスクラメーション・マーク！ のような文様の散ったブチャラティ
御用達の服地のスーツが、１メートルほどのレールにびっしり下がっている。奥の方には
色変わりで同じ模様の紺地のものが数着。
「そうだな、今日は念のため少し厚手のにしてみるか」と、固まってしまった恋人をよそ
に持ち主は手を差し入れて迷いなく一着のジャケットを選び出した。
「あ、あんた、これ、みんな現役か？」
「ああ、１２の年から、シーズンごとに作ってる。これは最近の流行りを入れて少し前あ
きを小さくしてあるし、こっちは太ってたときのだから少しゆったり目なんだ」と、まっ
たく同じように見える２着を指し示して歯を見せる。
「夜に出歩くときは目立つって言われて、紺地のも作ったが、やっぱり白が好きで」
奥に目を留めたままのアバッキオを察して恥ずかしそうに言った。
「汚れが目立つだろうに」
「だからこれだけの量を着回してこまめにクリーニングに出してる」
ブチャラティが服に無頓着だと思っていたのは間違いだった、と、堅物男は舌を巻いた。
蛇足。
某常春のダイヤ産出国の国王のようなブチャおねえさまでした。
独特のダンディズムによる着道楽ということで。
拍手お礼 その１８ （２９−Ａｕｇ−０９）
キメぜりふ
深夜、ネアポリスの下町の路地裏から、背の高いシルエットが街灯の下に歩き出た。長
いプラチナ・ブロンドを、憂いを込めたまなざしで顔を左右に振って流しやる。表れ出た
白すぎる、彫りの深い整った顔立ちに、濃い影が落ちる。
地獄の底から響くような、荒んだ声が発せられた……。
「署長表彰まで受けたこのレオーネ・アバッキオが、何の因果か落ちぶれて、今じゃギャン
グの手先。笑いたければ笑うがいいさ。
だがな、テメエらみてえに魂まで薄汚れちゃいねえぜ……？」
少し、腰を落して踏ん張って、決めぜりふを言いきった色男は、これでいいかと言いた
げに恋人を窺った。
「見事だ、レオーネ」
完爾と笑んだブチャラティが後ろを振り返ると、ヴィデオカメラを構えたミスタが親指
を立ててみせる。
「もーちょっと最後まで頑張ってくれたらカンペキ、かな？」
「でもやっぱ小道具がないと雰囲気出ないよなー。あのヨーヨーあってのスケバン・デカ
だよ」
特等席に陣取っていたナランチャが唇を尖らせる。
「ヨーヨーぐらいどこにでもあるだろ、それにパッショーネのバッジくっつけて」と、ミ
スタが何気なく提案する。
「ニッコロがそういう細工上手いんだよなー、じゃ、ちゃんと蓋も開け閉めできるように
作ってもらおうぜ」
「じゃあ、今度はそのヨーヨーを持ってやってもらおうな」
わくわくと頬を染めてブチャラティが言った。
「おまえら……幹部にばれたら殺されるぞ……」
絶対この台詞を吐くならと皆に推薦されてなりきりで決めぜりふを言わされた色男は、
耳まで羞恥に赤く染めてそこら辺の空き箱の上に腰を下ろした。
……それよりこんな台詞言わされてトラウマは大丈夫なのか、そっちが心配ですぼくは。
黙ってチームの一同のワルノリを監視していたフーゴがため息を吐いた。
泣く子も黙るパッショーネのネアポリス下町一帯を仕切るチームでは、今、数年前のジャ
ポネの少女の活躍するＴＶアクション・シリーズがブームであるらしい……（ＶＴＲを持
ち込んだのはミスタ）。
蛇足。
イヤ何となく「落ちぶれて……」のフレーズから思い出しちゃって。もう二昔前ですが、
２００１年の彼らにとっては数年前の流行りなのね。
拍手お礼 その１９ （１１−ＳＥＰ−０９）
異世界のひと
「ポルポさん、レオーネがなんにもさせてくれないんです」
上目遣いに悩みを打ち明ける姿は、珍しくて可愛らしくて実にいい。面会に来たブチャ
ラティにポルポは眼を細めた。
「なんにも、とはどういうことだね？」
もとは警官だという堅物を拾ってつきあい始めたという秘蔵っ子の恋を、ポルポは見守っ
てやるつもりでいる。
「あたしはポルポさんに教えていただいたとおりに愉しませてあげようと思ってるのに、
彼は○○○○○○ー○も×××○○も、△△△さえさせてくれないんです、そんな大それ
たことッて！」
「ほう」
「せっかくいいなと思うひとができてうちに来て貰えてるのに、なんにもさせて貰えない
なんて、それで、彼が悩んで苦しんでるのを見てるだけなんて、もう、どうしていいんだ
かわかんないんです。あたしの方もモヤモヤして来ちゃうから、一応するだけはするけど、
彼、哀しそうな顔しちゃってため息と吐くばかりで、全然愉しそうじゃないし。
もしかして、ポルポさん、アルプスの向こうにはまったく別の文明があるんじゃないでしょ
うか？ ホントに男と女が一緒にベッドに入ってるだけで赤ちゃんが届くような！ それ
とか、なんかのＳＦ小説みたいに、まったく別のところを使って愛し合うんだとか！」
「さあ、どうかな？」
きれいな身体を返してと詰られても困るところだったのだが、まったくこの娘は方向が
ずれていて楽しませてくれる。
「ぎゅっとしてくれて頭を撫でてくれるだけで、それはそれでうっとりするけど……」
「胸とか尻とかじゃないのか？」
「ポルポさん！ 彼はお堅いんです、子供の頃から警官に憧れてたぐらいなんです！ そん
なことしません！」
それはまたご立派なことだ。ポルポはため息を吐くとせいぜい深刻な顔を作った。
「ふぅむ、やつはもしかしてアレなのかもしれんな」
「なんですか？ それは」
身を乗り出すお気に入りの部下に、ポルポはもったいぶって講釈してやった……。
夜になって、二人がベッドにはいると、ブチャラティは真面目な顔をして恋人に尋ねた。
「アバッキオ、正直に答えてくれ。おまえはおっぱい星人なんだな？」
虚を突かれた色男に、例によって表情を変えずにブチャラティはまくし立てる。
「道理でこの辺にありえないほどきれいな顔をしていると思った。地球人じゃないとはな。
おまえの星のやり方とは違って申し訳ないが、ここは地球だ、こちらに従ってくれ。それ
でもできる限りのことはしてやりたいが……この大きさで間に合うか？」と、両の乳房を
寄せて目の前に突きだしてくる……。
「ポルポ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ！ 今度という今度は殺す〜〜〜〜〜ッ！」
アバッキオの怒声がネアポリスの夜空にこだました。
拍手お礼 その２０ （１１−ＳＥＰ−０９）